第 6 章 Kaluza-Klein ブラックホールの蒸発過程 62
6.4 ブラックストリングの蒸発
a= 2のとき
φ=−λ 2r
ds2 =−(1−Ce−λr)dt2+ (1−Ce−λr)−1dr2+dy2
(6.3.19)
a= 0のとき
e−2φ=λr ds2 =−ln
µ r rH
¶ dt2+
µ ln
µ r rH
¶¶−1
dr2+dy2 (6.3.20) a= 2のときの解は、CGHSモデルを伸ばした解である。この解は、[43, 44, 45, 46]などで 調べられており、コンパクト化のスケールに依らず安定であることが知られている。また、
[46]では代数的なアプローチでエントロピーが計算されており、2.3節のhorizon constraint の方法と関連している。このように、このブラックストリング解の熱力学的性質を調べるこ とは興味深いが、不安定にはならないため、今の目的であるブラックストリングの蒸発を調 べるためには良いモデルとは言えない。
一方、a= 0のときの解は、我々が発見した新しい解である。a= 0のときは、式(6.3.16) を見るとn = 3に対応していることが分かる。このときは、式(6.3.16)ではλ = 0となっ ている。それにも係わらず、λを有限として求められたのが式(6.3.20)である。この解は、
かなり特殊であるが、高次元のブラックストリング同様ホライズンの半径がコンパクト化の スケールより小さい場合不安定である。よって、このブラックストリングは蒸発過程を調べ るための良いモデルである。このブラックストリングの蒸発過程は付録Dで詳しく調べて いる。
と書けることを使った。高次元ブラックストリングの蒸発過程が2次元重力で記述できるこ とが分かる。物質場もradionを考慮しつつ1次元落とすと、
Sm= Z
d2xp
−g(2)e−2φ−χ[−1
2(∇f)2] (6.4.4)
となる。作用にかかるはずのLは、fに吸収させた。Hawking輻射を考えるので、この物質 場は量子的に扱いたい。このeective actionをとりあえず形式的に、
W[g(2), φ, χ]≡ −iln µZ
Df eiSm[g(2),φ,χ,f]
¶
(6.4.5) と書いておくことにする。ここから、次元を表す添え字(2)は省略する。運動方程式は、gab の変分より、
M3Le−2φ−χ[2∇a∇bφ+∇a∇bχ−2(2−a)∇aφ∇bφ− ∇aχ∇bχ +gab{−2∇2φ− ∇2χ+ (4−a)(∇φ)2+ 2∇φ· ∇χ+ (∇χ)2−1
2U(φ)}] = 1
2Tab, (6.4.6) φの変分より、
−2M3Le−2φ−χ[R+ 2a∇2φ+ 2∇2χ−2a(∇φ)2
−2a∇φ· ∇χ−2(∇χ)2+ (a−1)U(φ)] =−X, (6.4.7) χの変分より、
−M3Le−2φ−χ[R+ 4∇2φ−2(4−a)(∇φ)2+U(φ)] =−Y (6.4.8) が得られる。ここで、
Tab ≡ −2
√−g δW δgab X≡ 1
√−g δW
δφ Y ≡ 1
√−g δW
δχ
(6.4.9)
と定義した。式(6.4.6)のトレースより、
−2∇2φ− ∇2χ+ 4(∇φ)2+ 4∇φ· ∇χ+ (∇χ)2−U(φ) = 1
2M3Le2φ+χTaa (6.4.10) が得られる。さらに、式(6.4.7)と式(6.4.8)からRを消去すると、
−2(2−a)∇2φ+ 2∇2χ+ 4(2−a)(∇φ)2−2a∇φ· ∇χ−2(∇χ)2−(2−a)U(φ)
= 1
2M3Le2φ+χ(X−2Y) (6.4.11) が得られる。式(6.4.10)と式(6.4.11)から∇2φを消去すると、
(∇χ)2− ∇2χ+ 2∇φ· ∇χ= 1
2(4−a)M3Le2φ+χ((2−a)Taa−X+ 2Y) (6.4.12)
となる。物質場の古典作用(6.4.4)には、φとχ は2φ+χの組み合わせで入っている。よっ て、eective action W にも、φとχは2φ+χの組み合わせで入っていると考えるのが自然 である。実際はlocal counter termの入れ方によっては、φとχに別個に依存したeective
actionを考えることもできるが、そのようなケースは考えないことにする。このとき、
X= 1
√−g
δW[g,2φ+χ]
δφ = 2 1
√−g
δW[g,2φ+χ]
δχ = 2Y (6.4.13)
となるので、X−2Y = 0である。よって、式(6.4.12)は (∇χ)2− ∇2χ+ 2∇φ· ∇χ= 2−a
2(4−a)M3Le2φ+χTaa (6.4.14) となる。ここまでは、full non-linearの取り扱いであった。これらの式をこのまま解くこと は難しいので、Hawking輻射の反作用を摂動的に取り入れることにする。つまり、Tab,X, Y をソースとして、背景場をperturbさせる。このとき、back groundはχ= 0であること に注意して、式(6.4.14)をperturbさせると、
−¤δχ+ 2∇φ· ∇δχ= 2−a
2(4−a)M3Le2φTaa (6.4.15) が得られる。これは、δχだけのマスター方程式である。ここまで、ゲージ固定はしていない が、δχはゲージ不変な量(∵back groundがχ= 0)なので、式(6.4.15)にゲージモードが混 入することはない。マスター方程式(6.4.15)の右辺は、物質場のeective actionから作られ るエネルギー運動量テンソルのトレースである。物質場の古典作用(6.4.4)はWeyl不変なの で、古典的にはエネルギー運動量テンソルのトレースはゼロである。しかし、そのWeyl不 変性は量子化に伴い破れてしまう。Weyl対称性の量子的破れのことをトレースアノマリー といい、このアノマリーによりゼロでないトレースが与えられる。このことから、radionの ダイナミクスはトレースアノマリーによってinduceされていると言うことも出来る。この トレースアノマリーは付録Cで計算されていて、
hTaai= 1
24π[R−(∇f(φ))2] (6.4.16)
となる。ここで、f(φ)はφの任意関数で量子化の際の不定性から来る。f(φ)として何をと るべきだろうか。平坦な時空上(rH = 0)では、Hawking輻射は存在しないであろうから hTµνi= 0である。よって、rH = 0のとき、トレースアノマリーは0になるべきである。そ のためには、f = 0ととれば良いことが分かる。
a = 2のCGHSブラックストリングについては、マスター方程式(6.4.15)の右辺はゼロ である。つまり、CGHSブラックストリングは古典的にも量子的にも安定である。このよう にCGHSブラックストリングは他のブラックストリングと異なる特性を持っていることが 分かる。
式(6.4.15)は大雑把に言って波動方程式の右辺に外力が入っている形になっている。こ
のように、弦に外力が働く状況で弦の振動を解く問題であると解釈するのは、直観的理解の ために重要である。次節で、実際にradion の振舞いを見ていく。