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「コウ」「ソウ」の後続内容

第五章 指示副詞「コウ」「ソウ」の後続内容の特徴

第一節 「コウ」「ソウ」の後続内容

―「コウ」「ソウ」が「発話動詞・思考動詞 + た。」に係る場合―

1.はじめに

指示代名詞「コレ」「ソレ」、指示連体詞「コノ」「ソノ」については文法的・文章論的な 研究が多く見られるが、指示副詞「コウ」「ソウ」の考察は少ない。

指示副詞「コウ」「ソウ」は係る動詞の性質によって用法が異なる。行動・作用の様態を 表したり、行動や作用の結果の状態を表したり、発話・思考の内容を表したりすることが できる。本章では、小説の地の文に多く見られる発話動詞・思考動詞(以下、「発話・思考 動詞」と略す)に係る場合の「コウ」「ソウ」を対象として考察する(注 1)。

先行する「コウ」「ソウ」の文章論的研究として、佐久間(2002)と馬場(2006)の考察 が挙げられる。佐久間(2002)は文章・談話の文脈展開における統括機能という観点から

「コ系の文脈指示詞」が「広域の機能領域を強調して指し示し、大きな統括力を有する」

のに対し、「ソ系の文脈指示詞にも、ある程度は段の統括機能があり、統括力は相対的に弱 い」と述べ、「コ」と「ソ」の統括力の違いを指摘している。また、馬場(2006)は指示語 系接続表現「こうして」と「そうして」の置き換え可能性を検討しながら、両者の用法の 重なりとずれを考察している。先行文の内容と後続文の内容が継起的である場合、両者の 用法の重なりが認められるが、「こうして」の場合は結果性の意味が前面に出、「そうして」

の場合は継起性の意味が前面に出るという違いがあるとしている。馬場の考察によって、

「こうして」と「そうして」がおのおの結果性と継起性に偏り、接続表現としての用法に 違いのあることが解明された。

本章では、発話・思考に関わる表現が後続する場合の「コウ」「ソウ」を対象として考察 する。両者に続く発話・思考に関わる表現の形式、そしてそれらと後続内容との文脈上の 関わりを分析することを通して、両者の文脈展開における機能の相違点を指摘することを 目的とする。

2.「コウ」「ソウ」に後続する発話・思考動詞の表現形式

「コウ」「ソウ」に後続する発話・思考動詞の語尾や結び付く語句の表現にはさまざまな 形式が見られる。【表 1】は日本の近現代小説に含まれる「コウ」「ソウ」の後続発話・思 考動詞(注 2)の表現形式を終止用法と非終止用法の諸形式に分類して示したものである。

なお、本章では、CD-ROM 版『新潮文庫の 100 冊』に収録された小説(注 3)を資料とした。

【表 1 「コウ」「ソウ」に後続する発話・思考動詞の形式】

終 止 用 法 非 終 止 用 法

と な

ば だ

64 0 0 5 4 73 51 0 6 1 1 20 0 3 0 0 3 0 0 2 87 160

102 6 9 14 28 159 214 23 113 42 9 71 27 18 8 7 11 4 16 42 605 764

【表 1】に見られるように、「コウ」160 例中に、終止用法 73 例、非終止用法 87 例であ り、数量的にはあまり差が見られない。それに対して、「ソウ」764 例中、非終止用法 605 例、終止用法 159 例と、非終止用法が終止用法の 4 倍近くにのぼる。ここから、「ソウ」は 非終止用法に多く用いられ、文や文脈を続ける働きが強いと考えられる。また、「コウ」に 後続する発話・思考動詞の出現形式において、最も多いのは終止用法の「た。」(64 例)で あるのに対し、「ソウ」において、最も多いのは非終止用法の「て」(214 例)である。こ のように、「コウ」と「ソウ」に後続する発話・思考動詞の形式では、おのおの「た。」「て」

へ偏る傾向が見られる。また、「コウ」において「て」も 51 例で、「ソウ」において「た。」

も 102 例であり、つまり、「コウ」「ソウ」はともに「た。」と「て」の形式が多く見られる。

「た。」と「て」それぞれの形式で、文脈展開及び場面の転換性において「コウ」と「ソウ」

はどのように異なるのか、本節及び第二節において検討していく。

3.問題の所在

本節では、後続の発話・思考動詞が「た。」で文を終止する場合の「コウ」「ソウ」を対 象として考察する。その後続内容との文脈上の関わりを分析することを通して、両者の文 脈展開における機能の相違点を指摘することを目的とする。たとえば、次のような例が見 られる。

○ 「どうするって、仕方がないわ、ねえあなた。老少不定っていう位だから」

奥さんはことさらに私の方を見て笑談らしくこう云った。(夏目漱石「こころ」)

○ 三原は何気なしにそう言った。そう言ってしまって、三原自身が、電気にでもかか ったように、はっとした。 (松本清張「点と線」)

「いった。」に係る場合、「こう云った。」と「そう言った。」は両者とも前方照応で、一 見同じように見えるが、発話・思考動詞とその後続内容との関わりを考察すると、「こう云 った。」の後続内容は当小説の第三十五節で、別の話題に入り、先行の場面と完全に変わる が、「そう言った。」の後続内容は発話行動の主体が行った行動であり、前後の行動は継起 的に行われているのである。

このように、「コウ」と「ソウ」に係る発話・思考動詞が「た。」で文を終止するとき(以 下、「た。」と略す)、その直後の内容は先行文と行動が継起して緊密な場合もあれば、話題 が転換する場合もある。「コウ」「ソウ」に係る「発話・思考動詞 + た。」の後続の内容を 検討することによって、「コウ」と「ソウ」の文章展開上の機能の違いを見出すことができ ると考える。

そこで、本節では、「コウ」「ソウ」が「発話・思考動詞+た。」に係る場合を取り上げ、

後続文との内容上の関わりから、「コウ」と「ソウ」の違いを考察する。

4.「コウ」「ソウ」+「発話・思考動詞 + た。」の後続内容

本節では、発話・思考動詞「た。」の直後の一文の内容と先行の発話・思考との関わりを 考えて、「Ⅰ場面が続く場合」と「Ⅱ場面が変わる場合」とに二分する。「Ⅱ場面が変わる 場合」は、文脈上の大きな切れ目であり、場所の転換、登場人物の入れ替わり、長い時間 の経過などである。本節では、これらを文脈上の切れ目の基準とし、後続文と先行の発話・

思考との関わりの強さから考えて、【図 1】[1]~[7]のように 7 種に細分する。

【図 1】において、Ⅰ (2)の①a、b、と②の三種類は発話・思考に継起する行動を表す 内容が続く。(3)は発話・思考が行われた時点における人物の状態の描写であり、行動主体 も他者も同一場面に存在する。Ⅱは、時間・空間・人物などが変わる、いわゆる場面転換 が見られる場合である。これらの分類の中、Ⅰの(2)は行動の継起の代表的な場合であり、

Ⅱは文脈の切れ目の代表例である。Ⅰの(1)と(3)は行動の継起でないため、時間的な展開 が見られない場合である。(1)は発話・思考内容についての説明であるため、先行の発話・

思考と内容上においては切れない緊密な関係である。(3)は発話・思考が行動として終わっ

ており、人物の状態についての描写へ移行する場合で、行動の描写から状態の描写へ移る ため叙述の質の違いがあり、その意味で、叙述の切れ目が生じる場合である。また、Ⅱは 切れ目の典型である。

【図 1 後続一文と発話・思考動詞「た。」との内容上の緊密性】

強い Ⅰ同じ場面が続く場合

(1)発話・思考内容の説明(語り手による発話・思考内容の注釈)[1]

(2)人物の行動

①行動主体(発話者・思考者)の行動

a.発話・思考の続き(たとえば、発話行動の直後にまた発話する)[2]

b.その他の行動(「見る」「笑う」「はっとする」など具体的な行動)[3]

②他者の反応行動(「言う」「笑う」など先行の発話に対する反応行動)[4]

(3)人物の状態

①行動主体の状態(行動主体を形容詞文や「ている」文で状態を表す内容)[5]

②他者の状態(ほかの人を形容詞文や「ている」文でその状態を表す内容)[6]

弱い Ⅱ別の場面に変わる場合[7]

このように、後続文が発話・思考(行動と内容を含めて)との関係が緊密であるかどう か、また、後続内容は行動の継起性を持っているかどうかという二つの観点から、以下の 分析を行う。

上記の観点と分類をもとに、発話・思考動詞「た。」の後続内容として、直後の一文を調 べた結果が【表 2】である。

発話・思考動詞「た。」の直後の文脈内容が「発話・思考内容の説明」「発話・思考の続 き」「その他の行動」「他者の反応行動」である時、「ソウ」が多く見られる。一方、「他者 の反応行動」「人物の状態」「別の場面」である時、「コウ」が比較的多く見られる。要する に、「他者の反応行動」の時に両者とも多く用いられる以外に、「ソウ」の場合は、先行の 発話・思考についての説明や発話・思考に続く継起的な行動が後続しやすい。それに対し て、「コウ」の場合は、後続内容は状態や別の場面が多く、継起的な行動が少なく、場面転 換など大きな切れ目もできるという傾向が見られる。後方照応の場合は「コウ」のみが用 いられ、前方照応の場合とは機能的に異なっていると見られるので、4.7 および 5 で検討 する。

【表 2 後続一文と発話・思考動詞「た。」との内容上の関わり】

前 方 照 応

Ⅰ同じ場面

(1)

(2)人物の行動 (3)人物の状態

①行動主体

a

b

コウ 0 0 2 7 4 3 6 22 42 64 ソウ 18 17 14 47 0 1 5 102 0 102

以下、発話・思考動詞「た。」の後続の文脈内容を種類別に考察し、「コウ」と「ソウ」

との文脈展開における具体的な異なりについて検討する。

4.1「発話・思考内容の説明」の場合

発話・思考動詞「た。」の後続内容が「発話・思考内容の説明」である場合は、いずれも

「ソウ」(18 例)が用いられ、「コウ」が見られない。

(1)祖母のトセは、信夫が台所にみだりにはいることを、きびしく禁じていた。

(略)

「男子には男子の分があり、女子には女子の分があるのですよ。男子はお上に忠義 をつくし、家の誉れをあげることだけを考えていればよいのです」

台所に顔を出すと、トセは必ずそういった。もっとも、トセのお上は天皇になっ たり、徳川様になったり、定かではなかったが。 (三浦綾子「塩狩峠」)

「そういった。」の後続文「もっとも~なかったが。」は、トセの発話中の「お上」につ いての語り手による説明である。このように先行文についての補足・説明が行われる場合 の後続文は、先行文との間に緊密な関連を持っている。こうした場合に、「ソウ」が用いら れることが多い。

4.2「行動主体の発話・思考の続き」の場合

発話・思考動詞「た。」の直後に、また同じ行動主体の発話・思考行動が続く場合である。