1. はじめに
第 1 章では子ども向け新聞の分析を行なったが、子ども向けの新聞や記事と同様に、
近年の新聞に盛んに掲載されているのが、わかりやすさを重視したニュース解説の記事で ある。雑誌『新聞研究』では 2010 年 4月号から「わかりやすさを考える」という連載が はじまり、2013 年 8 月号にいたるまで各紙の担当者が「わかりやすさ」に対する自社の 取り組みを紹介した。それほど一般紙においても「わかりやすさ」がキーワードとして認 識されているといえる。具体的な事例としては、たとえば『毎日新聞』の「質問なるほド リ」や『朝日新聞』の「いちからわかる!」など、Q&A 形式によって解説する記事が毎 日のようにみられるようになった。本研究では、このように文章やレイアウトの形式を工 夫して解説した記事を「解説記事」と呼ぶこととする。
Q&A 形式の 記事自 体は近年 あらたに 登場 したわけで はな い 。『 毎日新聞 縮刷版 』に
よ り 確 認 し た と こ ろ 、1999 年 に は 現 在 と 同 じ よ う な 形 の も の で 「 ニ ュ ー ス が わ か る Q&A」 と い う 欄 が 設 け ら れ て い た1。 ま た 、 時 代 を さ か の ぼ る と 、 『 読 売 新 聞 』 で は 1887 年 10 月 1 日別刷として「國會問答」という記事が掲載された。これは 3 年後に開 設される国会について解説したもので、はじめに「誰人にも解し易きにあるを以て問答の 躰裁を以て説明するこ とゝ爲せり」と述べら れている2。問答の冒頭 は次のように始まっ ている。
問 國會の事を御説明下さる譯ならば先づ第一に國會といふは何の事なりや伺度候 答 委細承知致し候國會が如何んな物といふことは既に御承知の事と存じたれど左様
ならば申上ぐ可し國會といふことを一口に 中な をせば國の政治を相談する集會に御座 候(以下略)
使われている語は現代とは異なるが、形式としては以下の『毎日新聞』「質問なるほド リ」欄のような Q&A形式の記事と類似している3。
1 本章末尾の別表を参照。
2 『読売新聞』1887 年 10 月 1 日別刷掲載記事。ふりがなは省略した。以下、すべての引用 について同じ。
3 『毎日新聞』2017年1月 31日朝刊掲載記事。
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なるほドリ 東京電力福島第1原発2号機で溶融燃料の可能性がある物質が見つかっ たけど、そもそも何なの?
記者 東日本大震災の際、福島第1原発1~3号機は原子炉を冷やす電源を失い、核 燃料が溶けました。これが原子炉内の制御棒などと混じってどろどろに溶け、
冷えて固まったものを溶融燃料と言います。(以下略)
このように、Q&A 形式はわかりやすく解説するための手法として古くから利用されて きたことがわかる。
そ の 一 方 で 、 使 わ れ て い る 表 現 に 注 目 す る と 、 一 般 の ニ ュ ー ス 記 事 を 単 に 「 で す ・ま す 」 体 や 対 話 形 式 に し た だ け の よ う に 感 じ ら れ る も の も あ る 。 た と え ば 、 『 毎 日 新 聞』
2014 年 6 月 5 日朝刊の「質問なるほドリ」欄には、以下のような質問からはじまる記事 が掲載されている。
大 阪 市の 准 看護 師 の女 性 (29) が 東京 ・ 八王 子 の トラ ン クル ー ムか ら 遺 体で 見 つか った事件で、関与が疑われている元同級生の日系ブラジル人の女(29)が中国・上海 で公安当局に身柄を拘束されたと聞いたよ。日本の捜査当局は引き渡しを求めるの?
上記の記事は極端な例かもしれないが、このような解説記事にも、子ども向け新聞の記 事と共通する特徴があるのか、あるいはやはり一般のニュース記事 に類似しているのか。
本章ではこの点について明らかにしたい。
2. 先行研究
一 般紙 にお ける わか りや すさ を重 視し た記 事に つい ては 、東 (2009)が 『朝 日新 聞』
の Q&A 形式の解説記事「ニュースがわからん!」欄4に言及している。東(2009)によ
れば、2006 年の連載開始当初から記事本文では役割語的表現を多用し(たとえば「どん な番組が見られるんじ ゃ。」5)、読者に「そ こで取り交わされる対 話を、見聞きするよ
4 2006年4月 1日にはじまり、2014年1 月27日朝刊からは「ニュースがわかる!」、2014
年4月 3日朝刊からは「いちからわかる!」として連載されている。
5 『朝日新聞』2006年4月 1日朝刊「ニュースがわからん!」欄 。
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うなイメージ」6を抱かせていたが、翌年のリ ニューアルの際には本 文だけではなく見出 しにも役割語を使用するようになった(たとえば「犯罪収益移転防止法って何じゃ」7)。
さらにその翌年には、見出しに対する回答の文に話しことば的な文末表現を使うようにな り(たとえば、見出し「75 歳からなぜ後期高齢者なんじゃ」、回答「小泉首相の時、新 医療制度のために分け たんだ」8)、リニュー アルのたびに対話形式 をより積極的に取り 入れるようになっているということである。
東(2009)の指摘は、Q&A 形式の記事の特徴を「対話」という視点から捉え、その機 能を考察している点で参考になる。その上で、本研究では文章全体を計量的に分析するこ とにより解説記事の特徴をさらに示していくとともに、「わかりやすさ」が意識されて書 かれた場合にどのような特徴が現れるのかを考察する。
3. 調査方法
調査項目については、本論第 1章と同じく、以下の 5つとする。
・語種比率
・4字以上の漢字列の割合 ・品詞比率
・1文の長さ ・トークン比
調査対象とする記事は、『毎日新聞』2014 年発行分から以下に記した方法で抽出した。
・『毎日新聞』(「質問なるほドリ」欄)
Q&A 形式の解説記事である「質問なるほドリ」欄から、各月 1 本ずつ、計 12 本
の記事を無作為抽出した。
6 東、2009、14ページ。
7 『朝日新聞』2007年4月 17日朝刊「ニュースがわからん!」欄。
8 『朝日新聞』2008年4月 24日朝刊「ニュースがわからん!」欄。
26 ・『毎日新聞』(一面・総合面)
本論第 1 章と同じ『毎日新聞』東京本社版一面および総合面(二面・三面)の記
事を用いた。
抽出した記事について、本文のみを形態素解析辞書「unidic-mecab 2.1.2」によって短 単位に分割し、分析を行なった。
4. 調査結果および考察 4.1 語種比率
『毎日新聞』の「質問なるほドリ」欄(以下、「質問」欄)および一面・総合面の記事 について、助詞・助動詞を除いて語種別(和語・漢語・外来語・混種語)に割合を求めた。
結果を以下の表 2-1に示す。
表2-1 『毎日新聞』「質問なるほドリ」欄と一面・総合面の語種比率(延べ語数)
「質問」欄と一面・総合面をくらべると、「質問」欄のほうが和語が多く、漢語が少な くなっており、この点は『小学生新聞』とも共通している。数値としても一面・総合面と は 7 ポイント程度の開きがあり、カイ二乗検定を行なうと、和語・漢語ともに 0.1%水準 で有意差が確認された。ただし、外来語については「質問」欄と一面・総合面で顕著な差 はなく、外来語の多かった『小学生新聞』の場合とは特徴が異なる。これについては、想 定する読者層の違いが関係していると考えられる。『小学生新聞』はその名のとおり、基 本的には小学生という幼少年層を対象とした新聞である。一方、「質問」欄は特定の年齢 層を 対象 とし てい るわ けで はな く、 幅広 い年 齢層 の読 者が 想定 され る。 陣内 (2007)が 外来語に関する各種の世論調査をふまえて述べているように、「高齢者ほど外来語の認知 度が低く、また外来語 化に批判的だ」9という傾向がある。「幼少年 層は外来語をよく理
9 陣内、2007、83ページ。
計 和 漢 外 混 計 和 漢 外 混
語数 2990 1208 1649 104 29 語数 2533 823 1577 108 25
割合 100 40.4 55.2 3.5 1.0 割合 100 32.5 62.3 4.3 1.0
『毎日新聞』「質問なるほドリ」 『毎日新聞』一面・総合面
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解し、高齢層は外来語をあまり知らない」と決めつけるわけではないが、「質問」欄では その点を考慮して外来語を多用しないようにしている可能性がある。
このような相違はあるものの、和語と漢語の割合は『小学生新聞』と類似しており、漢 語を避けて和語が多く用いられていることが確認された。これは記者が意識的にそうして いることも考えられるが、無意識に漢語よりも和語を選んでいる可能性もある。その場合、
「わかりやすさ」が意識されているときの語選択として語種が大きく関わっているといえ る。
4.2 4字以上の漢字列の割合
本論第 1 章で記したとおり、漢字以外の文字(かな、アルファベット、アラビア数字、
記号類)を挟まずに漢字が 4字以上続くものを「4 字以上の漢字列」とする。その上で、
句読点とカッコ類を除いたすべての文字を「総字数」としたときに「4 字以上の漢字列の 字数/総字数×100」という計算式で求められる値を「4 字以上の漢字列の割合」として 調査した。結果を以下の表 2-2に示す。
表 2-2 『毎日新聞』「質問なるほドリ」欄と一面・総合面における 4字以上の漢字列の割合
表のとおり、「質問」欄では一面・総合面に比べて7ポイント以上低くなっている。本 論第 1 章の表 1-2 で示した『小学生新聞』での割合は 13.5%であり、「質問」欄は『小 学生新聞』と比べても 4 字以上の漢字列の割合が低く、長い漢字列が避けられているこ とが確認できる。
「質問」 一・総 総字数 9284 7673 漢字列の字数 1135 1511 割合 12.2 19.7