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バイオ燃料政策の現状及び課題

ドキュメント内 (1)2008年農業法制定に至る背景・経緯 (ページ 59-113)

(1)新たな再生可能燃料基準の最終規則案の提案

① 温暖化ガス排出基準を基にバイオ燃料を4分類

2007年12月にエネルギー自立・安全保障法(新エネルギー法)が成立した。この中で、再生 可能燃料基準(RFS)が改定され、バイオ燃料の使用義務量が従来の約5倍の360億ガロンへと 大幅に引き上げられた。この新しい RFS(RFS2)の最終規則案が、環境保護庁(EPA)によっ て09年5月に発表された。

RFS2の最終規則案は、新エネルギー法施行1年後の2008年12月に発表される予定であった が、利害関係者からの強い反対もあり、5 カ月以上遅れてようやく公表された。RFS2 では、4 つのバイオ燃料分類ごとにその使用義務量が規定されている。

トウモロコシ由来エタノールを中心とした従来型バイオ燃料は、2015 年までに 150 億ガロン

(1ガロン=約 3.8リットル)へと義務量が拡大された。これに対し、360億ガロンのうち残り の210億ガロンはトウモロコシ由来エタノール以外の次世代バイオ燃料、「バイオディーゼル(バ イオマス由来ディーゼル)」、「セルロース系バイオ燃料」、「その他の次世代バイオ燃料」という3 分類からの供給拡大が求められている。

なお、2022年における使用義務量、従来型バイオ燃料150億ガロンは最高限度量(ceiling) であり、次世代バイオ燃料210億ガロンは最低限度量(floor)と解釈されている。考え方として は、従来型バイオ燃料の原料となるトウモロコシの主要産地以外において、次世代バイオ燃料の

43201023日の「Agri-Pulsehttp://www.agri-pulse.com/)によると、アーチャー・ダニエルズ・ミッド ランド(ADM)のウォーツCEOは、同2日、2010財政年度第2四半期の決算報告後の記者会見において、

2010年の米国のエタノール業界について楽観的な見通しを示し、20102月現在、全国のエタノール工場全体 では新たな再生可能燃料基準120億ガロンを超過するペースでガソリンへのエタノール混合が進んでおり、25 35セント/ガロンの利益が生じていることを明らかにしたと伝えている。

原料となるスイッチグラス等への作物転換が生じることにより、その原料をカバーすることが期 待、想定されている。仮に、セルロース系バイオ燃料の生産が飛躍的に増加した場合に、総使用 義務量から次世代バイオ燃料使用義務量を引いたときは、従来型バイオ燃料の使用義務量が 150 億ガロンを下回ることとなり、150億ガロンは最高限度量と考えることができる44

また、野心的な4分類ごとの使用義務量と並び、RFS2最終規則案の中心的要素を成すものは、

当該分類ごとの再生可能燃料について、温暖化ガス(GHG)の排出基準を合わせて設定した点で ある。これは、バイオ燃料の持続可能性を考慮して、「再生可能燃料はガソリンや軽油と比較した ライフサイクル(LCA)基準 でGHGを最低20%以上削減しなければならない」という項目が追 加された。

これによって、それぞれの分類に該当するためには、

ア トウモロコシ由来エタノールを中心とした従来型バイオ燃料:20% イ バイオディーゼル(バイオマス由来ディーゼル):50%

ウ セルロース系バイオ燃料:60%

エ イ及びウ以外のその他の次世代バイオ燃料:50% のGHG削減がそれぞれ求められる(表Ⅱ-4)。

表Ⅱ-4 新エネルギー法における再生可能燃料基準

(単位:億ガロン)

総義務量

従来型 (トウモロコシ由来)

バイオ燃料

次世代バイオ燃料 合計 セルロース系

バイオ燃料 バイオ ディーゼル

GHG削減20%以上 GHG削減60%以上 GHG削減50%以上

2008 90.0 90.0 0.0 0.0 0.0

2009 111.0 105.0 6.0 0.0 5.0

2010 129.5 120.0 9.5 1.0 6.5

2011 139.5 126.0 13.5 2.5 8.0

2012 152.0 132.0 20.0 5.0 10.0

2013 165.5 138.0 27.5 10.0

2014 181.5 144.0 37.5 17.5

2015 205.0 150.0 55.0 30.0

2016 222.5 150.0 72.5 42.5

2017 240.0 150.0 90.0 55.0

2018 260.0 150.0 110.0 70.0

2019 280.0 150.0 130.0 85.0

2020 300.0 150.0 150.0 105.0

2021 330.0 150.0 180.0 135.0

2022 360.0 150.0 210.0 160.0

()EPA資料を基にジェトロ作成。

44次世代バイオ燃料の生産が著しく伸び悩む一方、使用義務量全体が維持され、トウモロコシ由来エタノール等 従来型バイオ燃料の生産が順調に伸びて、これを満たすために基準を超えて使用されようとする場合、観念的に は、新エネルギー法で規定されている使用義務量150億ガロンは最低限度量とも解釈し得る。しかし、各分類の 要件(使用義務量、GHG排出基準)において、高い基準を満たした場合はより低い基準の分類での換算が可能で ある一方、その逆は認められない。すなわち、従来型バイオ燃料の使用義務量分を次世代バイオ燃料の使用義務 量として換算することはできない。そもそも150億ガロンという数値は法律には出てこない(20096月エネ ルギー省バイオマスプロジェクト室、同7月農務省エネルギー政策・新規用途室、同12EPA輸送・大気質局

当初、EPAは、2010年1月1日からの施行を予定していた。

このRFS2に対し、業界の反応は分かれた。

エタノールの混合義務を負う米国石油業界を代表する米国石油協会(API)、米国石油化学・精 製協会(NPRA)はともに、施行を1年遅らせ、2011年1月からの最終規則の施行を要望した。

これらは、10年1月からの施行では、発表されたばかりの規則や新たに導入される再生可能燃料 識別番号(RIN)クレジット管理システム45の運用開始までの準備時間が不足しているため、現 実的には対応が不可能であると主張していた。また、NPRAはRFS2の最終規則案を施行した際 の石油業界、消費者や米国経済への影響を定量分析して提示することを EPA に要請するなど、

早期の施行に対して否定的な姿勢を示していた。RFS2の最終規則案公表後、NPRAのホーガン 部長は、「中間選挙前である10年半ばまで施行延期という可能性もある」と語り、この時点から、

10年1月からの施行に懐疑的な見解を示していた。

また、米国バイオ燃料業界を代表する再生可能燃料協会(RFA)や全米バイオディーゼル協会

(NBB)も、最終規則案には否定的見解を示していた。これらは、EPAが採用したLCA、GHG 排出量算出モデルにおけるバイオ燃料の温暖化ガス排出量の算出結果について強い不満を表明。

特に、GHG 総排出量の算出において、「国境を越える間接的土地利用変化」46の影響を考慮すべ きでないと主張した。その理由として、EPAの温暖化ガス排出量計算モデルは7つのモデルが結 合されており、その前提や計算結果に不確実性が伴うことを挙げた。RFAは、「EPAが提案して いるモデルでの算出結果を再現しようとしているが、仮定や前提のデータを公開していないので 実施できない。」と主張するなど、バイオ燃料業界も最終規則案や政府の姿勢に不満を募らせてい た。

これらに対し、農業界、特にトウモロコシ等の需要への期待が大きい穀物業界は、バイオ燃料 の使用量を義務付ける RFS の拡大については積極的に評価。同時に、米国農業の技術力と規模 を背景に、土地利用変化に影響を与えずにバイオ燃料の原料を供給することが可能と主張した。

しかし、GHG総排出量の算出については、「国境を越える間接的土地利用変化」の影響を考慮す べきでないと主張し、この点においてはバイオ燃料業界の立場に極めて近くなっていた。

全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)は、RFSの拡大については、一貫してトウモロコシか らのエタノール生産の際の歩留まりやトウモロコシの単位収量の向上の実現が可能と主張。具体 的には、毎年1エーカー(1エーカー=約0.4ヘクタール)当たり3~4ブッシェル(1ブッシェ

ル=25.401キログラム)の単位収量の増加が可能とする。これによって、毎年2%以上の生産の

増加が可能であり、これを 1.6%程度と分析する EPAと対峙することとなった。また農務省も、

45RIN(Renewable Identification Number):米国内で生産または米国に輸入された再生可能燃料に、1ガロン毎 38文字から成る固有の再生可能燃料識別番号を付与し、この番号に基づいて再生可能燃料クレジット取引が可 能となる。

46 バイオ燃料用作物の生産により、当該土地で従来生産されていた作物が、他国の別の土地で生産されること に伴う土地利用変化。

2010 年2月に公表した長期需給見通し47において、2019/20穀物年度にはトウモロコシの単位 収量(1エーカー当たり)は178.4ブッシェル(2009/10穀物年度165.2 ブッシェル(10年2 月現在))に達するとして、これを側面支援する。

またNCGAは、「国境を越える間接的土地利用変化」の影響については、最新かつ正確なデー タを基にすべきであり、これには多大な努力を要するとして、その実現に懐疑的な見方を示して いた。

② 間接土地利用変化をめぐる議論

RFS2の最終規則案のパブリックコメントは、2009年9月25日に締め切られた(当初は、09 年7月1日までとされていたが60日間延長された)。同規則案には、かねてから穀物、バイオ燃 料業界等からの反対が強かったが、これらの業界は、「非科学的、不確実性」を根拠に反対姿勢を より一層強めた。

GHG の削減値の算定に当たってポイントとなるのが、新エネルギー法の規定に基づいて考慮 しなければならないとされる、「国境を越える間接的土地利用変化」である。

EPA は、2009年 5月に公表した最終規則案において、食料農業政策研究所(FAPRI)48によ るものなど7つのモデルを組み合わせたLCA 基準を基にGHG排出量試算を行った。これは、

米国内のバイオ燃料・穀物の需給のみならず、米国でのこれらの生産増加が他国の生産増加、土 地利用変化につながるとの考え方に基づき、「国境を越える間接的土地利用変化」を取り入れた LCAモデルを採用した。これによると、GHG排出量は全体として増加するとの結論に至る。例 として、トウモロコシ由来エタノール(天然ガス・ドライミル製法)はGHG削減値が16%にと どまり、RFS2の要件を欠くこととされた。

このLCA基準には、新エネルギー法に基づく「祖父条項」があり、2007年12月の同法成立 前に稼働・建設中であったエタノール工場には適用されない。しかし、今後RFS2の使用義務量 を満たしていくうえでは新規工場への大きな制約になる。このため、穀物、バイオ燃料業界等か らは、この基準は非科学的で不確実である、最初に結論ありきで各モデルの都合の良い部分だけ をつなぎ合わせているなどの批判が強まることとなった。RFAは、EPAが09年5月に最終規則 案を公表した直後、GHG削減値が16%にとどまるとされたEPAの試算に対し、「国境を越える 間接的土地利用変化」を考慮しない場合、その削減値は61%になるという試算を示した49

予想どおり、パブリックコメントの締切に際しても、穀物、バイオ燃料業界は、強力な反対の

47 http://www.ers.usda.gov/Briefing/Baseline/

48 連邦議会の助成を受け、1984年に設立されたアイオワ州立大とミズーリ大の連合研究所。例年1月、農産物 市場の長期見通しを作成して連邦議会に報告するほか、政府・団体からの委託研究を多数担う。

49http://www.ethanolRFA.org/objects/documents/2359/impact_of_international_luc_effects_on_EPAs_RFS2.p

ドキュメント内 (1)2008年農業法制定に至る背景・経緯 (ページ 59-113)

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