2−1 国家開発計画と政府の貧困政策 1)国家開発計画の概要
チュニジアは現在、第
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次国家開発計画(1997-2001年)を実施している。同計画の最大目標は、「国内市場の世界市場への完全な統合と
21
世紀に向けた成功の鍵を握る諸機会をつかむ準備25」 であり、具体的には、表2-1
に示すように、1)世界市場への市場開放、2)セクター別目標の達 成26、3)インフラの開発および近代化、4)人的資源の評価およびアップグレード、5)社会セク ターにおける成果の維持、6)地域開発の推進の6
目標を掲げている。表 2-1 第9次国家開発計画の6目標
目 標 概 要
1.世界市場への市場開放 民間セクターの振興とともに欧州連合(EU)との自由貿易地域の設置等により、世 界市場への統合を行う。
2.セクター別目標の達成 財源の効率的な利用と成長率の改善、雇用創出の加速、輸出成長によりセクター 別目標と必要とされる財源とのリンクを確立する。
3.インフラ開発および近代化 インフラをより効率的にすることにより経済競争力を強化する。
4.人的資源の評価およびアッ プグレード
科学技術の取得とあらたな生産源の創出のために人的資源を評価およびアップ グレードする。
5.社会セクターにおける成果 の維持
失業の解消、恵まれない地域 (Disadvantaged Areas)における貧困撲滅および生 活水準の向上のために新たな雇用を創出し、国家連帯基金の活動を増大する。
6.地域開発の推進 全ての地域が国家開発のために努力できるような環境を整備する。
出所:Republic of Tunisia, Ninth Development Plan in Brief 1997-2001, 1997, p. 4.
この中で、貧困削減に最も関連性が強いのは、「恵まれない地域における貧困撲滅および生活水準 の向上」のための社会セクターにおける成果の維持という第
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目標である。その中の具体的な対 策としては、雇用創出、国家連帯基金27による基礎的社会サービスへのアクセス改善が含まれてい る。また、その他には、特に農村部において様々な地域プログラムを実施し、①収入向上と②地 方電化(87%の普及目標)、③安全な水へのアクセス向上(76%普及目標)を目指すことが記され ている28。なお、生活水準向上については、国民一人当りの所得を1996
年の2,070
ディナールから
2001
年に3,140
ディナールとすることが数値目標として定められている29。さらに、地域開発の推進についても、開発のための基本的前提条件を満たしていない、恵まれな い地域(disadvantaged areas)をより重視し、具体的には、地域開発のための全体予算のうちの
60%
を西部地域に当てることが約束されている。
25 “The ultimate goal to be achieved is the total integration of the national economy in the international environment and the preparation of the country for an entry into the new century with the best chances for success.” Republic of Tunisia, Ninth Development Plan in Brief 1997-2001, 1997, p. 3-4.
26 セクター別目標は、①国産品の生産性の向上と品質改善による競争力の強化、②安定した農業生産の確保による食糧保障と貿 易赤字の減少、③特に産業、農業における企業のアップグレードによる対外貿易自由化への準備、④運輸・通信網等のインフ ラ開発による生産活動支援および競争力の強化、⑤科学技術のノウハウ獲得による人的資源の改善、⑥民間セクターの役割 増大の6つのガイドラインに沿い、詳細目標が定められたもの。(Republic of Tunisia, Ninth Development Plan in Brief 1997-2001, 1997, pp. 9-10)
27 National Solidarity Fund。俗に26/26と呼ばれている。内容については次項参照。
28 Republic of Tunisia, Ninth Development Plan in Brief 1997-2001, 1997 p.11.
29 Republic of Tunisia, Ninth Development Plan in Brief 1997-2001, 1997 p.5.
2)貧困政策
チュニジアは、世界的に見ても、過去約
50
年間に社会開発分野の発展と経済的社会的な目標のバ ランスの取れた実績から貧困削減に成功した国の一つとして評価されている30。この要因としては、安定した政情と政府の統治能力、高い政策実行力、社会・経済の安定成長と貧困削減政策の同時 並行的な実施が挙げられる。
同国はフランスから独立した
1956
年以来、1980 年半ばまでは社会主義に則り、人的資源開発を 中心に据えた国家主導型の開発モデルを推進してきた。その結果、教育および保健指標には目覚 しい改善が見られた(表1-2, p.2
参照)。また、ジェンダー格差の是正に配慮した政策31をとって きたチュニジアは他のイスラム圏諸国に比べジェンダー公正が保たれている国である。チュニジアの発展は
1987
年の政権交代を機に大きな転換期を迎えた。1987 年以降、政府は民主 化政策や経済改革に取り組み、憲法改正による大統領の無期限任務の廃止、野党の議席獲得の承 認による政治参加の機会の拡大や価格の自由化等、貿易や投資に係る規制緩和を行ってきた。ま た、言論・出版の自由や女性や子供の権利等に関しても次々とその保護を目的とした法的措置が 取られてきた。また、マクロ経済政策として、労働集約的な活動を中心として輸出政策が促進さ れてきたこと、貧困層に配慮した分配政策をとってきたことも具体的な貧困削減に繋がったと思 料される。こうした政府の社会主義政策と自由主義経済路線の推進、民主化政策等により、チュニジアにお ける貧困人口は独立以来急速に減少し、社会指標も改善されてきたものと考えられる。他方、こ うした経済成長の裏では、若者を中心とした失業率の増加や都市貧困が増加するといった現象も 生まれた。
本章では、国家開発計画中において重視されている貧困削減政策として①国家連帯基金等の社会 保障・福祉、②社会開発(教育・保健)、③雇用創出、④地域開発に加え、貧困削減の前提条件で あり国家開発計画の主要目標ともなっている⑤マクロ経済政策という観点から、第
1
章において 概観した貧困削減の実状や貧困層の特徴に対して如何なる政策が実行されてきたかについて分析 する。なお、チュニジア政府の全体的な国家経済計画につき分析した上で、各貧困削減政策をよ り広い視点で概観できるよう、貧困削減の前提条件としてのマクロ経済政策を冒頭に据えること とする。30人間貧困に係るUNDPの初版報告書に社会開発分野の発展と経済的社会的な目標のバランスの取れた実績が「成功の歴史」
として引用されている。(PNUD, Perception, Analysis et Evaluation des Politiques, des Stratégies et des Programmes de Lutte Contre la Pauverté et de Promotion Sociale en Tunisie, p. 3)
31 チュニジア政府は、1956年の独立直後に個人の社会的地位に関する法令”the Code du Statut Personnel”を制定しており、社会に おける男女平等の精神を保持してきた。以後、1992年に中東・北アフリカ地域において初めて、女性問題担当局を政府内に 設置し、1993年には家庭内における男女のパートナーシップ等、女性の地位向上に係る項目が追加される等、男女間格差の 是正に努めている(p.18、脚注17参照)。
2−2 マクロ経済政策 1) 安定した経済成長
チュニジアの貧困削減が比較的成功した理由としては、政治的社会的安定、より高い競争力の醸 成、商業・産業セクターを中心とした経済効率性の向上、市場のニーズにより合致した職業訓練 方法の採用、運輸・通信インフラの近代化、経済活動の多様化等の政策により、1987年以降、マ クロ経済枠組みの安定化に成功してきたという背景が挙げられる32。
鉱業・エネルギーの輸出に依存していたチュニジアは、1986年の石油価格の暴落にともない対外 収支の危機に直面した結果、1986年から構造調整を導入し経済安定化政策を重視するようになっ た。同政策は成功を収め、
1982-86
年の期間に2.4%であった GDP
平均成長率は1987-90
年に3.2%、
1991-95
年に3.9%と着実に加速してきた(表 2-2)
。財政赤字も1987
年にはGDP
の4.8%を占めて
いたが、1998年に
2.9%にまで減少している。対外債務の対 GDP
比についても同様に、1987
年の75.5%から 1998
年には48.8%となっている。
表 2-2 主要経済指標の推移
1981-86 1987-90 1991-95 1996 1997 1998
GDP 成長率(%) 2.8 3.2 3.9 7.1 5.4 5.0 インフレ率(CPI%) 9.2 7.1 5.2 3.7 3.7 3.1 財政赤字(%GDP) - 4.8 3.7 3.9 3.9 2.9 対外収支赤字(%GDP) 12.0 2.4 6.1 2.7 2.8 3.0 外国直接投資(%GDP) 4.8 1.4 2.6 1.3 1.7 3.1 対外債務(%GDP) 75.5 76.8 63.0 60.1 54.2 48.8
出所:World Bank, Republic of Tunisia Social and Structural Review 2000, 2000, p 5より作成。.
一連の市場経済化政策については、チュニジア政府は
1990
年にGATT
に加盟し、輸入品の92%、
生産および分配価格の
80%以上を自由化することにより市場拡大を徐々に図ってきた。 1995
年に は、チュニジアは中東・北アフリカ地域で最も早く欧州連合とパートナーシップ合意を交わし、自由貿易ゾーンを
1996
年から2008
年までに徐々に設置・拡大することを約束した。また、エジ プト、モロッコ、ヨルダンとの二国間貿易自由化合意も締結しており、こうした市場拡大政策は2
倍以上の外資を呼び込んだ33。この結果、対外貿易のGDP
への貢献率は1985
年の53%から 1999
年に
68.3%に増加している
34。図2-1
に見るように輸出入とも1986
年から1998
年に約3
倍の伸びを記録している。国際収支については一貫して赤字を記録しているが、特に
1990
年代に入り貿易 赤字が増え、マイナス20
億ドル前後で推移していることから、チュニジアの世界市場における競 争力をより強化する必要性が示唆されている。しかしながら、一方で、輸入額の対輸出比率は1984/86
年の60%から 1996/98
年に70%に上昇し、若干改善されている
35。さらに、チュニジアの輸出入市場に占める
EU
の割合は1980
年代の平均である67%(輸入)および 69%(輸出)から
1990-97
年の平均で71%、78%に其々上昇しており、EU
市場への依存度が高いことが分かる(図2-1)
。特に輸入が10
年間で10%近く伸びていることが特徴的である。
32 Republic of Tunisia, Ninth Development Plan 1997-2001,1997.
33 FDIは1995年の283百万ドルから1998年には697百万ドルと2倍以上の伸びを示している(IMF, Tunisia: Staff Report for the
Article IV Consultation, 1999, p.59)。なお、チュニジアの主要輸出産品は、原油、鉱物、衣類、農産物(オリーブ油、柑橘類、
穀物、なつめやし)。チュニジアに直接投資している外国企業は1,600以上に上る。
34 Gana A. & Mahjoub A., Poverty Assessment Study Tunisia: A Report for JBIC 2000
35 Gana A. & Mahjoub A., Poverty Assessment Study Tunisia: A Report for JBIC 2000