1. デュオニュソスとしての身体 (a) 「デュオニュソス」的な音楽
前章のアポロン的音楽と対比する為、ここではまずデュオニュソス的な音楽について
考察したい。第一の冒頭で示したように、音楽の起源説として、アテナがメデューサの
姉妹の嘆きからノモスをつくったことと、ヘルメスが亀の甲羅を共鳴体として使った、
ということを挙げた。これを踏まえて、シェーファー (1986,pp.25‐26) はデュオニュ
ソス的な音楽について以下のように述べている。
「デュオニュソス的な考え方では、音楽とは不合理で主観的なものである。音楽はテン
ポのゆらぎ、強弱の陰影、調性の色彩の違いといったさまざまな表現方法を用いる。そ
れは、たとえば、オペラ舞台の音楽、ベル・カントの音楽であり、リード楽器のような
その声はバッハの受難曲の中にもきくことができる。そして、十九世紀から二〇世紀の
表現主義の音楽に到るまで有力であったロマン主義の芸術家による音楽表現はまさに
デュオニュソス的音楽観そのものである。」
音響特性に注目したアポロン的音楽、感情や主観に注目したデュオニュソス的音楽、
これらは、どちらもギリシア神話の時代から言われている音楽の構成要素である。ニー
チェは『悲劇の誕生』の中で、このアポロン、デュオニュソスを、ギリシア彫刻、ホメ
ロスの叙事詩(合理性)と音楽(抒情)という二項対立に当てはめて論じているが、そ
の後 1888 年、狂気に陥る数週間前のニーチェは、自らを「デュオニュソスの哲学者」
(1992,p. 3)とした上で、「キリスト教にはアポロン、デュオニュソスのどちらの概
念も皆無である。つまりキリスト教はあらゆる美的価値を台無しにする」(1992, p.49)
と述べ、この2概念の調和の重要性を暗示している。一見、合理主義批判からキリスト
教批判へのシフトを表しているようだが、実は人間の生き方も芸術も、キリスト教的道
徳観、価値観に囚われるべきではない、というニーチェの主張は、故に、西洋形而上学
の外側に光を見出したシェーファーと共通する、と私は考える。
(b) リトミック
リトミックは、エミール・ジャック=ダルクローズによって考案された音楽教育への
アプローチ方法である。ダルクローズの提唱する音楽教育のメソードは、西洋音楽の様
式にそったものであるが音楽科教育に有効であると考えた。
ダルクローズ (チョクシー他,1994, p.54) は音楽教育として、リトミックに以下のよ
うな目標を掲げている。
「ジャック=ダルクローズは……学生の様々な能力を伸ばす方法を見つけ出すことに
生涯を捧げた。それは、音楽を、感じ(feel)・聴き・創り出し・知覚そして想像し(sense
and imagine)・関連づけ・関係づけ・記憶し・読み書きし・演奏し解釈する能力であ
る。……彼は、心と身体や、感覚と表現との間のギャップに悩む学生を自由にしてやる
ために研究したのだ。」
ダルクローズは、音楽を理論的な知識への傾倒に伸び悩む学生の姿から、実践的な音
楽の学習法を考案していく。そこで、実際にリトミックの講習会に参加し、どのような
活動があるのかを講習会を通して体験してきた。それは次のような活動である。
2. リトミック講習会に参加して
(a) 実践を通して
第5回カワイ教育カレッジ―リトミックin浜松
・日程/7月2日~7月4日
7月2日、入門コース
・参加者50名程度
・ 歩く
1、歩き続ける (空間・高さ・他者の位置を意識する) 。 2、 歩き続け、他者と目が合ったら5秒間目を合わせ続ける。
3、 3 つのパターン (自分が自然に歩ける速さ・アップテンポ・スロー) で歩き分け る。
4、足の部分 (つま先・かかと・外側・内側) によって歩き方を変える。
5、 合図によって足の部分の中から1パターンを選び歩く。
「歩く」という普段の動きの中にも、テンポの違いや、緊張関係が存在することを理
解する。また、2の活動では他者と接近する際にクレシェンド、離れていく際にデクレ
ッシェンドの関係を体感することができた。さらに、足の様々な部位を使って歩くこと
で、歩き方や、歩くテンポが変わり、歩くという一連の行動にバリエーションが加わる。
・ 座っての活動
1、 1つの大きな輪になって座り、太鼓のリズムに合わせて4分の4拍子の一拍ごと に膝を叩く。このリズムをベースとし、その 2 倍速のテンポを胸(心臓)の位置で
叩き、2倍遅いテンポで地面(地球と言っていた)を叩く。
2、上記の条件を指導者の合図で打ち分ける。
3種類のテンポを使い分けることにより、拍子やリズムの意識付けとし、音楽 (リズ ム)に合わせて活動をする為の準備段階としての位置づけができる。
・ 輪になって活動
1、 1つの大きな輪になって座り、「座って活動」の時のリズムを手拍子に変え、隣の 人に伝えていく伝達ゲームをおこなう。
2、ルールを覚えたら、3つにグループを分け (1つのグループだと多すぎる為) 、同
様に伝達ゲームを行う。その際、身体を振り向かせることで右回りを左回りに変
えるなど、拍手以外 (頭を叩く、足踏みなど) でビートを刻んでもよい。
伝達ゲームにすることにより、自分が音を発しない箇所では、他者の発する音に注意
を向ける必要性が生じる。そこで、他者の出す音と、自分の出す音に意識が向く。また、
右回りから左回りに方向を変えることは、緊張感を持続させる効果があり、音の発する
所を注意深く聴くことが要求されている。
(入門コース 入門編(2)―基本的なリズムの動き)
7月3日、Aコース 参加者50名程度
1コマ、リトミックⅠ―基本的な動き
・ 人に合わせる
1、 2 人ペアになり手をつなぎ、音楽に合わせて円を描くように回す。その際、曲を よく聴き、pやfに合わせて円の大きさや動きを調整する。
2、2 人ペアとなり、片方の人が 4 拍を身体(頭を叩いたり、肩を叩いたりなど)を使 って叩き、もう片方の人が、その真似をする。
3、 5~6人のグループを作り、その中の1人が、身体を使って8拍を表現し、隣の人 に回す。
4、5~6人のグループのまま、8拍を4拍ずつに分け、初めの4拍を前の人の動きと し、前の人の動きを模倣する。後の4拍は自分の動きとして、ビートを表現する。
円を描く活動では、音楽の強弱や、テンポ感が必要であり、2 人とした意図として、
他者の感じる音楽と自分の感じる音楽の違いについて感じることができるのであろう
と感じた。また、ペアになっての活動は、人のリズムを模倣する活動であり、音楽的な
活動として注目したい。さらに、4、の活動は、他者の創りだすリズムと自身が創るリ
ズムがあり、模倣と創作の活動であり、また、自分の創るリズムを他者が合わせている
ことから、自分のリズムを客観的に聴くことができる。
・ 歩く
1、 自分の楽な速さ(いつもどおり)で歩く。
2、同じスピードで歩いている人を見つけ、手をつないでグループを作っていく。
3、出来上がったグループ(7~8人程度)で輪を作って座り、手拍子による伝達ゲーム を行う。
4、 目をつむり、手拍子を隣の人に伝える。また、始めの人だけを決め、目をつむっ たまま、音も発さずに、頭の中のイメージだけで音楽に合わせてビートを伝達さ
せ、曲が終わったところで誰が最後の人かを当てるというゲームを行った。
1と2の活動では、自分の刻むテンポと、他者の刻むテンポを意識させることができ るのではないだろうか。また、3の活動を通して、4の活動では、ビートを身体だけで
はなく頭の中においても印象付けることが出来た。音楽がどの瞬間に終わるのかわから
ないため、音楽を集中して聴くことが出来た。
・ スキップする
1、ピアノの演奏に合わせてスキップする。4パターンあり、それぞれ曲感(調性やテ
ンポ)が異なる。
2、 Ⅰパターンごとにペアを変え、1~4の人とする。
3、「1の人」という合図で、1の人を探し、手をつないで、1のパターンのスキップ をする。
4、 3の活動と同様に「2の人」、「3の人」、「4の人」という合図で、それぞれペアを 探し、それぞれのパターンのスキップをする。
この活動では、スキップというリズム運動を通して、おそらく、フレーズやリズムパ
ターンの記憶のためのゲームだったように感じた。また、ペアを変えてそれぞれのパタ
ーンをスキップするという行為は、一定のテンポのなかでのバリエーションの可能性を
学習することができるであろう。
・ 背中を押す
1、 2 人ペアになり、4分の4拍子や、4分の3拍子を意識しながら相手の背中を押 す。押された方は押された力に合わせて、前方に向かって歩いていく。
2、1 の活動と同様に相手の背中を押す。押された方は指揮をしながら前方に向かい
歩いていく。
この活動では、力の減衰を身体で表現することによって、拍の中での力の減衰につい
て体感することができ、4分の4拍子や4分の3拍子などを意識させることにより、拍
子の感覚を身につけるための活動となっていた。
・ ダンスする
1、2 人ペアになり、身体の前で両手を握り、音楽に合わせて左右に振る。適当なと ころ (自分で音楽的に切れたと感じたところ) で手を解き、違うパートナーを探
す
この活動では、曲全体を感じとり、身体表現することにより、曲のもつイメージ (調
性、フレーズ感) を意識することが出来た。
(Aコース リトミックⅠ―基本的な動き)