ニーズもディマンドも経済学で用 いられる用語であるが,今回の場合 は,保健医療のニーズとディマンド を意味している。従って,ニーズを 有病者・治療必要者と,ディマンド を受診者と言い換えることができよ う。これらの用語は,いずれも需要 と訳されるが,最近はこのように表 記されることが多い。たとえば,瀧 口は,介護保険対応型歯科保健医療 ハンドブック(永末書店,1999)の 中で,医療需要を考える場合のニー ドを疾患量,治療必要度であり,し かも客観的,科学的に判定された疾 患すべてと述べている。また,ディ
マンドは顕在化した医療需要,治療 要求と説明している。これは,介護 の必要な場合のみでなく,すべての 年代に共通に用いられる。従って,
歯科疾患実態調査は科学的に判定さ れた口腔内の疾患量であるためニー ズを表しているが,これはすべて治 療につながっているわけではない。
これは,客観的に判定された 疾 患
(ニ ー ズ)に は,自 覚 症 状 が な い 者,自覚はあるが医療を必要 と せ ず,がまんしたり,市販薬で対応し たりする者が含まれているためであ る。その理由として,経済的な問題 や,医療へ不信感や恐怖などがある と考えられている。これらを除き,
医療を受診して医療費を支払おうと する意志のある場合がディマンドで ある。この他に,ニーズはないが医 療を欲するような過剰な医療を要求 する傷病者の問題も指摘されてい る。
(青山 旬,宮武光吉
〔本文37,38頁〕)
歯根尖部における根管閉塞
根管の拡大・形成は根管処置の主要な部分を占めてい る。根管口部から根尖孔部までを教科書通りに拡大・形 成できれば理想であるが,実際の臨床では努力しても根 尖孔までの穿通が不能な症例が少なくない。その理由と しては,根管の著しい湾曲・分岐・石灰化などが挙げら れている。しかし,歯根尖部はもともと湾曲しているこ とが多く,手術用実体顕微鏡による精査やエックス線写 真などから in situ における患歯根尖部の根管形態を正 しく把握することは困難である。こうした背景から,電 気的根管長測定(EMR)装置を用いて根尖部における 根管形態を診断しようとする試みが登場した。すなわ ち,根管内に次亜塩素酸ナトリウム溶液などの電導性溶
液を満たし,EMR のための回路を組んだ後,EMR 装 置の示すメーター値を読み取る方法である。根管が著し く石灰化している場合には,メーターはほとんど振れな い。これに対し,根管が明瞭に存在するにも拘わらず,
根管の湾曲が原因で根管が穿通できない症例では,メー ターが根尖指示値に近い値を示す。この診断法を応用す れば,根尖孔までの根管穿通が困難な症例に遭遇した場 合でも,最良の decision-making が可能となる。なお,
根尖孔までの穿通率は,抜髄よりも感染根管治療の場合 の方が低く,とりわけ再根管治療症例では穿通率が著し く低いと報告されている。
(須田英明)
トピックス
《解 説》 日本歯科医学会常任理事 瀬戸%一
日本歯科医学会は毎年歯科医学から優れた研究に対し て助成金を出しております。ほぼ完成に近い研究に対し て報奨の形で出される委託研究課題としては2題が厳選 されます。一方総合的研究推進費課題は,毎年1月に開 催される「歯科医学を中心とした総合的研究を推進する 集い」に応募し,選ばれた10題の萌芽的研究に対して,そ の後共同研究が生まれ,申請されたものに助成されます。
本年は多くの応募の中から下記のように,総合的推進 費課題には,保存修復領域から2題が選ばれ,それぞれ
高齢者,訪問診療用への応用,また象牙質再生を促進す るという,時代のニーズに応える材料,治療法の意欲的 な研究です。委託研究課題としては,誤嚥の診断予防,
義歯裏装材の応用,ならびに象牙質のレーザー切削に関 する斬新な研究が選ばれました。
「委 託 研 究 課 題」「総 合 的 研 究 推 進 費 課 題(推 奨 研 究)」「歯科医学を中心とした総合的な研究を推進する集 い」の募集は4〜6月に分科会・大学・歯科医師会など を通じて募集が行われますので奮って応募していただ き,歯科研究の発進源となる優れた研究が,続々と生ま れることを期待しております。
#.平成12年度委託研究課題
口腔乾燥症患者の口腔管理に関する研究 東京医科歯科大学大学院口腔機能再建学分野 ! 橋 雄 三 食塊の流れからみた咀嚼機能評価法 東京医科歯科大学大学院咬合機能制御学分野 石 田 哲 也 幼若永久歯の萌出後の成熟に関する研究
― 下顎中切歯を対象にしたエナメルバイオプシーによる分析 ―
北海道医療大学歯学部小児歯科学講座 松 本 大 輔
$.平成12年度総合的研究推進費課題
介護保険制度における口腔保健ケア・サービス体制に関する調査研究 東京歯科大学衛生学講座 杉 原 直 樹 歯科領域疾患患者に見られる心理特性に関する調査並びに心理調査票の開発
東京医科歯科大学歯学部附属病院顎関節治療部 木 野 孔 司
Ⅲ.平成13年度委託研究課題
研究課題「歯科医療における誤嚥の診断・予防およびその対策」
〈研究代表者〉 広島大学歯学部顎口腔医療学講座 谷 本 啓 二
〈研究分担者〉
" 九州歯科大学歯学部口腔微生物学講座 西 原 達 次
# 徳島大学歯学部歯科補綴学第一講座 市 川 哲 雄
$ 昭和大学歯学部第一口腔外科学講座 道 脇 幸 博
研究課題「義歯床用軟質裏装材の応用効果」
〈研究代表者〉 鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座 細 井 紀 雄
〈研究分担者〉
" 広島大学歯学部口腔機能修復学講座 濱 田 泰 三
# 広島大学歯学部口腔機能修復学講座 村 田 比呂司
$ 広島大学歯学部附属病院第一総合診療室 田 口 則 宏
% 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 早 川 巖
& 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 守 澤 正 幸
' 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 平 野 滋 三
( 鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座 米 山 喜 一
) 鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座 東 條 敏 明
研究課題「歯牙硬組織切削用レーザーによる象牙質切削に関する研究」
〈研究代表者〉 広島大学歯学部口腔機能修復学講座 新 谷 英 章
〈研究分担者〉
" 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 黒 " 紀 正
# 東京歯科大学歯科保存学第三講座 平 井 義 人
$ 大阪歯科大学口腔治療学講座 戸 田 忠 夫
% 広島大学歯学部口腔機能修復学講座 岡 崎 正 之
& 広島大学歯学部顎口腔医療学講座 高 田 隆
Ⅳ.平成13年度総合的研究推進費課題
〈テーマおよび研究代表者〉
試作光硬化型グラスアイオノマーの高齢者用および訪問診療用修復材としての可能性
岡山大学大学院医歯学総合研究科生体材料学分野 入 江 正 郎
新しいう!治療法を求めて:保存修復から象牙質再生への新展開
岡山大学大学院医歯学総合研究科歯科保存修復学分野 吉 山 昌 宏
R ESEARCH
リサーチはじめに
口腔乾燥症は口腔内が乾燥している状態を示す症状 名であるが,実際には疾患名としても用いられてい る。
口腔乾燥症患者は,口が乾いてよく水を飲む,ク ラッカーサインと呼ばれる乾いた食べ物がのみ込みに くい,食事が美味しくない,長い会話ができないなど の自覚症状を訴える。さらに,「重大な病気でしょう か?」,またストレスが溜まる,生活が楽しくないな どと生活全般への不安感,不満を訴える。
受付:2001年12月10日
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
1)研究代表者,口腔機能再構築学系 口腔機能再建学講座 口腔機能再建学分野
2)口腔機能再構築学系 摂食機能保存学講座 う#制御学分 野
3)口腔機能再構築学系 口腔機能再建学講座 口腔機能再建 学分野
4)老化制御学系 口腔老化制御学講座 口腔老化制御学分野
5)口腔機能再構築学系 口腔機能再建学講座 分子免疫学分 野
R ESEARCH
リサーチ平 成 12 年 度 委 託 研 究 課 題
口腔乾燥症患者の口腔管理に関する研究
― 特に,口腔乾燥症患者の臨床分類とカリエスリスクの検索について ―
" 橋雄三
1),大槻昌幸
2),目黒こずえ
3),戸田ひとみ
3),福永暁子
4),
田上順次
2),植松 宏
4),東 みゆき
5)抄
抄 録録 口腔乾燥の自覚症状をもつ口腔乾燥症患者,男性2名および女性65名の計67名を対象 に,$臨床分類,%カリエスリスクの評価を行った。
$臨床分類は,口腔乾燥症患者の口腔検査(ガム試験,シアロ MRI,唾液腺造影撮 影,唾液腺 scintigraphy,口唇腺生検),眼科的検査(Schirmer 試験,ローズベンガル試 験,蛍光色素試験),血清中の自己抗体(Ro/SS-A,La/SS-B 抗体)を測定し,結果か ら,Sj!gren 症候群改訂診断基準(1999年)を満たすものは Sj!gren 症候群,診断基準に は入らないが唾液分泌機能低下(ガム試験10分間に10!以下)を認めるものは口腔乾燥 症,診断基準も満たさず唾液分泌機能低下も認められないものは他覚的口腔乾燥症なし,
の診断によった。%カリエスリスクの評価は,分泌唾液量,唾液の緩衝能,唾液中ミュー タンス菌数,乳酸桿菌数およびカンジダ菌数を測定し行った。
$Sj!gren 症候群患者は47名(70.1%),原因不明,薬物性,Mikulicz 病などの口腔乾 燥症患者は14名(20.9%)であった。他覚的口腔乾燥症状なしは6名(9.0%)であっ た。%Sj!gren 症候群患者は修復歯数と喪失歯数が多く,また補綴処置も多かった。齲#
の多くは歯頸部に生じていた。重度の歯周病は認められず,口腔清掃状態も良好であっ た。唾液分泌量は健常者(1〜3!/min)と比べ,Sj!gren 症候群患者で0.4!/min,
口腔乾燥症患者で0.54!/min と少なかった。唾液緩衝能は,それぞれの患者の1/3から 半数が低い(Low)と判定された。ほとんどの患者の唾液中に多くのミュータンス菌が存 在した。乳酸桿菌は1次性 Sj!gren 症候群の患者14名(35%)の唾液中から多量に検出さ れた。唾液中カンジダ菌の検出率は低かったが,検出された患者は可撤式有床義歯を装着 していた。
口腔乾燥感を自覚する約90%の患者が,他覚的所見から口腔乾燥症と診断された。
Sj!gren 症候群と口腔乾燥症患者は,高い DMF-T を示し,それに相応するように,唾液 分泌量の減少,唾液緩衝能の低下,ミュータンス菌,乳酸桿菌が多量に認められ,高いカ リエスリスクであった。
キ
キーーワワーードド 口腔乾燥症,Sj!gren 症候群,口腔ケア,カリエスリスク,口腔粘膜疾患