第五章 ゼミナールの発話におけるフィラーの機能
5.2 出現位置によるフィラーの機能に関する考察
5.2.2 フィラーの出現位置による分類結果の考察のまとめ(日本語母語話者の場合) 62
日本語母語話者の「発話頭」、「発話中」、「発話末」のフィラーについて考察した結果を まとめると、以下の表 28 の通りになる。
ウン、ウーン
例 27、(男性 J1:③-36、アンダーラインを引いてあるもの) J1:マーそうですね、ウン《沈黙 8 秒》
J1:ウン、ということですね、アノー、ここで言われたら、もうちょっと確認したいんけ ど、そういえば、なんかこうだんだんちらっと聞いたような、聞いた記憶が読みかえりま したけど、ウン、かつての京都では、だから、シラビーム的な時期があったっていうこと ですね。長い時代、ウーン。《沈黙 32 秒》
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表 28 フィラーの出現位置による分類の結果の考察のまとめ(日本語母語話者の場合)
出現位置 機能 中島(2008)と同じ結果
が出ており、中島(2008) の指摘を裏付けるもの となっていると言えよ う。
発話頭 談話進行を管理する機能:具体的に挙げると、「話者 の心的態度の表出」(アー)、「注意喚起」(アノー)、
「発話権の維持」(エート)等の機能を持つ。
発話中 発話展開に関する機能:具体的に挙げると、「時間稼 ぎ」(アノー、エート)、「和らげ」(マー)、「言いよ どみ」(エー)等の機能を持つ。
発話末 発話終了、言いよどみなどの機能を持つ。
5.2.3 フィラーの出現位置による分類結果の考察(中国人日本語学習者の場合)
中国人日本語学習者の場合は、「発話頭」と「発話中」しかフィラーが確認できなかった。
まず、表 26 の「発話頭」と「発話中」の上位 5 位までのフィラーを照らし合わせたところ、
「発話頭」においては「アー」(35.21%)、「アッ」(14.08%)と「ウーン」(5.63%)が、「発 話中」においては「アノー」(23.64%)、「コノー」(20.54%)と「ソノー」(10.85%)が多用 されていることが分かった。そして、表 27 の型別の結果を確認したところ、「発話頭」は
「ア系」(53.52%)と「ンー型」(5.63%)、「発話中」は「ソノ系」(11.24%)と「エ系」(3.88%) が多く使われていた。
次に、中国人日本語学習者と日本語母語話者とにおいて、それぞれ「発話頭」と「発話 中」の上位 5 位の種類別のフィラーを比較したところ、中国人日本語学習者は日本語母語 話者より「ナンカ」を多用していることが分かった。表 26 を見ると、中国人日本語学習者 の場合は、「ナンカ」は「発話頭」でも「発話中」でも上位 5 位に入っているのに対して、
日本語母語話者の場合は両方で確認されないという結果になっている。では、実際の中国 人日本語学習者による「ナンカ」の使用を見てみよう。
ナンカ
例 29、(女性 C5:⑩-48)
C5: 中国人の留学生、ナンカ、意見とか、私、なんだろう、語学に対する感覚、じ、en、
一応中国母国なんですけど、やっぱり一人、たまには研究室の人にも聞いたりするんです けど、ナンカ、ぜひ意見。[沈黙 11 秒]
64 ナンカ
例 30、(女性 C5:⑩-60、60 番の発話がとても長いため、一部引用)
C5:[前略]この前[人名]さんに言われました、エレベータ、方言調査から帰る時に、エ レベーターの中で、先輩に向かって、ナンカ、ナンカ、私に質問っていうか、ナンカ、コ メント欲しかったみたい、で、先輩、「你说」(中国語)なになに、あなたはどう思いま すか、みたいな感じで、今思いついたのが、一応これこれ、こっちだと質問する、こっち だと自分から自分の意見、これだと相手の意見を求める、これだと情報、情報なんですけ ど、情報を伝える、情報を伝える時。
例 29 では、最初の「ナンカ」は「意見とか」の前に、2 番目の「ナンカ」は「ぜひ意見」
の前に用いられている。二つとも、「特定の意見」に限定せずに言う機能を持つものである と考えられる。この場合の「ナンカ」は物事を不特定化するということにより、発言を「和 らげる」機能を果たしているのではないかと考えた。
例 30 では、「なんか私に質問っていうか」の使い方で、「ナンカ」を用いて曖昧に言うよ うにしていることが察せられる。そして、「なんかコメント欲しかったみたい」の場合にお いては、もし「なんか」を使わずにすると、「コメントがほしかったみたい」という断定の 表現になるため、「ナンカ」は話をぼかす⑨働きを持っているのではないかと考えた。
では、なぜ中国人日本語学習者に「ナンカ」を多用する結果が確認されたのだろうか。
それについて、筆者自身の今までの日本語を勉強する経験も振り返って考えた結果、中国 人日本語学習者は日本語母語話者よりボキャブラリーが少ないということが要因の一つと して考えられるのではないかと考えた。というのは、日本語で何かを言う時にそれと 100%
合致する言葉が思いつかない、あるいは分からない場合は、とりあえずそれと近い言葉で 表現するということがよくあったからである。その場合、筆者自身がよく「ナンカ」を使 い、ぼかして言うようにしていたように思われる。そのため、中国人日本語学習者は日本 語母語話者よりボキャブラリーが少ないことが、「ナンカ」を多用する一つの要因であると 考えられる。さらには、中国語の母語による干渉があったということも要因の一つとして 考えられよう。即ち、前節の 4.1.2.3 でも述べた通り、「ナンカ」に対応するフィラーは中 国語にも存在しているため、中国人日本語学習者が中国語の「ナンカ」(中国語では「什麼 (シェンマ)」と言う)の使い方に影響され(母語の干渉)、日本語の「ナンカ」を多用して いたということである。
そして、なぜ日本語母語話者はあまり「ナンカ」を使わなかったのだろうか。ゼミナー
⑨ ここで言う「ぼかす」とは、「物事を不特定化すること」を指す。婉曲的に物事を言うために、曖昧な 表現を使う場合とは異なる。
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ルの場は、ややフォーマルの状況であるため、もしかしたら「ナンカ」はフォーマルな場 では使いにくく、くだけた状況の場合に使用されやすいということと関わっているのかも しれない。それで、日本語母語話者は「ナンカ」の使用を控えていたのではないと考えた。
続いて、中国人日本語母語話者の使っている「ア系」のフィラーについて考えたい。表 27 から分かるように、「発話頭」において、日本人母語話者も中国人日本語学習者も「ア系」
が最も使われている。しかし、筆者が録音データを文字化する際にも疑問に思ったのが、
中国人日本語学習者が使っている「ア系」のフィラーは日本語のフィラーであるかどうか ということである。というのは、前述の 4.1 の中国語のフィラーを示した表 5 に掲載され ているように、中国語のフィラーにも日本語の「ア」と同じ発音のフィラー「a(啊)」があ る。中国語の場合は声調⑩があるが、日本語の驚きの「アッ」と中国語のフィラーの「a(啊)」
で「驚き」を表すものとは発音が全く同じであるため、判断できない。その場合は、本来 中国人日本語学習者が、日本語で話している時に現れるものは日本語であると見なしても よいと思われるが、中国人日本語学習者が確実に中国語のフィラーを使用していることが 確認できたため(例 29 に現れている「en」が中国語のフイラーである。前述 4.1 参照)、
日本語と同じ発音の「ア系」についても戸惑いを感じた。今回は、ひとまず日本語のフィ ラーに分類したが、今後はその点についてより詳しく考察したく考えている。