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6.1 緒言

近年、地球温暖化や大気汚染などの環境問題の観点から、自動車に対する CO2排出量削 減や燃費規制が強化されるなかで、自動車業界ではハイブリッド自動車(HEV)や電気自動 車の開発と実用化が急速に進展している。これらに使われるモータには小型化、高出力化 や高効率化が求められるため、永久磁石同期モータ(PMSM)が多く採用されている。

しかし、誘導モータの場合と異なり、PMSM では磁石による交番磁界のためモータの回 転中は常に鉄損が生じる。特に発進や加速時のトルクアシストを基本仕様とし、高速回転 時にはアシスト機能がない HEV 用 PMSMの場合、高速回転時の無負荷鉄損が大きいとハ イブリッド化による効率向上効果が損なわれる。したがって、モータ形状の最適化や鉄心 素材の改善による鉄損低減が求められている。

また、PMSMは高効率や優れた動的特性のために広い分野で用いられているが、そのな かでステータ巻線が集中巻のものは、p をロータの磁極数、Nsをステータのスロット数と する時、Ns = 1.5 × pの関係にある1磁極当りのスロット数が1.5である型(本章では「従来 型」と呼称) が最も普及している。しかし、最近、Ns = p ± 1, p ± 2 (Nsは3の倍数)で表さ れる磁極数とスロット数の関係が従来型と異なるモータ(本章では「モジュラー型」と呼称) が、実用に供されつつある(56)(57)。このモジュラー型 PMSMは、従来型PMSM よりも下記 の点で優れている。

第一に、モジュラー型 PMSM では隣り合って連続する数ティースが同一相であるため、

巻線状態での異相の重なりを無くすことができる。これはモータ製造の観点から有利であ るし、巻線占積率が向上するためモータ効率を高くすることができる。また、相間干渉に よるモータ故障の可能性を低減することができる。

第二に、上述した磁極数とスロット数の関係からわかるように、モジュラー型PMSM で は与えられた極数に対してスロット数を少なくすることができる。したがって、巻線領域 を広く取れる、ステータのティース幅の変更余地が大きい等、モータ設計上の自由度が大 きいというメリットがある。

第三に、モジュラー型PMSMでは極数とスロット数の最少公倍数を大きくする組み合わ

くすることができる(57)(58)

上記観点から、モジュラー型PMSMを自動車の駆動用モータとして採用する利点は大き いと考えられる。しかし、従来型 PMSMでは、通常、永久磁石内部での渦電流損は無視で きる程度に小さいと考えられているが、モジュラー型 PMSM では非常に大きくなる可能性 がある。すなわち、従来型 PMSMの場合、ステータ電流による時間高調波と巻線配置によ る空間高調波は一般的に小さいのに対し、モジュラー型 PMSM ではステータ起磁力に多数 の低次高調波成分が含まれる。したがって、負荷時にはこれが原因となって磁石部で大き な渦電流損が発生する恐れがある(59)(60)

ロータで発生する損失については、ロータを電磁鋼板の積層ではなく、塊状の材料で構 成した場合は渦電流損が非常に大きくなる(60)。また、第5章で述べたように、電磁鋼板を 用いた場合もロータ鉄損のほとんどは渦電流損である。すなわち、モータでは、ロータと ステータの構造に起因する数多くの時間および空間高調波が発生し、これらの高調波によ ってステータ、ロータ、永久磁石などで高調波損失が発生する。ゆえに、モータタイプに よるステータ起磁力波形の違いを把握し、計算対象は異なるもののロータ磁石部に発生す る渦電流損について検討することは、電磁鋼板に発生する渦電流を直接考慮した渦電流損 計算への展開につながる(61)。さらに、従来型 PMSM とモジュラー型 PMSM を対象にモー タ損失の比較を行うことは、モータタイプ選択の観点から有益である。

また、表面磁石型同期モータ(SPMSM)と異なり、一般的に埋込磁石型同期モータ(IPMSM) ではリラクタンストルクが利用できる。したがって、IPMSMでは、SPMSMの場合と同じ トルクを発生させるのに必要な鎖交磁束を小さくできるので、これを利用して鉄損低減を 図ることができる。ゆえに、モータタイプ選択のためには、SPMSMとIPMSM の特性比較 を行うことも重要である。

本章では、最大パワーが求められる 1700min-1 時に同一電流で同一トルクが生じるとい う条件で設計した 22極 24スロットのモジュラー型 SPMSMと24 極36 スロットの従来型

SPMSM のロータ磁石部で発生する渦電流損について、解析モデルおよび有限要素法を用

いた計算で検討する。さらに両タイプについて、高速回転時(6000 min-1)のステータ無負荷 鉄損に及ぼす SPMSMと IPMSMの違いの影響を検討する。

6.2 HEV用アシストモータの基本設計

対象モータは、3リッター・エンジンを1.8リッターのターボ付エンジンに置き換えるこ とで、エンジンのダウンサイジングによる燃費向上を狙った HEV 用である(62)。モータ性 能は、図6.1に示す上記エンジンの性能差から決定され、主目的はエンジン回転数3000min-1 以下でのトルクアシストである。このモータは、クラッチとエンジンの間に設置されるた め、モータ回転数はエンジン回転数と一致する。

モータの基本設計は、内・外径が同じという制約下で、最大パワーが求められる1700 min-1 時に同一電流(500A)で同一トルク(105Nm)が生じるという条件で行った。22極24 スロット のモジュラー型 SPMSMと 24極36スロットの従来型 SPMSMの模式図を図6.2、それらの 諸元を表 6.1に示す。磁石部渦電流損の解析は、両者を対象に行った。

IPMSM の磁石配置については、従来型の場合、円弧型(Type A)、長方形型(Type B)、V

字型(Type C)の3条件について検討した。設計した従来型 IPMSMの模式図を図6.3、それ らの諸定数を SPMSMも含めて表 6.2に示す。従来型 IPMSMの q軸インダクタンス Lqとd 軸インダクタンス Ldの比 Lq/Ldは1より大きいので、リラクタンストルクを利用できるこ とがわかる。したがって、IPMSMでは、SPMSM より永久磁石による鎖交磁束(Ψm)を小さ くすることができる。表6.2から、V字型磁石配置の場合にLq/Ldは最も大きく、したがっ て Ψmも最も小さいことがわかる。

モジュラー型 IPMSM については、円弧型磁石配置の場合のみを検討した。設計したモ ジュラー型 IPMSM の模式図を図6.4、その諸定数をSPMSM との比較で表6.3に示す。電 流振幅値(Ip)=500Aの場合、モジュラー型IPMSMのLq/Ldは1より小さく、リラクタンス トルクを得られないことがわかる。

モジュラー型IPMSMでのLq/Ldに及ぼす電流値の影響を計算した結果を図6.5に示すが、

電流値の増加とともに Lq/Ldは小さくなり、Lq>Ldの逆突起性も失われている。モジュラー

型 IPMSM でリラクタンストルクを得られにくい原因は、隣り合って連続する数ティース

が同一相であるために、従来型の集中巻よりも更に局部的な磁気飽和が発生しやすいため と考えられる。したがって、モジュラー型では、IPMSM を採用する利点は少ないと言える。

図6.1 3Lエンジンと 1.8Lターボ付エンジンのトルク-回転数特性の比較

(a) 22極 24スロットのモジュラー型

(b) 24極36スロットの従来型 図6.2 設計したSPMSMの模式図

-A -A

A -C

A A

A A

-A -A B B -B A

C -B

B B -B -B

C C

-C -C

-C -C

-A C

-A B -A -A

A A

-B -B B B -B -B B -C

C C

C C -C

-C Phase -B

Ph ase A Phase C

Phase -C h P

e as -A

Phase B

Phase C Phase B Phase A

Rs

Rm

Rr

0 50 100 150 200 250 300

0 1000 2000 3000 4000 5000

Speed (min-1)

Torque (Nm)

3.0L NA 1.8L TC

表6.1 設計したSPMSMの諸元

(a) 円弧型配置 (Type A) (b) 長方形型配置 (Type B) (c) V字型配置 (Type C) 図6.3 磁石配置が異なる従来型( 24極 36スロット)IPMSMの模式図

表 6.2 従来型(24極36スロット)SPMSMと IPMSMの諸定数

Top ology M odular Conventional

Pole number 22 24

Slot number 24 36

M agnet resistivity (μΩ-cm) 70 70 Peak current to produce

105 Nm torque (A) 500 500

Air gap (mm) 1.6 1.6

Item SPM SM Ty p e A (IPM SM ) Ty p e B (IPM SM ) Ty pe C (IPM SM )

Te (rated torque, Nm) 105 105 105 105

Ip (rated p eak current, A) 500 500 500 500

Ψm (×10-2 Wb) 1.189 1.171 1.161 1.130

Ld (μH) 7.76 10.66 10.98 11.94

Lq (μH) at Ip= 500 A 7.74 15.47 17.17 20.50

Lq/Ld 1.00 1.45 1.56 1.72

Air gap (mm) 1.6 1.0 1.0 1.0

表6.3 モジュラー型(22極 24スロット)SPMSMとIPMSMの諸定数

図6.5 22極24スロットIPMSMの Lq /Ldに及ぼす電流値の影響

6.3 HEV用アシストモータのロータ磁石部渦電流損の解析

6.3.1 解析モデルによる渦電流損の算出法

ロータ磁石部で発生する渦電流損の解析計算モデルは、ステータのティース部ひとつお きに巻線が施されているモジュラー型 SPMSM を対象に Atallah らが検討した方法(59)を、

図 6.2に示すモジュラー型および従来型 SPMSMに適用した。

このモデルでは、ステータおよびロータ鉄心の透磁率は無限大であり、渦電流は電気抵 抗率によって決定されると仮定している。なぜなら、解析対象のモータでは永久磁石の電 気抵抗率は比較的、小さいからである。したがって、誘起される周波数での表皮厚さは、

磁石弧の長さおよび磁石厚みよりも大きいことを前提にしている。

ステータの起磁力波形は、図 6.2 に示した巻線配置を考慮し、ティース部に巻線された コイルの起磁力分布を矩形波と仮定するとフーリエ級数の形で表現できる(63)。すなわち、

ステータ巻線を等価な電流シート(J)で現すと、3 相モータについては次式で表すことがで きる(59)

Item SPM SM IPM SM

Te (rated torque, Nm) 105 105

Ip (rated p eak current, A) 500 500

Ψm (×10-2 Wb) 1.335 1.383

Ld (μH) 17.65 28.84

Lq (μH) at Ip= 500 A 15.12 28.10

Lq/Ld 0.86 0.97

Air gap (mm) 1.6 1.0

0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3

100 300 500 700

Ip (A)

Lq/Ld

Ip(A) Lq/Ld

0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3

100 300 500 700

Ip (A)

Lq/Ld

Ip(A) Lq/Ld

m k n

m k n t p n J

m k n t

p n J t

J n r

n

r n

n

3 0

) 3 ( ),

2 cos(

3

) 3 ( ),

2 cos(

3 )

,

(  

(6.1)

ここで、nは調波成分の次数、prはロータ磁石の極対数、ωはロータの角速度を示す。

また、Jn = {(2Ns Im) /(πRs)}×Kwn であり、Ns、Im、Rs は各々、同一電流相を直列接続したと 想定した時のコイル巻数、ピーク電流値、ステータ内周部の半径である。さらに、Kwn は 巻線係数を示す。m は±1の値を取るが、22極24 スロットのモジュラー型ではm =1、24 極 36スロットの従来型ではm =-1である。

モジュラー型SPMSMのステータ起磁力波形の分布スペクトルを図6.6、従来型SPMSM のそれを図 6.7に示す。モジュラー型では、22 極のロータ磁石と相互作用してトルクを生 み出す 11次調波成分以外に、5、7、13、17、19 次の低次成分および35、37 次などの大き な高次成分が存在することがわかる。5、7、13 次などの低次高調波成分は、磁石部に大き な渦電流損を発生させる原因となりえる(59)

図6.6 22極 24スロット・モジュラー型SPMSMの起磁力波形のスペクトル 0

10 20 30 40 50

1 11 21 31 41 51 61 71 81 91

Harmonic number

Normalized MMF

0 10 20 30 40 50 60

1 12 23 34 45 56 67 78 89 100

Harmonic number

Normalized MMF

磁石1個に発生する渦電流損は、

1

) (

n

an

mag Pcn P

P (W/m) で示される。ここで、Pcn

よび Pan は各々、次のように表される。

2 2 2

2 2 2

2 2

2 2

2 2

2 2

1 ) (

) 1 2 2 ) (

8 ( 9

2 2

2 2







 





 



 





 









 





 

 

 

n

m r r

m s s n r r s s r m

r m

s zn

s m r

n o

cn R

R R R R R

F R R R R

R R

R n

R R R p R

n n P J

n n

n

 

 

但し、

   

 





 

 

1 /

ln 2 1 2

1

/ 2 2

n for R

R

n n for

R F R

r m

n r m

n

(6.2)

 

2

2

2 2 2 2 2 2 2

2 2 4

4 2

/ 1 ) (

2) ( sin ) 1

2 ) (

9 (

n s r r m n r s n

s r n

m r m

s n

s m r

n o

an R R R R

n G

R R R R R

R n

R R R p R

n n P J

 





 











 



 

 

 

 

 

但し、

   

 





 

 

2 /

ln 2 2

1

/ 2

n for R

R

n n for

R G R

r m

n r m

n

(6.3)

ここで、“ – ” はn=3k+m の場合に、“ + ” はn=3k-m の場合に適用される。また、RrRm は各々ロータ磁石の内周部と外周部の半径、αは磁石1個の機械角、ρは磁石の電気抵 抗率である。

6.3.2 渦電流損の計算結果および考察

上述の解析モデル、および有限要素法による渦電流損の計算を 1700min-1 の条件下で周 方向の磁石分割数を変えて行った。なお、負荷時の電流波形は正弦波とした。また、ステ ータの開口スロット幅の存在は、ギャップ磁束密度の脈動(以下、スロットリプルと呼ぶ) によって磁石部に渦電流損を発生させるが(64)、その大きさはスロット幅や極数とスロット 数の組み合わせに依存する。そこで、開口スロット幅を変えた計算も行った。

図 6.8 にモジュラー型、図 6.9 に従来型の場合のロータ磁石部に発生する渦電流損に及 ぼす磁石分割数の影響を示す。負荷条件において 1極の磁石を分割しない場合、モジュラ ー型では約 2kW、従来型でも約 1kW という大きな渦電流損の発生が、有限要素法による 計算(以下、FE計算と呼ぶ)で予測されるが、磁石を周方向に分割することで渦電流損を効 果的に低減できることがわかる。モジュラー型で、磁石分割数が 1、2の場合の渦電流損分 布(FE計算結果)を図6.10 に示すが、磁石分割により磁石端部の渦電流損が低減しているこ とがわかる。

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