第5章 ライフサイクル知識の構築・活用支援プロセス
5.3 ライフサイクル知識の構築・活用プロセス
5.3.1 ステークホルダ間の協働支援
5.3.1.1 開発者と運用者間の協働支援
第2章で議論したように,クラウドの浸透に伴い,開発はシステムインテグレータが,
運用はクラウドサービスプロバイダが担うようになる.第 3 章のサービスモデリングと,
第 4 章で示したそのパタン化の過程で,開発者と運用者間の協働に必要な情報が自ずと生 成される.すなわち,サービスモデルチェーンの構築とパタン化の操作は,この開発と運 用工程の間で必要十分な情報を相互に参照可能にしているため,開発者と運用者間の協働 を支援している.
5.3.1.2 顧客と IT サービスプロバイダ間の協働支援
設計者や運用者等の異なる役割間でサービス設計情報をやり取りする際,その共通言語 として,第3章で示したモデル群の表記が有効である.しかし,ITサービスプロバイダと 顧客企業担当者間でサービス設計情報をやり取りし,合意形成する場合には,顧客担当者 にとって情報が多く,意思決定には過多となり得る.そこで,顧客の合意形成に必要な情 報量に抑え,特定の観点に絞った情報量のダイアグラムで表現し直すことが有効である.
例えば,システム構成設計では,SysMLの要求・構造・振舞い・パラメトリックダイアグ ラム等の標準モデル表記法がある.
そこで,蓄積されたモデルチェーンを利用して,これらの表現形式に沿った再構造化を 行う.このダイアグラムは,異なる過程で決定されたデータを統合し,機能モジュール間 の関係を示す.要求ダイアグラムは要求-機能展開モデリングのデータ構造の一部を,構造 ダイアグラムはサービスシステムモデリングのデータ構造の一部を抽出する.また,振舞 いダイアグラムは,ユースケースモデリングのデータ構造の一部を,パラメトリックダイ アグラムは,サービスシステムモデリングのデータ構造の一部とリソース割り当てモデリ ングのデータ構造を統合する.例えば,顧客とITサービスプロバイダ間で,要求の確認を 行う際,ITサービスプロバイダは,要求・機能展開モデリングで作成したモデル情報から,
リソースの範囲値などの詳細な属性値は省き,要求のサブ構造のみを部分的に抽出し,要 求ダイアグラムを表示する.顧客と相互理解が進み,要件を確定させる際に,前述の属性 値までダイアグラムに表示し,顧客との議論の対象に合わせた表示を行う.
この機構を図5-3に示す.この再構造化したデータは,例えば,システムモデルのダイ アグラムを表現したSVG(Scalable Vector Graphics)形式のXMLで出力し,Webブラウ ザ上に,大きさの変更や移動が可能で,特定の観点に絞った情報量のダイアグラムとして 描画する(図 5-4).更に,このダイアグラム表示を通じて得られた気付きを,コメントと して入力可能にし,これをライフサイクルパタンのデータ構造に加える.これにより,協
96
働作業で得た知識をサービスモデルチェーンに取り込むことが可能となる.
このダイアグラム生成と表示のように工程を跨った情報,業務レベルからシステム・実 装レベルを含む情報の再構造化によって,CADツールとして新たな設計視点をステークホ ルダに与えることができる.これにより,設計者と実装者や,顧客企業の担当者など異な るステークホルダ間で,設計過程で得た客観的な情報を用いて認識を共有し,相互理解を 深められる.
図5-3 サービスポートフォリオの拡張[Hosono2012b(改)]
図5-4 生成したダイアグラムの例
5.3.1.3 顧客と IT サービスプロバイダ間の協働支援
開発部門と企画・管理部門との協働支援として,タスクチェーンを構築し,前節で述べ たサービスモデルチェーンとの統合を図る.
タスクチェーンは,開発の各工程で行う作業をタスクとし,タスク間を連結したもので ある.各タスクには,開発成果物や,作業実績などの項目と実績を,属性と属性値として
97
データを保持できる.このタスクチェーンは,設計・運用プロセスに沿って,サービスモ デルチェーンと対応付けられる.このタスクチェーンとサービスモデルチェーンを,リン ク付けする.このタスクチェーンの属性に人件費どの工数実績値を与え,人間系の作業実 績を含めサービスモデルとタスクモデルを統合したモデルチェーンに構造化する(図5-5).
図5-5 サービスモデルチェーンとタスクの関連付け[Hosono2013b(改)]
開発工数は,プロジェクト管理ツールから取得できる.プロジェクト管理ツールは,予 定工数を書いたタスクチケットを発行し,実績値と合わせることができる.これらのステ ークホルダのリソース情報は,タスクチェーンに統合する(図 5-6).そして,サービスモ デルチェーンとタスクチェーンを共通リポジトリに保持し,次回以降の開発に活用できる.
タスクチェーンに含まれる実績値は,すなわち,人のコスト情報であるため,これをサー ビス開発に必要な標準コストと見做せる.これを,プロジェクト管理に用い,他のWebサ ービス開発をする際の尺度として比較し,進捗状況の進度の測定が可能になる.
図5-6 サービスモデルチェーンとタスクチェーン[Hosono2013b(改)]
第4章で示したライフサイクルパタンには,人の作業情報は含まれていなかったが,以 上に示した方法により,ライフサイクルパタンに実績情報の付与が可能となる.
以上に示した方法を体系化し,フレームワークを構築した.このフレームワークに含ま れる技法を現場の開発プロセスに適合させ,ライフサイクルパタンの構築~利用を定着さ せるために,開発者の協働を支援する方法について述べる.
98