対する批判と金融政策効果
これまでに我々は、第1章で金融政策の目標と手段について考察し、
続く第2章で、ケインズ的金融政策の有効性についてif 一般理論』、IS
−LMモデル、総需要・総供給モデルを利用し検討してきた。すなわち、
これまでの議論では、拡張的な金融政策は貨幣供給量を増加させ利子率 の低下を媒体として投資の増大、ひいては総需要を増加させる効果を発 生させると考えられた。つまり、中央銀行が景気や物価指数の状況に応 じて実施する裁量的な金融政策の有効性が確認されたということができ るのであるnしかし、序章でも触れたように、1980年代以降、スタグフ レーション等の従来のケインズ理論の枠組では解明できない事態が発生 する一方で、マネタリズム等の反ケインズ理論が台頭したことにより、
ケインズ理論への信任は大きく揺らいだといわれる。では、そのような 反ケインズ理論とはどのようなものなのであろうか。
第3章では、マネタリズムの理論的指導者とされるシカゴ大学のフリ ードマン教授の理論について検討し、そのケインズ批判が有効かどうか について考察する。つまり、論文の最終章として、第1節で彼の代表的 理論ともいえる自然失業率仮説について分析し、続く第2節で、彼がケ インズ的発想に立って論じている貨幣理論を検討する。最後に第3節で、
フリー・ドマンらマネタリストのケインズ批判の背後にある、古典派とケ インズ派の対立点について比較・検討し、結論を求めていくことにする。
第1節.自然失業率仮説と金融政策 1.プリードマンと自然失業率仮説
周知のように、シカゴ大学のミルト.ン・フリードマン教授は、1976年
度のノーベル経済学賞を受賞した。その受賞を知らせる電文には「スウ ェーデン王立科学アカデミーは、本日、ミルトン・フリードマン教授の 消費の分析、貨幣の歴史と理論の分野における業績、及び安定化政策の 複雑さに関する実証に対して、1976年度のアルフレッド・ノーベル記念 経済学賞を授与することに決定致しました」と記されていた[X3−1]。シ カゴ大学を中心とするマネタリスト学派は、このフリードマンを理論的 指導者とし、反ケインズの経済学を展開している。
彼等はまず、民間経済の市場原理は元来健全であって、政府が介入せ ず、自由放任であったほうが円滑に働き得るものであると考えた。した がって、政府の介入は経済を不安定にするため、最小限にすべきである と考えたのである。この点については、まさに新古典派の自由放任論を 受け継いでいる。では政府はこの状況の中で何をすべきなのか。マネタ
リストたちは、クラウディング・アウト論で財政政策の効果を否定した 上で、金融政策もケインズ的な裁量的政策ではなく、政策ルールを設定
したものにすべきであるという主張にとどめている。彼等は、インフレ を通貨の膨大な創出によるものと見なし、それは商品生産額の延び率(
経済成長率)以上に通貨供給の伸びが著しかったために発生したとする のである。とすれば、政府のなすべきことは健全である民間経済に下手 に口出しすることではなく、通貨の供給量を慎重に経済成長率にあわせ るように管理する金融政策を重視することであり、それによって物価の 安定を図ることになるのである。
この、ケインズ学派に真向から対立したマネタリストの主張をいかに 考えればよいのか。ここではまず、フリードマンの代表的な理論といわ れている自然失業率仮説について考察していくことにする。この理論は、
インフレ期待が100%実際のインフレに反映されるならば、長期に成立 する期待均衡では失業率が自然失業率になると結論する。これをもとに、
フリードマンは金融政策について、ケインズ派の主張する裁量的政策を
否定するのである。すなわち、プリードマンの自然失業率仮説は反ケイ ンズ学派の金融政策論の中心的役割を果たしたと考えられるのである。
2.フィッシャー・フィリップスの評価
フリードマンは自然失業率仮説の考察に当たって、まず失業とインフ レーションについての分析に重点を置いている。そこで、彼は、これか らの議論の出発点として、まず代表的な二人の理論の分析を行う。すな わち、そのうちの一人が[X3−2]アービング・フィッシャーであり、もう 一人が[X3−3]A・W・フィリップスである。両理論は共に、政府の大き な政治目標である、雇用の拡大(あるいは失業の減少)とインフレ率の抑 制についての関係について考察している。前者はインフレは低水準の失 業をもたらす傾向があるとし、後者は統計的事実として、両者のトレー ド・オフ関係を示している。つまり、雇用と物価上昇との閲には、失業 を減らそうとすればその分だけインフレが発生するという関係があり、
高い雇用水準と物価安定とを同時に追求することはできないと主張する のである。では、この両理論をフリードマンはどのように位置付けてい るのか、論を進めて行くことにする。
まずフィッシャーの分析についてである。フィッシャーは物価変化率 を独立変数と考える。たとえば、物価が上昇している時、生産物価格の 上昇により、企業の収入は増加する。逆に支出は労働者との雇用契約に 代表されるように、そのほとんどが契約によって成立しているために、
収入増ほど増加しない。換言すると企業はこれを生産物に対する需要増 と判断し、生産量の拡大、ひいては雇用がしばらくの間は刺激され、雇 用量の増加となると考えるのである。フリードマンは、このフィッシャ ー理論の結論を、インフレにおける低水準の失業傾向と、デフレでの高 水準の失業傾向にあるとしている。
続いてフィリップス理論についてである。フィリップスは1958年の論
文において、イギリスのほぼ100年にわたる 賃金率(④ 長期の時系列データによれば、名E賃金率の
上昇率と失業率との間には負の相関関係が w . 存在すると主張したaこの関係をフィリッ Wo
プスは、名目賃金変化率を縦軸に、失業率 NNF
を横軸にとりその平面に各年の実現値をプ ロットすることにより、右下がりの曲線(後 のフィリップス曲線〉が描かれることによ o Eu 三〇 EF
って示した。プリードマンは、プィリップ [3−1]図 ス理論を次のように説明する。[3−1]図は労
働市場の需給関係を示している。そこで、 賃鍍僻(1/W・dW/dt)
次の3つの場合について考える。
①雇用量がE。・名目賃金率がW。の場合
労働需給は均衡し失業率はゼロとなる。 F
熱熱趨1総漏獄窓・eEo野
凌 を自然失業率と考える)
②雇用量がEF・名目賃金率がWFの場合
労働需要量が供給量に対して過多となり、 [3−2]図
超過需要の状態であり、自然失業率以下の失業率または超完全雇用を 示す。この時賃金については上昇圧力が生じる。
③雇用量がEu・名目賃金率がWuの場合
NS 1
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②の場合とは逆に超過供給の状態であり、失業率は自然失業率以上と なり、この時賃金の下方圧力が存在する。
以上のような3っのケs…スについて、[3−2]図は縦軸に名目賃金変化 率(1/w・dW/dt)をとり、横軸に失業をとっている。当然のことながら、
ケース①は図中の点E。を、②は点Fを、③は点Uを示すことになる。
さらにフィリップスは名目賃金変化率とインフレ率との間には強い相関 関係があるとし、物価と失業のトレード・オフ関係を説明した。フリー ドマンは、このようなフィリップス曲線を雇用水準を独立変数と考え、
名目賃金変化率を従属変数と扱うものであるとした。
では、フリードマンはこのフィリップス曲線をどのように考えたので あろうか。彼はフィリップスの誤謬として、労働の需給を名目賃金率の 関数としていることをあげた。すなわち、これは実質賃金率の関数と物 価水準との相関関係こそが重要なものであり、したがって縦軸をW/P
とした場合には、結果は自ずから変わってくるというのである。フリー ドマンはこの名目賃金と実質賃金に注目し、さらに論を進める。
[X3−4]「フィリップスのような議論の巧みな学者が、どのようにして 名目賃金と実質賃金を混同するに至ったのであろうか。ケインズ革命に
よって猷成されてきた一般的な知的風土が、彼をそのようにさせてしま ったのである」と彼は言う。すなわちケインズ革命の本質的要素は、産 出量に比べて物価が高度に硬直的であり、需要の変化はほとんどすべて 産出量の変化によって吸収され物価には反映されないと想定しているこ とにあり、よって名目賃金と実質賃金は同一視される。さらにフィリッ プスは、名目賃金と実質賃金を同一視する以下の根拠をあげる。
①各自の行動計画を立てて生活している人々は、物価水準の変化の可能 性については考慮せず、よって名目賃金や名目価格の変化を実質賃金 や実質価格の変化と見なす。その意味で物価は硬直的であるe
②労働者は名目賃金の引き下げという直接的な形での実質賃金の引き下 げに対しては強く反発し、これを容認しない。しかし、インフレによ る実質賃金の低下についてはそれを受け入れる[X3−5]。この観点から 考えると、事後的な実質賃金は予想されないインフレによって変更す るといえる。
この2点から、プィリップスは名目・.実質賃金について、それが予想さ