第 5 章 考察 75
5.2 銀河円盤について
5.2.1 円盤のパラメータ
まず、最終的に導かれた銀河円盤について、セルシック指数nと有効半径Reの 関係は、図5.2のようになる。この図から読み取れることは、3つである。まず1
1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
Re[kpc]
n
図 5.2: 銀河円盤の、nとReの関係。横軸:n。縦軸:Re[kpc]
つ、中間赤方偏移のclumpyな大光度赤外線円盤銀河の円盤について、セルシック 指数と有効半径との間には、明瞭な相関関係は見られそうにないこと。図5.2にお いて、右側の2点を除けば一定の傾向は読み取れるようにも見えるが、しかしその 2点は特にフィッティングに問題があるものである訳では無く、これらを排除する 理由は無い。また、図の左下、つまりセルシック指数と有効半径がともに小さい
ような銀河は、そもそも観測されにくい傾向があるだろうことを考えると、図の 左側における傾向にも疑問が残る。相関係数が-0.28であることも鑑みると、セル シック指数と有効半径との間には相関関係を見いだせないというのが結論となる だろう。2つ、その銀河円盤において、セルシック指数は主に0.3と0.9の間に分 布しているようだということ。そして3つ、円盤の有効半径は、2[kpc]から7[kpc]
の間にほぼ均等に分布しているように見えるということだ。
図5.3: Konishi et al. 2011『MOIRCS Deep Survey. VII. NIR Morphologies of Star-Forming Galaxies at Redshiftz ∼1』よりFig.7を引用。右のパネルの赤い丸が、今 回の結果と比較すべきz ∼1のLIRGである。なお、以下にKonishi et al. 2011にお けるこの図についての説明を引用する。「Structural parameters (S´ersic indices and effective radii in physical scale along the semimajor axis) measured in the MODS deep Ks-band image for the z ∼ 1 galaxies with (a) Ms = (1―3)×1010M⊙, and with (b) Ms ≥ 3×1010M⊙. The symbols are the same as in figure 5. The error bars indicate the uncertainties of the fitting. The vertical dashed line separates less concentrated and highly concentrated systems (n[Ks] ≤ 2.5 is considered as a less concentrated system). In each figure, the bottom and right panels show numbers of the samples at a given stellar mass range as a function of n(Ks) and Re(Ks), respectively. Thick (thin) line corresponds to the numbers of the LIRGs (non-LIRGs), and solid (dotted) line corresponds to the numbers of the low-n(Ks) (high-n[Ks]) sample. The error bars of the histograms account for Poissonian errors only. All the X-ray-detected galaxies are excluded from the counts.」
また、今回の結果を従来の研究結果と比較してみる。Konishi et al.2011[13]
は、MODS(MOIRCS Deep Survey)のデータを用い、GOODS-Northにおける
z = 0.8−1.2の銀河に注目した論文である。サンプルの選択は、Kバンドを用い、
星質量(Ms ≥ 1×1010M⊙)によって行われた。更に、GALFITのシングルコン ポーネントのフィッティングによりセルシック指数などのパラメータを求めており、
その対象となるサンプルの多くはLIRGとなっている。これらの条件より、この論 文は本研究により得られた結果と比較するに適当なものだろう。図5.3は、Konishi et al. 2011[13]のFig.7を引用したものである。
そして、この図5.3と比較するために、本研究の1度目のフィッティングにより 得られた円盤のパラメータと、2度目のフィッティングにより得られた円盤のパラ メータを再度プロットしたものが、図5.4と図5.5である。これらの図と図5.3を 比較すると、有効半径の値については、本研究にて得られた値が従来の研究とよ く対応することがわかる。このことは、本研究におけるフィッティングが、大きな 失敗をしていないことを示す材料となる。
ただし、セルシック指数については、従来と完全に対応しているとは言えない、
1 10
1 10
Re[kpc]
n
図 5.4: 1度目のフィッティングにより得られた、銀河円盤のnとReの関係(対数
軸)。横軸:n。縦軸:Re[kpc]。n= 2.5に引かれた点線は、図5.3と比較し易いよ う記入されたもの
興味深い傾向が見て取れる。その傾向を確かめるために、今回の結果とKonishi et
al.2011[13]の結果を、セルシック指数についてヒストグラムで比較してみること
にする。まず、本論文における2度目のフィッティングの結果について各サンプル
1 10
1 10
Re[kpc]
n
図 5.5: 2度目のフィッティングにより得られた、銀河円盤のnとReの関係(対数
軸)。横軸:n。縦軸:Re[kpc]。n= 2.5に引かれた点線は、図5.3と比較し易いよ う記入されたもの
のセルシック指数を小数点以下第2位で四捨五入し、小数点以下第1位までの数 値におけるセルシック指数とサンプル数との関係を、ヒストグラムにプロットし た。それが、図5.6である。これを見ると、z ∼1におけるclumpyな大光度赤外
0 1 2 3 4 5
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2
count
sersic index
図 5.6: 銀河円盤における、nの分布。横軸:n。縦軸:サンプル数
線銀河のセルシック指数のピークは、主に0.5から0.7にかけて存在するように見 える。また、1度目のフィッティングによって求められたセルシック指数を同じよ うにプロットした場合のヒストグラムは、図5.7のようになる。図5.7を見ると、1 度目のフィッティング(つまり従来のフィッティング)における銀河のセルシック 指数は、n∼0.7に明らかなピークを持っている。そして、Konishi et al.2011[13]
のFig.7(つまり、本論文における図5.3)よりセルシック指数を読み取り、図5.6、
図5.7と同様のbinでプロットしたものが、図5.8である。
これらの図を見ると、2度目のフィッティングにより得られたセルシック指数の 値は、1度目のフィッティングよりも従来の結果から(減少する方向に)離れたも のとなっていることがわかる。現代の完成された円盤が指数法則を持つとするな ら、従来の結果(Konishi et al.2011[13])が示しているのは、現代の円盤に比較的 近い値である。つまり、本研究にて用いた手法では、顕著なコンポーネントの影 響を排除して円盤そのものをフィッティングすることにより、従来見積もられてい たよりも現代と異なる、より平坦なプロファイルを得ることができたということ になる。
ただ、この結果には疑問も存在する。本研究における1度目のフィッティングの 結果は、2度目のフィッティングよりも従来の結果に近い値となっている訳だが、
0 1 2 3 4 5 6
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2
count
sersic index
図 5.7: 銀河円盤における、nの分布(1度目のフィッティング)。横軸:n。縦軸:
サンプル数
0 1 2 3 4 5 6
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5
count
sersic index
図 5.8: 銀河円盤における、nの分布(Konishi et al.2011[13]のFig.7より読み取っ たものをプロット)。横軸:n。縦軸:サンプル数
それでも従来の結果との間に無視できない乖離を持っている。1度目のフィッティ ングの結果は、従来の結果が導き出された過程と近い過程により得られたもので あると考えられる。だというのにこれだけの乖離が見られる理由は、主に2つ考え られる。1つは、観測手法の違いである。本研究において用いているCANDELSの データは、ハッブル宇宙望遠鏡にて撮影された画像である。それに対して、Konishi
et al.2011[13]のデータは、地上観測にて得られたものだ。この条件の違いが、セ
ルシック指数の見積もりに影響を及ぼしている可能性は無視できない。そして次 に、観測している波長の違いがある。本研究における解析はHバンドについて行 われているが、Konishi et al.2011[13]はKバンドにおいて行われている。両者の バンドは比較的近いため今回の比較に用いた訳だが、それでも波長が異なること は事実であるため、これが結果に影響を及ぼす可能性は存在する。
以上のような疑問はあるが、今回の結果を信用するなら、本研究にて採用した 解析法を用いることにより、従来の研究よりも円盤のセルシック指数がより小さ く、つまり円盤がより平坦なものへと見積もり直されるという傾向が示されてい る。これは、5.1の図5.1により示唆された可能性を、大きく補強する結果だ。こ の結果が正しいとするならば、円盤は形成途中では現在よりも僅かに平坦であり、
そこから現在の指数法則の円盤へと進化した、というシナリオを考えることもで きるだろう。
上記のシナリオの手掛かりを得るために、今度はサンプルの赤方偏移と円盤の パラメータとの関係を調べる。今回見ている赤方偏移範囲において、銀河は成長 途中であり、円盤の形成は時間とともに進んでいると考えられる。よって、赤方偏 移の変化、つまり時代の変化に伴い、セルシック指数が変化している可能性があ る。赤方偏移とセルシック指数との関係をプロットしたものが、図5.9である。残 念ながら、この図からは、セルシック指数の明澄な成長は読み取れなかった。少 なくとも、0.7< z <1.2の時間スケール(宇宙年齢約5.335[Gy]から約7.522[Gy]
までの間)においては、セルシック指数は有意の成長を見せてはいないようだ。
また同時に、サンプルの赤方偏移と有効半径との間の関係も調べた。その結果 が、図5.10である。この図より、円盤のサイズについても、規則的な時間変化は 見られないようである。
もし、銀河円盤が時間に従ってその構造を変化させていくならば、その要因と して考えられるのは星形成である。よって次に、円盤のパラメータが、サンプル 銀河自体の星形成率に関係するかどうかを調べる。サンプルの赤外線光度とセル シック指数との間の関係は、図5.11のようになる。また、サンプルの赤外線光度 と有効半径との間の関係は、図5.12である。赤外線光度の比較的大きな不定性を 考慮に入れたとしても、これらの図から明瞭な相関性などを見い出すことは難し いだろう(なお、相関係数は、図5.11が約0.20、図5.12が約0.05である)。よっ て、サンプルの銀河円盤の、セルシック指数や有効半径などといった構造は、そ の時点での星形成の活発さとは独立したパラメータによって決定されているとい うことが読み取れる。