第 2 章 相対論的な波動方程式から、場の理論へ 25
3.4 場の理論の経路積分
3.4.2 フェルミ粒子の経路積分とグラスマン数の積分
上の説明では、Schr¨odinger場がボソン的な場であると仮定した。フェルミオン的な場である 場合、多少計算が変わってくる。フェルミオンは反交換する演算子で表せるので、古典的な量 としても反可換な数を使って表現しなくてはいけない。このような数をグラスマン数と呼ぶ。
グラスマン数を積分するには、ボソン座標とは違った積分をしなくてはいけない。例えば
∫
x dx= 1
2x2+C (3.92)
のような積分はグラスマン数に関してはありえない。(グラスマン数)2 = 0だからである。グラ スマン数の定積分は、以下の条件を満たすように決める。
1. 線形性:f(x) +g(x)の積分は
∫
f(x)dx+
∫
g(x)dxであること。および、af(x)の積分は a
∫
f(x)dxであること。
2. 常に部分積分できること。すなわち、
∫ ∂
∂xf(x)dx= 0であること。
3. 普通の数の−∞ → ∞の定積分と同様に、変数のずらしに対して不変であること。すな
わち、 ∫
f(x)dx=
∫
f(x−y)dx (3.93)
3.4. 場の理論の経路積分 57 グラスマン数の自乗は0なので、一般のグラスマン数を含む関数はすべて、
f(x) =a+bx (3.94)
のようにxの1次式で書ける。この関数を部分積分可能条件にいれると、
∫
bdx= 0 (3.95)
であることがわかる。すなわち、定数をグラスマン積分すると0である。
また変数のずらしに対して不変である条件に入れると
∫
dx(a+bx) =
∫
dx(a+b(x−y)) (3.96)
∫
dxbx = b
∫
dxx (3.97)
となってこの条件も満たす。∫
dxxはグラスマン数を2つかけたものなので単なる数である(他のグラスマン数と交換す る)。よって、これを定数とする。1と置くのが普通である。結局、
∫
dx= 0,
∫
dx x= 1 (3.98)
がグラスマン積分のルールであるが、これは微分
∂
∂x1 = 0, ∂
∂xx= 1 (3.99)
と全く同じである。すなわち、グラスマン数に関しては微分と積分の区別はない。
このルールは一見奇異にみえると思うので、もう一つの導出法をここに示しておく。ボソン 的な座標演算子xˆについて、
ˆ
x|x⟩=x|x⟩ (3.100)
のような固有状態を作ったとき、
⟨x|x′⟩=δ(x−x′) (3.101)
となり、 ∫
dx|x⟩⟨x|= 1 (3.102)
が成り立つ。これがグラスマン数に対しても成立すべきであるとする(この式は経路積分の導 出において大事であった)。
グラスマンでエルミートな座標演算子ηˆを考えると、(ˆη)2 = 0である。したがって任意の状 態は
|ϕ⟩+ ˆη|ψ⟩ (3.103)
のように展開できることになる。この二つの状態の基底として、|+⟩,| − ⟩を定義する。
ˆ
η|+⟩ = 0 (3.104)
ˆ
η| − ⟩ = |+⟩ (3.105)
∂
∂ηˆ| − ⟩ = 0 (3.106)
∂
∂ηˆ|+⟩ = | − ⟩ (3.107)
ここで一つ注意しておくと、|+⟩と| − ⟩は統計性が反対になる。ここでは| − ⟩をボソン的、
|+⟩をフェルミオン的な統計に選ぶ。そこで、以下では| − ⟩B,|+⟩F と統計性を明示する。
この基底が
⟨+| − ⟩=⟨ − |+⟩= 1,⟨+|+⟩=⟨ − | − ⟩= 0 (3.108) のように規格化されているとする。⟨+|+⟩= 0であることは、|+⟩F = ˆη| − ⟩Bであることと、
(ˆη)2 = 0であることからわかる。これによって⟨+|がボソン的、⟨ − |はフェルミオン的である (以下ではF⟨+|,B⟨ − |のように明示する)ことがわかる。このように内積を定義したことから、
1 = |+⟩F⟨ − |F +| − ⟩B⟨+|B (3.109) である。
ˆ
η|η⟩F =η|η⟩F (3.110)
を満たす固有状態|η⟩F も適当に展開されているとして、|η⟩F =|+⟩F +β| − ⟩Bを代入すれば (ここでβはフェルミオニックな量であることに注意)
ˆ
η(|+⟩F +β| − ⟩B) =η(|+⟩F +β| − ⟩B) (3.111) となる。ηˆ|+⟩F = 0を使うと
−β|+⟩F =η(|+⟩F +β| − ⟩B) (3.112) であるから、
β=−η (3.113)
とするとこの式を満たす。すなわち、
|η⟩F = (ˆη−η)| − ⟩B (3.114) と書ける。このhermite共役は
⟨η|B =⟨ − |F (ˆη−η) (3.115) とする。
二つの固有状態の内積を計算すると、
⟨η|η′⟩= ⟨ − |F(ˆη−η)(ˆη−η′)| − ⟩B
= ⟨ − |F(−ηηˆ ′−ηˆη+ηη′)| − ⟩B
= ⟨ − |F(η′ηˆ−ηˆη+ηη′)| − ⟩B
= ⟨ − |F(η′ −η)|+⟩F
= ⟨ − |+⟩(η−η′)
= η−η′
(3.116)
となる。上に述べた積分の定義からすると、η−η′ =δ(η−η′)と考えることができるので、こ
れもbosonの場合と同じ形になる。
積分dηを
∫ |η⟩Fdη⟨η|B = 1となるように定義したいとすると、
∫
|η⟩Fdη⟨η|B =
∫
(ˆη−η)| − ⟩Bdη⟨ − |F (ˆη−η)
=
∫
(|+⟩F −η| − ⟩B) dη(⟨+|B− ⟨ − |Fη)
(3.117)
3.4. 場の理論の経路積分 59 となる。
∫
dη(定数) = 0,
∫
dηη = 1とする(ということは、
∫
ηdη = −1であることに注意)
ならば、この式の右辺は
∫ |η⟩Fdη⟨η|B =| − ⟩B⟨+|B+|+⟩F⟨ − |F = 1 (3.118)
となる。つまり積分をうまく定義することで
∫ |η⟩Fdη⟨η|B = 1 (3.119)
とすることができる。
この式は ∫
|η⟩Fdη⟨η|η′⟩=
∫ |η⟩Fdη(η−η′) =
∫ |η+η′⟩dηη =|η′⟩ (3.120) となって、矛盾なくできている(途中で、積分変数のずらしを行った)。
ここで、もう一つ注意をしておこう。ボソンの場合、
tr ˆA =
∫
dx⟨x|Aˆ|x⟩ (3.121)
という計算ができた(これは分配関数の計算などで使った)。フェルミオンの場合どうなるか というと、状態は|+⟩F,| − ⟩Bの二つなのだから、
tr ˆA=⟨+|BAˆ| − ⟩B+⟨ − |FAˆ|+⟩F (3.122) となるべきである。これを積分の形で書くと、
∫
dη⟨ −η|Aˆ|η⟩F =
∫
dη⟨ − |F(ˆη+η) ˆA(ˆη−η)| − ⟩B
= ⟨ − |FAˆηˆ| − ⟩B+⟨ − |FηˆAˆ| − ⟩B
= ⟨ − |FAˆˆ|+⟩F +⟨+|BAˆ| − ⟩B
(3.123)
となる。つまり、⟨ −η|のように、前からかけるブラについてはηの符号をひっくり返しておか ないと正しいトレースにならない。このため、分配関数を経路積分を使って計算する時、ボソ ン場については終状態と始状態を同じという条件(周期境界条件)をつけて積分したが、フェ ルミオン場については終状態と始状態が逆符号になる、という条件(反周期境界条件)をつけ て積分することになる。トレース(状態和)を取るという操作と結びつくのは半周期境界条件 となっている。
経路積分を行うにおいては、ガウス積分のような積分が多くなるが、グラスマン数の場合、
∫
dxdx∗eax∗x =a (3.124)
となる(aは単なる定数)。普通の複素数の場合
∫
dxdx∗e−ax∗x = π
a (3.125)
である。πがつかないことと、定数aが逆に出ることに注意する。
ただし、 ∫
Dψ∗Dψei
∫dxdyψ∗(x)K(x,y)ψ(y)+i∫
dx(J∗(x)ψ(x)+ψ∗(x)J(x)) (3.126) のような量の計算結果については、ボソン的かフェルミオン的かは全体にかかる因子の違いを のぞけば、関係ない。ボソン的な場合、これを計算する時には変数(この場合ψ, ψ∗)のずらし
に対して不変であることを利用した。その性質はψ, ψ∗がフェルミオン的でも同様である。具 体的に計算すると、
ψ(x)→ψ(x)−K−1(x, y)J(y), ψ∗(x)→ψ∗(x)−K−1(x, y)J∗(y) (3.127) とずらしを行って、
i
∫
dxdyψ∗(x)K(x, y)ψ(y) + i
∫
dx(J∗(x)ψ(x) +ψ∗(x)J(x))
= i
∫
dxdyψ∗(x)K(x, y)ψ(y)−i
∫
dxdyJ∗(x)K−1(x, y)J(y)
(3.128) となる。ψ, ψ∗による積分をすませれば、
Ne−i
∫dxdyJ∗(x)K−1(x,y)J(y) (3.129)
が残るわけである。