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   第7章でベクトルを学んだが,そこでのベクトルは動き回るものではなく,静的なものが多かった.こ こでは時間的に変化するベクトルや,ベクトルの微分や積分について考える. 

  例えば,位置や速度,電場,磁場は時間的に変化するので,その時間変化はベクトルの時間微分で表され る.位置や速度の時間変化は力学に,電場,磁場の時間変化は電磁気学によく出てくる. 

  

1 3.1. 1. 位置,速度ベクトルの時間微分 

  最初,r1 の位置にあった物体が有限の時間幅Δt 時間内に,速度V でr2 の位置に移動する場合,その変 位は 

! r = r

2

" r

1

= Vdt

 

であるから,速度は位置ベクトルの時間変化で与えられる. 

V = ! r

dt

   

V = dr

dt

  (極限) 

と書く.このように無限小解析法の考え方の方が物理を理解する には合っている. 

  一方,最初V1 の速度にあった物体が有限の時間幅 Δt 時間内 に,V2 の速度に変化する場合,その速度変化は 

 

!V = V

2

" V

1

= # dt

 

 

であるから,加速度は速度ベクトルの時間変化で与えられる. 

! = "V

dt

 

 

! = dV

dt

  (極限) 

 

  これらのベクトルの時間微分に関して,次のような関係式が成 り立つ. 

d ( r

1

+ r

2

)

dt = dr

1

dt + dr

2

dt

 

d ( r

1

ir

2

)

dt = r

1

i dr

2

dt + dr

1

dt i r

2, 

d ( r

1

! r

2

)

dt = r

1

! dr

2

dt + dr

1

dt ! r

2 

半径

r

が一定の場合は円運動になるので, 

 

d ( ) r i r

dt = 2r i dr

dt = 2r i V = 0

          (13− 1) 

が成り立つ.即ち円運動の場合,位置ベクト ル r と速度ベクトル V の方向は直角になることがわかる. 

 また,円運動の場合.速度

V

も一定になるので, 

 

d ( V i V )

dt = 2V i dV

dt = 2V i ! = 0

          (13− 2) 

が成り立つ.即ち円運動の場合

V i ! = 0

となるので,速度ベクトルと加速度ベクトルの方向は直角に

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!

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        図13− 2

! ! = "#$

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        図13− 1

物理工科のための数学入門          御手洗  修

なることがわかる.これらが円運動の特徴である. 

     

1 3.1. 2. 回転座標上での運動方程式 

    地球などの回転する物体上での運動はベクトルの時間微分のよい例である.宇宙のある一点から地球を 眺めているとしよう.その座標を絶対 座標と呼ぶ(静 止座 標とも呼ばれる)ことにすれば,地球上の座標は 回転座標と呼ばれる.地球上の物体の運動を調べるには,位置ベクトルと速度ベクトルの時間微分から回転 座標上での運動方程式を導かなければいけない.

    まず物体の速度について考えよう.絶対座標系から眺める移動している位置ベクトルrの dt 時間の変 化drは,回転座標上での位置ベクトルの変化

d

*

r

に 回転座標系の回転速度

( ! " r ) dt

を足したものになる.  

       

dr = d

*

r + ( ! " r ) dt

(13− 3) 

これを dt 時間で割ると,絶対座標上での速度ベクトルd r/d t は       

dr

dt = d

*

r

dt + ! " r

(13− 4)

となる. 即ち,(X-Y)座標は円周方向に回転しているので,その回転速度は

! " r

で,回転座標上での物

体の速度をV (= d*r/dt) とすると絶対座標系での物体の速度は,その合成で  

V = V

*

+ ! " r

(13− 5) 

  となる. 

  (13− 4)式はまた次のように()に関する演算式と見なすことができる.ただし()は絶対座標系にお ける値である.第1項は回転座標上での値,第2項は座標回転による値になっている.

d ( )

dt = d

*

( )

dt + ! " ( )

(13− 6) 

!

!

"

#

$

!dt

%

!

"!

"#!

! " r

            図13− 3 

 

    加速度については速度よりも考えにくいが,絶対座標系における速度 V を(13− 6)式に適用すると,

加速度は 

dV dt = d

*

V

dt + ! " V

(13− 7)

となり,すっきりする.即ち回転座標系上での加速度

d

*

V / dt

と回転により生じる加速度

! " V

の和にな

る.

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!

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"

#

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!dt

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!

"# "$#

#

! " V

   図13− 4 

ここで絶対座標系での物体の速度V を代入すると,

dV dt = d

*

dt ( V

*

+ ! " r ) + ! " ( V

*

+ ! " r ) = d

*

dt V

*

+ ! " d dt

*

r + ! " V

*

+ ! " ! " ( r )

= d

*

V

*

dt + 2! " V

*

+ ! " ! " ( r )

地球上の物体の加速度は結局,

d

*

V

*

dt = dV

dt ! 2" # V

*

! " # " # ( r )

(13− 8)

とおいて得られる回転座標上での運動方程式を解かなければいけない.従って,地球(回転座標系)上の物 体の運動方程式は 

m d

*2

r

dt

2

= F + 2mV

*

! " # m" ! " ! ( r )

(13− 9) 

となるので,図13− 5 に示すように,回転座標系の上では,第 2 項目のコリオリ力が

V

*

! "

の方向にか

かり.第 3 項目の遠心力

! " ! " ( r )

が外側向きにかかることになる.このように回転座標系の上で物体の 運動を考える場合には,見かけのコリオリの力と,遠心力がさらに物体に働いていると考えると,絶対座標 系での運動と同じ様に扱うことができる.ちなみに北半球では,物体が南から北に動く場合は東側向きに,

北から南に動く場合は西側向きに,東に動く場合は南の方向に,西側に動く場合は北側方向にコリオリ力が かかる.これはフーコーの振り子によって確認できる. 

!

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"

#

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!" # " # ( ) r

"#

V

*

# "

"

  図13− 5 

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