第 4 章 開放マクロ経済モデルによる中国の物価変動の要因分析 70
4.3 パラメータの設定と構造ショック
カリブレーション:
モデルの各方程式はそれぞれ構造パラメータをもっており、シミュレーション分析のた
めにパラメータのカリブレーションを行う。構造モデルは、
ct = α1Et(ct+1)+α2(it−Et(πt+1)) yt = β1ct+β2ext
imt = yt−γqt ext = ytf+γfqt
¯yt = at− γδ 1−δ∗qt
πt = σE(πt+1)+σ2(yt−¯yt)+σ3mext−1 it−itf = E(st+1)−st
mt = (1−φ)mtart +φmt−1
mtart = θ1¯yt+θ2πtar
mDt = ζ1yt−ζ2st−ζ3it−ζ4πt
と表現される。物価上昇率の決定式における貨幣の超過供給のパラメータσ3とmtar の決 定式のパラメータθ1、θ2、貨幣供給の決定式φ、貨幣需要関数のパラメータζ1からζ4 以
外はMcCallum and Nelson (2000)で提示されている値を設定した。金融政策において産
出ギャップと物価上昇率ギャップの重要性に関するウェイトはθ1=0.1、θ2=0.9とし、物 価上昇率ギャップの解消をより重視しているという仮定を置く。貨幣供給の決定式におけ るφは0から 1までの値をとるパラメータであるが、ここでは0.5 と設定した∗22。また 貨幣需要関数のパラメータは前章の多変量回帰モデルの推定結果を設定した∗23。σ3の値 は、I(2)モデルの分析において貨幣の超過供給が物価に与える影響を表す 2.88×10−4 を 設定した。
構造ショック:
次にモデルに与える構造ショックが、どの期間における中国経済の特徴を表すものかに ついて見ていく。この分析では、1995年から1997年にかけての期間と2000年から2004
∗22θ1、θ2ならびにφの値について産出ギャップのほうを重視するという設定やφ=0.1からφ=0.9までの 値についても検証したが、シミュレーション結果に影響を与えるものではなかった。
∗23ただし名目為替レートの変数stはこのモデルでは値が大きいほうが減価をあらわしているため、ζ3の符 号は推定結果と逆にして設定した。
年にかけての期間に中国で起こった変化を特定の構造ショックにより表現する。1995年 から1997年にかけては国有企業改革により失業率が上昇した時期であり、国内需要が減 退した時期であると考えられる。この時期の特徴を表す変化として国内の消費額を一方的 に減少させるような構造ショックを以下の形式で導入する。
ct = α1Et(ct+1)+α2(it−Et(πt+1))−ect ect = ρceet−1+εct, 0< ρc<1
需要減退の構造ショックecは定常的なAR過程に従うと仮定される∗24。
また 2000年から2004年にかけて、中国では対中投資の増加により技術水準が向上し たという変化、米国の情勢不安により中国の輸出品に対する米国からの需要が減退したと いう変化、米国の為替レート減価が固定相場を通じて中国の名目実効為替レートを連動し て減価させたという変化がある時期である。対中投資は、2000年を境に増加に転じてお り2004年まで増加を続けており、外国需要の減退は2001年9月の同時多発テロの時点 からを想定している。また為替は2002年の始めごろから減価をしているため、2002年か ら2005年までを為替減価の時期とする。これら複数の構造ショックを2000年以降の中 国経済の変化を再現するものとしてモデルに導入する。
2000年から2004年にかけての技術水準の上昇は、定常的な生産水準を一方的に増加さ せるような技術水準at の増加として定義してされ、
¯yt = at− γδ 1−δ∗qt at = ρaat−1+εat
のεat を技術水準上昇ショックとする。
2001年9月からの外国需要減退のショックは、外生的に決定される中国の輸出に対す
∗240< ρc<1であると仮定する。
る外国からの需要を表す変数ytf について、
ext = ytf+γfqt ytf = ρy fyt−1f −εy ft
のεy ft によって表す。
2002年から2004年にかけての為替の減価は、外生的要因で推移している名目実効為替 レートの決定式について、
st=ρsst−1+εts
のεtsによって表す。このモデルでは、名目実効為替レートの値が大きいほど為替が減価 していることを表すため、構造ショックの符号は正値となる。
以上の構造ショックについて、国内需要と技術ショックのパラメータ ρc と ρa は McCallum and Nelson (2000)で提示されている値ρc=0.30、ρa=0.95を設定し、外国需 要が国内の需要と対称的であるという仮定をおき、国内需要ショックのパラメータと同じ 値を設定した。また中国の名目実効為替レートの推移は、持続性を持つ系列であると考 えられ∗25、0.95と設定した。各パラメータのカリブレーションの結果は、表17の通りで ある。
表17:構造パラメータのカリブレーション結果
パラメータ名 値 パラメータ名 値 パラメータ名 値
α1 0.800 σ1 0.330 θ1 0.100
α2 -1.500 σ2 0.086 θ2 0.900
β1 0.890 σ3 0.026 φ 0.500
β2 0.300 ρc 0.300 ζ1 1.470
γ 0.333 ρa 0.950 ζ2 1.670
γf 0.333 ρs 0.950 ζ3 0.080
δ 0.330 ρy f 0.300 ζ4 1.116
∗25実際にARモデルを仮定してパラメータを推定したところ0.968と1に近い値が推定された。