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⑴ 研究開発領域の簡潔な説明

 人間が苦手な作業の代行や人間の能力を強化するように、人に寄り添いスマートな(賢 い)ロボットを実現するための革新的な要素技術・基盤技術を開発する。小型・軽量・高 出力のアクチュエータ、小型・軽量・低価格のセンサ、自律・協調動作を可能とする人工 知能、柔軟な動作が可能なソフトロボティクス、不測の事態に対応できる新たな制御技術、

基盤技術を統合したモジュール開発、などの研究開発課題がある。

⑵ 研究開発領域の詳細な説明と国内外の研究開発動向

 少子高齢化が進むこれからの社会において、負担の少ない高齢者介護、持続可能な社会 インフラ保守管理、災害やテロに対するセキュリティ強化などの課題の解決には、人間が 苦手な作業の代行や人間の能力を強化するロボットの活用が望まれる。ロボットは1980 年代に産業用ロボットとして実用化され、現在は掃除ロボットや無人機(ドローン)など が製品化されるとともに、自動運転、災害救助、社会インフラメンテナンス、介護など 様々なサービス分野で活躍するロボットが注目されている。これらサービス分野も含めた ロボット産業全体の市場規模は、2035年には10兆円となることが予想されており、政 府は2015年1月にロボット新戦略を策定し、ロボットの早期実用化やシステム・サービ スの強化を図ろうとしている。これまでも、ものづくり・サービス分野、介護・医療分野、

農林水産業・食品産業分野、社会インフラ・災害対応分野など多様な応用分野に対して国 家プロジェクトが推進されているが、これらの活動を要素技術・基盤技術の立場から後押 し、今後発展が期待されるサービス分野でのロボットの産業競争力を強化するためには、

コアとなる材料や部品、モジュールの開発を通して、ものづくり力で世界をリードするこ とが必要になってくる。

 ロボットの要素技術・基盤技術としては大きく分けると、動力系技術(アクチュエータ)、 センシング技術(センサ)、制御技術になるが、人間と密接に関わるサービス分野のロボッ ト基盤技術には従来の産業用ロボットとは異なる機能や性能の要求がでてくる。例えば、

人間と共生することが前提となるため、スマート化、高性能化、低価格化などとともに、

小型軽量化や安全性向上が求められ、これらを考慮した柔らかい材料の利用や柔軟な動作 を可能とするソフトロボティクスや、環境変化へのリアルタイムの自律的な対応が可能な 新たな制御手法が求められる。このような要求への対応には、ロボットの主要分野である メカニクスと、進展の大きな情報通信(IT)やナノテクノロジー・材料など異分野間の 技術の融合・統合による新たな要素技術・基盤技術の開発が不可欠と考えられる。それぞ れの専門領域の技術を深めることに加え、情報通信、ナノテク・材料、ライフサイエンス・

バイオなど異分野を含む他のロボット要素技術・基盤技術の研究者、ロボットシステムや サービス分野の技術者などとの連携による、新たな形態の技術開発の仕組みが求められる。

 米国ではDARPAや防衛関係の組織によってロボットの基礎研究開発に資金が投入され てきた。近年では、DARPA Grand Challenge(2004, 2005)、Urban Challenge(2007)、 DARPA Robotics Challenge(2013, 2015)など注目すべき取り組みがある。また、人 間と協働するロボットの開発と利用の加速を掲げているNational Robotics Initiative

(NRI)が発表され、NSF、NIH、NASA、USDA、DoDの共同公募が実施されている。

俯瞰区分と研究開発領域ICT・エレクトロニクス応用

NSFのRobotics-VO (Virtual Organization)のプロジェクトでは、ジョージア工科大学、

カーネギーメロン大学、ペンシルベニア大学、南カリフォルニア大学、スタンフォード大 学、UCB、ワシントン大学、MITなどの大学と産業界が連携して「A Roadmap for US Robotics: From Internet to Robotics 2013 Edition」をとりまとめるなど、アカデミアと 産業界が連携した取り組みが活発である。

 欧州ではHorizon 2020の産業界のリーダーシップ確保(LEIT)におけるICT分野の Work programmeの6つの柱の一つがロボティクスであり、2014年~2015年の予算 規模は154Mユーロとなっている。また、欧州技術プラットフォーム(ETP)でもある

euRoboticsの下に、企業と研究機関が結集して2014年に世界最大の民間ロボット開発計

画SPARCを立ち上げるなど取り組みが活発化している。

 中国では、科学技術部が公表した国家第12次5ヵ年科学技術発展計画の専門計画であ る①スマート製造科学技術発展専門計画、②サービスロボット科学技術発展専門計画など がロボットの研究開発の取り組み強化を宣言している。また、韓国では、第3次科学技 術基本計画(2013年~2017年)における5つの戦略分野の一つ「High 5 科学技術基盤 の雇用創出」において、創造経済を支える専門家・職業群を育成すべき新産業分野の一つ としてロボットが掲げられている。

 日本では、政府の「ロボット新戦略」やロボット革命イニシアチブ協議会(2015年5 月発足)の動きとともに、ロボット技術の研究開発と社会展開に向けた各府省の様々なプ ロジェクトが立ち上がっている。その中で、要素技術開発を目的としたものとして、経産 省の「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」がある。また、内閣府のImPACT「タフ・

ロボティクス・チャレンジ」では超高出力油圧ロボットなどの研究開発が進められている。

 近年の具体的な基盤技術の研究開発としては以下のようなものがある。アクチュエータ については、広く使われているモータに加え、形状記憶合金、油圧アクチュエータ、空気 圧アクチュエータなどの研究開発が進められている。センサについては、外界の情報を取 り込むためのセンサとしてカメラ、レーザーレンジファインダー、ジャイロ、超音波セン サ、圧力センサなどがあり、ウェアラブルに向けた開発も盛んになっている。制御関係では、

マイクロプロセッサやコンピュータの計算・処理能力が高まってきたことや高速通信環境 が整備されてきたことから、画像認識、AI・ディープラーニング(深層学習)、自律制御、

生物の動作に学ぶ制御などの研究開発が進められている。

 サービスに向けたロボットの基盤技術の開発をする上では、柔らかい素材を利用し柔ら かい動きを実現するソフトロボティクスや、予測できない環境の変化にも対応できる生物 の行動を模倣するといった大きな技術開発の流れを見た取り組みが今後必要である。

 ソフトロボティクスに関しては、以下のような整理をした上で目的の機能や動作に最適 な素材ややり方を考えて取り組む必要がある。また、ここでは柔らかいというだけでなく、

軽量化の視点も重要であり、従来の金属材料に代わるCFRPなど新素材の検討も必要で ある。

• センサフィードバックによる柔軟化:従来のリンクや関節が「剛」のロボットに対し、

手先または関節に力/トルクセンサを搭載し、この外力/トルクの信号からモータを駆 動させ、見かけ上ロボットの関節を柔軟にする。

るロボットハンド部分のみを柔軟とする。柔軟化の方法として,金属製バネを利用する 方法がRCC(Remote Center Compliance)として知られており、ハンドを高分子材 料で製作する方法は近年注目を集めており、ジャミングハンドなどが報告されている。

• 駆動の柔軟化:ロボットのリンクは剛体として、各関節を機構的に柔軟にするものであ り、主に①ダイレクトドライブモータ、②減速器つき電動モータの出力軸にバネを介し て出力リンクと結合、③空気圧アクチュエータ、④高分子アクチュエータなどがある。

• リンクなど構造の柔軟化:剛体リンクを柔軟材料で被覆する方法と、リンク自体を柔軟 にする方法がある。リンクを柔軟にする方法では、薄板構造、インフレータブル構造な どがある。

 生物の行動を模倣するロボット、すなわち予測の難しい環境の変化にも対応するロボッ トの開発に関しては、どのような位置づけ・目的で生物模倣をするのかを明確にしておく 必要がある。

⑴ 人間の意図を取り込む能力

⑵ 外界の様子や内界の様子を取り込む能力

⑶ 取り込んだ意図を自身の身体の動きに変換する能力

⑷ 内界・外界の様子を自分のなすべき行動の文脈で理解する能力

⑸ 指示された行動(意図された作業など)を実現する制御系

⑹ 指示された行動(意図された作業など)を実現するために適した身体

 上記の ⑶ ⑷ ⑸ については、AI・ディープラーニングが重要になると考えられ、人間 の脳神経を模倣した動作を行うためのソフトウェア、あるいはそのアルゴリズムによる電 子回路、動作に適するデバイスなどの開発への取り組みが重要になる。また、環境変化へ の実時間での対応を可能にするような、身体と環境との相互作用をうまく利用したような 制御方法の検討にも取り組むことも必要である。

⑶ 注目動向

 高分子材料利用のロボティクス研究が活発になっている。高分子材料を利用するロボッ トは柔軟な生物に学ぶ考えかたとして1960年代から研究者の興味を引き付けてきたが、

耐久性、運動性能、センシング性能などで既存の他の方法に比して十分でないことから、

実際にロボットに利用されることは無かった。しかし、2010年ごろからソフトロボティ クスへの関心が高まり、国際ジャーナル「Soft Robotics」が刊行された。また,世界最 大のロボットの研究者会員を有するIEEEに「Soft Robotics」のHPサイトが開設され、

2014年と2015年にワークショップなどが開催されている。多くはポリマー材料を利用 したセンサ、アクチュエータ、構造に関する研究である。アクチュエータでは、空気圧駆 動、水/油圧駆動、ポリマー静電型、イオン電導型、電導性ポリマー、ポリマー熱駆動型 などが研究開発されている。センサでは、高分子材料の熱、電気、光などの特性変化を計 測することによって多様なセンサが柔軟材料によって実現可能となる。なお、ソフトロボ ティクスの実用化を目指し、東工大鈴森らは直径2㎜と細径化を実現した空気圧ゴム人 工筋アクチュエータの開発に成功し、ベンチャー企業を設立した。

 近年、特に高分子材料を利用するロボットの研究発表が多くなった理由の一つに、3D プリンタの普及がある。例えば、最も実現性が高いと予想される空気/水/油などの流体 駆動型アクチュエータの多くは、型にシリコンゴムなどを流し込み成型する方法で作製す

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