未開時代の遺物たる、連帯責任制をとる原始的な村落は、自然 消滅の途上にありますし、農奴制も廃止されましたから、残るとこ ろはただ自由労働あるのみで、その形式も定まり、準備されている のですから、これを採るよりしかたがありません。作男、日雇い、
農場主というのがそれで、あなたがたもここから抜け出ることは出 来ないのですよ。
――しかし、ヨーロッパはこの形式に不満ですね。
――不満だから、新しい形式を探しているのです。きっと見つけ るでしょう。・・・・
(スヴィヤージスキ) 失礼ながら、あなたは労働者の組織問題に
ついて、ヨーロッパで行なわれていることはなにもかもご存知なん Verordnung vom 1. November 1863 einberufenden beiden Häuser des Landtages, Herrenhaus Berlin 1864, S.2.
ですか?
(レービン) いや、ろくに知りません。
(スヴィヤージスキ) この問題では、いま、ヨーロッパの識者た
ちも頭を痛めているんですよ。シュルツェ・デーリッチュの一派な どは・・・・それにもっとも自由主義的なラサール派の労働問題に ついての膨大な文献・・・・ミルハウゼンの制度・・・・これらは 既に事実なのです。あなたも、多分、ご存じでしょうが。
(トルストイ、中村 融訳『アンナ・カレーニナ (中)』岩波文庫、
185-86頁)
はじめに プロイセン協同組合法の立法過程概観
勅命に基づくプロイセン王国政府法案がプロイセン・ラント上院に提出されたのは、1866 年2 月 2日のことであった。シュルツェ・デーリッチュが下院に第一次法案を提出してか ら、ほぼ3年の歳月が過ぎていた。1865年12月28日召集第一会期第3回会議108 (1866年2 月8日) に、商務大臣、Jßenpliß伯は、以下の陳述を行なう (以下、括弧で引証頁を示す)。
「陛下の授権により本職は上院に二つの草案を提出しております。第一のものは、最近 論議されているものの中でも最重要の案件の一つに関るもので、それは『産業経済協同組 合 (法 訳者補)』であります。産業経済協同組合は、わがプロイセンで多数存在し、組合 数は400以上にのぼりますが、社団 (結社Verein) として法律行為を行なう権限を未だもっ ておりません。それは、株式会社に関する法律の規定にも、匿名組合にも、況や、その他、
法律で今日すでに許可されている地位にも符合するものではありません。したがいまして、
察するところこれまでの経験に照らし受け入れられる所でありますが、協同組合そのもの が有用でありますので、協同組合がまさに法律行為そのものを行ない得るよう、支援を行 な う こ と が 肝 要 で あ り ま す 、 こ う い っ た 結 社 (社 団) も あ ら ゆ る 人 間 (Alles Menschliche) と同様に、必要とされ得ることは確かであり、されば、ありうべき濫用が 防止されるよう注意を払うことが必要なのであります。
概略、かような観点から法律が仕上げられ、かつ、本院が、法案に対し同意を拒まない よう念願する次第です。事実、かかる結社 (社団) の相当数が有用でますます普及してき ていることは否認し得ようもなく、協同組合を現今のように不確実なままにしておくより か、法律でしっかりとした構造 (Gestaltung) を与えるほうがましなのです。したがいま
108 Stenographische Berichte über die Verhandlungen der durch die Allerhöchste Verordnung vom 28. Dezember 1865 einberufenen beiden Häuser des
Landtages,Herrenhaus, Von Seite 1-34, Berlin 1866, S.25f.
して、本職は、謹んで、上院に法案を、理由を添えて、かつ、陛下の授権により提出する 次第です。かように重要な案件に携わった委員会につきましては、多くの法曹が列し、そ れだけに本職は、本院の承認を得て、これらの結社 (社団) に法律行為を行なう権限を与 えることは大事であるというよりも実に不可欠であると信ずるものです。しかし同時にま た、この上もなく重要な産業及び農業の利益が顧みられなければならず、この目的のため に、こういった顧慮がなべてしかるべく念頭に置かれ得るように特別委員会を選出してい ただくことを、非礼を顧みず愚案を呈する次第です」(S.25.)と。
議長は、「産業経済協同組合の私法上の地位に関する法案」に関する委員会の態様を問い、
商務委員会、法務委員会から構成される委員会では如何かとの提案が為されている旨を報 告する。議長としては、商務・産業委員会に法案を渡し、かつ、委ねること、そしてまた、
各部会のメンバーによって強化することを本院に提案する腹を固めていると付け加えた。
「もしそうでないということになれば、つまり、議員の皆さんがこういう委員会はお気に 召さないのであれば、強化も望まないのであれば、特別委員会を選出することをご提案申 し上げる。何故ならば、(商務及び法務の 訳者補) 二つの合同委員会は、時に30人ともな り、法案審議を困難にするのではないかと思うからである」と。因みに、商務委員会とい い商務・産業委員会といい、同じものである。
商務大臣、イッセンプリッツ伯が発言を求め、「本職の意図は・・・・法案が特別委員会 に委ねられることが肝要 (principaliter) ではないのか」ということであり、「委員会は、
法曹を片や一方に、産業に従事し営業を行っている方を他方に構成されるのが良いのでは ないのか」ということであると。続いて、フォン・メディンク議員が登壇し、議長案に賛 成する旨を明言した後に、商務伯の希望も商務・産業委員会で適えられるとし、「該法案は 本院に渡されたものの内で、最初で最も重要な案件である。事柄の本性に照らし、法案は、
該委員会に属するのではあるまいか」と。この発言はフォン・リットベルク議員の賛同を 得、議長が当初の腹案に対する賛否を問うた所、同意が得られ、主管を商務・産業委員会 (第 六委員会、長、ホーヘンローヘ侯爵、ウィエスト公爵) とし、当該委員会の委員の選出を(強 化のために 訳者補)各委員会で行なうよう提案し、事前審査委員会の構成問題がひとまず 落着する (S.26.) 。第六委員会は、交通網の建設による国内市場の統一化と軍の兵站・輸送 業務の迅速かつ正確な遂行という重責を、ドイツ歴史学派の領袖F・リストにより担わされ た鉄道委員会 (第七委員会) に同格で、大貴族が構成員となる慣わしであったことを付記し ておく。
委員会問題は、上記のように、一筋縄では決着しなかった。そして、この第一会期にお いては、終に、第六委員会から何らの報告も上院に提出されず、会期切れとなる。
国王の勅命による法案提出であったが、委員会の設置問題においてすら、すでにその後 の波乱含みの展開を予期させる。事実、事態は二転三転する。だから、ここで、立法過程 を予め概観しておかなければ迷路に嵌まり込む。
まず、立法過程が現実に始動するについて、やはり、シュルツェ・デーリッチュのはた
らきが大きかったと言わなければならない。すちわち、彼は、同年7 月8 日召集第二会期 において、下院に第二次法案を提出 (8月8日、第4回会議) し、翌週の金曜日17日 (第7 回会議) には、法案の事前審議を特別委員会 (下院第 14 委員会) に付託させることに成功 を収める。同委員会は、イッセンプリッツ伯が上院に提出した法案 (第一次政府案、上院提 出法案第10号) とシュルツェ案を事前検討の素材とし審議を進めることになる。だが、シ ュルツェ案は、1863年に彼が提出した第一次案を当時の下院第19委員会が検討し採択した 決議案 (以下、第一次委員会案とも表記する) とまったく同一であり、かつ、政府案 (下院 での扱いは、法案第86号) が上記の第19委員会決議を斟酌したことに鑑み、シュルツェの 同意を得て、第一次政府案を審議し、委員会決議案を採択するという手順を決定する。委 員会が第一次政府案に対して下した決議案 (決議第 55号、以下、第二次委員会案とも表記 する) は下院提出法案となり、9月10に提出される。
ところが、11月11日に勅命により第二次政府案が提出され、第26回会議 (11月13日) において、イッセンプリッツ伯は当該法案を審査する委員会の設置を要望したものの、シ ュルツェ・デーリッチュ及び第14委員会委員長ラスカー議員は、すでに選出されている第 14 委員会に第二次政府案の事前検討を行なわせる線で下院の世論をまとめ事前審議に入る
109。それは、補足決議を含め下院文書番号第104号 (以下、第三次委員会案とも表記する) と して提出され (12月5日)、次いで、同決議を12月17日に法案第127号として上程され、
同日及び翌日、長時間の論議の末に、この第14委員会決議がほぼそのまま承認可決された。
こうして可決された下院案は上院に送付され、上院の第15回会議 (12月20日) において、
下院から採択済み法案 (上院での処理番号としては、文書番号第 81 号) が送付されてきた ことが報告される。上院には、上院第15委員会より下院案の検討を踏まえた法案 (以下、
上院委員会案とも表記する) が添付文書第56号として翌年1月20日に提出され、本法案に 対し一部異論を有する議員の文書第57号、第58号を含め、2月4日乃至6日にわたり下院 を上回る長時間の審議の後に、第30条、第37条及び第54条について下院と異なる法案を 可決し、当該の箇条案が文書番号第 222 号として同日、下院に通知される。下院は、翌 7 日に、第76会議で上院案を承認し、ここに、上下両院の承認を得た法案は国王の裁可手続 を残すだけとなる。国王の裁可、公布は、1867年3月27日のことである。
本章より第四章において、このプロセスを可能な限り細部にわたって復元することを課 題とする。この法律の成立過程を具体的に、かつ時系列的に記した文献はマールブルク大 学等協同組合研究所を設置している各大学より出版されている文献、資料集110に見当たら
109 Vgl. Stenographische Berichte über die Verhandlungen der durch die Allerhächste Verordnung vom 28.Juli 1866 einberufenen beiden Häuser des Landtages, Haus der Abgeordneten, Zweiter Band, Berlin 1866, S.560f.
110 たとえば、貴重な資料集としてMarburger Schriften zum Genossenschaftswesen, Sonderband, Beuthien/Hüsken/Aschermann, Materialien zum Genossenschaftsgesetz, II. Parlamentraische Materialien
(1866-1922),Göttingen 1989.には、シュルツェ第二次草案、第一次第14委員会報告、下院提出法案、第二次
第14委員会追加報告が写真版で収められているに止まる。写真復刻版であるので、オリジナルな議会資料 に散見される印刷ミス、脱漏、速記ミスもそのままである。
ず、筆者はプロイセン上下両院の議事速記録を1850年代後半から1860年代末まで、総計5 万頁ほどチェックし、以下に復元する立法過程を細部まで明らかにすることができたが、
同時期に発行されていた新聞をみても、これ以上の復元は不可能であった。
上記の立法過程の略述から、議事は、第二次政府案の提出 (1866.11.11.) 及び上院委員会 案の提出 (1867.1.20.) を転轍点として、3つの段階を経て進行したことが窺える。
第 1 ステップは、イッセンプリッツ伯が勅命を受けて法案を提出した時より、それが審 議されないままシュルツェ・デーリッチュによる第二次法案の提出を迎え、これ等の法案 に対して下院第 14委員会決議が提出される時までである。第 19委員会決議を、上程の機 会を得なかったにしても最初の上程成案とすれば、第二次上程成案が確定した時まで、と 言うこともできる。決議第55号がその到達点を示す。
第2ステップは、第二次政府案が提出され、第14委員会が再度の事前検討を行ない、第 三次成案を得て下院に提出 (12月5日) し、同院で可決 (12月18日) したときまでである。
上院が受領した文書番号第81号がその成果である。
第3ステップは、下院案 (第81号) に対する上院の修正案である第15委員会案 (文書番 号第56号) を本案とする審議が行なわれ、上院の可決した案が下院に送付され下院が承認 の決議を与えた時までである。その上院採択法案は、2 月 6 日速記録及び下院文書番号第 222号に示され、翌、7日、下院は上院案を受諾し、ここに国王の裁下手続のみを残し実質 的に法案が採択されたことになる。
以下、このステップに即して、立法過程を復元することにし、本章で第一ステップを、
第三章で第二ステップを、第四章で第三ステップを跡づけることにする。
しかし、分析素材となる法案は、シュルツェ第二次案、第一次政府案、1863年の第19委 員会決議を含めると通算で第二次委員会案 (第 14 委員会第一次案) 、第二次政府案、通算 で第三次委員会案 (第14委員会第二次案)、下院議決案、上院委員会案、上院決議案、と8 種にのぼる。したがって、分析要点を確定しておかなければ、本流、支流の区別が見分け 難くなる。そのために、以下、次のような方法を採用する。
結社との評価が与えられる社団たる協同組合が社会的にどのような存在、つまり社会内 存在であるのかに即して、その法構造の分析視角を設定することに異論はないであろう。
さすれば、まず設定されるポイントは公的権力との関係であり、第二は、協同組合そのも の又はその諸機関と組合員との関係であり、第三は、協同組合―組合員関係に媒介される 第三者、社会との関係である。第一の関係は、とくに、政府又は行政、裁判所、ボリツァ イとの間で、第二の関係は、協同組合のアイデンティティ及び、すでにアイデンティティ 自体が社会的関係地平においてのみ現実に存在するということから、組合員の利益および 社会的な秩序の利益の維持という観点から顧みたガバナンス問題又は機関―組合員関係が、
第三は、団体責任への組合員の責任という構造に媒介される、、、、、、、、
第三者との関係が論点となる。
これらの論点とのかかわりで、前章で予告した協同組合の団体構造に埋めこまれる社会 倫理的拘束性というものが顧みられなければならない。なぜならば、協同組合は、社団と