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e ラーニング普及推進モデルの策定・提案

第 5 章 e ラーニング普及推進モデルの提案

5.4. e ラーニング普及推進モデルの策定・提案

本研究結果から,2大学での実践事例(仲道ほか 2006,仲道ほか 2016,Nakamichi et al. 2017)で取り組んだ11の普及方策は,教員がeラーニングを採用するまでのイノベー ション決定過程を進め,普及推進成果を上げたことが推察された.各方策の影響を見ると,

どの決定過程にも影響しない方策はなかった.さらに,方策によって影響する決定過程は 異なり,また一つの方策が複数の段階に影響していることが示唆された.これらから,e ラーニング普及推進を目指す際には,万能の方策があるわけではなく,複数の方策を大学 の現状に応じて複合的に実践することが効果的であることが示唆された.さらに,大学に おけるeラーニングの普及推進においては,システムを構築し,組織全体にはたらきかけ るだけでは不十分であり,教員個々のイノベーションの採用を促す緻密な取り組みを並行 して行うことが有用であることが明らかになった.

2 大学で実践した取り組み内容を,他大学での実践で参考としやすいように一般化した 表現にした.例えば,「02. 科目ガイダンスVODの開発」では,eラーニングの試行のよ うな位置づけで行われたことが,決定過程の態度段階のイノベーション属性で,試行可能 性を高めたことが示されたことから,必ずしも科目ガイダンス VODでなくとも,試行可 能性を高める方策であればよいという意味として「02. eラーニングを試行できるような取 り組みを用意する」という一般化した表現とした(表5.5).

5 eラーニング普及推進モデルの提案

表5.5 取り組みの表現の一般化

2大学で実践した取り組み 取り組みの表現の一般化

01. ICT講習会の開催 01. eラーニングに必要なスキルに関する講習会を開催する

02. 科目ガイダンスVODの開発 02. eラーニングを試行できるような取り組みを用意する

03. ICT活用事例集の発行 03. 身近な教員のeラーニングの取り組み事例を紹介する

04. 組織的取り組みとする(教育デザイン室の設置) 04. eラーニングについて相談する窓口をつくる 05. 学内規程,ガイドラインおよびマニュアルの整備 05. 学内で認められたガイドライン等を整備する 06. アンケートの実施と結果の公開 06. eラーニングの効果や学生・教員の反応を公開する

07. ICT活用支援制度の設立 07. eラーニングの始動を後押しする資金面での支援を行う

08. LMS開講での単位取得のための教学組織への提案 08. eラーニングでの単位認定に関する教学組織での合意

形成を図る

09. 著作権処理の代行 09. 著作権処理の支援ができる仕組みを設ける

10. LMSコース申請システムの改良 10. eラーニングを始める手続きを簡略化する

11. 専門家による授業設計・技術サポート,教材開発支援 11. 授業設計・ICT技術支援・教材開発の支援を担当する 人材を配置する

以上をもとに,次に示す高等教育機関におけるeラーニング普及推進モデルを提案する

(図5.2).

本モデルの横軸は,すべての決定過程に影響するコミュニケーション・チャンネルの 多様性が今回のeラーニング普及推進策の特徴そのものであることを示している.このこ とは,本章の分析結果から,一つの方策の影響が広範囲であり,複数の決定過程に影響し ていることが推察できることからいえる.また,縦軸の全学的普及は,その影響が人から 人へとコミュニケーション・チャンネルを通じて循環していくことで普及が促進されるこ とを示している.これは,判定結果から,ICT活用教育事例集の発行が決定過程に多く影 響しているとの示唆からいえる.なぜならICT活用教育事例集は,既にイノベーションの 確信段階にある人の事例が掲載されており,まさにeラーニング活用の効果に確信をもっ た人が,次の人の決定過程を促すコミュニケーション・チャンネルの一部となっているこ とを示すといえるためである.イノベーションは,多様なネットワークの支援を受け,社 会的に生成されると言われており,コミュニケーション・チャンネルの多様性がイノベー ションの普及に影響するといえる(野中・勝見 2011).

以上のことから,高等教育機関におけるeラーニング普及推進には,複数の普及方策を,

現状に合わせて実践するとともに,確信段階にあるイノベーション採用者をコミュニケー

5 eラーニング普及推進モデルの提案

ション・チャンネルに意図的に組み込んでいくことが効果的といえる.

本研究では,普及学の理論を援用し,実践した普及方策の決定過程への影響について当 該領域に見識のある第三者の判定結果をもとに明示した.これにより,決定過程のどこに 問題があるかを推定することで,効果的な普及推進策を見出す手掛かりを得ることが可能 になった.分析対象とした2つの実践事例は,私立大学と国立大学での実践であり,共通 する方策が効果を上げていることから,設置主体の種別によらず,教員が授業をより良い ものにしたいとの思いは同じであるといえる.そして,各大学の実情に応じた普及推進策 が講じられることで,e ラーニングを活用したより質の高い教育を学生に提供することが できるといえる.

5 eラーニング普及推進モデルの提案

図5.2高等教育機関におけるeラーニング普及推進モデル