第三章 ディジタル直線
3.4 ディジタル直線を用いた移動物体の認識
前節では, ディジタル直線を用いて物体の境界を効率よく近似する方式を考案した. そこで本節で は, この直線近似方式を動画像に適用し, 移動物体のリアルタイムな形状認識が可能かどうかを検証 する. 但し, ここでは 33ms 毎に CCD カメラから入力されてくる映像を基にリアルタイムな形状認識 を行うため, ディジタル直線近似における参照点数を基に直線の趨勢方向を決定すると, その趨勢方 向を表すベクトルが属する領域のチェイン符号(図 3‑13 参照)から8の剰余系で1だけ異なるチェイ ン符号を同一直線で近似する際の許容範囲とし, これ以外のチェイン符号が現れると, 別の直線とし て近似を続ける.
実験では, 縦×横=130×136cm2の矩形リング上面に黒色画用紙を敷き詰めて入力画像の背景と し, このリング上に, リモートコントロールで移動できる物体の上面に白画用紙で作成した三角形あ るいは四角形の図形を貼り付けて認識対象物とした. 認識対象物体である三角形は底辺 15cm, 高さ 20cm の二等辺三角形であり, 四角形は一辺 15cm の正方形である. この状況を地上から 229cm の天井 に取り付けた CCD カメラより撮影し, 得られた映像を基に物体の形状認識を行う. この様子の一部
(対象物のある部分を拡大表示した映像)を図 3‑23 に示す. 背景となる矩形リングを黒画用紙で覆い, 認識対象物の上面に白画用紙で作成した図形を貼り付けることにより, 入力される画像データは適 当な閾値を設けることで, 容易に二値化することができる. CCD カメラにより得られた映像の解像度 は 128×128 であり, 得られた画像を走査し, 各物体の境界を追跡しながら境界部分を直線で近似す る. 近似された物体が3本の直線から構成されていれば三角形, 4本の直線から構成されていれば四 角形である. 但し, 実際の画像にはかなりのノイズが混入するため, 認識対象物以外にも数種類の物 体を認識するが, 物体の面積がある一定の閾値以下のものはノイズと判断している.
次に, 認識が正しく行われていることを検証するために, 各物体の形状を認識した後, 三角形の物 体を四角形の物体に近づけるプログラムを組み込んだ. 三角形は底辺 15cm, 高さ 20cm の二等辺三角 形であるから, 三角形として認識された物体の各直線間の角度を求めることにより, 二等辺三角形の 頂角方向が分かるので, 三角形物体の姿勢制御を容易に行うことができる. そして, 図 3‑24 に示す ように, 二等辺三角形の重心から頂角に至るベクトルと二等辺三角形の重心から四角形の重心に至 るベクトルのなす角度を求め, この角度がある一定の閾値θ (実験では 40 度)を超えていれば二等 辺三角形に回転(右回転あるいは左回転)という制御命令を, 閾値以下の角度であれば前進という制 御命令を三角形の物体に送信し, 三角形の物体が備えている車輪を回転させることにより, 四角形の 物体に近づけることができる.
θ
図3-23 認識対象移動物体 図3-24 制御命令
実験は次のようにして行った. 天井に取り付けられた CCD カメラから 33ms 毎に入力される映像を CPU 68000 を搭載する安立電気社製 Packet Ⅱe で処理し, 境界部分の直線近似及び物体の形状認識 を施した後, 三角形に与える制御命令を, CPU Z‑80A を搭載する NEC 社製 PC‑8001 mk Ⅱに RS‑232C を介して送信する. そして, PC‑8001 mk Ⅱは 40MHz あるいは 20MHz の無線信号により, 三角形の物 体に制御命令を伝え, 三角形の物体は姿勢を制御しながら四角形の物体に近づく. これら一連の処理 は全て 33ms 以内に行われ, ディジタル直線によるリアルタイムな形状認識を実証することができた.
図 3‑25 は, カメラを露光したまま実験の様子を捉えたものであり, 二等辺三角形が右回転するこ とにより四角形の方向に向きを変え, さらに前進することにより四角形に近づいている様子を示し ている. また, 図 3‑26 は四角形の物体をリモートコントロールにより人間が操作できる状況での実 験結果を示すものである. 物体の形状認識により, 三角形の物体が四角形の物体に近づいてくると, リモートコントロールにより四角形の物体を三角形の物体から遠ざけているが, 四角形の物体が移 動しても新たな位置を認識し, 三角形の物体が自律的に姿勢を制御しながら四角形の物体を追跡し ている様子を理解することができる.
なお, 3.3 及び 3.4 における研究は 1984 年に行ったものであり, 使用している計算機(CPU 68000 を搭載する安立電気社製 Packet Ⅱe)の処理能力は現在の計算機に比べてかなり低いものであるが, 考案したアルゴリズムは計算機に依存するものではない. このため, 現在の高速計算機を使用すれば CPU のクロック数で 100 倍以上の性能向上が見込めることから, 表 3‑2 に掲載している DL 法の平均 直線近似時間(2 分 53 秒=173 秒)は数秒で実現することが可能となり, 非常に高速な直線近似方法 を提供することができる. また, 3.4 の実験もリアルタイムな形状認識を行うために直線近似方法を 簡略化したが, 3.3 の DL 法を適用し, ディジタル直線の性質を用いた移動物体の高速形状認識も可 能となる. 簡略化した直線近似方式でなく, ディジタル直線の性質を用いた近似方式(DL 法)を適 用することにより, 三角形や四角形などの単純な形状だけでなく, 五角形や六角形, あるいは星形の ような複雑な形状をリアルタイムで認識することも可能となる.
図3-25 移動物体の認識(目標物は静止) 図3-26 移動物体の認識(目標物も移動)