フィルタ
6.3 フィルタの代表的な型
ここで,フィルタに望まれる性質を考える.理想的なフィルタは,
1. 通過域では,振幅特性|H(ω)|= 1 2. 遮断域では,振幅特性|H(ω)|= 0
となることであるが,実は,これらの条件を満たす因果的線形時不変システム(フィルタ)は 存在しない.なぜだろうか.1,2の条件は,振幅特性|H(ω)|が矩形である,つまり遮断特
性が−∞[dB/dec]となることを意味する.矩形の振幅特性をもつフィルタのインパルス応
答はシンク関数であるが,シンク関数は無限の時刻に広がっているため,因果律を満たすこ とができないのである.そこで,有限の時間で打ち切ると,特性が−∞ [dB/dec]とはなら なくなる.さらに,波形の変形を防ぐためには,上の条件に加え,
3. 通過域では,線形位相性をもつ
ことが望まれる.フィルタは,これらの条件のトレードオフのもとで,用途に応じた特性を もつようにさまざまに設計されることになる.頻繁に用いられる代表的なフィルタとしては,
バターワース,チェビシェフ,ベッセル,楕円関数フィルタ,およびこれらを修正したもの などがある.簡単に紹介する.
6.3 フィルタの代表的な型
これまでさまざまなフィルタが設計されてきたが,基本となるのはバターワース型,チェ ビシェフ型,ベッセル型である.これらのフィルタの型について,s平面上の極の位置,伝 達関数,周波数特性の立場から説明していこう.
バターワースフィルタ 遮断周波数ωcのn次バターワース型LPFは,s平面の半径ωc の左 半面円周上に等間隔にn個の極をもつフィルタである.n個の極は次式で規定される.
αk=ωcexp
i
2k−1 2n π+π
2 , k= 1, . . . , n (6.5)
伝達関数は
H(s) = P
*n k=1
(s−αk)
(6.6)
として表される.ただし,PはH(0) = 1となるように選ばれるため,P =*n
k=1|αk|とす ればよい.インパルス応答h(t)は,2位の極がないので,
h(t) = n k=1
Akeαkt, ただし, Ak= (s−αk)H(s))))
s=αk (6.7)
となる.遮断周波数ωc= 1 [rad/s],10次バターワース型LPFの極の配置を図6.16(a)に,
遮断周波数ωc= 1 [rad/s],n= 2,3, . . . ,10次バターワース型LPFのインパルス応答,ゲ イン線図,群遅延をそれぞれ図(b)〜(d)に示す.バターワースフィルタでは通過域はもっ
図 6.16 バターワース型LPFの各種特性
とも平坦な振幅特性をもち,減衰の速度は−20n[dB/dec]となる.群遅延も通過域である程 度一定であり,振幅特性と位相特性のバランスがもっともよいフィルタである.一般的な用 途では,このバターワースフィルタが用いられることが多い.
チェビシェフフィルタ バターワースフィルタの極の実部に1未満の定数を乗じることによっ て虚軸方向に移動させると,チェビシェフフィルタが得られる.具体的には,式(6.7)で表さ れる極αkの実部を次式で置き換えることにより得られる.
Re(αk)←Re(αk) sinh 1
nsinh−1
1
√10Rip/5−1
(6.8)
ここで,Ripは,リップルの振幅[dB]を制御するパラメータであるが,リップルについては 後述する.伝達関数H(s),インパルス応答h(t)は,バターワースフィルタと同様に式(6.6),
(6.7)で与えられる.ただし,P は,|H(ωc)|= 1/√
2となるように選ばれる.遮断周波数 ωc= 1 [rad/s],10次チェビシェフ型LPFの極の配置を図6.17(a)に,遮断周波数ωc= 1
[rad/s],n= 2,3, . . . ,10次チェビシェフ型LPFのインパルス応答,ゲイン線図,群遅延を
それぞれ図(b)〜(d)に示す.図6.16と図6.17の図を比較すればわかるように,チェビシェ フフィルタは,バターワースフィルタより速い速度で遮断域に移行する.その代わり,通過 域の振幅特性は平坦にはならず,リップルという波打つ特性となる.さらに,群遅延も一定 ではなく,波形の乱れも大きい.したがって,チェビシェフフィルタは,急峻な遮断特性が 必要な用途で用いられる.
ここで述べたチェビシェフフィルタは,正確にはチェビシェフⅠ型フィルタといい,通過 域でリップルをもつ.通過域で平坦な振幅特性をもち,遮断域でリップルをもたせたチェビ シェフフィルタをチェビシェフⅡ型フィルタという.通過域,遮断域ともにリップル特性を
6.3 フィルタの代表的な型 89
図 6.17 チェビシェフ型LPFの各種特性
図6.18 ベッセル型LPFの各種特性
もたせ,より急峻な遮断特性をもたせたチェビシェフフィルタを楕円関数フィルタという.
ベッセルフィルタ 遮断周波数ωcのn次ベッセル型LPFの極は,s平面の一定の半径の円の 左半面円周上にあり,虚部は等間隔である.具体的には,次式で表される位置にn個の極を もつ.
αk=R(−cos(sin−1(pk)) +ipk), k= 1,2, . . . , n (6.9)
ただし, pk=1−2k n + 1
伝達関数H(s),インパルス応答h(t)は,バターワースフィルタ,チェビシェフフィルタと 同様に式(6.6),(6.7)で与えられる.ただし,R,Pは,|H(0)|= 1を満たすように選ばれ る.遮断周波数ωc= 1 [rad/s],10次ベッセル型LPFの極の配置を図6.18(a),遮断周波 数ωcS= 1 [rad/s],n= 2,3, . . . ,10次ベッセル型LPFのインパルス応答,ゲイン線図,群 遅延をそれぞれ図(b)〜(d)に示す.ベッセルフィルタは,遮断域への移行が遅い反面,通過 域の群遅延がほぼ一定となっている.そのため,ベッセルフィルタは,波形の変形を避けな ければならない用途に用いられる.