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プレーナ導波路型第二高調波発生素子の高出力化

3.1 はじめに

第 2 章では、PPMgLNをコアにしたチャンネル導波路型SHG素子を作製し、

第二高調波出力 360 mWを得たことを述べた。しかし、導波路側面の凹凸による大き な導波路損失や、光吸収による温度分布の発生などが課題になった。本章は、この課 題を解決するために取り組んだプレーナ導波路型SHG素子の高出力化研究につい て述べる。

導波路損失の原因である凹凸構造は、PPMgLNのエッチング速度が+Z面と

-Z面で異なるため、結晶基板の薄膜化や導波路作製の際のエッチングで形成される。

エッチングは結晶基板の薄膜化に必要なため、±Z面が導波路表面に出ない構造を検 討した。YカットPPMgLNをコアにしたプレーナ導波路であれば、±Z面は導波 路として使用しない場所になるので、この導波路損失を解決できる可能性がある。プ レーナ導波路は、(1)基本波の光密度を維持しながらパワースケーリング(光ビーム 面積拡大)して第二高調波発生の高出力化ができ、(2)導波路面をヒートシンクに向 けて接着することで光吸収による発熱を小さな熱抵抗で放熱できる利点がある。しか し、プレーナ導波路型SHG素子の研究例を調べると、第二高調波出力が高々数十ミ リワット程度しか得られていない[1−3]。例えば、Gawith らは厚さ 15 μmに研磨し たZカットの周期分極反転ニオブ酸リチウムのコアにタンタル酸リチウムのクラッ ドを光学溶着(Optical contact)したプレーナ導波路を報告している。ところが、

導波損失が 1.7~3.5 dBcm-1と大きく[3]、第 2 章のチャンネル導波路型SHG 素子の導波路損失 2.9 dBcm-1と同じ程度になっている。おそらく、光学溶着の 前処理で実施した表面活性化のためのエッチングで、±Z面に導波路損失の原因にな る微細な凹凸構造を作ってしまったものと推定される。

本章では、YカットPPMgLNをコアにしたプレーナ導波路型SHG素子の設計 と実験結果について述べる。

3.2 プレーナ導波路型第二高調波発生素子の設計 3.2.1 分極反転方法と材料選定

YカットPPMgLN基板に対する周期分極反転方法は、Sonoda らが開発したパル ス電界印加法を採用した[4-6]。この方法は、図 3.1 に示すとおり、オフカット角 5°

のYカットMgO:LiNbO基板の表面に櫛型電極と対向電極を作製し、両電極 間に高電圧パルスを印加することで周期分極反転を作製する。しかし、この方法では 櫛型電極の先端に電界が集中しやすく、周期分極反転領域の拡大は容易ではない。分 極反転領域を広げるため電圧印加条件の最適化を図った結果、z 方向の分極反転領域 の幅 Wを 150 μmに広げることができた。この周期分極反転層を利用したプレーナ 導波路型SHG素子の構造を図 3.2 に示す。プレーナ導波路に加工した分極反転領域 は平行四辺形状になるため、導波路のコア厚(t)3 μm、オフカット角(θ)5°の 場 合 、 導 波 路 の 厚 さ 方 向 に 全 て 分 極 反 転 し て い る 幅 ( 以 後 、 こ の 幅 を 有 効 幅

θ tan W t

Weff = − という)は 116 μmになる。

図 3.3 に示すとおり、プレーナ導波路に結合したガウスビームの基本波(実線)は

図 3.1 パルス電界印加法によるYカットMgO:LiNbOの分極反転

Fig. 3.1 Schematic diagram of domain-inverted area of Y-cut MgO:LiNbO3 with an off angle of 5°, connected to a comb electrode for electric-field poling.

図 3.3 導波路面内でのガウスビームの広がり:実線 基本波伝播(電界 e-1)、 破線 導波路の厚さ方向全体に分極反転している領域

Fig. 3.3 Gaussian-beam propagation of the fundamental wave in the horizontal plane of the planar waveguide. This propagation was depicted for a spot size of 44 µm positioned at the center of the 18-mm-long crystal. The rectangular part of the ferroelectric domain-inverted area (dashed lines) is also shown.

図 3.2 プレーナ導波路型SHG素子の構造:挿入図は導波路の拡大図

Fig. 3.2 Quasi-phase-matched SHG device with planar waveguide consisting of Y-cut MgO:LiNbO3 crystal core with a thickness (t) of 3 µm, length (L) of 7 mm or 18 mm, and SiO2 thin-film claddings on both sides; the ferroelectric domain-inverted area has a width (W) of 150 µm and off angle (θ ) of 5°.

屈折率導波構造のないxz面内では自由空間伝播をするため、SHG素子の長さLが 概ね 18 mm以下であれば有効幅(破線部)内を伝播させることができる。この導波 路の長さで高い波長変換効率を得るには、大きな非線形光学定数を持ち、光損傷(フ ォトリフラクティブ効果)耐性があり、非線形光吸収が小さいMgO:LiNbO が最適である [7−9]。なお、光導波路の厚さ方向(y軸)の一部しか分極反転してい ない領域に入射した基本波は、位相不整合になり波長変換には寄与しないが、屈折率 差はないので基本波の伝播には影響を与えない。

3.2.2 プレーナ導波路の設計

高い波長変換効率を得るため、プレーナ導波路はYカットPPMgLNのコアと、

その両面にSiOクラッドを蒸着した高比屈折率差導波路(xy面)を採用した。

基本波と第二高調波との重なり積分を大きくするためは、図 2.6 より、コア厚 tを 3 μm以上にする方が良い。例えば、コア厚を 3 μm、波長を 1064 nmとすると、

図 3.4 プレーナ導波路の基本横モードとガウスビームのモード不整合損失:

y 軸方向、コア厚(t) 3 μm

Fig. 3.4 Dependence of mode-mismatch loss on the size of the incident Gaussian beam.

The mode mismatch loss is calcurated between the incident Gaussian beam and the transverse electric guided mode for 3-µm-thick waveguide.

比屈折率差が 30%、正規化周波数 Vが 15.6 であり、高次モードの伝播を許容する導 波路になる。波長変換は(2.1)式に示す基本波と第二高調波の伝播定数に対する位 相整合条件を満足しなければならないので、基本波と第二高調波はともに基本横モー ドでなければならない。つまり、xy面内ではガウスビーム入射光と導波路の基本横 モード(TE0 次モード)をモード整合させ、かつ、xz面内ではガウスビーム入射 光をそのまま自由空間伝播させることが重要になる。

図 3.4 は、コア厚 3 μmのプレーナ導波路のTE0 次モードと、0 次のガウスビー ムとのモード整合損失を示すものである。図より、ガウスビームのスポット径を 1.2 μmにすれば僅か 1%のモード不整合損失で結合でき、プレーナ導波路の基本横 モードのみを励振することが可能になることが分かる。つまり、入射するガウスビー ムはスポット径 1.2×44 μm、アスペクト比(Aspect ratio)37 の扁平形状になる。

この扁平な入射ビームとプレーナ導波路との光学結合を容易にするため、導波路端面 は光軸と垂直にして 2.2.4 章に述べた二波長対応の反射防止膜を蒸着した。

プレーナ導波路型SHG素子内での波長変換は、図 3.3 に示すとおり、xz面内で ガウスビームが自由空間伝播しながら行われる。その波長変換効率は、波長変換効率 が高く基本波の減衰が大きい場合、次式で近似できる[10]。

(

η ω

)

η=tanh2 nP (3.1)

ここで、規格化変換効率ηnは、Boyd と Kleinman がバルク型SHG素子に対して導 いたガウスビームに対する波長変換の基本式を、プレーナ導波路用に変形して利用で きる[11−13]。なお、yz面内の重なり積分κyは 2.2.1 章の(2.3)式である。

(

α

) (

σ β κ µ

)

κ λ λ

ε

η π ω

ω ω

, , , 2 exp

8 23

2 2 2 0

2

g L N L

N N

d

c y

eff

n = − + (3.2)

但し、

( ) (

µ α

) (

σ β κ µ

)

ξ µ π κ β

σ, , , exp , , ,

2 3 2

F L

g = ∆ (3.3)

( )

H

(

s

)

ds

F = 2

+4 , , , 2 ,

,

, σ β κ ξ µ

µ π κ β

σ (3.4)

( ) ( ) ( )

( ) ( )

j ds

H

+ + ′ j

− ′

′ = ξ µ

µ

ξ τ

τ σ τ

κ µ π

κ β

σ 1

1 1

exp exp

2 , 1 ,

, (3.5)

ここで、1次オーダの周期分極反転構造の有効d定数 deff = 2d33/π、基本波のスポ ット径(電界 e-1の半径)ω0、基本波と第二高調波の波数をそれぞれkω、k2ω、位相不 整合量を∆k = k2ω− kω、導波路の等価屈折率をそれぞれ Nω、N2ω、損失係数をそれぞ れ αω、α2ω、その和と差をそれぞれα+ = αω+2α2ω、∆α = αω2ω/2、回折長b = kωω02、 収束係数ξ = L/b、収束位置z0、ウォークオフ角 ρ、B係数B = (ρ/2)(Lkω)0.5とする と、関数中のパラメータは以下のようになる。

b∆k

= 2

σ 1 (3.6)

ω ξ β = ρb = B

2 0 (3.7)

αb κ = ∆

2

1 (3.8)

L z0 1− 2

µ= (3.9)

周期分極反転による擬似位相整合ではウォークオフはないので、ρ = 0B = 0、 β = 0、また、バランス条件では2αω = α2ω、κ = 0、σは最適位相整合の経験式を用い て簡単化でき次式となる。

⎟⎟⎠

⎜⎜ ⎞

=

tan 2 2

1 1 ξ

σm ξ (3.10)

図 3.5 に、素子長(L) 7 mm、スポット径(ω0) 44 μm、ガウスビームの収 束位置を結晶中央(μ= 0)、導波路厚 tを 2、3、4 μmとし、 (3.1) 式より求めた 変換効率 ηを示す。図より、導波路を薄くするほど基本波の光密度が上がり、変換 効率が高くなることが分かる。この図 3.5 と 2.2.1 章の図 2.6 より、基本波入力を 5 W と仮定すると、コアの厚さは概ね 3 μmが最適であり、波長変換効率約 50%が期待 できる計算になる。

図 3.5 基本波入力対波長変換効率特性:

導波路厚(t) 点線 2 μm、実線 3 μm、破線 4 μm Fig. 3.5 Conversion efficiency as a function of fundamental-wave power, calculated via (3.1) for core thicknesses of 2 µm (dotted line), 3 µm (solid line), and 4 µm (dashed line).

3.3 プレーナ導波路型第二高調波発生素子の作製

3.3.1 素子構造

図 3.2 にプレーナ導波路型SHG素子の全体構造を、挿入図に詳細な導波路構造を 示す。周期分極反転層は、幅(W)150 μm、オフカット角(θ)5°、コア厚(t) 3 μmの平行四辺形状の断面であり、導波路の厚さ方向(y軸)に全て分極反転して いる有効幅は 116 μmである。図 3.3 より、スポット径 44 μmのビームウェストを 素子中央に配置した場合、波長 1064 nmの基本波のガウスビーム(実線、電界e-1) が有効幅(破線)内に素子長 18 mmまで収まるので、素子長(L)は 7 mmと 18 mmとした。

プレーナ導波路型SHG素子の周期分極反転は、図 3.1 に示すパルス電界印加法を 用い、YカットMgO:LiNbO基板の表面に櫛形電極と対向電極を設け、電圧

150 µm

6.6 µm

150 µm

6.6 µm

図 3.6 分極反転領域の写真: xz面、フッ酸と硝酸の混合液で選択性 エッチングを行い分極ドメインをはっきりさせて撮影した

Fig. 3.6 Photograph of domain-inverted area after performing slight etching to distinguish its boundaries.

ピーク-3 kV、幅 50 msの電圧パルスを 50 回ほど繰り返し印加する条件で作製し た。図 3.6 はその分極反転領域の写真である。図より、分極反転の周期は均一であり、

欠陥のない様子が分かる。その結晶基板を厚さ 3 μmまで薄くして、その上下面に SiOのクラッド層を真空蒸着して高比屈折率差のプレーナ導波路に加工した。そ の際、図 3.1 に示す櫛形電極の直下のダメージ層を、開発の初期には若干の散乱損失 が発生する程度と考えて薄く除去していた。これは-Z方向に伸びる分極反転領域の 左右の壁が僅かに先細りとなるためで、なるべく幅広い分極反転領域を利用する狙い であった。現在では、このダメージ層で光吸収が発生することが分かったので、光吸 収がなくなる深さ以上に研磨して完全に除去している。この薄いプレーナ導波路は機 械的強度を保つため厚さ 1 mmのニオブ酸リチウム基板に接着固定し、プレーナ導波 路の両面を垂直に光学研磨した後、第 2.2.4 章で述べた反射防止膜(図 2.16(b)参 照)を蒸着している。そして、放熱性を向上させるため、長さ 7 mmのSHG素子は 長さ 7 mmの珪素基板に、長さ 18 mmのSHG素子は長さ 17 mmの銅板に導波路 面で接着固定した。

3.3.2 周期分極反転の格子間隔

緑色の第二高調波を発生させるには、室温における位相整合波長を 1064 nmにす る必要がある。位相整合波長は分極反転の格子間隔で調整できるので、パルス電界印 加法における櫛形電極の間隔をパラメータにして分極反転を繰り返した。図 3.7 は、

導波路厚 tを 2 μmと 3 μmとし、それぞれ櫛型電極のピッチ間隔をパラメータと して 25℃の位相整合波長を示したものである。導波路厚 2 μmと 3 μmの実験値は、

設計値 (破線と実線)と一致せず、それぞれ導波路厚を 2.2 μm(一点鎖線)、

3.3 μm(点線)とした場合の計算値に合致した。なお、5 mol%の酸化マグネシウ ムを添加したニオブ酸リチウムの異常光屈折率 nの常光屈折率 noの分散特性(セ ルマイヤー方程式)は次式を利用した[14]。MgO:LiNbOなどの非線形光学

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