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j観 識 能

環 境

図2 (ピンカー1995,263頁)

①人間の経験のさまざまな分野一言語、道徳、食べもの、社会的関係、物質世界、な  ど一それぞれの学習メカニズムは、目的に食い違いを生ずることが多い。学習を支  えるのは単一の汎用メカニズムではなく、ある特定分野独自の諭理や法則に削った  モジュールがいくつもあると考えられる。人間に柔軟性があるのは、たまたま置か  れた環境が心を形成するからでは栓く、心的モジュールが多数あり、それぞれが独  自のやり方で学習する枠組みを作っているからである。

②複雑な設計図から作られたような生物学的体系は、偶然が重なってできたとは考え  にくいことから、自然淘汰の結果とみ桂してよい。このことは、人間が進化してき  た環境にあって、その体系は、生存と増殖に寄与する機能を持っていたことになる。

③文化も役割を果たしている。文化とは、ある特定の諸学習が共同体の成員から成員  へと伝播して、心が共通のパターンに整合されていく過程をいう。ある特定の言語  や方言が、共同体の成員が高度に類似した心的文法を獲得する過程を意味するのと

 同様である。

①②③からピンカーは、人間の心的な作用の存在が大きな役割を果たしているとして

いる。

 ピンカーが想定した学習のプロセスでは心的モジュ]ルが挙がっているが、多数あ るモジュールのなかでも小椋(2006)は、言語モジュールについては、生まれながらに

もっていないと新たな見解を示した。その理由として、生後2年間、子どもの絶えざ

る環境と活発な相互作用や生体システムのなかでの領域棉互の結果として、言語モジ ュールが形成されると考えられるからだ(小椋だみ子2006,177頁)。さらに小椋(2006)

は、人間に生得的に備わっている学習能力は、経験を通して、言語をはじめとする人 間の文化的技能の獲得を可能にするとして、経験という外部刺激によって生得的な学 習能力は機能を発揮するとしている。

 ピンカーが学習のプロセスを想定した時代から現在にかけて、さまざまな研究 が進んだ結果。多数あるモジュ山ルは生得的な能力と認識され、その機能を発揮 するためには、経験という外部刺激が必要となる関係性が明確になっている。共 同体のなかでルールを共有することは、共通意識という外部刺激によって心的作

用に影響を及ぼすとも考えられる。

 ルールある社会で生きるためには、心的モジュールにたくさんの経験という外 部の刺激を与え、それによりそれぞれのモジュール機能を十分に発揮させること

がが重要である。

1J.トラバント(大関達也訳)「言語」、C.ヴルフ編(藤川信夫監訳)『歴史的人間学事典第2巻』、

2005年、284頁。

2S.ピンカー(椋閨直子訳)『言語を生み出す本能上巻』、1995年、39頁。

3回、39頁。

4Yuppie米国で、第二次大戦後のベビーブーム期に生まれた世代で、都会やその近郊に住んで知 的職業に就いているエリート青年をいう(英和申辞典1994.2390頁)。

5ブ1ヨーカ失語症とは、脳中にあるブローカ野といわれる部分の損傷により、.文法機能を撞う能力 が低下する失語症の一種(ピンカー(椋囲直子訳)下巻、1995年、u8頁)。

6認知研究において、心や脳は、さまざまなことを一手に引き受けるような汎用プ1コセッサではな く、処理対象を限定した特殊プロセッサをモジュールと呼ぶ。そのモジュールが多数集まることで 心や脳が作動するという考え方(久野雅樹200葛、36頁)。

7J.トラバント(大関達也訳)「言語」、C.ヴルフ繍(藤川信夫監訳)『歴史的.人聞学事典第2巻』、

2005年、287頁邊

8S.ピンカー(椋禺直子訳)『言語を生み出す本能下巻』、1995年、26頁。

96歳までは確実に言語が獲得できるが、それ以後は確実性が徐々に薄れ、思春期を過ぎると完壁 にマスターする例はごくまれになる(S.ピンカー(椋田直子訳)下巻、玉995年、98頁)。

1o二歳後半から三歳半までのあいだに、幼児の言語はいっきに開花し、文法酌な文をなめらかに 発して会話するようになる。変化があまりに急激で、観繁が追いつかないため、どんな順でどんな 変化がおきるのかが正確にはつかみきれていないことからピンカーが作成した用語(S.ピンカー

(椋聞直子訳)下巻、1995年、63頁)。

11S.ピンカー(椋困直子訳)下巻、1995年、275頁。

12単語に関する情報(意味、表記、発音、文法など)を扱う心自勺システムのことであり、言語の理解 や生成に広く利用される心的システムのこと(久野雅樹2006,35頁)。

13仮定の「思考言語」。単語や文の意味も含めて、さまざまな考えを、脳内で概念と命題にまとめ るプロセス(S.ピンカー(椋閏随子訳)下巻、1995年、302頁)。

14S.ピンカー(椋田直子訳)『言語を生み出す本能下巻』、1995年、98頁。

15芳賀纏『言語・人間・社会』人間の科学杜、1979年、53頁。

第三章 どンカーの教育諭  第一節 子育て世代の見落とし

 言語本能論では、人類学において、価値観が文化によって100パーセント決定さ

れること、言語学において、思考が統語構造によって決定される(ウォーフ流の仮説)

など、これらはすべて、一種の相対的全体論を含むとして批判的に述べられている。

さらにピンカー(1995)は、認識が知覚に浸透し、理論が観察を決定し、文化が価値観 を、階層が科学を、言語が思考を決定するとなれば、科学理論や倫理的価値観、形而 上的世界観、などを合理的に批判したくても。地理的、歴史的、社会的偶然の所産と して議論の参加者が共有するにいたった数々の前提の枠組み内でしか行えないことに なる。枠組み自体は合理的批判の対象になりえないとしている。

 このようなことからピンカーは、相対主義を嫌い、さらに相対主義には、誤りがあ る可能性が高いと指摘している(S.ピンカー(小椋直子訳)下巻1995,259頁)。その理由 としてピンカー(エ995)は、「相対主義は、人閥の心が固定した構造をもっていることを 見落としているユ」からだという。対話のなかで聞き季の偏見や予見によってゆがめら れることなく、話し手のメッセージをそのまま伝達する文知覚モジュールは、普遍的 な構造を持つ人間の心を象徴するものであるとした。

 ピンカー(1995)によると、認知心理学の分野では、人間の心が固定された構造を持 ちながら、・複数の能力があり、複数のモジュールがあるとすれば、すべてがすべてに 影響を及ぼすとはいえなくなる。rすべて」がなんであれ、そこには少なくともr一つ」

以上のものが存在するとした。さらにピンカー(1995)は、心の構造が場所や時の違い を超える普遍性を持つからこそ、人間は、好みや習慣や個人的利害によってではなく、

客観的な事実として公平さや真偽についての合意に達することができるのだと主張し ている。しかし、人間の心の構図に普遍性があることを否定する欄封主義は、現代の 知的生活の隅々にまで相対主義が浸透していることが事実であり、どんな形であれ、

言語本能が存在するとなれば、相対主義は否定する根拠が揺らぐことになる(同上、259

頁)。

 ピンカー(1995)によると、相対主義の根底には、r社会科学標準モデル(SSSM)」

という1920年代から知的生活を支配してきた学説が存在しており、高等教育を愛

けた人間の少なくとも建て前として、SSSMが圧倒的勝利を収めているとしている。

 SSSMについて、学間の世界で人間研究の基盤になっただけでなく、学者以外の人々 にとってもニュ㎞ス誌やマスメディアを通じて、人間のすべての行動は氏と育ちの相 互作用によって形成されると説いている。そして、長方形の縦と横が面積が決定する のと同じように、氏(遺伝)と育ち(環境)は分かちがたく結びついていると結論づ けている(S、ピンカー(小椋直子訳)下巻199き、261頁)。SSSMの遺伝と環境についてピ ンカーは図に表している。

環     遣

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