第 1 節 問題と目的
第1章で示したように,日本のSCコンサルテーションについては,SC視点の事例研究 や実践研究が重ねられている。それらの事例研究を分析した第2章では,SC視点でのコン サルテーションのプロセスを明らかにすることができた。一方,教師視点の研究は未だ限定 的である。
教師視点の調査研究を挙げると,小林(2009 b)は教師がコンサルタントに求める要件の 質問紙調査から,「関係促進」と「問題解決」の二つのスキルを見出している。谷島(2010a,
2010b)は,教師が求める援助特性の質問紙調査から,「教師への配慮」「信頼できる態度」
「問題解決志向」の 3 因子を見出し,教師側の特性との関連を明らかにしている。このよう に,教師が求める要件として,信頼関係と問題解決に関する内容が見出されつつあるが,そ れらが求められる状況や意義は未解明である。また,教師視点の事例報告では,中山(2000)
が SC コンサルテーションによってそれまで教師にはなかった視点を得た経験を述べてい るが,調査研究でも事例報告でも,コンサルタントとの相互作用のプロセスの詳細は明らか ではない。SCがコンサルテーションに関するこれまでの知見をより有効に活用するために は,SCコンサルテーションにおける相互作用のプロセスの詳細を教師視点から探索的に明 らかにすることが必要であろう。そして詳細を探索的に明らかにするには,インタビュー調 査を用いた質的研究が適当であると考えられる。
さらに,これまでの研究は,コンサルテーションの課題となった当該の問題解決について の成果を明らかにしているが(中川,2005;中島,1999),コンサルティの将来的な対応力 の向上については,コンサルテーションにおける知識や方法の提供がコンサルティの援助 方法の幅を広げ,対応の経験が他の事例に応用されると示唆しているものの(目黒,2007), その機序を詳しく述べてはいない。小林(2009 b)のコンサルテーションの有効感尺度には,
8項目の内2項目が対応力向上に関する内容であるにもかかわらず,有効感としては1因子 構造であったため,将来的な能力向上に焦点化した検討は行われていない。また,前段の教 師が求める要件として取り上げられているのは,当該問題の解決に関する面のみである。こ れらのことから,教師の対応力向上に至る機序を明らかにすることが必要であると考える。
そこで本章では,子ども・保護者に関する課題で困った教師が,SCコンサルテーション を利用して現在の課題および将来の同様の課題への対応力を向上させた時,SCとの間でど のような相互作用が経験されたかについて,教師の視点から明らかにすることを目的とす る。そしてこれまでの研究知見と比較検討した後,SCコンサルテーションにおけるSCの 留意点を考察したい。
59
なお,SCコンサルテーションには,コンサルテーション関係以外の様々な人間関係があ り得る。本章で焦点化した教師とSCの相互関係と,周囲の人間関係を図3-1に示した。
表 3-1 協力者の年齢と教職経験
(人)
年齢 教職経験年数
20代 1 10年未満 3
30代 1 10-19年 2
40代 4 20-29年 2
50代 6 30年以上 5
計 12 12
平均(SD) 47.1(10.4) 22.8(12.3)
表 3-2 協力者の校内の立場
(人)
調査時点 コンサルテーション 利用時(重複集計)
担任 5 6
養護教諭 3 3
管理職 2 1
教師カウンセラー 1 2
指導教諭 1 0
学年主任 0 1
計 12
必ずある相互作用 場合によってあ る相互作用 コンサルテー ション関係 教師1 SC
子ども 親
教師3
教師2
学校組織 図3-1 SCコンサルテーションとその周囲の人間関係
60 第 2 節 方法
研究協力者:研究協力者(以下,協力者)は機縁法により募集した。学校教育相談に積極的 関与の経験がある教職経験者 3 名,および養護教諭の立場で健康相談に積極的関与経験が ある人材 2 名に,研究者が研究の趣旨を説明し,「子ども・保護者の問題で対応に困り SC に相談した経験のある中学校教師」の紹介を受けた。その後,研究者から研究に関する説明 を再度行い,同意が得られた15名(男4名・女11名)を協力者とした。依頼時点では「SC に相談した経験がある」と了解されていたが,面接を始めると,「相談経験」を広義に理解 し本研究の趣旨である「教師自身の対応の相談経験」の無い教師が3名いた。その3名は 今回の分析対象から除外し,残りの12名を分析対象とした(男2名・女10名,協力者の 属性を表3-1,3-2に示す)。いずれの協力者も研究者とコンサルテーション関係にあったこ とはなかった。
調査期間:2015年7月-11月に実施した。
手続き:研究者が所属する大学の面接室,または,教師の勤務先の一室を使用し,半構造化 面接を筆者が行った。面接時間は60-90分であった。聞き取り内容は,「先生が,学校の子 どもや保護者の対応にお困りなって SC に相談されたという先生ご自身の経験を自由にお 話し下さい」とし,必要に応じて,①-④の内容を追加した。①全体的なこととして話して も,一つ一つの事例として話してもかまわない。②どのような状況があって,SCと話をし ようと思ったか。③SCと話す中で何が,どのように変化したか。④その変化には,どのよ うなことが影響していると思うか。
記録:協力者の承諾を得て,メモおよびICレコーダーの録音により記録した。
倫理的配慮:協力者の所属する学校等の所属長および協力者に文書および口頭で説明を行 った後,協力者から文書で同意を得た。一連の手続きについて,研究者の所属大学の研究倫 理安全委員会の承認を得た(就実大学・就実短期大学研究倫理安全委員会・受付番号122)。 分析方法:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(modified grounded theory
approach:以下,M-GTA,木下,2003)により分析した。M-GTAは,専門的ヒューマン
サービスにおいて,社会的相互作用が重視される領域の研究に適する方法である。また,研 究結果をサービス改善に向けて活用することが期待されており,研究対象がプロセス的特 性を持つ場合に適するとされている。SCコンサルテーションは,スクールカウンセリング というヒューマンサービスの領域での教師とSCの相互作用のプロセスであり,今後の質的 向上が望まれることから,M-GTAでの分析が適切であると考えた。
はじめにインタビューから固有名詞を匿名化した逐語録(12名の総文字数191393文字,
一人平均15949文字)を作成し,分析するデータとした。
M-GTAでは,分析を行う研究者の視点を明確化した上で分析するために,データ収集後
に分析テーマと分析焦点者を設定し,分析を進める中で確定していく。分析テーマとは,研 究テーマをデータに密着した分析ができるようさらに絞り込んだテーマである。本研究で
61
は,最初にデータ全体に目を通し,分析テーマを「子ども・保護者のことで困った教師がSC に相談し,困っている状態が変化したプロセス」として分析を始めた。そして最終的に「子 ども・保護者対応で教師判断が心許なくなった教師が,SC視点が腑に落ちて自分を取り戻 し主体的に動いた後,対応方法を自分のものとするプロセス」と設定した。分析焦点者とは,
データ解釈の観点を明確にするため,解釈の際に焦点を置く「人(限定集団)」の範囲を明 確にしたものである(木下,2007)。本研究では最終的に「子ども・保護者対応について,
SC コンサルテーションを利用して対応力の向上を経験している中学校教師」と設定した。
データ分析は,以下の3段階を繰り返して行った。1)概念生成:データの中から,分析 テーマと分析焦点者に照らして関連する箇所に着目し,それを具体例とし,同時に他の類似 具体例を説明できるような概念を生成した。その際,分析ワークシート(概念名,定義,具 体例,理論的メモを書き込む書式)を用い,データから他の具体例を探すことと新たな概念 を生成することを繰り返した。その際,解釈が恣意的になる危険を防ぐため,類似例と対極 例を確認するようにした。2)カテゴリー生成:概念間の関係を検討して関係図を作成し,
関係する複数の概念からサブカテゴリーを生成した。さらに関係するサブカテゴリーをま とめ,カテゴリーを生成した。3)結果図とストーリーラインの作成:サブカテゴリーおよ びカテゴリー間の関係を結果図(図3-2)としてまとめ,そこからストーリーラインを作成 した。結果図とストーリーラインは,協力者に意見を求め,修正を加えた。M-GTAでは理 論的飽和を,分析ワークシートを使った概念生成のレベルと分析全体の二つのレベルで判 断する。さらに後者のレベルでは,分析範囲を限定することで,これ以上新しい概念が出て こず,概念とカテゴリーの関係も十分検討された状態をもって飽和化を判断する。今回の分 析では,12 例の分析でその状態に至ったと判断し,分析を終了した。なお,分析に際して は,M-GTA研究会の指導者から約20時間の指導を受けた。
インタビュー記録のうち M-GTA の分析対象とする範囲は,教師が子ども・保護者に関 する困りごとについてSCコンサルテーションを利用して対応する中で生じた教師とSCの 相互作用,および当該の問題以外に対しても対応力を向上するプロセスでの教師とSCの相 互作用とした。また,そのプロセスに直接関わりのある周辺事象に限定して分析した。教師 がコンサルテーションを開始しない,利用しても良い対応に至らない等の例は吉村(2010)
や保坂(2009)の研究からも想定され,注目に値するが,それら全てを含めるとパターンが 相当複雑になると考えられ,今回は上記分析範囲に限定した。
第 3 節 結果
第 1 項 結果図とストーリーライン
分析の結果,生成された概念は 77 個であったが,統合と削除を繰り返して最終的に 52 概念となり,そこからサブカテゴリー18個,カテゴリー6個が生成された(表3-3)。結果 図を図3-2に示し,ストーリーラインを述べる(【 】カテゴリー,〈 〉サブカテゴリー, [ ]