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ネパールの女性グループによるマイクロファイナンスの 活動実態調査

本章では、不可触民としてカースト制度の最底辺に置かれ ているダリットの女性グ ループが、マイクロファイナンス(以下、MF)の活動を、彼女たちの生活面で生ずる不 安定さの解消や所得向上のためにどのように活用しているのか、また彼女らの活動が 差別構造の解消にどのように寄与しているか、人権や平等意識を醸成することにどの ように役立っているのか、ネパール全域にわたる実地調査を通じて明らかにする。同 時に、彼女たちの活動の中で、ソーシャル・キャピタル (以下、SC)が地域の開発にど のような影響を与えているかについても検証したい。

第1節 女性グループによるマイクロファイナンスの活動の調査方法

女性グループによるマイクロファイナンスの活動が、グループ内の協調・協働活動 を通して、「ジェンダーと開発」におけるエンパワーメントにつながっているのかどう か、ソーシャル・キャピタルとのシナジー(協働、相乗)効果との関連性を検証する ため、聞き取り調査を実施した。調査対象者・地域・期間、調査方法、調査内容を以 下に示す。

1.調査対象者、調査地域の選定と調査期間

調査対象者は、ダリット女性を中心とした女性グループ(マヒラサムハ)のリーダ ーならびにそのメンバーである。

調査地域の選定については、ネパール政府の経済開発区分に従い、行った。政府は、

地域開発を進めるため、また、国内の東西間、南北間の経済格差を是正する目的で国 土を極西部、中西部、西部、中央部、東部の 5 つの経済開発区に区分している(井上 1986:76-79)。本調査は、この区分に従い開発が遅れているといわれている西部方面か ら東部方面に至る以下の 14 の郡のなかの 24 の地域を選定して調査を実施した:

A.極西部開発区:カイラリ郡(Kailali)、ドティ郡(Doti)、B.中西部開発区:バル ディア郡(Bardiya)、バケ郡(Banke)、ジュムラ郡(Jumla)、 C.西部開発区: ルパ ンデヒ郡(Rupandehi)、ナワルパラシ郡(Nawalparasi)、カスキ郡(Kaski)、 D.中 央部開発区:ダヌーシャ郡 (Dhanusha)、マクワンプール郡(Makwanpur)、ラリトプー ル郡(Lalitopur)、E.東部開発区:モラン郡(Morang)、ジャパ郡(Jhapa)、イラム 郡(Ilam)。図 2 はネパールの 5 つの経済開発区の地図上の区分と調査地の場所を示す。

調査期間は、2009 年~2013 年であり、表 22 はそれぞれの調査地での調査期間を示 している。

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①②カイラリ郡、 ③ドティ郡、 ④⑤バルディア郡、 ⑥⑦⑧バケ郡、

⑨⑩⑪ジュムラ郡、 ⑫⑬ルパンデヒ郡、 ⑭⑮ナワルパラシ郡、 ⑯カスキ郡

⑰⑱ダヌーシャ郡、 ⑲マクワンプール郡、 ⑳ 21ラリトプール郡、

22モラン郡、 23ジャパ郡、 24イラム郡

図 2 ネパールの経済開発区とマイクロファイナンスの活動調査地 (筆者作成)

2.聞き取り調査の方法

調査方法は、女性グループのリーダーやメンバーに集合してもらい、地域の生活状 態、MF 活動を中心として聞き取り調査を行った。調査対象の女性たちは、自分の名前 を書くのが精一杯という人が多かったため、質問紙による調査票調査は実施しなかっ た。

調査を行った女性グループメンバーの大部分は、表 23 に示すいずれかの NGO、 ある いは財団法人に属し、サポートを受けていた。現地での調査は、これらのサポート団 体から、調査の日時、場所の設定 や、女性グループのメンバー召集、調査時における 現地語の通訳などの協力を得て実施された。ネパールは多民族・多言語文化社会であ るため、聞き取り調査現場では、日本語⇔ネパール語⇔現地語による二段階方式の通 訳が必須となった。また、話し手の表情、口調、動作などノンバーバルなコミュニケ ーションも状況を把握する上で大きな情報源となった。

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表22 ネパールのマイクロファイナンスの活動調査地と調査期間

開発区 立地条件 郡 市町村 調査期間 極西部開発区 平野地帯

平野地帯

カイラリ 〃

1. フルバリ 2009/3/24 -25 2. マラケティ 2009/3/24 -25 丘陵地帯 ドティ 3. バンレク 2009/3/26 -28 中西部開発区 平野地帯

平野地帯

バルディア 〃

4. ハッティサール 2009/4/14 -15 5. ベタハニ 2009/4/14 -15 平野地帯

平野地帯 平野地帯

バケ 〃 〃

6. ネパールガンジ(N.G) 2009/4/16 -19 7. N.G イスラム地区 2009/4/16 -19 8. ジュルガンバリア 2009/4/16 -19 山岳地帯

山岳地帯 山岳地帯

ジュムラ 〃 〃

9. チャンダンナス 2009/4/10 -13

10. タリウム 2009/4/10 -13

11. ララビレッジ 2009/4/10 -13

西部開発区 平野地帯 平野地帯

ルパンデヒ 〃

12. カマハリヤ 2009/6/6 -8

13. ブトワール 2009/6/6 -8

平野地帯 平野地帯

ナワルパラシ 〃

14. アギウリ-4コキトンビ 2009/5/6 -8

15. アギウリ-5 バックル 2009/5/6 -8 丘陵地帯

丘陵地帯

カスキ 〃

16. バトレチョール 2009/3/3 -6

2009/7/15 -17 中央部開発区 平野地帯

平野地帯

ダヌーシャ 〃

17. ジャナクプール 2009/6/9 -11

18. ベンガシバプール 2009/6/9 -11

丘陵地帯 マクワンプール 19. ファケル 2009/3/10 -12 丘陵地帯 ラリトプール 20. ダパケル 2013/12/29 丘陵地帯 〃 21. ルブ - ジャミルコット 2009/3/13 東部開発区 平野地帯 モラン 22. ビラトナガル ボウダハ 2010/12/24

平野地帯 ジャパ 23. ダマク ゴラタール 2010/12/25

丘陵地帯 イラム 24. イラム バルボテ 2010/12/26

(筆者作成)

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表 23 サポート NGO 等団体

FEDO:Feminist Dalit Organization D N F :Dalit NGO Federation DWO:Dalit Welfare Organization SAFE :Social Awareness for Education

NTNC:National Trust for Nature Conservation CARE:CARE International in Nepal

PLAN:Plan International

DALMAK:Dalit Adhikar ka Lagi Mahila Abhiyan Kendra NCDC:Namsaling Community Development Centre

SB:Shungabha Bikash

(筆者作成)

3.調査内容

主に以下のような調査項目について聞き取り調査を行った。

①女性グループと MF:グループ人数、結成年数、MF の集金額/月、返済利子

②職業、労働について:夫婦の仕事、労働時間

③教育について:メンバー本人・子どもの教育、識字

④健康、保健衛生について:トイレの有無、生理・妊娠、病気

⑤差別、暴力について:カースト制の階級、女性差別、暴力

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第2節 極西部開発区における女性グループの活動と生活

ネパールの 最も西の端に位置する極西部開発区のカイラリ郡 (Kailali)とドティ郡 (Doti)の女性グループによるマイクロファイナンスの活動について、地域の特色、意 識や慣習、NGO との関わりを報告する。この地区は、バディカースト(売春カースト)

が多い地域である。バディコミュニティの調査結果は、第 4 章で詳細に述べる。

1.カイラリ郡(Kailali)の調査

写真 1 ダンガディのリクシャー(自転車式の人力車)

カイラリ郡1)の女性グループによる MF 活動の調査を始める事前調査として、NGO FEDO

(Feminist Dalit Organization:フェミニスト・ダリット協会)のスタッフから、郡 開発委員会(DDC: District Development Committee、郡における開発プログラム策定・

実 施 、 モ ニ タ リ ン グ 等 を 行 う 地 方 行 政 機 関 ) や 村 落 開 発 委 員 会 ( VDC : Village Development Committee、村レベルの開発プログラム策定・実施を担う地方行政機関)

のロビー活動、権利の主張について話を伺った。

NGO FEDO が最も力を入れていることは、これまで教育を受けられず、小さい時から 差別体験(水場を使えない、寺院に入れない等)を強いられてきたダリット 2)やノン ダリットに対する啓発活動である。活動の甲斐あって今日では、上位カーストのバフ ン(僧侶)やチェトリ(軍人)がダリットと外で共に食事をしたり、チャパサル(茶屋) で一緒にお茶を飲んだりするようになり、意識の上で少しずつ変化し、考え方を変え るきっかけにつながってきているという。カイラリ郡 の中心地であるダンガディの町 では、政府主催でろうそく作りのトレーニングが行われている。写真 1 は、タライ地域

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(ネパール南部に広がる平原地帯一帯)で交通手段としてよく用いられているリクシャ ー(写真手前)である。

カイラリ郡では、フルバリ(Phulbari)、マラケティ(Malakheti)、ムラ(Mudha)

の 3 地区で、聞き取り調査を行った。バディコミュニティのマラケティ、ムラは、第 4 章の図 3、表 25 に示した。

(1)フルバリ(Phulbari)地区の事例

フルバリのディポバザール(Dipobajar、Dipobazaar) で、女性グループ(マヒラサ ムハ)のメンバーから聞き取り調査を行った(写真 2)。

写真 2 フルバリの女性グループ 写真 3 家の建築用木材の切断

1つの村落委員開発委員会(VDC)に 9 つの区があり、フルバリの 4 区と 6 区では MF のための女性グループが各 25 人ずつで、それぞれが 1 グループを結成している。

グループメンバーからの集金額は、最初は1ヵ月、10Rs(1 Rs はおよそ 1.23 円、2009 年の調査当時)からスタートし、現在は 25Rs となり、1年半経過して貯蓄額が 8,900 Rs になったという。ミーティングの遅刻者からは 5Rs を罰金として徴収している。グル ープ資金から借り入れることができる金額は、625Rs が限度で、借りた金銭の使途は、

主として子どもの教育費(子どもの数は、各家 1~6 人で、4、5 人が最も多い)、病気 の時の薬代、夫の出稼ぎのための支度金等である。所得向上のための家畜の飼育や野 菜栽培はあまりしていないという。

返済利子は 2%で、バフン、チェトリから借りた場合の利子 4%の半分である。返 済は、夫 (ダリットの夫は、インドへ出稼ぎに行っている割合が多い) からの仕送り 金を充てるものが多い。集金の 3 ヵ月滞納や返済の 3 ヵ月遅延は認められている。こ れまでにそれ以上遅れた人はいない。5 年間続けると、政府に協同組合として登録でき、

メンバーが政府から会計トレーニングの研修を受けることができる。

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女性グループに入った利点として、ミーティングに参加して女性の権利を学び、人 前で話せるようになったこと、貯蓄という習慣が身につくようになったこと、識字教 室で名前を書けるようになったことなどを挙げている。

カミ(鉄鍛冶)やサルキ(皮なめし工)、ダマイ(縫製)のダリットは、それぞれのカ ーストの職業の伝承者がそれぞれ 5 人、1人、1人と非常に少なくなってきていると いう。写真 3 は家の建築用の木材を切断している様子を示している。女性の労働時間 は、1 日 12~14 時間である。

NGO の FEDO は女性グループに対して資金提供をしていないが、啓発活動を推進して いる。この地区の差別問題として、高位カーストのバフンやチェトリが、ダリットの 触れたものを食べないことや、異カースト間の結婚をタブー視していることなどが挙 げられる。FEDO は「カーストは人間が作ったもので,神が作ったものではない。人間 が無くすべき」と説き、バフン、チェトリに差別しないよう直接話をし、政府にラリ ー(抗議)もしている。また、出版物に記事を掲載したり、法整備(差別した場合の罰 金制)等をしたりして啓発活動を推進している。

この界隈にはタルー3)(Tharu:タライ平原の原住民、この辺りではチョーダリと呼 ばれている)も住んでいるが、女性グループの結成はない。男女の問題としては、夫 が飲酒時に妻を殴ったり、出稼ぎ後に他の女性と失踪したりすることが頻繁に起きて いる。

(2)マラケティ(Malakheti)地区の事例

マラケティのバディ(Badi、もとは楽師、その後売春を職業とするようになったカ ースト)のコミュニティで、女性グループ(マヒラサムハ)のメンバーから聞き取り調 査を行った。

写真 4 マラケティのバディコミュニティ 写真 5 お米を入れてもらう

皿を見せる女性