第 3 章 正孔電子対消滅シミュレーションによる界面欠陥解析 〜 CMOS イメージ
3.6 負バイアス印加による黒沈み増加
図 3.12: トラップサイト状態空間分布Tf 100nsec(Off後500nsec経過後) トラップサイト
準位分布 0.3eV 〜 0.5eV。基板中の不純物濃度分布も図示。
図 3.13: トラップサイト状態空間分布 左図:不純物密度との比較、右図:正孔密度との
比較。
図 3.14: 負バイアスストレスにより生成される欠陥種の説明図。(a)正バイアス印加時の 振る舞い。(b)負バイアス印加時の振る舞い。
いては通常負バイアスストレス印加がされないためにNBTIについてはあまり議論され ていない。またNMOSFETにおける正方向バイアスストレス(PBTI)では、界面準位の 生成はほとんど観測されない。NBTIを説明するモデルとして広く知られているものとし てReaction Diffusion(R-D)モデルが挙げられる [17–19]。これは界面で水素終端していた シリコンダングリングボンドに正孔が捕獲されることで、結合が解離し界面準位が生成さ れ、解離した水素が拡散することで欠陥生成が進行するというモデルである。NMOSFET における正方向バイアスストレスでは正孔が界面に蓄積されないため、界面準位生成はあ まり起きないと考えられている。上記モデルに基づけば、NMOSFETにおいても負バイ アスストレス印加によって正孔が界面に蓄積され、界面準位生成は起こることとなる。
よってCISに見られるReadトランジスタの負バイアスストレス印加による黒傷の増加 は、NBTIによる界面準位増加が原因であると推測される。実際、H. SasakiらはReadト ランジスタ内のGated diode部のリーク電流値を測定し、NBTIにより界面準位が増加し ていることを確認した[6]。但し、PMOSFETにおいては界面準位増加により閾値シフト が見られるのに対して、NMOSFETにおいては界面準位は増加するが、閾値シフトはほ とんど観測されていない。ここから負バイアス印加により生成される欠陥種は以下の3つ が候補として考えられる。ゲートに正バイアスを印加した際に、1:電子が捕獲され中性 となる欠陥、2:捕獲されていた正孔が電子と対消滅することで中性となる欠陥、3:捕獲さ れていた正孔がデトラップし中性となる欠陥(図3.14)。上記のうち、3の捕獲されてい た正孔がデトラップし中性となる欠陥、ではデトラップ後の正孔はSi基板に流れるだけ であるため、黒沈みへの影響はなく、負バイアス印加による黒沈み増加を説明することは
出来ない。よって負バイアス印加により生成される欠陥種は、正バイアス印加時に1: 電 子が捕獲され中性となる欠陥、または、2: 捕獲されていた正孔が電子と対消滅すること で中性となる欠陥、のいずれかもしくはその両方ということになる。但し1の場合、負バ イアス印加時に電子がデトラップしFDに戻る場合は黒沈みには寄与しないため、黒沈み に寄与するには、負バイアス印加時に捕獲電子が正孔と対消滅する必要がある。これはま さに先にシミュレーションで仮定していた欠陥種であり、エネルギー準位はSiのバンド ギャップ内に分布する。2の欠陥種の場合、黒沈みを説明する描像としては負バイアスに よってあらかじめ捕獲されていた正孔が正バイアスにより電子と対消滅し、結果的にFD 内の電子が減少し光量が低下する、というものとなる。正孔が正バイアス印加時にデト ラップせずに電子と対消滅するようなエネルギー準位はSiの価電子帯(-0.5eV)よりも高 いエネルギー領域となる。Siの価電子帯よりも低いエネルギーでは、正バイアス印加時 に電子との対消滅よりもSiの価電子帯への正孔放出のほうが支配的になる。またSiの伝 導体よりも高いエネルギー準位では正孔の捕獲、つまりSiの価電子帯への電子放出より も、Siの伝導体への電子放出のほうが支配的になる。結果的に、2の負バイアス印加時に 正孔捕獲がおこり正バイアス印加時に電子との対消滅が起こる欠陥種はSiのバンドキャッ プ内の欠陥種となる。これは結局1の正バイアス印加時に電子が捕獲され、負バイアス印 加時に正孔と対消滅する欠陥種と同じエネルギー準位分布となる。いずれもSiの伝導体 から電子が捕獲され、Siの価電子帯へ電子が放出される、という過程であるためここで は区別する必要はないと考える。以上から、Siのバンドギャップ内のエネルギー準位をも つ界面近傍の欠陥種が負バイアスストレスにより生成されていることで、負バイアススト レスによる黒沈みが増加していると考えられる。
図 3.15: CVおよびelectro paramagnetic resonance実験から求めたPbセンターおよび界 面準位のエネルギー分布 [23]
界面近傍の欠陥の候補としては、第一章で述べたPbセンターなどの界面準位が候補と
なる [20–23]。これらのエネルギー準位は第一原理計算や実験からSiの価電子帯、および
伝導体近傍に位置することが分かっており(図3.15 [23])、黒沈みの原因となる欠陥種も同 様のエネルギー分布となっていることが予想される。これらの欠陥種を同定するには、例 えば前節で述べたように、印加パルスの立ち上げ、立下げ時間に応じた黒沈みの変化を測 定することで、エネルギー準位分布を抽出するなどが必要となり、今後の課題である。