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1  学校制度及び教育課程の基準

戦後の東西分割時代を経て1990年10月に再統一されたドイツは、16州(旧西ドイツ11州、旧 東ドイツ5州)から成る連邦国家である。ブレーメン、ハンブルク、ベルリンは歴史的経緯もあり、大都 市 圏 が州 の資 格 を有 している。ヨーロッパ連 合 (Europäische Union, EU)の統 合 推 進 により、特 に 1980 年 代以 降 、教 育 政 策 や教 科 内 容 に「(国境 を超 えた)ヨーロッパの次 元 」を取 り入 れる改 革 の 動きが顕著である。EU加盟国中、ドイツ人約8,200万人(ドイツ語母語話者は約9,000万人、人口 比で最多)、次にイギリス、フランスが約 5,900万人、イタリアが約 5,800万人と続く。東欧加盟により EU 内でのドイツ語の比重は高くなることが予想されているが、ドイツ各州は外国語教育の促進で市 民 の移 動 能 力 を高 め、複 数 文 化 と多 様 な価 値 観 が共 存 する社 会 での共 存 ・競 争 能 力 の育 成 に努 めている。

(1)学校制度の概要 

図1  ドイツの学校制度 

ドイツでは、連邦国家の特徴として文部行政権が各州に所属し、初等から高等教育に至 るまで教科書検定等も含め全て各州の文部省あるいは研究科学省が管轄する。同時に、相

互の調整・審議機関として(常設)文部大臣会議(Ständige Konferenz der Kultusminister der Länder in der Bundesrepublik Deutschland)が定期的に開催され各州大臣が一年の持ちまわり で議長・代表役を務める。中央の連邦政府には教育・科学省があり、文教政策では連携し ている。

戦後(西)ドイツは、周知のように日本と異なり連合軍の占領政策に基づく学校制度の 単線化への改革を拒否し、図1のように複線型の教育制度を維持した。全日制の義務教育 年限は、1学年から9または 10学年までである。

ア.初等教育 

  小 学 校 (Grundschule, 基 礎 学 校 )は全 ての子 どもが通 い、通 常 4年 制 であるが、戦 後 4連 合 国 統 治 が続 いたベルリン、旧 東 独 のブランデンブルク州 は6年 制 である。4年 修 了 後 中 等 教 育 へ進 むが、

この段 階 の学 校 は複 線 型 教 育 制 度 をとり、子 どもの能 力 ・資 質 に応 じて親 権 者 、教 師 、子 どもが相 談 して、実 質 的 には図 1のように基 幹 学 校 、実 科 学 校 、ギムナジウムの3種 の学 校 から選 択 し進 学 先を決める。

イ.中等教育(中学校、高等学校) 

5年生 から開 始される中 等教育 段階 は既述のように3学校 種 に分かれているが、最 初 の2年間は

「 オ リ エ ン テ ー シ ョ ン 段 階 」 と さ れ 、 学 校 間 の 移 動 が 容 易 に さ れ て い る 。 3 学 校 種 は 、 基 幹 学 校

(Hauptschule, 5〜9年生の5年制、あるいは5 〜10年生の6年制、基幹学校修了資格取得可能)、

「 実 科 学 校 」 (Realschule, 5〜10 年 生 の 6 年 制 、 中 級 修 了 資 格 取 得 可 能 ) 、 「 ギ ム ナ ジ ウ ム 」

(Gymnasium, 5〜13年生の9年制、旧東独の州では5〜12年生の8年制もある)である。なお、ギム ナジウムはヨーロッパ統合の過程で、後述のように次第に8年制へ移行しつつある。

ギムナジウムでは通 常 、言 語 系 (古 典 語 ・現 代 語 系 )、自 然 科 学 系 にコースが分 かれ、上 級 学 年

(11〜13 年)では教養 教育 と並 行 して高 等教 育段 階での専門 領域を考慮した科 目選 択制 が実施 される。11年生で方法論等一般的な導入がなされた後、12〜13年生で「基礎コース」(Grundkurs)

と専 門 性 を深 める「重 点 コース」(Leistungskurs)に分 けてそれぞれ科 目 を選 択 し履 修 する。その際 、 領 域 は、言 語 ・文 学 ・芸 術 系 、(哲 学 、歴 史 、地 理 、政 治 、経 済 等 の)社 会 科 学 系 、(数 学 、物 理 、 生物、情報等の)数学・自然科学・工学系の3分野に分かれている。

後期中等教育段階に関しては、基幹学校・実科学校を修了すると、通常、職業教育 と一般教育 が並 行 する「二 元 制 度 」(Dualsystem)の教 育 期 間 に入 り、企 業 ・工 場 等 で職 業 研 修 を受 けつつ週 に1〜2日 職 業 専 門 学 校 (Berufsfachschule、通 常 、基 幹 学 校 修 了 生 が進 学 )や上 級 職 業 専 門 学 校(Berufsoberschule、通常、実科学校修了生が進学)等に通い、外国語を含めた一般教育と主に 理論面を中心とする職業教育を受ける。

ギムナジウムは一 般 教 育 課 程 で後 期 中 等 教 育 段 階 までを有 する唯 一 の学 校 種 で、修 了 試 験 に 合格すると「アビトゥア」(Abitur、高等学校修了資格)が得られ、専門単科大学(Fachhochschule)、

総合大学(Universität)への進学も可能となる。

「総 合 学 校 」(Gesamtschule、6年 制 、後 期 課 程 を併 設 する場 合 は9年 制 )は、教 育 改 革 の過 程 で 1969 年ドイツ教育審議会により、3学校種を統合し教育格差を是正し、将来の進路選択を前期 中 等 教 育 修 了 以 降 に延 ばすことが目 的 で導 入 され、社 会 民 主 党 (いわゆる「革 新 系 」)が政 権 を担 当する傾向にあるノルトライン・ヴェストファーレン(州都はデュッセルドルフ、人口は 1,800 万人強で

連 邦 州 1位 、地 域 分 散 型 のアビトゥアを実 施 )等 の諸 州 で広 がった。他 方 、キリスト教 民 主 同 盟 (い わゆる「保 守 系 」)が政 権 を担 当 する傾 向 が強 いとされるバーデン・ヴュルテンベルク(南 西 部 にあり 州都はシュトウットガルト、人口約 1,050万人で第3位、州統一型のアビトゥアを実施)等の諸州では 支持を得られにくかった。1990 年代後半全国的に見ると、総合学校はあまり普及していない。他方、

統 一 後 の学 制 改 革 で旧 東 独 のザクセンやテューリンゲン等 の州 は、3分 岐 制 の学 校 種 の中 でギム ナジウムと、それ以 外 の基 幹 学 校 と実 科 学 校 を統 合 した「中 学 校 」(Mittelschule)や「通 常 学 校 」

(Regelschule)を創設している。

2001 年 度 の各 修 了 資 格 の取 得 者 数 が同 年 齢 層 に占 める割 合 は以 下 のようで、中 級 修 了 資 格 取得者が相対的に多いことが分かる。

表1  中等教育段階の修了資格取得者が同年齢層に占める割合(2001 年) 

修了資格 実 数(人) 同年齢層総数(人) 取得者が占める割合(%)

資格不取得 88,522 912,678 9.7 基幹学校修了資格 282,265 912,678 30.9

中級修了資格 449,128 907,648 49.5 高等学校修了資格

(アビトゥア)

専門大学入学資格 99,884 950,884 10.5 総合大学入学資格 243,142 950,884 25.6

(常設文部大臣会議公刊  統計資料,No.164, 2002)   

(2)教育課程の基準の概要  ア.教育課程の基本的性格 

  各 州 に文 部 行 政 権 があり、州 毎 に「指 導 要 領 」(Richtlinien)、「教 育 プラン」(Bildungsplan)等学 習 指 導 要 領 に当 たるものが作 成 されている。しかし同 時 に、文 部 大 臣 会 議 で各 州 間 の調 整 も図 ら れている。文 部 大 臣 会 議 の全 決 議 は全 員 一 致 制 を取 るが、自 動 的 に各 州 で実 行 に移 されるわけ ではない。文 部 大 臣 会 議 決 議 に法 的 拘 束 力 を持 つ性 格 が与 えられなかった場 合 、それは「勧 告 」

(Empfehlung)の性 格 を持 ち、州 での法 制 化 へ向 けて関 連 大 臣 が努 力 すべきという政 治 的 義 務 が 課されている。各州での実効に当たっては、「行政行為」、「命令」、及び「法制化」の方法があり、法 制 化 に当 たっては各 州 議 会 が立 法 行 為 の形 で参 与 することになる。以 上 のような法 的 背 景 の下 、 次に、指導要領の内容面を概観する。

  教 育 の基 本 理 念 は、連 邦 基 本 法 (憲 法 )及 び州 憲 法 に準 じるもので、ノルトライン・ヴェストファー レン州のギムナジウム中級段階(5〜10年生)の指導要綱(Richtlinien und Lehrpläne)では、「自立 した人格の形成」1)のもと、1)個人の能力の育成、2)社会的責任感の発達、3)民主主義社会への 参加能力、4)基本的権利や人権等の基本価値観志向、5)文化形成への参加能力、6)職業や労 働 世 界 での責 任 ある行 動 能 力 、7)(専 門 能 力 取 得 のための)基 本 的 知 識 ・技 能 ・能 力 の育 成 、が 学校教育の課題とされている。

バーデン・ヴュルテンベルク州ではキリスト教理念 が明記され、人権尊 重、平和教 育、民族・故郷 への愛 、他 者 への敬 意 、自 己 教 育 力 の育 成 、自 己 責 任 能 力 の育 成 等 が学 校 教 育 の課 題 とされて いる。

このような州 の基 本 理 念 に基 づきカリキュラムが構 成 される。指 導 内 容 は一 般 に、初 等 ・中 等 教 育段階では、学校種別・教科別・学年段階別(初等教育段階では1,2 /3,4 の2学年段階、中等教 育段階では 5,6 / 7,8 / 9,10の3学年段階)、ギムナジウム用では、さらに後期中等教育段階の教科 構 成 、到 達 標 準 に関 する記 述 がかなり具 体 的 に続 く。そのような教 育 課 程 の基 礎 の上 に、個 別 の 学校がさらに特色を出すべく、独自の重点領域を掲げる。

以 上のように州や学 校 種 により教 育 課 程に異 同 があるが、以 下 に述 べるように新 しいカリキュラム 改革を通じ、全国的な標準化が強化される傾向が見られる。

イ.最近のカリキュラム改革 

1996年発表の TIMSS(第3回国際数学・理科教育調査)、2001年発表の PISA(OECDの 学習到達度調査)等の国際学力調査の結果から、ドイツの平均成績が芳しくないこと、そ の原因として州による相違や3分岐制に基づく学校種の相違に由来する傾向にある成績上 位群と下位群の開きが大きいこと等が判明した。

ドイツでは、ドイツ語、数学、第1外国語[=英語またはフランス語]を「中核教科」

(Kernfach)とみなし、前期中等教育段階修了時(ギムナジウム、実科学校は10年生、基 幹学校は9年生)の到達すべき標準である「ドイツ語、数学、第1外国語の中級修了資格 の た め の ス タ ン ダ ー ド 」(Standards für Mittleren Schulabschluss in den Fächern Deutsch, Mathematik und erste Fremdsprache)が、統一後 1993年の大綱協定を経て既に1995年に公 表されていた。それから約 10年を経て多くの州でカリキュラム改定期に入ったが、文部大 臣会議での新スタンダードの策定は、上記の国際学力調査の結果をめぐる議論をも受けて 進められた。その結果先ず「ドイツ語、数学、第1外国語の中級修了資格のための教育ス タ ン ダ ー ド 」(Bildungsstandards für Mittleren Schulabschluss in den Fächern Deutsch, Mathematik und erste Fremdsprache)が2003年12 月4日、文部大臣会議の名で公表された。

他の学年や教科に関しても順次公開されていく予定である。

新「教育スタンダード」公開に際しては、それに先行して同年2月「全国教育スタンダ ー ド 開 発 に 関 す る 専 門 家 鑑 定 書 」(Zur Entwicklung nationaler Bildugnsstandards−Eine Expertise−)が連邦教育・科学大臣、文部大臣会議議長、ドイツ国際教育研究所所長の3名 の連名で提出された。それは秋の新教育スタンダード発表後、従来のスタンダードと異な り、カリキュラム改革を超え教育の質改善や学校評価・授業のモニタリング制等を導入し ていく方向を推進するための前提となるような理論的・実践的な基盤に深く切り込み論じ ている。

「教育スタンダード」は各教科の指導要綱と到達内容を具体的な課題事例と共に示した もので、各州で 2004年秋学期より各教科のカリキュラムの指針とされるべきでものである。

さらに「教育スタンダード」公表の際、同時に発表された文部大臣会議協定で、各州は新 教育スタンダードの達成度をめぐり、地域や州単位で共通試験を行い相互に評価すること が義務付けられており、2006年以降、州を越え全国的に新スタンダードの実施状況が調査 されることも盛られている。

要約すれば、従来の「スタンダード」と異なり各州に対しかなりの拘束力を持つ性格に なっていることが指摘できる。

このような「教育スタンダード」策定をも受け各州でカリキュラム改革が進行中である が、本稿では、以下、連邦次元での協定と並び、2002年度の文部大臣会議議長を務めたア

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