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本論文で提案する漫才ロボットでは,一般的なWebニュースを漫才に基づいた対話型のコン テンツに自動で変換を行っている.このコンテンツ変換が,Webニュースと比較して娯楽性や 親しみの観点から有用性があるかを実験により検証する.実験ではまず,漫才ロボットの評価 を行うために,提案手法に基づき漫才ロボットあいちゃんとゴン太の2体のロボットが漫才を

図16:評価項目(5)-(8)の評価結果

実演する.漫才に用いる題材となるWebニュースには「ラグビーワールドカップ、日本が南ア フリカから金星、大会史に残る衝撃的な勝利」のタイトル記事を用いた.この記事を基に提案 手法により漫才台本を生成し,2体のロボットが生成した漫才台本に応じた動作および対話を実 行する.題材となったWebニュース記事の内容を表17に,自動生成した漫才台本の内容を図 18にそれぞれ示す.漫才実行中のロボットの行動として,ロボットは回転動作により正面方向 を向く,相方のロボットの方向を向く2通りの動作パターンを行う.

次に,漫才ロボットとのコンテンツの違いによる比較を行うために,漫才ロボットの漫才と 同様のメディアを用いてコンテンツのみを変えた実演実験を行う.具体的には,漫才ロボット あいちゃんとゴン太2体のロボットがWebニュース記事のタイトルおよび本文を読み上げる.

この時,先の漫才とは同様の記事を用いるが,記事に対しての漫才台本の自動生成によるコン テンツ変換は行わない.実行中のロボットの行動としてあいちゃんは記事タイトルを合成音声 で発話した後,以降記事本文の内容をゴン太がすべて発話する.ロボットの発話スピードや間 に関しては漫才ロボットの漫才実演時と同様のものであるが,2体のロボットは回転動作およ び目の表示画像の切り替えを行わない.また,漫才台本を生成していないため相槌およびボケ やツッコミといった技法も行わない.被験者は18名の20代大学生,大学院生であり.被験者 は漫才ロボットとニュースを読むロボットを観察後,以下の評価項目に5段階(5:高,1:低)

で評価を行う.

(1) 漫才ロボットの漫才,ニュースを読むロボットはそれぞれわかりやすかったか (2) 漫才ロボットの漫才,ニュースを読むロボットはそれぞれはおもしろかったか

図17:ラグビーワールドカップに関するニュース記事

(3) 漫才ロボットの漫才,ニュースを読むロボットはそれぞれは親しみやすかったか (4) 漫才ロボットの漫才とニュースを読むロボットではどちらが好きか

評価指標に関しては,ニュースを伝える情報提供メディアとしてのわかりやすさ,漫才を用い たことによる娯楽性を高さを測るおもしろさに加えユーザがメディアとして利用する上での親 しみやすさの3点に着目する.また,漫才ロボットの漫才とニュースを読むロボットとの比較 を行うために評価指標は同様のものを用いる.評価項目(4)に関しては,漫才ロボットの漫才が ニュースを読むロボットと比較して総合的にどの程度の有意性があるかを検証する.この評価 項目(4)のみ5段階評価ではなく3択(1:漫才ロボットの漫才,2:ニュースを読むロボット,

3:どちらとも言えない)での評価を行う.

実験結果と考察

評価項目(1)-(3)の評価結果の値の平均を図19に示す.また,わかりやすさ,おもしろさ,親

しみやすさの評価結果それぞれが漫才ロボットとニュースを読むロボットとの間で差が見られ るのか否かについてt検定による検討を行った結果を表9に示す.表9より,わかりやすさ:

「t(25)=2.208, p.05」,おもしろさ:t(27)=5.827,p.05」,親しみやすさ:t(29)=5.395,p.05 となった.漫才ロボットとニュースを読むロボットの評価結果の差には,わかりやすさ,おもし ろさ,親しみやすさの全ての評価で有意差が認められ, 漫才ロボットの方がいずれも平均の値 が高かった.即ち,わかりやすさ,おもしろさ,親しみやすさの全ての尺度で漫才ロボットが コンテンツとしてニュースを読むロボットよりも有用であることが確認された.特に,漫才ロ ボットでは基となるWebニュースに対してボケやツッコミ等の情報付加を行うことにより,直 の情報提供を行うニュースを読むロボットに比べてわかりやすさの評価の低下が懸念されたが,

実験結果では逆に漫才形式の情報提供によりわかりやすさの向上が期待できることを示唆して いる.これは,提案手法がWebニュースを漫才のルーチンに当てはめることで対話型の形式的 な情報提供を実現していることや,各種自動生成コンポーネントにより特定の話題をユーザに 印象付けたことによる効果等が考えられる.同様に,提案手法によりWebニュースコンテンツ におもしろみと親しみの要因の自動付加が可能なことが示された.

評価項目(4)の評価結果を図20に示す.評価項目(4)の評価結果でも漫才ロボットが被験者 18人中16人が漫才ロボットの方が好きと答え,ニュースを読むロボットを指示したのはわずか 1人であった.評価項目(4)の回答理由を自由回答により尋ねたところ,漫才ロボットは所々に ボケが挟まれて興味や親しみが湧いたといった類の回答を被験者7人が行った.ニュースを読 むロボットの場合は集中できないという意見が5人,堅苦しく感じると回答した被験者が3 いた.まず,おもしろさの評価に関しては,提案手法によりWebニュースを漫才台本形式のコ ンテンツに変換を行ったことで素のWebニュース記事に娯楽性を付加することができていると

図18:17の記事に対してシステムが自動生成した漫才台本

図19:漫才ロボットとニュースを読むロボットの評価結果 いえる.

両者の実演パターンは共に被験者に対して一方的に情報を発信する受動的なコンテンツであ るが,漫才ロボットではロボット同士が対話を行う形で情報を発信するという違いがある.親 しみの質問項目においても漫才ロボットがニュースを読み上げるロボットとして高い有意性を 持った原因として,話し言葉を加えたロボット同士の対話によりロボットの持つ無機質さおよ びニュース内容の堅さを緩和していると考えられる.同時に,漫才形式での対話では2体のロ ボット間での対話型コミュニケーションでありながらロボットが被験者の方向に回転動作によ り向きを定期的に合わせることで情報の発信を被験者に向けていることを示唆している.これ により,2体のロボット間のコミュニケーションの中に被験者を引き込み,コミュニケーション に巻き込まれた被験者のロボットへの注目度が増すことで結果的にロボットへの親しみの評価 も向上したと考えられる.

わかりやすさに関しては,先と同様に対話型のコンテンツ変換による効果に加え,目の画像 の切り替えによる視覚的補助が働き漫才ロボットが優位性を得たと考えられる.評価項目(4) おいてニュースを読むロボットを指示あるいはどちらとも言えないと回答した被験者は2人い た.この2人の被験者からは自由回答において,ニュースの内容を知るという目的で用いる場 合は漫才ロボットでの漫才は余分な情報が多いことを理由として回答している.漫才ロボット の漫才実演時間はニュースを読むロボットの実演時間と比較すると約2倍の時間を要する.漫 才ロボットが被験者にニュースの内容を伝えることを目的のひとつとしていることを考えると,

漫才台本自動生成によりニュースの内容から外れた対話を挿入することは余分ともいえる.

一方で,ロボット同士が笑いを含めた対話を行うことは,先に述べたようにロボットへの注目 度の増加およびわかりやすさの向上を促す効果を期待できるものである.改善策としては,被 験者のロボットへの視線情報や対ロボット距離をロボット側が随時計測し,それらの情報から被 験者のロボットに対する関心度合いを測ることが考えられる.例えば,ロボットが強い関心を得 られていることがわかればニュース内容から外れる笑いを含めた対話回数を減らす,逆に関心 を得られていなければ増やす等することで各々のユーザに適した実演処理に近づくと考える.

表9:漫才ロボットとニュースを読むロボットの評価結果のt検定

Mean SD t DF p

わかりやすさ(M) 4.27 0.57 2.20 25 0.03 わかりやすさ(N) 3.61 1.14

おもしろさ(M) 3.88 0.58 5.82 27 0.00 おもしろさ(N) 2.27 1.01

親しみやすさ(M) 3.88 0.58 5.39 29 0.00 親しみやすさ(N) 2.5 0.92

         (M:漫才ロボット, N:ニュースを読むロボット)

図20:漫才ロボットとニュースを読むロボットの比較による評価結果

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