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マイクロファイナンスの活動と女性のエンパワーメント

第 3 章で述べたフィールドワークの調査結果をもとに、 ネパールでは女性グループ によるマイクロファイナンス(以下、MF)の活動がどのように具体的に展開されてきて いるか検証し、MF の活動を総括する。さらに、MF 活動による「人間貧困」脱却へのア プローチ、その基本的理念、女性の自主性や社会性、内発的発展とエンパワーメント について言及する。

第1節 ネパール社会の概況とマイクロファイナンスの活動 の経緯

ネパールの主要産業は農業であるが、伝統農業が中心であるため構造的停滞に陥っ ており、男性の出稼ぎによる人口流出が顕著 になっている。このような状況の中で、

ダリット女性たちは自らの手で、貧困から脱する手掛かりを得ようと、参加型の開発 の担い手となり、地域でグループを結成し、グループ内の ソーシャル・キャピタル(以 下、SC)、すなわち信頼、規範、ネットワークなどを基本にした協働行動を培いながら MF の活動を開始した。本節ではその経緯を概観する。

1.ネパールの社会概況

ネパールの主要産業は農業(GDP の約 34%、就労人口の約 66%1 ))である。エスワラ ンら(2000:12-13)が、国が豊かであればあるほど農業従事者の労働力に占める割合 が低くなるという経済発展過程における規則性を述べている ように、ネパールにおけ る農業就労率の高さは最貧国の一面を示しているといえる。農業は伝統農業が中心で あるがゆえに構造的停滞に陥っており、GDP の実質成長率より農業の成長率が低くなっ ている 2)。このような農村地域の開発の遅れは、農村の生産活動の多くを担う女性の 識 字 率 の 低 さ が 労 働 生 産 性 の 低 さ の 要 因 と な っ て い る と み ら れ る ( エ ス ワ ラ ン ら 2000:177-181)。

また、梅村尚美 (2003:77-78) によるとネパールの農村では男性の出稼ぎによる人 口流出が顕著なため、女性の労働によって農業労働の 6 割以上がまかなわれ、そのほ とんどがインフォーマルセクターにおけるものと伝統的な自家消費用生産活動となっ ている。このことが、男女格差をさらに広げ、「貧困の女性化」につなが り、世帯収入 の分配は世帯主の男性が仕切り、女性は家事、農業、賃金労働に従事しているにもか かわらず、家庭においても意思の決定権がないことが多い状況 を生んでいると、梅村 は指摘している。

国際協力の援助に関する考え方は、“与える援助”3)という概念から、公平な世界を つくるための“住民参加型協力”4)へと変わり、国際協力援助の事業が展開している。

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また、教育の面でも学習者の自主性・自発性を重んじる教育理念へ変化し、開発が 弱者への視点を含むものへと軌道が修正されていったことに相通ずるものがある。公 正な社会を構築するには、政治的、経済的、宗教的な要因から生み出される複合的な 差別から解放され、その根底にある問題点に着目して、課題を明確にすることが重要 である。その課題の解決のために調査地域のネパールでは、地域に根ざした住民によ る草の根の活動、被差別集団、すなわちマイノリティと位置づけられてきた人々によ る活動、小規模な女性グループ(マヒラサムハ)による MF の活動が底力を発揮してい る。こうした活動が自立への道を切り開き、意識改革や社会開発への原動力につなが っていくものと思われる。

2.マイクロファイナンスの活用目的

MF の概念や研究の動向は第 1 章で述べたが、MF の活用目的には、①貧困削減、②農 業生産活動の促進、③零細企業向け融資、④女性のエンパワーメント が挙げられる。

その実施・支援機構には、政府や援助機関の開発プログラム を支える既存の金融機関 や、あるいは MF 専門機関等を通して行われるもの、銀行、協同組合銀行、NGO 等で行 われるもの、女性グループ内でのお金の管理等行われるものなどがある。 政府系のプ ログラムに、インドの IRDP(Integrated Rural Development Programme)やバングラ デシュの BRDB(Bangladesh Rural Development Board)の農村開発プログラムなどが あり、非政府系プログラムには、バングラデシュの BRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)などがある(岡本他 2004:5-10)。

1997 年、ワシントン DC で開催されたマイクロクレジット・サミットには、国際機関を はじめ世界 100 カ国から政府、NGO、金融機関の代表者ら約 2,000 人が集まり、貧困撲滅の 有効な手段である MF を 2005 年までに世界中の 1 億人世帯の貧困家庭、そのなかでもとく に女性に提供すべきことが宣言された。開発途上国にとどまらず、先進諸国においても MF は貧困女性の経済的自立支援という形で行われ、自助努力、所得の増加、生活環境の改善、

子どもの就学率の向上に効果を上げており、地域社会への経済的な波及効果を持ちながら、

貧困解消・環境改善に向けたひとつの手段として有望視されてきた 5)

3.ネパールにおけるマイクロファイナンスの経緯

ネパールでは紀元前5世紀頃より村落レベルにおける相互互助組織が形成されてい たと考えられ、村人全員参加による冠婚葬祭への支援、収穫作業の手伝い、灌漑施設 整備・管理への協力などが行われてきた 6)。しかし、20 世紀後半になると政府の土地 改革による協同耕作地の解体、パンチャヤート制(第 2 章、第 1 節の注を参照)の成 立、都市化の進展などにより、このような農村の慣行は 急速に弱体化していった。ネ パールにおいて新たな社会組織の誕生が遅れた要因として、NGO-JICA ジャパン・デス

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クネパール 7)は、19 世紀半ばから約 100 年にわたりラナ家による独裁体制がしかれ、

いかなる形態の社会活動も既成の秩序に対する脅威として迫害の対象とされたこと を 挙げている。

1951 年にラナ専制体制が崩壊後、ネパールのマイクロクレジット(以下、MC)は、1975 年にネパール農業開発銀行(ADBN:Agricultural Development Bank of Nepal)によ る小規模農家開発プログラム(SFDP :Small Farmers Development Programme)とし て最初に始められた(松井、2006:161-162)。その後 30 年以上にわたり、ネパール農 村部の貧困層と女性への小規模融資が続けられている。 その他、いくつかの民間商業 銀行とコンソーシアムにより運営されている集中的銀行プログラム( IBP:Intensive Banking Programme)や、政府の女性開発省の支援のもと、商業銀行と ADBN が運営す る農村女性のための生産クレジット(PCRW:Production Credit for Rural Women)など 活動している。後者は 1982 年に UNICEF の援助を受けて開始され、約 7 万人の女性が 受益者となっている、と松井は述べている。

女性の地位向上を目的とした、女性の視点から開発された生産クレジット PCRW は、

岡本ら(2004:195-196)により、次のように説明されている。PCRW はコミュニティ開発

(女性が経済活動に参加できる機会)と融資(所得創出)の二つのアプローチから 構 成されていること、また、1989 年 のプロジェクトは、①女性の収入増加のみでなく、

②女性が自信や能力をつける、③地域の選挙や村開発委員会に参加する、④官僚や役 人と交渉し地方政府の農業・家畜・健康・教育サービスについて要求を 提出している ことなどが評価されていることを挙げている。

その後、1994 年に商業銀行が始めた女性のための小規模融資事業(MCPW:Microcredit Project for Women)がアジア開発銀行、および日本、ノルウェー各政府の援助のもと で展開されている。このほかにネパールでは、グラミン銀行方式を踏襲したグラミン・

ビカス銀行 (GBB:Grameen Bikas Bank)の地域農村開発銀行と呼ばれているものがあ る(松井 2006:162-163)。

しかし、こうしたいくつかの活動がみられるものの、ネパールにおける MF は、総じて 貧困人口の 20%弱しか関わっておらず、貧困家庭に十分到達しているとはいいがたいと、

松井(2006:161-163)は指摘している。彼はその理由をまず、ネパール農業開発銀行が経営 効率の悪い SFDP(前述)を小農家協同組合(SFCL:Small Farmers Cooperative、Ltd.)

に移管したように、ネパールの MF の運営能力の欠如を挙げている。次に、それぞれの MF 機 関が依存する卸資金へのアクセスが限定されていること、また、地域の特性に見合ったモ デルがないことを挙げている。

MF 機 関 に 資 金 を 貸 し 出 す 卸 組 織 と し て 、 農 村 マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス 開 発 セ ン タ ー (RMDC:Rural Microfinance Development Centre、Ltd.)が設立され、銀行や信用保証協会

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および NGO も参加して、政府と民間との共同事業が 2000 年 1 月から開始された。しかし、

RMDC の経営は貸出利率が高いため、芳しくなく、多くの MF 機関も財務的に自力で運営で きず、政府や中央銀行の手を借りざるを得ない状況にある。全体として MF のための法制度、

政策の不備、社会経済的なインフラの不備、加えてネパールの政治的不安定も一因となっ ている、と松井は解説している。

4.マイクロファイナンスの担い手としての女性グループの活動

世界の多くの MF プログラムが、参加型開発の中で女性を中心に成長を遂げてきたよ うに、ネパールにおける MF プログラムも 90 年代の民主化の時代に入って女性たちに よって普及してきた。具体的には、貯蓄資金からの貸し出し制度を利用して、食糧 の 購入、子どもの学用品の購入、病気や怪我の時の診療費 の支払い、娘の結婚衣装など 冠婚葬祭目的の使用、海外出稼ぎの支度金、ヤギや 豚の家畜の飼育など、さまざまな 収入向上のために広範囲に利用されるようになった。もしこのような草の根の MF がな ければ、女性たちは金貸しに理不尽で多額な借金を支払わざるを得なかったといえる。

このように現在、女性グループ(マヒラサムハ)は、NGO 等のサポートを受けながら、

民主的なグループ運営を行い、ジェンダー視点での公正さを促進し、家庭の福利や厚 生を向上させるという実績を少しずつ積み重ねて いる。