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コラム2

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■ はじめに

 全国的にアサリ資源が減少する中、有明海沿 岸のアサリ漁場も例外ではなく、1980 年前後 に年間漁獲量8万トン台のピークを示した後、

その量は数千トン台にまで落ち込んでいる1) その原因としては、埋め立てや干拓を含む海岸 工事、河川改修、水質汚濁などによるアサリ生 息地の喪失、さらには底質の泥化、貧酸素化、

赤潮の発生など、アサリ生息環境の悪化があげ られている2)が、秋元ら(2010)は 1980 年前 後のアサリ漁獲量急増時に熊本市沖の海底質が 粗粒化していたことを指摘しており3)、底質環 境の改善がアサリ資源回復の中核的な対策にな りうることが示唆される。

 このような状況と認識の下、筆者らは平成 25 年度から5カ年計画で進められている水産 庁委託事業「有明海の漁場環境改善実証事業」

の一部を受託し、主としてホトトギスの繁殖と 底質の泥化による生息環境の悪化に対する改善 技術の開発を進めてきている。現地試験開始か ら約1年を経て想定を大きく上回るアサリ資源 増殖効果が認められたため、本欄を借りて成果 の一部を紹介する。

■ 試験の背景・目的と方法 1.有害生物防除

 有明海沿岸の干潟では、毎年夏になると二枚 貝のホトトギスが足糸を絡めてマット状の群集 を形成する。さらに 2009 年、2012 年に発生し た九州北部豪雨以降は、阿蘇山系の河川から流

紐状素材とクラムマットを用いたアサリ資源増殖効果

-有明海の漁場環境改善実証事業-

れ込んだ泥土が厚く堆積し、ホトトギスのマッ トと一体化することによりアサリの生息が阻害 され、稚貝の新規着生も困難になっている。こ のような状況が繰り返されることで産卵母貝資 源も枯渇するような状況に至り、ホトトギスを はじめとする有害生物防除対策の開発が喫緊の 課題となっている。

 筆者らは、漁業者自身で運用可能な手法を前 提に、波や潮流により干潟表面を繰り返し掻把 する紐状の素材を設置することで、ホトトギス 初期稚貝の着生を防止できるのではないかとの 仮説を立て、水槽実験と現地試験によりその検 証を行った。

 水槽実験に供したのは、紐状の TBR 社製バ イオコード数種(写真1)とクレモナロープで ある。水槽実験では、過去の熊本新港の波浪観 測データから平均的な波高 0.22m と周期 2.1 秒 の波を与え、その力が最大となる砕波水位 0.4m の条件下で紐状素材の挙動を観察し、定性的な

㈱東京久栄 技術本部 環境部  上席研究員 

森 田 健 二

写真1 バイオコード(写真左が PV45)

評価により最も効率よく底面を掻把したバイオ コード PV45 を現地試験に供した。

2.アサリ資源増殖

 紐状素材の設置によりホトトギスの着生が防 除され、結果として泥土の堆積も抑制されたと してもアサリ稚貝の着生が進むとは限らない。

逆に、紐状素材がアサリ初期稚貝の着生を阻害 することも想定された。そこで、筆者らは貝殻 と粘土を成形して高温焼成したアサリ稚貝着生 促進基材(パジコ社製クラムペレットφ 10㎜

×長さ 10㎜)を網目 4 ㎜の袋網内に 1㎡あたり 10㎏封入したクラムマットを干潟上に敷設し、

アサリ資源の増殖効果を確認した(写真2・3)。

 クラムペレットは、アサリ稚貝の能動的な選 択と底層境界層の発達に伴う流速低減効果によ る着生促進効果が確認されている。また、一般 的な貝殻焼成材にみられる水和反応による pH 上昇が起きず、短・中・長期・強制の溶出試験 においても有害物質や環境ホルモンは基準値未 満である。アサリ稚貝を用いたバイオアッセイ と遺伝子のコメットアッセイおいても影響は認 められず、安全性が確認されている。さらに、

比重が 1.5 前後に調整されているため、砂泥に 埋没することがなく、袋網と紐状素材との併用 によりメンテナンスフリーと回収・移設の容易 さも期待された。

■ 現地試験結果

 現地試験は、熊本市沖新地先では平成 25 年 7 月と 8 月、同小島地先では平成 25 年 10 月か ら開始した。

1.沖新地先

 沖新地先に設定した試験区は九州北部豪雨の 出水による泥土の堆積が比較的軽微であり、試 験開始時に天然のアサリ稚貝の着生も少ないな がら認められていた。7 月に開始した試験区域 内では、紐状素材を設置した区画でホトトギス の着生と泥土の堆積が抑制され(写真4)、8 月には前年秋産卵着底個体群と思われる殻長 10㎜未満のアサリ稚貝が 1㎡あたり平均 2 万個 体以上着底した。平成 26 年 2 月になると紐状 素材のみを設置した区画では冬季減耗により個 体数が大きく減少したが、クラムマットを設置 した区画では大きな減耗もなく、現存量は 1㎡

あたり 10㎏以上に達していた。8 月に開始し た試験区内でも紐状素材によるホトトギスの着 生と泥土の堆積防除効果は認められたが、この 時点でのアサリ稚貝のサイズが網目の 4 ㎜を大 きく超えていたため、7 月設置試験区のような クラムマットの効果は認められなかった。設置 時のアサリのサイズと網目の調整が重要である ことが示唆された。

写真3 クラムマットの敷設状況

写真2 キルティング加工をした袋網と クラムペレット   

2.小島地先

 小島地先は九州北部豪雨による泥土の堆積が 干潟全域で著しく、底質改善のための天地返し を行った区域でもアサリ稚貝の着生はほとんど 認められていなかった。平成 25 年 10 月にク ラムマットを敷設した区画では、天地返しの有 無にかかわらず同年 12 月以降からアサリ初期 稚貝の着底が始まり、平成 26 年 2 月の時点で は 1㎡あたり平均 8 千個体の稚貝が着生し、そ の後も順調に成育していることが確認されてい る。

 有明海のアサリ資源減少には母貝と浮遊幼生 の減少が密接に絡んでいることも考えられる が、漁業者が自ら実践可能で即効的かつ着実に 漁獲を回復する手段として、筆者らが提案する 紐状素材とクラムマット利用の可能性が示され た。平成 26 年度は熊本県と福岡県の複数地点 でその効果を検証し、一般性と地先の環境条件 に対する適応性ならびに限界条件を検証してい く予定である。

参考文献

1)水産庁増殖推進部 2013.二枚貝漁場環 境改善技術導入のためのガイドライン,

pp.220.

2)アサリ資源全国協議会企画会議,水産庁増 殖推進部,独立行政法人水産総合研究セン ター 2009.提言 国産アサリの復活に向 けて(平成 21 年 3 月改訂)

3)秋元,七山,塩屋,安間,須藤,島崎,滝 川 2010.熊本市沖有明海の底質変化と アサリ漁獲量の増減との関係,地質ニュー ス 659 号,2-10p.

写真4 敷設から 1 ヶ月半後の状況(写真左のクラ ムマットにはホトトギス群集の着生により 泥土を含んだマットが形成されているが、

写真右の紐状素材を着けたクラムマットに はホトトギスマットが形成されていない)

図1 沖新地先のモニタリング結果

図2 小島地先のモニタリング結果

写真5 クラムマット内に着生したアサリ稚貝

 近年、ホタテ、カキを除く二枚貝については、

その漁獲が低迷し、これまでのピーク時に比べ、

アサリは 1/5、タイラギは 1/50、ハマグリでも 1/20 にまで減少しています。減少しているこれ ら二枚貝の増殖等の取組は、漁協の単位などで行 われてはいるものの、資源を回復させるまでには 至らず、このままでは国内の二枚貝資源の安定供 給に支障を来すこととなりかねないことから、水 産庁では、二枚貝資源について資源の増殖に向け た緊急的な対策を行い、二枚貝資源を増大させる 手法を確立することを目的に、平成 26 年度から 平成 30 年までの事業として、「二枚貝資源緊急増 殖対策事業」を実施しているところです。

 本事業は、①タイラギ等人工種苗生産の技術が 確立しておらず、天然採苗も難しい貝類を対象と した人工種苗生産の技術開発試験を行う「二枚貝 人工種苗生産技術開発事業」と、②アサリ等につ いて新たに開発された垂下式養殖の技術等を用い

二枚貝資源緊急増殖対策事業について

て、目的とする場所に、天然を上回る多量の幼生 発生させたり、稚貝を定着をさせること等により、

効果的・効率的な増殖手法の実証化の取組を行う

「二枚貝増殖実証事業」の二つに分かれています

(下図参照)。

 現在、①の「二枚貝人工種苗生産技術開発事業」

は、委託事業として、(独)水産総合研究センター が中心となった二枚貝緊急増殖共同研究機関によ り、タイラギの人工種苗生産技術の確立に取り 組まれています。また、②の「二枚貝増殖実証事 業」は、公募事業として実施していますが、全国 14 カ所で、漁協や漁協と協力した民間団体が実 施または実施する予定で手続き等が進められてい ます。これらの実施主体のほとんどは、県、市町 村、試験研究機関の協力と指導を受けながら実施 することとしており、アサリ以外にもサルボウや 内水面のシジミについて取り組まれる予定で、今 年度の成果が期待されるところです。

水産庁栽培養殖課     課長補佐 

内 海 邦 夫

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