2. 新規⾧波⾧ホタル生物発光基質の合成および発光活性評価
3.3. セレンテラジンおよび新規セレンテラジン類縁体の UV/Vis 吸収スペクトルおよび
55
56 表3-1 メタノール中における42a–dおよび2のUV/vis吸収極大波⾧
Solvent λaba / nm
42a 42b 42c 42d 2
methanol 300, (427) 360 392 415 266, (417)
a UV/vis吸収極大波⾧.
続いて生物発光活性を調べるために、ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ(Rluc)およびその変異体 (Rluc8、Rluc8.6_535、Rluc8.6_547)を用いてL-L反応を測定した。Rlucルシフェラーゼは、腔腸動物の花 虫綱に属するRenilla reniformis(ウミシイタケ)から、Cormierらによってクローニングされたルシフェラー ゼである9。311アミノ酸からなるタンパク質で、分子量は約36 kdaである。また、Rluc8ルシフェラー ゼは哺乳動物細胞での安定性向上および酵素活性向上を目的に開発されたRlucルシフェラーゼ変異体で ある 71。セレンテラミド 10 との共結晶が報告されている(図 3-12, PDB No. )72。Rluc8.6_535 および
Rluc8.6_547 ルシフェラーゼは、Rluc8 ルシフェラーゼの安定性および酵素活性を維持しつつ、セレンテ
ラジン2の⾧波⾧発光化を達成した変異体酵素である73。
図3-12 Rluc8ルシフェラーゼとセレンテラミド(10)の共結晶(PDB no. 2PSJ)72
Rluc、Rluc8、Rluc8.6_535およびRluc8.6_547ルシフェラーゼとセレテンラジン2とセレテンラジン類
縁体42a–dのpH 7.2 HEPES 緩衝液中における生物発光スペクトルを図3-13に示し、発光極大波⾧を表
57 3-2にまとめた。42a、42b、42c、42dの生物発光極大波⾧は、それぞれ約465–485 nm、約500–545 nm、
約555–600 nm、約620–642 nmを示し、オレフィンが1つ伸張するに従い約40–70 nm赤色シフトした。
42dとRluc8およびRluc8.6_535の生物発光スペクトルは、約500 nm付近にマイナー発光バンドを示し
た。
図3-13 RlucおよびRluc変異体を用いた42a–dおよび2の生物発光スペクトル: (A) Rluc, (B) Rluc8, (C) Rluc8.6_535 and (D) Rluc 8.6_547.
58 表3-2 RlucおよびRluc変異体を用いた42a–dおよび2の生物発光極大波⾧
Compound λbla / nm
Rluc Rluc8 Rluc8.6_535 Rluc8.6_547
42a (n = 0) 478 469 464 484
42b (n = 1) 504 518 500 543
42c (n = 2) 555 567 560 599
42d (n = 3) 623 642, (451) 617 664
2 476 477 525 533
a 生物発光極大波⾧
セレンテラジン類縁体 42a–d の λbl値を評価するために、化学発光特性を調べた。化学発光特性は
1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)のDMSO溶液(0.1 M)、pH 5.6 酢酸水溶液を加えたジエチレングリ
コールジメチルエーテル(DGM)溶液(0.66 %)を用いて行った。その結果を、図 3-14、表3-3にまとめ
た。TMG-DMSO 化学発光条件はセレンテラミドがアミドアニオン状態で発光し74、pH 5.6
酢酸水溶液-DGM の化学発光条件は中性アミド状態で発光することが報告されている 75, 76, 77(図 3-16)。TMG-DMSO 化学発光発光条件における42a–dのλcl値は474、495、503、545 nmを示し、pH 5.6 酢酸水溶液-DGM の化学発光発光条件における42a–dのλcl値は486、490、495、536 nmを示した。それぞれの類縁体の λcl値は近い値を示しており、またλbl値とも異なる値を示したため、生物発光反応がアミドアニオンもし くは中性アミド状態で発光しているかどうかは判別できなかった。一方、水溶液中でウシ血清アルブミ ン(BSA)と共存しても化学発光を示すことが知られており、この発光条件でも化学発光測定を行った。そ の結果を、図3-15、表3-3にまとめた。PBS緩衝溶液(2% w/v)を用いた化学発光発光条件における42a–
dのλcl値は483、500、565、626 nmを示し、λbl値と近い値を示した。
59
図3-14 0.1 M TMG-DMSO溶液およびpH5.6 酢酸水溶液含有DGM溶液における化学発光スペクトル
図3-15 2% v/w BSA含有PBS緩衝液における42a–dの化学発光スペクトル
表3-3 42a–dおよび2のTMD-DMSO、酢酸水溶液-DGMおよびBSAを用いた化学発光極大波⾧
Compound λcl / nm
TMG-DMSO 酢酸水溶液-DGM BSA-PBS緩衝液
42a 474 486 483
42b 495 490 500
42c 503 495 565
42d 545 536 626
60
図3-16 中性アミドおよびアミドアニオンの構造
続いて、セレンテラジン2およびセレンテラジン類縁体42a–dの生物発光および化学発光反応後の生 成物である対応するセレンテラミド10および55a–dの蛍光特性を調べた。TMG-DMSO系の化学発光 反応は反応生成収率(Φr = 0.7–0.9)が高く78、反応後の生成物はほぼセレンテラミドのみが得られる。そ のため、反応後の溶液の蛍光を測定すればセレンテラミドの蛍光特性を調べることが可能である。
TMG-DMSOによる化学発光反応後溶液に当量のメタンスルホン酸 (MsOH)を加えて中和した溶液と、
強い塩基としてテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH、37%メタノール溶液)を0.1当量加え た溶液の蛍光特性を調べた。UV/vis吸収スペクトルを図3-17および表3-4にまとめた。また蛍光スペ クトルを図3-18および表3-5にまとめた。42a–dのTMG-DMSO化学発光後溶液の蛍光極大波⾧(λfl)は 513、559、577、658 nmを示し、MsOH添加溶液のλfl値は516、559、602、663 nm を示し、TMG-DMSO化学発光後溶液とそれにMsOHを添加した溶液のλfl値は近い値を示した。一方、TBAOH添加溶
液のλfl値は451、473、515、554 nmを示した。セレンテラミドはMsOH添加溶液で中性アミド状態
55a–d、TBAOH添加溶液でアミドアニオン状態56a–dと推測できるため、中性アミド状態のλfl値はア
61 ミドアニオン状態のλfl値よりも⾧波⾧のλfl値を示すことが判明した。C’6位にジメチルアミノフェニル を有するセレンテラミドは中性アミドの構造ではその励起一重項状態の分極構造から大きなソルバトク ロミズム性を示す。一方、アミドアニオン状態では分極が小さくほぼソルバトクロミズム性を示さない
79。生物発光で観測されたλbl値は、アミドアニオン状態56a–dのλfl値よりも⾧波⾧で、中性アミド状 態55a–dのλfl値よりも短波⾧であった。従って、セレンテラジン類縁体42a–dから生成したセレンテ ラミド類縁体の励起一重項状態は中性アミド状態で発光していることが推測された。さらにDMSO溶媒 のλfl値よりも、いずれのルシフェラーゼのλbl値は同等か短波⾧化していたことから、酵素活性中心は DMSOよりも同等か低極性であることが示唆された。また、TMG-DMSOおよび酢酸水溶液-DGM化学 発光条件によるλcl値は、これらの化学発光反応がいずれもアミドアニオン状態で発光していることを示 唆した。一方、BSA化学発光条件によるλcl値は、BSAによる化学発光反応が中性アミド状態で発光して いることを示唆した。
62 図 3-17 (A) 42a–d および 2 の TMG-DMSO化学発光後の UV/vis吸収スペクトル、(B) MsOH を加えた UV/vis吸収スペクトル、(c) TBAOHを加えたUV/vis吸収スペクトル
表3-4 42a–dおよび2のTMG-DMSO化学発光後にTBAOHあるいはMsOHを加えた溶液のUV/vis吸収 極大波⾧
Compound λab a / nm
TMG TMG + MsOH TMG + TBAOH
42a 332, 359 331, 368 328, (400)
42b 396 396 325, (527)
42c (358), 411 403 329, 400
42d 349, 430 404, (440) 360, 425
2 351, (418) (300), 337, (400) 349, 440
a UV/vis吸収極大波⾧
63
図3-18 42a–dおよび2のTMG-DMSO化学発光後にTBAOHあるいはMsOHを加えた溶液の蛍光スペク
トル
64 表3-5 42a–dおよび2のTMG-DMSO化学発光後にTBAOHあるいはMsOHを加えた溶液の蛍光極大波
⾧
Compound λfl / nm (λexa / nm, Φfl b)
TMG TMG + MsOH TMG + TBAOH
42a 513 (380, 0.34) 516 (370, 0.34) 451 (380, 0.025)
42b 559 (420, 0.34) 559 (430, 0.39) 473 (390, 0.022)
42c (525), 577 (440, 0.27) 602 (440, 0.25) 515 (420, 0.052)
42d 658 (460, 0.15) 663 (450, 0.16) 554 (440, 0.013)
2 411 (380, 0.076) 413 (340, 0.18) 532 (400, 0.22)
a 励起波⾧、b 蛍光量子収率
65