第 4 章 再送タイムアウト改良による改善 37
4.5 性能評価
4.5.2 バックオフ機能の改良の評価
本節では,まず,バックオフ機能の改良を使ったTCPについて性能評価を行う.図4.13は,
NS = 256,V = 1 Gbps,S = 64 KB,RTOmin = 0.2 msec,各ポートバッファの容量を40パ ケット分としたときのグッドプットを示す.この図の凡例について,“FGTCP”は指数バックオ フのTCPを,“LNRTCP”は線形バックオフのTCPを,“HYBTCP”は,指数バックオフと線形 バックオフを組合せたハイブリッドバックオフ方式のTCPを,それぞれ意味する.
同図を見ると,これまで見てきたように,アクティブサーバ数が増加するにつれて,FGTCP のグッドプットが低下することが確認できる.一方で,LNRTCPとHYBTCPについては,アク ティブサーバ数が増加してもグッドプットの低下がみられない.また,それらを互いに比較する
と,HYBTCPの方が,LNRTCPよりも性能が若干良いことがわかる.この理由は,再送タイム
アウトが発生するごとに増加するRTOの値が,LNRTCPに比べてHYBTCPのほうが,より小 さく抑えられるため,アイドル状態の出現期間を短縮化することができているからと考えられる.
2つのバックオフの性能差については,各バックオフによって増加するRTOの量が影響している.
すなわち,HYBTCPのRTOの線形増加部分において,その増分がネットワークの最大遅延時間 NDmaxである580µsec(= (40パケット×1500バイト×1hop)/1Gbps + 100µsec)に固定される
ため,LNRTCPよりも,やや増分が小さく(アグレッシブに)なっているからと考えられる.
図4.14は,NS = 256,V = 1 Gbps,S = 256 KB,RTOmin = 0.2 msec,各ポートバッファ 容量を40パケット分としたときのグッドプットを示す.同図を見ると,図4.13とほぼ同じ傾向を 確認できる.
次に,RTOminを0.2msecから5msecに変更したときのシミュレーションについて,グッド
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図4.14: 各バックオフのグッドプット(S=256KB,RTOmin = 0.2msec)
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図4.15: 各バックオフのグッドプット(S=64KB,RTOmin = 5msec)
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図4.16: 各バックオフのグッドプット(S=256KB,RTOmin = 5msec)
プットを図4.15に示す.同図を見ると,アクティブサーバ数が40未満では,どのバックオフ方式 についても性能に差は確認できないが,アクティブサーバ数が40を超えると,グッドプットは,
HYBTCP,LNRTCP,FGTCPの順番に高くなる.この違いについて考察するために,NDmax を求める.このシミュレーションで使用しているネットワークモデルでは,データセンターのネッ トワークのスイッチ数は1つで,また,BaseRTT = 100µsec,V = 1 Gbps,さらに,ポートバッ ファサイズは40パケット分であることから,式(4.1)より,NDmax = 580µsecである.LNRTCP については,再送タイムアウトが発生するたびに,RTOは線形に増加する.すなわち,1回目の再 送のときに設定される再送タイムアウト値は,5 (= 1×5) msecであり,2回目の再送のときに設 定される再送タイムアウト値は,10 (= 2×5) msecになる.一方で,HYBTCPの場合,NDmax
= 580 µsecであるから,1回目の再送のときに設定されるRTOは5msecであるが,2回目の再送 のときに設定されるRTOは5.58msec (= 5 + (2−1)×0.58)である.従って,LNRTCPと比べ た場合においても,HYBTCPはアグレッシブなRTOを設定していることになる.
この性質は,S=256KBのときのグッドプットを示す図4.16を見るように,他のシミュレーショ ンパラメータを用いたときも同じように確認できる.
以上のことから,HYBTCPを用いることで,グッドプットを最も良く改善することが確認でき た.従って,データセンターのネットワークにおいては,HYBTCPを採用することが望ましいと いえる.
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図4.17: 再送要求オプション利用時のグッドプット(S=64KB)