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ソレールがソナタの作曲に使用した楽器、もしくは念頭に置いていた楽器はどのような ものであろうか。

スティーヴンソンはアッチャカトゥーラがソレールのソナタに見られないことから、ソ レールのソナタはフォルテピアノで作曲されたと考えている(スティーヴンソン 1994)。

なぜなら、アッチャカトゥーラの響きは、チェンバロで演奏される時に効果を発揮するから である。

しかし、ソレールが実際にフォルテピアノを使用したか、またはそれ以外の楽器を使用し たかについては、今のところ分かっていない。ソレールが使用した楽器は現存しておらず、

彼の書簡や論文を見ても、所持していた鍵盤楽器には言及されていないからである。そのた め、ソレールが使用する、あるいは聴くなど、アクセスが可能であったと思われる鍵盤楽器 を以下に挙げる。

まずは、王妃マリア・バルバラの楽器である。マリア・バルバラは、ポルトガル王ジョア ン5世の娘として生まれ、1729年にスペインのフェルナンド王子(後のフェルナンド6世)

と結婚した人物である。スカルラッティを音楽教師に持ち、音楽的才能に秀でていたと言わ れている。王妃の遺産目録には鍵盤楽器の項目があり、12台の楽器が挙げられている。エ ル・エスコリアルに置かれていた楽器については、11番と12番に記載されている。それに よると、フォルテピアノが1台とチェンバロが1台置かれていたということである。その詳 しい内容は以下のとおりである。

(11)ピアノの形式による鍵盤楽器で、糸杉材。緑色の塗装。柘植と黒檀による鍵盤で

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54鍵。スタンドはブナの挽きもの脚。サン・ロレンゾの離宮に設置。

(12)クイルによる別の鍵盤楽器で、ケースは白ポプラ材、内側はヒマラヤ杉と糸杉材 による。黒檀と真珠母による鍵盤で61鍵。ブナ材の挽きもの脚によるスタンド。

同じく、サン・ロレンゾの離宮に設置。(渡邊 2000: 299)。

(11)の「ピアノの形式による」という言葉は、フォルテピアノを指している。渡邊順生 によると、王妃のフォルテピアノのうち「1台か2台は、彼女がポルトガル時代から使って いたクリストフォリの楽器を持参したものである可能性が高い」と述べている(渡邊 2000:

301)。この(11)の楽器がクリストフォリである可能性も考えられる。(12)のクイルはチ

ェンバロのプレクトラムのことであるから、この楽器はチェンバロである。パスクアルの見 解によると、チェンバロはディエゴ・フェルナンデスDiego Fernández(1703-75)が1756 年から57年に製作したものであるということであるが(Kenyon de Pascual 1986: 125)、

王妃は1758年に死去しているため、弾いたとしてもわずかであったといえる。

ソレールは1752年よりエル・エスコリアルにいたので、王妃の楽器に触れる機会はなか ったとしても、見たり聞いたりする機会に恵まれることがあったかもしれない。

次に挙げるのは、第3節で取り上げたメディナ・シドニア公がサンタマンのために注文し た鍵盤楽器である。これは、1765年8月9日に、シドニア公の使用人のマヌエル・ゴマロ・

デル・リオがシドニア公の秘書に宛てた書簡に記載されている(Hollis 1998: 197)。内容は サンタマンのために、スカルラッティのソナタが弾けるようなG1からg3のチェンバロを秘 書に作らせるよう、シドニア公から指示されたというものである(Hollis 1998: 197-198)。 G1からg3までの音域のチェンバロはスペインならではの音域をもった楽器であると渡邊は 述べている(渡邊 2000: 309)。G1からg3は61鍵であるので、王妃のチェンバロと鍵盤数 が同じである。ソレールのソナタにはこの音域を必要とするソナタが多いことから、もしか するとソレールもまた、このような広い音域の楽器を所持していたかもしれない。

しかし、ソレールにはR.119のようにFis1からg3(62鍵)の音域をもつソナタが見られ る。これは、上記の61鍵の楽器では演奏できない。ソレールが62鍵以上の楽器を持って いたか、周囲に所持者がいたか、あるいはFis1を弾くのは不可能であるが書いたかの三つ の可能性が存在する。この曲の Fis1音は前半の終止に見られる。終結調の終止のバスであ り、これを省くのは不可能である。また、1オクターヴ上で書いても差し支えがないにもか かわらず、ソレールはそうしなかったことから、意図して Fis1音を使用したものと考えら

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この音域に合致する楽器が一つ見られる。それはドン・ガブリエルの鍵盤楽器である。王 宮のアーカイヴに請求書が残っており、1761年にフェルナンデスに楽器を注文しているこ とがわかっている。これは白ポプラ、ヒマラヤ杉、糸杉材でできたその当時としては珍しい 63 鍵を持つクラヴィコードであり、音域は F1から g3であったようである(Martinez

Cuesta& Kenyon de Pascual 1988: 770)。そのため、この楽器であれば前述のR.119のソ

ナタの Fis1音も演奏することが可能である。ソレール自身がこの音域の楽器を所持し、使 用していたことは否定できないが、F1から g3のクラヴィコードを持つ王子のためにこの曲 を作曲したということも十分に考えられる。

他に、ソレールのフォルテピアノの使用の可能性を挙げておく。前述の王妃の楽器にフォ ルテピアノが見られたが、当時のスペインでは、フランシスコ・ペレス=ミラバルFrancisco

Peréz-Mirabal(?-1773)がセヴィーリャでフォルテピアノを制作している。イベリア半島

で製作された中で現存する最古のフォルテピアノは、1745年にペレス=ミラバルが製作し たと言われている(渡邊 2000: 326)。ペレス=ミラバル作のフォルテピアノをソレールが 使用した可能性も残されている。

以上のように、ソレールが使用した楽器は判明していないが、それはチェンバロに限定さ れず、クラヴィコードやフォルテピアノの可能性も排除できないのである。

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