第 5 章 考察 75
5.2 銀河円盤について
5.2.2 clumpy さによる分類
前項では、導かれた円盤のパラメータの時間変化や星形成率との関係を考えた。
では、例えば銀河の「clumpyさ」の度合いにより、円盤のパラメータが何らかの 傾向を持つようなことはあるだろうか。
∆χ2による分類
まず、円盤の「clumpyさ」を表す指標として注目してみるのは、GALFITによ るフィッティングの際に導かれるχ2の値である。これは、フィッティングされたモ デルが、実際の銀河画像とどれだけずれているのかを表す数値であり、その詳細に
ついては3.1.4を参照されたい。3.1.4に記した通り、本研究においてはこのχ2を
精度の改善についての評価に用いることは適当ではないと思われる。しかし、χ2 という値は、元画像とモデルとの乖離や、マスクで隠される部分の大きさなどに 深く関わって決定される値である。この値が1度目と2度目のフィッティングの間 でどのように変化したかについては、フィッティングの障害となっていた要素、つ まり銀河のclumpなどの割合が関わっている可能性がある。よって、このχ2の1 度目と2度目のフィッティングの間での変化∆χ2を、銀河の「clumpyさ」のパラ メータとして用いることを試みる。
χ2の値は、1度目のフィッティングと2度目のフィッティングの間で、平均して
約335.364減少した。また、減少値のサンプル全体での中央値は、約238.257であ
る。減少値がこの中央値より大きいものを「clumpyさが強い銀河」、小さいもの を「clumpyさが弱い銀河」として、nとReとの間の関係をプロットしたものが 図5.13である。そして、同じ基準でLT IRとnとの関係をプロットしたものが、図 5.14である。
これらの図より、χ2の減少量を基準としてサンプルを二つに分類した場合、二 つのグループそれぞれに、明らかな傾向などは存在しなかった。
1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
Re[kpc]
n
weak clump strong clump
図 5.13: 銀河円盤における、nとReとの関係(∆χ2による分類)。横軸:n。縦軸:
Re。赤い+:clumpyさが弱いサンプル。緑の×:clumpyさが強いサンプル
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
0 1e+11 2e+11 3e+11 4e+11 5e+11 6e+11 7e+11
n
LTIR[Lsun]
weak clump strong clump
図 5.14: 銀河円盤における、LT IRとnとの関係(∆χ2による分類)。横軸:LT IR。 縦軸:n。赤い+:clumpyさが弱いサンプル。緑の×:clumpyさが強いサンプル
clumpと銀河全体の光度比による分類
∆χ2の値を用いた分類法においては、2つのグループに明瞭な傾向は見られな かった。そこで、次は異なる基準にて「clumpyさ」を判断し、グループ分けする ことを試みる。
次に用いる基準は、「clumpなどの明るさが、銀河全体の明るさの中でどれだけ の割合を占めるか」である。各サンプルのフィッティング結果より検出された顕著 なコンポーネントの等級と、銀河全体の等級(どちらもSExtractorによって与え られたもの)を用いて、明るさの比を計算。その値が大きなものほど、銀河全体
に比してclump部分が顕著である銀河、つまりclumpyな銀河であると考えるので
ある。
そうして求められた、サンプルにおけるclumpの銀河全体に対する明るさの割 合は、平均値が約0.218、中央値が約0.183となった。よって、この中央値よりも
clumpの割合が大きいものを「clumpyさが強い銀河」、小さいものを「clumpyさ
が弱い銀河」として、銀河を分類する。分類された2つのグループについて、セ ルシック指数と有効半径との間の関係をプロットしたものは、図5.15である。ま た、同じ基準でLT IRとnとの間の関係をプロットしたものが、図5.16である。図 からわかる通り、この分類においても、両グループにおいて明瞭な傾向は見られ なかった。
1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
Re[kpc]
n
weak clump strong clump
図 5.15: 銀河円盤における、nとReとの関係(clumpの光度比による分類)。横
軸:n。縦軸:Re。赤い+:clumpyさが弱いサンプル。緑の×:clumpyさが強い サンプル
0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
0 1e+11 2e+11 3e+11 4e+11 5e+11 6e+11 7e+11
n
LTIR[Lsun]
weak clump strong clump
図 5.16: 銀河円盤における、LT IRとnとの関係(clumpの光度比による分類)。横 軸:LT IR。縦軸:n。赤い+:clumpyさが弱いサンプル。緑の×:clumpyさが強 いサンプル
判定基準の評価
先に用いた、「clumpyさ」の判定についての2つの基準を評価する。「∆χ2」と
「clumpの光度比」というこれらの基準は、銀河の「clumpyさ」を判定する基準 として、どの程度信頼のおけるものなのか。それぞれの基準におけるグループ分 けの両方にて同じグループへ分類されたサンプルは、全サンプルの約半数である。
また、これら2つの基準が両者とも銀河の「clumpyさ」を見積もるパラメータと して確かなものであれば、両者には明確な相関関係があるはずだろう。それを確 かめるために、両者の関係をプロットしたのが図5.17である。この図より、2つ の基準の間には相関関係は見られず(相関係数は、約-0.04)、両者は緊密に対応す るものではないことがわかる。
それぞれの基準の信頼度について個別に手掛かりを得るには、それらのパラメー タを、銀河の赤外線光度、つまり星形成の活発さと比べる、という方法があるだ ろう。なぜなら、銀河における星形成は主にclump内にて進行していると考えら れるため、星形成の活発な銀河ほど、clumpが顕著である可能性があるからだ。サ ンプルの赤外線光度と∆χ2との間の関係は、図5.18のようになる。この図におい て、点はサンプルのLT IRのほぼ全範囲にわたり、ある程度の∆χ2の範囲内に偏り
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
∆χ2
Lclump/Ltotal
図 5.17: 銀河円盤における、∆χ2とclumpの銀河全体に対する光度比との関係。
横軸:Lclump/Ltotal。縦軸:∆χ2
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000
0 1e+11 2e+11 3e+11 4e+11 5e+11 6e+11 7e+11
∆χ2
LTIR
図 5.18: 銀河円盤における、LT IRと∆χ2との関係。横軸:LT IR。縦軸:∆χ2
なく存在している(相関係数は約0.06)。このことより、本研究にて用いた手法に おける、1度目のフィッティングと2度目のフィッティングの間のχ2の減少値は、
その銀河の星形成の活発さに依らないことがわかる。これは、「∆χ2」を「clumpy さ」の判断基準として用いる際には、マイナス材料となってしまう結果だろう。
それでは、「clumpの光度比」の方はどうだろうか。サンプルの赤外線光度と
clumpと銀河全体の光度比との間の関係は、図5.19のようになる。この図におい
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 1e+11 2e+11 3e+11 4e+11 5e+11 6e+11 7e+11
Lclump/Ltotal
LTIR
図 5.19: 銀河円盤における、LT IRとclumpの銀河全体に対する光度比との関係。
横軸:LT IR。縦軸:Lclump/Ltotal
ても、∆χ2ほど平坦ではないものの、点は不規則に近く分布している(相関係数 は約-0.14)。少なくともこの図から、clumpの銀河全体に対する光度比が、サンプ ルの星形成率と相関しているという結果を見出すことは少々難しいだろう。
以上の結果より、今回用いた2つの基準は、どちらも銀河の「clumpyさ」を見 積もる基準としては、確かさに不安の残るものであることがわかった。しかし、そ の中であえてどちらがより確からしいかということを考えるなら、「clumpの光度 比」であるだろう。何故なら、∆χ2は主にGALFITというフィッティングコード における処理に関わる数値であり、銀河そのものに対する絶対的な数値であると は言い難いからである。同時に、このパラメータは、対象天体以外の要素に左右 される可能性も孕んでいる。また、「clumpの光度比」というパラメータについて は、まだ現在よりも確かさを向上させる余地が残っている。まず、今回はサンプル 全体に一括した処理を行うために、clumpの検出の際に用いるSExtractorの設定 値は、特定のサンプルにて調整したものを、全サンプルへと統一して用いた。この
処理を、一つ一つのサンプルについて個別に調整して行えば、見積もられるclump の光度は、より確度を増すかもしれない。また、今回は検出された「顕著なコン ポーネント」の全てを「clump」として光度を見積もったが、これらのコンポーネ ントの中には、バルジや渦状腕、棒構造なども含まれているはずである。このこ とは、結果に大きな誤差を与える可能性があるだろう。これらのコンポーネント をどう見分けていくかについては、今後の検証により決めていかなければならな い。更に、今回は主に円盤部に注目するために、円盤部分が顕著に見え、clump部 分があまり顕著に見えない波長帯の画像を用いている。clumpの光度に注目する ならば、clumpが顕著に見える波長帯(f606w、f814wなど)の画像を用いるべき であろう。それらの波長帯のフィルターにて今回と同じ処理を行えば、このパラ メータの確度は格段に増すものと思われる。
上記のような問題は考えられるが、それでも今回得られた結果を信じるならば、
z ∼1の大光度赤外線円盤銀河において、銀河円盤の構造は、その時点での銀河の
「clumpyさ」に関わらないプロセスで決定されるものであるという結論が導かれ る。図5.11や図5.12などから推論される、星形成率と円盤の構造との間の相関関 係の欠如も、この結論に対する補強材料となるだろう。
形成途中の円盤が、完成した円盤よりも平坦となるメカニズムとしては、以下 のようなものが考えられる。円盤外縁部に生じたclumpが、円盤の中心に移動す るよりも短いタイムスケールのうちに星形成に伴い周囲に円盤成分を供給し、破 壊などをうけて消滅する。そうすることにより、円盤は中心部よりも外縁に近い部 分において多くの円盤成分を供給される。その結果として、円盤が指数法則より も平坦なものとなる、というものである。本研究の結果においては、円盤の構造と 星形成の活発さとの相関関係の欠如が示されたが、今回示されたのあくまで「そ の時点での」星形成の活発さとの相関関係の欠如であり、既に破壊されたclump の影響により円盤が平坦になっている、という描像と両立することは可能だろう。
しかし、今回の結果からこういったメカニズムを確かめることは難しく、それを 確かめるには、今後の更なる解析が必要となるだろう。