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イノベーション決定過程の決定過程別普及方策

第 5 章 e ラーニング普及推進モデルの提案

5.2. 実践事例の分析結果

5.2.3. イノベーション決定過程の決定過程別普及方策

これらの結果を総合し,決定過程別普及方策を一覧にまとめた(表5.3).

知識段階では,「ICT講習会の開催」,「科目ガイダンスVODの開発」,「ICT活用教育事 例集の発行」が挙がった.ICT 講習会の開催は,知識の提供方法として効率的であり,e ラーニングに関する知識を得ることで態度段階に進むことを促す.全科目での科目ガイダ ンスVOD化については,この方策がeラーニングの試行のような位置づけで実施され,

経験することで知識を得る機会になったと思われる.さらに専門家との接点が生まれ,教 員自身が望む望まないにかかわらず,正しい知識を得る機会となる.ICT活用教育事例集 の発行については,事例集には他の身近な教員の成功事例が具体的に書かれており,普段

相対的

有利性 両立性 複雑性 試行可 能性

観察可 能性 1-1.組織的取り組みとする(教育デザイン研究室の設置) 1-2.学内規程,ガイドラインおよびマニュアルの整備 1-3.専門家による授業設計・技術サポート,教材開発支援

1-4.著作権処理の代行

1-5ICT講習会の開催

1-6.科目ガイダンスVODの開発

1-7.LMS開講での単位取得のための教学組織への提案

1-8ICT活用支援制度の設立

1-9ICT活用事例集の発行

1-10.アンケートの実施と結果の公開

2-1.組織的取り組みとする(教育デザイン室の設置)

2-2.学内規程,ガイドラインおよびマニュアルの整備 2-3.専門家による授業設計・技術サポート,教材開発支援

2-4.著作権処理の代行

2-5.ICT・授業設計に関する研修会の開催

2-6LMSコース申請システムの改良

2-7ICT活用教育事例集(リーフレット)の発行

2-8.アンケートの実施と結果の公開

A

B

普及方策

評価者全員の照合

5 eラーニング普及推進モデルの提案

表5.3 イノベーション決定過程の段階モデルでみた普及策の影響分析結果

知ることができない実践の背景や動機を知ることができたり,実際に使用されている手法 や機器の情報を得ることができる.また,e ラーニングニュースでは,事例集に紹介した 実践を行うために必要な枠組みや手続きなど,より具体的な内容を盛り込んでおり,実践

(事例)と方法(ニュース)を組み合わせることで幅広い内容を含む情報源として活用さ れるため知識段階に有用と考えられる.

態度段階は,イノベーションである「e ラーニング」に対して好意的もしくは非好意的 態度を形成する段階のことである.態度段階の判定では「ICT講習会の開催」,「科目ガイ ダンスVODの開発」,「ICT活用教育事例集の発行」,「学内規程,ガイドライン,マニュ アルの整備」「組織的な取り組みとすること(教育デザイン室の設置など)」「ICT 活用支 援制度の設立」「アンケートの実施と結果の公開」の7つが影響するとの判定がなされた.

ICT講習会の開催については,知識段階でも述べたとおり,講習会に参加することで知 識を得るという影響があるとともに,講習会が開催されることを知った時に,自分はこの 講習会に参加するかしないかを決定する.決定に至るまでの教員の心的過程としては,ま

●:全員が影響ありと判定した方策

5 eラーニング普及推進モデルの提案

ず,物理的に参加可能かどうかをスケジュールと照らし合わせ,講習会の内容を吟味し,

自分に役に立ちそうか(相対的有利性),今抱えている業務進行の妨げにならないか(両立 性),難しくないか(複雑性),試してみることはできるか(試用可能性),どのような成果 が得られるのか(観察可能性)を自問自答の後に態度を決する.もしくは,講習会に参加 する中で,イノベーションに対する態度を形成するともいえる.つまり,講習会の内容に 加えて,開催されるという事実によっても態度段階が促されると推察できる.

科目ガイダンス VODの開発については,半ば強制的に専門家の支援を受けながら動画 撮影などに参加することになる.このことは,教員自身が希望していなくてもその場にい ることで何ができるのかがわかったり,思ったほど難しくないことに気付いたりする機会 になる.このような強制力のある取り組みは,イノベーションの採用に懐疑的な人が多い 導入期に一定の効果を上げることがあるといえる.

ICT活用教育事例集の発行については,事例集が態度過程に影響する上で,掲載されて いる内容が同僚の教員だという点が重要である.なぜなら,研究者は,同僚を信頼し,職 員が教員にグッドプラクティスについて話すより,教員が教員に経験を話す方が効果的と されているためである(OECD 2005a).

学内規程,ガイドライン,マニュアルの整備については,eラーニングの知識を得た後,

具体的にどのように使えるのかを実際の操作がわかるように示すことで,知っている段階 から,自分が実際に使ってみたらどうなのだろうかというイメージがつきやすく,態度段 階に影響すると考えられる.組織的な取り組みとする方策は,支援の安定性や相談窓口が 確保されるという点で,安心して新しいチャレンジができるという点が態度の形成に影響 するといえる.

ICT活用支援制度の設立については,教員にとってeラーニングに取り組むには,従来 通りの方法を続けるよりも一時的に時間と労力を注ぐことが必要になる.その労力に対す るインセンティブを付与するかどうかは,動機づけの観点に加えて,予算の獲得による実 質的な支援が得られ,使いたかった機材が購入できたり,補助者の雇用が可能になること 等により望んだ教育が実現できる可能性が出てくることが態度段階に影響するといえる.

アンケートの実施と公開については,e ラーニングに取り組んでいる教員の回答結果が 公開され,それが肯定的な回答であれば好意的な態度形成の可能性が高まる.また,回答 の記述に,自分が危惧していた状況が解決できることが示されていた場合(例えば,機器 の操作が複雑で,できるかどうか不安だったがサポートを受けてうまくいった等)採用に

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向けて態度形成される可能性が高くなる.また,ほとんどの教員はより分かりやすく学生 にとって有益な授業にしたいと考えているため,学生からの肯定的な回答等は態度段階に 影響するといえる.

決定段階では,態度段階で挙がった「ICT 活用支援制度の設立」「アンケートの実施と 結果の公開」は,その効果(インセンティブの高さ,肯定的な回答等)が強いほど,態度 から決定段階への移行に影響するといえる.これ以外には,「LMS開講での単位取得のた めの教学組織への提案」「著作権処理の代行」「LMSコース申請システムの改良」「専門家 による授業設計・技術サポート,教材開発支援」が挙がった.

LMS開講の単位取得に向けた提案は,eラーニングが対面授業と同じ授業として位置づ けられなければ科目を担当する教員にとって単なる業務の増加でしかなくなる.また,学 生にとってのメリットも感じられないため,たとえ関心があったとしても採用するかどう かの決定に影響するといえる.

著作権処理の代行は,動画教材の開発とは不可分の作業であり,かつ専門的な知識が必 要なため,多忙な教員にとって大きな負担となる.その部分を代行してもらえるのであれ ば,採用決定へのハードルは大きく下がることは想像できる.

LMSコース申請システムの改良については,eラーニングを採用しようと思っても,い ざコースを開設しようとした時に煩雑な手順が必要になれば,一度高まった意欲は減退す ることが考えられる.申請方法が簡便であることは,その先にあるeラーニングの活用自 体にも楽観的な予測ができるため,決定段階に影響するといえる.

専門家によるサポートについては,もし自分に解決できない事態が起きた時に,身近に 支援してくれる専門家がすぐに駆けつけてくれると思えることができれば,前向きな決定 を後押しすると考えられる(仲道ほか 2017).

実行段階では,知識段階で挙がった「科目ガイダンス VODの開発」と,態度段階で挙 がった「学内規程,ガイドライン,マニュアルの整備」とともに決定段階で挙がった「LMS コース申請システムの改良」「専門家による授業設計・技術サポート,教材開発支援」が挙 がった.

科目ガイダンスVODの開発については,全学的に取り組むという強制力が働くことで,

知識や態度の如何に関わらず実行段階から決定過程が始まる可能性がある.学内規程等の 整備については,ガイドラインやマニュアルが使えるということであり,具体的な作業が 示されるため,実行段階に直接的に影響することが分かる.