―紹興三年と紹興十一年の起発と変売―
(一)北宋時代の舶貨―輸入(舶貨)と輸出
『宋会要』市舶には南海交易品についてまとまった記述が四か所ある。次の様である。
(1)最初の部分(前文)
(2)太平興国七年(982)閏十二月 (3)紹興三(1133)年十二月
(4)紹興十一(1141)年十一月 以下、資料を掲げながら説明していきたい。
(1) 前文の舶貨
海外交易品について中国から国外に出ていくものつまり、輸出品と、国内に入るもの、
輸入品の代表的なものが、『宋会要』市舶の前文に簡潔に記されている。
金、銀、緡錢(銅銭)、鉛、錫、雜色帛(多種の絹織物)、精、粗の瓷器でもって、
香藥、
犀象、珊瑚、琥珀、珠琲(真珠の首飾り)、賓鐵(鉄)、鼊皮、瑇瑁(鼈甲)、瑪瑙、車 渠(大きな貝、蛤)水晶、蕃布(外国産の布)、烏樠(黒檀)、蘇木(赤の染料)の物を 交易したとある。
中国の金、銀、銅銭、鉛、錫、絹織物、磁器などで、香薬、犀角、象牙、珊瑚、玳瑁・・
外国産の布、蘇木などを交易した。これが中国の輸出品と輸入品との関係である。南宋に 記された『諸蕃志』にも基本的にはこれらと同じものである。これから述べる舶貨(輸入 品)約450品も分類するとほぼ上記に記されたものに集約される。南宋になって数が多 くなっているが、多種多様な品目の増加もあるが、一つの品目でも密度の濃淡、上中下等、
形などによって名称も変わってくる場合もあり、それで数を多くしているところもある。
(2) 太平興国七年の舶貨
宋初の太平興国七年には、政府は舶貨を二つに分け、政府専売品と抽解して民間に売 り出す物とに分けた。政府専売品は八種で、瑇瑁、牙、犀、賓鐵、鼊皮、珊瑚、瑪瑙、
乳香で、これらは高級品であり朝廷で使用するものであったため、政府が買い上げるも のであった。後に紫礦(紫の染料で、ラック虫が原料)と鍮石(銅、大中祥符二年に禁 搉)も加わり10種となった。一方、民間に売り出す通行薬物は37品目であったが、
紫礦が移動して36種となった。合計46品目で、いずれも伝統的な香薬が主である。
『宋会要』市舶には以下のようにある。
太宗太平興國七(982)年閏十二月
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七年閏十二月,詔「凡禁榷物八種、瑇瑁、牙、犀、賓鐵、鼊皮、珊瑚、瑪瑙、乳香。放 通行藥物三十七種、木香、檳榔、石脂、硫黃、大腹、龍腦、沉香、檀香、丁香、丁香皮、
桂、胡椒、阿魏、蒔蘿、蓽澄茄、訶子、破故紙、荳蔻花、白荳蔻、鵬沙、紫礦、胡蘆芭、
蘆會、蓽撥、益智子、海桐皮、縮砂、高良薑、草荳蔻、桂心、苗沒藥、煎香、安息香、黃 熟香、烏樠木、降真香、琥珀。後、紫礦亦禁榷
これらが宋代初期のおもな舶貨、輸入品であった
(二)南宋時代の舶貨
(1)紹興三(1133)年の舶貨 ― 起発と変売 -
靖康の乱により北宋が滅び、江南地方を中心とする南宋は、海外交易に目を向けるよ うになった。紹興三年には交易品の輸入品、舶貨に見直しが行われた。舶貨の中で、政 府が必要とするものは起発して、優先的に政府が買い上げた(博買)。しかし宮廷に送 るもの(起発)を限定しないと運送費の負担が重くなるので、舶貨を再分類することに なった。 『宋会要』市舶、紹興三年十二月十七日の条に、舶貨の起発について次のよ うにある。
高宗紹興三(1133)年十二月十七日
戶部言「勘會三路市舶除依條抽解外,蕃商販到乳香一色及牛皮、筋、角、堪造軍器之物,
自當盡行博買。其餘物貨,若不權宜立定所起發窠名,竊慮枉費腳乘。欲令三路市舶司,
將今來立定名色計置起發」
戸部の言に「調べてみますに、三路市舶では条令によって抽解するのほか、商人が販売 した乳香一種と軍器を造るために使う牛皮、筋、角はすべて博買(官の買い上げ)せよ。
そのほかの物資も、起発(都に送る)する物資を定めておかないと、運送費ばかりが多く なる。三路の市舶司に命じて、相談して起発するものを定めよ」とある。
この時点で、政府が欲しいのは乳香の類と武器に使用する牛皮、筋、角などであること に注目したい。それを政府は買い上げている(博買)。それ以外でも起発の項目を作成して おかないと運送費ばかりが多くなるという。ここでは起発についてのみ説明があり、変売 については何も記されてない。以下に起発(行在に赴きて送納すべきもの)の項目と変売
(本処で変売するもの)の項目を記す 下項名件
起發
金、銀、真珠、玉乳香、牛皮筋角、象牙、犀、腦子、麝香、沉香、上中次箋香、檀香、
烏文木、鵬砂、朱砂、木香、人參、丁香、琉璃、珊瑚、蘇合油、白荳蔻、牛黃、膃肭臍、
龍涎香、藤黃、血碣、蓽澄茄、安息香、縮砂、降真香、肉荳蔻、訶子、舶上茴香、茯苓、
菩薩香、鹿茸、黑附子、油腦、蓯蓉、琥珀、上等螺犀、中等螺犀、下等螺犀、水銀、上等
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藥犀、中等藥犀、下等藥犀、鹿速香、赤倉腦、米腦、腦泥、木扎腦、夾雜銀、石碌、白附 子、銅器、銀朱(朱、原文は未解読、補編、文庫本は朱。粤海関志は硃。)、苛子、南蕃 蘇木、高州蘇木、隨風子、青木香、乾薑、川芎、紅花、雄黃、川椒、石鍾乳、硫黃(原文 は瑠、粤海関志も瑠。補編、文庫本では硫)、白木、夾雜黃熟香頭、上等生香、茴香、烏 牛角、白牛角(原文なし、補編、文庫本に白牛角とある)、沙魚皮、上等鹿皮、魚膠、海 南蘇木、熟速香、畫黃、龜、鼊皮、魚鰾、椰心簟、蕃小花狹簟、菱牙簟、蕃顯布、海南碁 盤布、海南吉貝布、海南青花碁盤被(原文は皮、補編、文庫本では被。後も同じ)單、下 色缾香、海南白布、海南白布被(同上)單、楝香、上色缾乳香、中色缾香、次下色缾香、
上色袋香、中色袋香、下色袋香、乳香、塌香、黑塌香、水濕黑塌香、青碁盤布紬、生速香、
斫削揀選低下水濕黑塌香、黃蠟、松子、榛子、夾煎黃熟香頭、白蕪荑、山茱萸、茅朮、防 風、杏仁、五苓脂、黃耆、土牛膝、毛絕布、高麗小布、占城速香、生熟(原文は孰、補編、
文庫本は熟、これに依る)香、夾煎香、上黃熟香、中黃熟香、下箋香、石斛
以上が起発である。乳香と武器に使う牛皮筋角(牛皮、筋、角と三品目にすることもで きるが、一品目とした)を第一に博買すべしとある。この二種類を起発の項目から抽出す るとつぎのようである。
武器は「牛皮、筋角」
乳香は「玉乳香(?)、下色缾香、楝香、上色缾乳香、中色缾香、次下色缾香、上色袋 香、中色袋香、下色袋香、乳香、塌香、黑塌香、水濕黑塌香、斫削揀選低下水濕黑塌香」
で種類が多い。これまで乳香は一語であったが、濃度、採取方法、形、などにより、『諸 蕃志』乳香では十三等級に分別されるが、『宋会要』市舶ではそれより多く全体で十四~
六くらいの等級がある。龍脳の場合も数種ある。さて、乳香は政府にとって重要なものあ ったが、何に使用されたか、その用途の詳細については明らかでない。今後の課題である。
次に変売を見てみよう。
変売
薔薇水、御碌香、蘆薈、阿魏、蓽撥、史君子、荳蔻花、肉桂、桂花、指環腦、丁香、母 扶律膏、大風油、加路香、火丹子、紫藤香、篤芹子、荳蔻、黑篤耨、龜童、沒藥、天南星、
青桂頭、秦皮、橘皮、鱉甲蒔蘿、官桂、榆甘子、益智、高良薑、甲香、天竺黃、草荳蔻、
藿香、紅豆、草菓、大腹子肉、破故紙、苓苓香、蓬莪朮、木鼈子、石決明、木蘭皮、丁香 皮殼、荳蔻、烏藥、柳桂、桂皮、檀香皮、薑黃、相思子、蒼朮、青椿香、幽香、桂心、大 片香、薑黃、熟纏末、潮腦、三賴子、龜頭、枝實、密木、檀香、纏丁香、枝白膠香、椿香 頭、鷄骨香、龜同香、白芷、亞濕香、木蘭茸、烏黑香、粗熟香、下等丁香、下等冒頭香、
下等粗香頭、下等青桂、片香、麝香、木蕃、檳榔肉、連皮、檳榔舊香連皮、大腹(原文は 復、補編、文庫本は腹、これに依る)
、粗熟香頭、海桐皮、松搭子、犀蹄、土半夏(?)、
常山、蕤仁、遠志、暫香、下速香、下黃熟香。
とあり、下等という文字が目立つ。やはり起発は高級品で宮廷に、変売は地元で売るか らであろう。両者合わせた品目は、219品目、内、起発が約 132品目で全体の60%、
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変売は87品目で40%である。起発が圧倒的に多い。それでも、運送費がかさむという 条件を付け、減らした結果である。品目の数え方は、資料の句点の切り方により、不明な 品目などがいくつかある。したがって品目の数は大体の数であり、以下も同じである。紹 興三年の起発が多いのは、南宋になって日も浅く年月も経っておらず都(この時点では杭 州に決まってない)に物品が不足していたからか、高級品であるゆえに、当然都に入るも のだと考えていたのであろう。一方、変売は下級の物が多い。例えば、黄熟香の場合、上、
中黄熟香は起発、下黄熟香は変売となっている。変売は下級なため、安い値段で民間に流 れていったのであろう。
紹興三年の起発は 132 品目と述べたが、そのうち北宋の品目にないものは、烏牛角、牛 黃、膃肭臍など多く、新しい物品は117にも上る。変売の方は 87 品目のうち、薔薇水、
大風油など 80 品目が新しい物品として参入している。全体(起発と変売)で 219 品目のう ち、新しく入ったものが、197品目である。南宋になって、殆どがこれまでとは違う品目 が入ってきていることに注目したい。需要が多くなってきたこと、交易量の増加を表すも のである。
表1 「宋代海外交易品の年代と起発、変売の数量」を参照。
(2) 起発の削減 と 舶貨の税率
次に紹興十一年の起発と変売をみていくわけであるが、紹興三年から、十一年の間に品 目の見直しが行われている。その理由の第一は、起発品は運送費の負担が多いこと。第二 は細色と粗色の税率の問題である。運送費の負担の多い起発の見直しが、紹興八年に行わ れている。 『宋会要』市舶 紹興八年七月十六日の条にいう。
・・・紹興六年四月九日の朝旨によって、起発するものと、変売するも品物を立定した。
起発するもののうち、民間で使う稀少なものを起発すると交通費の無駄になり官銭も 虧損する。いままで抽買していた和剤局での用が無いもの、そして臨安府で民間使用 の稀少なものは、起発しなくて良い。一方変売した価銭は送納せよ。広南、福建は都 から遠いので軽齎(金、銀、絹など、軽貨に代えて)でも良い。
とある。紹興六年に、再び、起発と変売の品目の見直しが行われリストが出来た。それ によると、起発は、和剤局(薬局)で使用しないもの、都で民間使用のないものは、起 発から削除する。それを変売に回す。変売した価銭は、銅銭は重いので、軽齎に代えて 都に送れというのである。したがって、紹興八年以降は、変売の品目が多くなっていた に違いない。
第二の紹興六年に細色、粗色の舶貨の税率を定めていることについては、『宋会要』市 舶の紹興六年十二月二十九日の条によると
舶貨の抽解率が細色の物は、法に依り十分の一分を抽解し、その余りの粗色はすべ