第3章 プラン生成システム
本章では、木造軸組構法住宅設計プロセスの空間配置段階における設計自動化支援シス テムである「住宅プラン生成システム」を構築する。システム構築後に、試行を行い、生 成された住宅プランについて考察することによりシステムの特徴を明らかにすると共に利 用法を提案する。最後に、システム構築過程にて得られた空間構成に関する知見を提示する。
3.1 住宅プラン生成システム
3.1.1 生物と住宅プランの類似
生物と住宅プランには、二つの類似がある。ひとつは、図 3-1 に示す生物の身体構成と 住宅プランの空間接続である。生物は、細胞分裂を繰り返し、分化、分裂制限、死滅など 細胞を制御することにより、身体を構成し(形態形成)、生物の身体は、頭-胸-足などの 身体構成要素の接続関係をグラフで表現することができる。同様に、住宅プランも、設計 作業において、必要な空間が作成、接続され、完成されたものは、玄関-廊下-居間など 空間の関係をグラフで表現することができる。もうひとつは、図 3-2 と図 3-3 に示す生物 の環境適応と住宅プランの条件適応である。生物は、成長を調整することにより周辺環境 に適応する。更に、世代交代による淘汰を繰り返し進化することにより、周辺環境に適応 する。同様に、住宅プランは、設計条件を満足し、住宅を取り巻く環境に適応する必要が あり、設計作業において、繰り返し修正、改良されることにより、設計条件に適合する。
3.1.2 システム構築と検証の方法
本研究における住宅プラン生成システムは、図 3-4 に示す様に、生物の形態形成システ ムと環境適応システムを模倣した空間形成システムと条件適応システムを組み合わせた遺 伝的アルゴリズムにより、住宅プランを生成するシステムとする。
住宅の空間形成システムは、図 3-5 に示す様に、セルの配列変化(分裂)、周辺認知機能、
条件判定機能により拡張したセルオートマトン、空間接続とセル分裂パターンを情報化し
廊下
物入1
居間・食堂 台所 玄関 洗面・
脱衣室 浴室
便所
物入2
生物 住宅プラン
空間接続
玄関 廊下
居間 台所
便所
身体構成
洗面・脱衣室
浴室 物入1 物入2
頭 胸 腹
足 足 目 足 触角 触角
羽
目
足 足 羽 足
頭 胸
腹 足 足 足
目 触角 触角
羽 目
足 足 足 羽
depth1
depth2
depth3
depth1 depth2 depth3 depth4
図 3-1 生物の身体構成と住宅プランの空間構成
第3章 プラン生成システム た遺伝子を用いる遺伝的アルゴリズムにより、生物の形態形成システムを模倣する。
住宅の条件適応システムは、図 3-6 に示す様に、前述の空間形成システムと世代交代に よる淘汰、適応(進化)から構成され、1世代の環境適応システムは、空間形成システム により、世代交代による生物の環境適応システムは、遺伝的アルゴリズムにより模倣する。
本研究における住宅プラン生成システムの構築は、一般的な設計条件を与えることによ り、それらの条件に最も適合する住宅プランを生成するシステムとすることを目標とする。
生物 住宅プラン
環境による制約→環境適応 条件による制約→条件適応
住宅
建築可能空間
住宅プランは建築可能空間に収まる 空間に制約がない場合
葉は全方向に自由に 成長する
空間に制約がある場合 葉は制約された空間内 で成長する
1世代内の環境適応 1世代内の条件適応
生物 住宅プラン
環境による制約→環境適応 条件による制約→条件適応
生物は世代交代により環境に適応する 住宅プランは変更を繰り返すことにより条件に適応する
世代交代による環境適応 世代交代による条件適応 図 3-2 生物の身体構成と住宅プランの空間構成
図 3-3 生物の身体構成と住宅プランの空間構成
遺伝子型
解釈機構
=空間形成システム
セルの配列変化(分裂)、周辺認 知機能、条件判定機能により拡張 したセルオートマトンにより構成
環境 表現型
遺伝子操作機構
デコード 評価 遺伝的アルゴリズム=条件適応システム
解釈機構に空間形成システムを使用する遺伝的アルゴリズムにより構成
図 3-4 住宅プラン生成モデル
図 3-5 生物の形態形成システムと住宅の空間形成システムの対応関係
生物の環境適応システム 1世代
適応
(環境に合わせた成長)
世代交代 自然淘汰 適応(進化)
住宅の条件適応システム
空間形成システム
遺伝的アルゴリズム 評価
遺伝子操作 図 3-6 生物の環境適応システムと住宅の環境適応システムの対応関係
動作検証は、構築したシステムにおいて、いくつかの異なる設計条件の住宅プランを生成 する試行を行い、結果を考察することにより行う。
なお、システムは、汎用コンピュータを用いて作成する。OS は、Microsoft WindowsXP、
プログラムは、Microsoft VisualBacic.Net2003、出力は、テキストファイル形式で行い、
住宅プランの描画を含むデータシートは、Microsoft Excel2003 を利用する。
3.1.3 住宅の空間接続のグラフ表現
本研究の住宅プラン生成システムの対象とする住宅は、戸建て住宅と集合住宅の1住戸 とする。住宅は、生活行為に対応した空間と移動のための空間により構成される。これら の空間は、環境、機能、動線、ゾーニングなどの条件により接続され、規模は、人体寸法、
生活行為などにより決定される。また、住宅全体の規模は、敷地やコストによる制約のため、
ある程度の規模に収まる。空間規模を含めた住宅の空間接続は、敷地に接する道路からア プローチを経て、玄関を基点として各空間を接続した図 3-7 に示すグラフとして表現する ことができる。
3.1.4 住宅プランのモデル化
日本では、在来軸組構法木造住宅が普及しているため、住宅設計は、1辺の長さが3尺
(910mm)程度の正方形平面の単位空間モデュールを基本としたグリッドプランニングで行 われることが多い。本研究では、図 3-8 に示す様に、単位空間モデュールをセルオートマ トンのセルに置き換え、単位空間モデュール(セル)の集合を空間(室)、空間の集合を住 宅(住宅プラン)とし、住宅設計を単位空間モデュール(セル)の積み上げ行為と考える。
また、本研究では、設計初期段階において、間取り図を住宅の3次元空間を2次元平面で 表現するものとして、建物規模、機能的な空間配置と空間演出を同時に検討し、建物ボリュー
生物の形態形成システム 基幹システム
細胞分裂 遺伝子 補助システム
遺伝子調整 遺伝子調整タンパク質 転写調整因子 他
住宅の空間形成システム セルオートマトン
セルの配列変化(分裂)
周辺認知機能 条件判定機能 遺伝的アルゴリズム
遺伝子 空間接続情報 分裂パターン情報
第3章 プラン生成システム
玄関(2.5)
廊下1 (3.3)
居間・食堂
(17.4) 台所
(9.1) 便所1
(1.7)
洗面・脱衣室 (3.3)
浴室 (3.3) アプローチ
(?)
1階平面図
和室 (9.9)
階段
(3.3) 廊下2
(6.6)
押入
(1.7) 床の間
(1.7)
洋室2 (11.6) 洋室1
(13.2) 洋室3
(9.9) 物入 (1.1) 押入
床の間 和室
居間・食堂 廊下1 台所 便所1
階段 洗面・
脱衣室 浴室
玄関
CL1 (3.9)
CL2 (1.1)
CL3 (1.7)
CL4 (1.1) 便所2
(1.7)
バルコニー1 (2.5)
バルコニー2 (2.5) 階段
便所 2
廊下2
洋室3
洋室2 洋室1
CL1
CL2 CL4
物入
CL3
バルコニー1 バルコニー2
2階平面図
凡例:空間を表す矩形内における括弧内の数字は面積(㎡)
LV LV WC BR BR LV LV WC ET ET BR BR LV LV CR CR CR SR2 LD LD LD LD KT KT SR1 LD LD LD LD KT KT SR1 LD LD LD LD KT KT LD LD LD LD KT KT LD LD LD LD
LD LD LD LD LD LD LD LD LD LD LD LD
3尺(910㎜)程度
3尺(910㎜)程度
単位空間 モデュール
( ) セル
単位空間モデュール セル
[例:居間食堂( )の 空間単位モデュール]
空間 = 室
[例:居間食堂( )]
住宅 = 住宅プラン LD
LD
AP
LD 図 3-7 住宅の空間接続
図 3-8 住宅プランのモデル化
ム、外観デザインを決定する計画・設計上重要なものと考え、設計初期段階に作成される 簡単な間取り図である敷地内の空間配置(室配置)を求めることを目標とし、これを住宅 プランと呼ぶこととする。
3.1.5 設計条件と設定
本研究では、設計条件を以下に示す項目とした。
①建築可能空間 (形状、規模、方位、アプローチ)
②空間接続(室面積、室形状、室接続、室隣接)
③室の外部開口部が面する方位(開口方位)
住宅設計の設計条件は、必ず実現しなければならない基本的な制約条件とプロジェクト 毎に指定される制約条件があると考えられる。「住宅は建築可能空間内に収まる」など必ず 実現させなければならない基本的な制約条件を「暗黙的制約条件」、それ以外のプロジェク ト毎に指定される居間の外部開口部を南側にするなどの条件を「明示的制約条件」とする。
しかし、住宅は建築可能空間内に入るという暗黙条件を満たしても、更に施主から建築可
能空間内の住宅の配置位置を指定されるなど、個々の設計条件は、図 3-9 に示す様に、暗 黙的制約条件と明示的制約条件の間に位置すると考えられる。
本研究における住宅プラン生成システムは、図 3-9 に示す様に、条件適応システムの評 価を容易にするため、暗黙的制約条件寄りと考えられる制約条件を空間形成システムに組 み込むことにより、評価段階にて、出来る限り暗黙的制約条件寄りの制約条件の評価を不 要とする方針とした。設計条件の詳細と各種設定を以下に示す。
3.1.5.1 建築可能空間
建築可能空間に関する条件と設定を図 3-10 に示す。建築可能空間に関する条件は、「住 宅は建築可能空間内に収まる」であり、暗黙的制約条件である。敷地、法令、周辺環境な どにより、建築可能空間が指定される。次に建築可能空間の設定を示す。①建築可能空間 は、敷地の建築可能な範囲を正方形の空間モデュールで分割する。②空間モデュール寸法は、
単位空間モデュール(セル)と同寸法とする。③座標は、第1象限内とし、多層の住宅プ ランの場合、層間に階高分の差がある層を設定する。図 3-11 の例では、2層の建築可能空 間を 0 層(1 階)、1 層(2 階)と設定している。④空間モデュールに番号(空間モデュール
敷地の設定法
①敷地は正方形の敷 地モデュールで分割す る。
②敷地モデュール寸法 は単位空間モジュール
(セル)と同寸法とする。
③座標は、第1象限と する。
④敷地モデュールは、
部屋セルが配置される ので、敷地境界線内に 設定する。
⑤敷地モデュールに番 号 を 付 け る 。 ( 敷 地 モ デュールNo.)
⑥ 接 道 す る 敷 地 モ デュールを設定する。
暗黙的制約条件
明示的制約条件
■建築可能空間
■アプローチ
■室接続
■空間接続 室種類 室属性 室規模 室形状 室隣接
■外部開口方位
0, 4, 0, 0 0, 5, 0, 0 0, 2, 1, 0 0, 3, 1, 0 0, 4, 1, 0 0, 5, 1, 0 0, 6, 1, 0 0, 1, 3, 0 0, 2, 3, 0 0, 4, 6, 0 0, 5, 6, 0 0, 6, 6, 0 0, 1, 7, 1 0, 2, 7, 1 0, 3, 7, 1 0, 4, 7, 1 0, 5, 7, 1 0, 6, 7, 1 41 42 43 44 45 46
35 36 37 38 39 40 28 29 30 31 32 33 34 21 22 23 24 25 26 27 13 14 15 16 17 18 19
7 8 9 10 11 12 2 3 4 5 6 20
0 1 道路
N
接道敷地モデュール
建築可能空間コード
層 X座標 Y座標
属性
注記
属性 0:一般敷地モジュール 1:接道敷地モジュール
一般敷地モデュール 隣地境界線
道路境界線
X Y
0 1 2 3 4 5 6 7 0
1 2 3 4 5 6 7
1.建築可能空間
「住宅プランは建築可能空間に収まる」
⇒空間モジュール[空間形成システム]
図 3-10 設計可能空間1
図 3-9 設計条件と空間形成・条件適応システムの関係 暗黙的制約条件
明示的制約条件
・住宅プランは建築可能空間に収まる
・住宅出入口から敷地外に出られる
・接続指定された空間を行き来できる
指定された方位に開口部を有する
分裂判定
評価
■建築可能空間
■アプローチ
■室接続
■空間接続 室種類 室属性 室規模 室形状 室隣接
■外部開口方位
空間形成システム
条件適応システム 空間接続