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2-1. 電力・調整力需給実績と調整力需要の発生要因となる変動の推計方法

2-1-1. 電力・調整力需給実績と調整力需要要因となる変動の推計の考え方

2-1-1-1.電力需給実績

国内での電力需要に関する公的統計については、1-2-2-2.で説明したとおり経済産業省・

電力調査統計により月別・都道府県別・需要電圧別での電力需要量が公表されており、また 各一般送配電事業者による「でんき予報」により時間帯別・地域別での供給区域内の総電力 需要量が公表されている。

国内での電力供給に関する公的統計については、1-2-2-2.で説明したとおり経済産業省・

電力調査統計により月別・事業者別・電気事業自家発電別での発電種類別の発電設備容量が 公表されており、また経済産業省においては固定価格買取制度に関連して再生可能エネル ギー設備導入状況などの試料により太陽光及び風力発電などの都道府県別設備容量が公表 されている。また各一般電気事業者による「でんき予報」により時間帯別・地域別での供給 区域内の発電種類別での電力供給量が公表されている。

従って電力需要及び供給については、「でんき予報」による実績値から時間帯別・地域別 の数値が直接的に利用できる。

2-1-1-2.調整力需給実績と調整力需要の発生要因となる変動の推計の考え方

2-1-1-2-1. 国内広域機関調整力委による信頼度評価基準の考え方 (図 2-1-1-2-1-1.及び図

2-1-1-2-1-2.参照)

2-1-1-1.では電力需給実績について説明したが、他方で調整力需給については電力需給

実績と異なりこれを直接的に公表している公的統計は存在せず、何らかの考え方に基づき 公的統計などから推計を行うことが必要である。

広域機関調整力委においては、2016 年度の発足後から電力システム改革実施前に設定 されていた調整力・予備力などに関する検証を実施しており、当該検証の過程において信 頼度評価基準についての考え方や評価結果が公開されている。以下当該調整力委による調 整力・予備力に関する検証及び信頼度評価基準の考え方について概要を説明する。

1)調整力に関する検証

調整力に関する検証については、一般送配電事業者が調達・確保すべき調整力の容量で ある「電源Ⅰ及びⅡ」の設備容量について、現実の需要・供給の変動の大きさから見た妥当 性についての検証を実施し、公募による調達・確保の必要量を算定している。

当該検証においては、地域別での残余需要の実績値を用い、変動の要因を 1)30 分単位 での電力需要及び再生可能エネルギー発電の時間内変動(残余需要の時間内変動)、2)電力 需要及び再生可能エネルギー発電予測誤差及び 3)最大規模電源の 1 基脱落(N-1 事故、脱 落直後・脱落継続別)に大きく分類した上で調整力の必要量の推計を行っている。

図2-1-1-2-1-1.に広域機関調整力委による変動要因の分類の概念図を示す。

当該調整力委による検証においては、電力需要及び再生可能エネルギー発電の時間内変 動については一般送配電事業者から提出された地域別での 5 分単位の実績値(以下「 5 分 値」と呼称する)、予測誤差については小売事業者及び発電事業者から提出された前々日又

*43 ”σ” は標準偏差を示す記号である。広域機関調整力委が何故変動要因別に3σ・2σ総統治としているのかは不明である。

*44 当該評価は広域機関調整力委において「経済性分析」と略称されている。2016 年度からの調整力委における検討資料に おいてはシナリオに応じた様々な「経済性分析」が実施されている。

は1時間前における実際の30分枠単位での予測値を用いて検証を行っている。

また最大規模電源の 1 基脱落(N-1 事故)については、発電種類別での単一発電機の計画 外停止確率を用いて検証を行っている。

ここで、各変動を合成した変動については、時間内変動+3σ*43 相当値、予測誤差+2σ 相 当値及び電源脱落直後分を合算した変動を用いており、「電源Ⅰ」の必要量の算定において は地域別にこれらの変動の最大3日需要"H3"に対する比率を用いて算定している。

[図2-1-1-2-1-1.広域機関調整力委による変動要因の分類の概念図]

残余需要の時間内変動 残余需要の予測誤差 電源脱落(直後・継続) (電力需要・再エネ時間内変動) (小売需要・再エネ予測誤差)

残余需要線 残余需要線 残余需要線

実績値 (30分間)

時間内変動 予測値 予測誤差 電源脱落(直後) (継続) (30分間)

30分間 30分間 30分間

当該検討の結果から、従来の信頼度評価基準は見込不足確率(LOLP)により 0.3 日/月(約 1%)未満を基準としていたが、2017 年度から需要 1kW 当の供給不足電力量期待値(EUE) を基準とし、見込不足確率(LOLP)・見込不足時間期待値(LOLE)などは補助的指標とするこ とが決定されている。

2)予備力に関する検証

予備力に関する検証については、一般送配電事業者が調達・確保すべき予備力・予備率が 経済的に見て合理的な水準と言えるか否かについて、電力需要の確率分布による停電コス トの期待値と追加供給力確保費用の関係から検証を実施し合理性を確認している。

図 2-1-1-2-1-2.に広域機関調整力委による追加供給力・停電費用評価*44 の概念図を示す。

調整力委においては、停電確率に基づく停電コストの期待値は追加供給力確保量が増加 すれば低減するが追加供給力確保費用は増加する関係にあり、両者を合計した停電コスト

・追加供給力確保の合計費用には最適解となる費用最小となる点が存在することから、現 行の予備力・予備率と当該最適解との比較により検証を行っている。

当該検証においては、旧電力系統利用協議会(ESCJ)が実施した「停電コストに関する調

査(2014 年 1 月)」における夏の平日(予告あり)と冬の平日(予告あり)の平均停電コストを

¥3,050/kWh ~¥5,900/kWh と仮定し、供給力確保単価を経済産業省総合資源エネルギー調

査会発電コスト検証 WG の資料から LNG 火力¥9,800/kW/年、石油火力¥16,800/kW/年と仮 定した上で、実際の需要変動を用いた合計費用の最適解を算定し、当該最適解に対応する

*45 欧州ENTSO-E4)負荷・発電計画の乖離変動については、小売事業者などに同時同量の確保とインバランス精算が義 務が課せられている制度下では 3)需要に関する予測誤差と実質的に同じ問題であると考えられるため、以下本稿ではこれら を「予測誤差」として統一的に取扱うこととする。

厳密に言えば、欧州 ENTSO-E での負荷・発電計画の乖離変動には需要に関する予測誤差以外にも不適切な発電計画や 過失などによる需給の不一致が含まれることとなる。

追加供給力の確保量が現行の予備力・予備率(系統予備率として約 7 %)と概ね等しい結果 となったことを確認している。

[図2-1-1-2-1-2.広域機関調整力委による追加供給力・停電費用評価の概念図]

費 用 ¥

停電コスト・追加供給力確保の 合計費用→ 最小点が最適解(Qr*, Cr*) Cr*

追加供給力確保費用(¥/kW/)

停電コスト期待値(¥/kWh)

0 Qr* 予備力(追加供給力) GW

2-1-1-2-2.欧州大陸同期送電網運用機関(ENTSO-E)による信頼度評価基準の考え方

現在までの調整力に関する制度を巡る国内での議論においては、米国型の発電事業者に 一次調整力を強制拠出させるという議論は行われておらず、調整力に関する制度は欧州 NRD地域における制度に近いものとなると予想される。従って以下欧州 NRD地域におけ る調整力に関する制度を念頭に、国内での実績値を用いた要因別調整力需要と発生確率の 推計について考える。

欧州における調整力需要については、1-1-3-5.の欧州 ENTSO-E における信頼度評価基 準において説明したとおり考慮すべき要素として、1)発電機又は送電線の計画外停止、2) 需要又は再生可能エネルギーの時間内変動、3)需要又は再生可能エネルギーの予測誤差及 び4)負荷-発電計画の乖離変動*45の4要素が指定されている。

これら 4 要素については、規模・期間・相関及び変化率に応じてそれぞれ確定的手法と 確率論的手法を組合せた評価基準が設けられている。欧州域内の一次調整力については最 も過酷な大規模発電機又は基幹送電線の N-2 事故に対処可能又は見込不足時間期待値

(LOLE)により「 20年に 1 度の停電」となる水準の信頼性を確保できる必要量とすることが

定められている。二次及び三次調整力については最も過酷な大規模発電機又は基幹送電線 の N-1 事故に対処可能又は見込不足確率(LOLP)により 99.9 %以上の水準の信頼性を確保 する必要量とすることが定められている。

欧州においては、1-1-3-5.で説明したとおり欧州 ENTSO-E が呈示した上記の基本的な 考え方を受けて、各運用地域において具体的な基準と調整力の必要量などが個別に算定さ れ運用されている。

*46 一般送配電事業者の「でんき予報」において10社全部が当日分について5分値により電力需要実績を公開しているが、

翌日には結果が消去されてしまい、過去分について5分値を整理して公開しているのは5社のみである。

2-1-1-3.本稿における要因別調整力需要と発生確率の実績値からの推計の考え方

2-1-1-3-1.信頼度評価基準の要素の需要側・供給側への分離

2-1-1-2.では国内での広域機関調整力委と欧州大陸同期送電網運用機関(ENTSO-E)によ

る信頼度評価基準の考え方について説明した。

ここで、二次及び三次調整力に対する信頼度評価基準の要素については国内の調整力委 においても欧州 ENTSO-Eにおいてもほぼ同様であり、1)30 分単位での需要及び再生可能 エネルギー発電の時間内変動(残余需要の時間内変動)、2)需要及び再生可能エネルギー発 電予測誤差(負荷-発電計画の乖離変動を含む)及び 3)最大規模電源の脱落又は基幹送電線 の事故・故障(直後・継続別)に大別される。

従ってこれらの要素を需要側と供給側に分離した場合、需要側変動としては 1)電力需 要の時間内変動及び 2)電力需要の予測誤差などが挙げられ、供給側変動としては 1)再生 可能エネルギー発電の時間内変動、2)再生可能エネルギー発電の予測誤差など及び 3)火力

・原子力発電所などでの発電機又は送電線の事故・故障による計画外停止が挙げられる。

2-1-1-3-2.需要側の時間内変動と予測誤差の推計

2-1-1-3-1.では二次及び三次調整力に対する信頼度評価基準の要素を需要側と供給側に

分離し合計 5 つの要素を列挙したが、最初にこれらの要素のうち需要側の時間内変動と 予測誤差の推計の考え方について説明する。

1)電力需要の時間内変動

電力需要の時間内変動については、「でんき予報」において一般送配電事業者 10 社のう ち関西電力・九州電力など 5 社が 2016 年度からの時間帯別電力需要について 1 時間値に 加えて5分値での需要実績を一般公開*46しており、近隣地域での5分値による需要実績と 該当地域の1時間値による需要実績から時間内変動を推計できる。

従って二次及び三次調整力の信頼度評価基準の要素のうち電力需要の時間内変動につい ては、地域の特性が類似した近隣地域の一般送配電事業者が公開する 5 分値での需要実 績を用いた推計により、5 分値を公開していない地域の電力需要の時間内変動を推計する ことが適当であると考えられる。

2)電力需要の予測誤差

電力需要の予測誤差については、現状でこれを公開している一般送配電事業者は存在し ていない。

従って電力需要の予測誤差については、過去の実績値などを用いて該当する時間帯・地 域での電力需要を実際に予測し、当該予測に伴う誤差を予測誤差の推計値とすることが考 えられる。

このため、実際に前年同月・同曜日・同時間帯での実績値や同年直近日の平年比での実績 値など情報を基礎に、小売電気事業者や発電事業者が回帰分析により予測しているものと 仮定した予測誤差の再現推計を行う。

現実の電力需給においては 30 分が 1 コマとして設定されているが、再現推計の都合か ら予測誤差については1時間単位での予測誤差を再現推計してこれを用いる。