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クロマツ抵抗性および感受性クローンにおける宿主 − 病原体間相互作用の解明

3 章 クロマツ抵抗性および感受性クローンにおける宿主−病原体間相互作用の解明

1節 抵抗性および感受性クロマツにおける宿主−病原体トランスクリプトーム同時解析

1.1. はじめに

マツ材線虫病の被害拡大抑制のために,1973年から農林水産技術会議の特別研究「マツ類材線虫の防

除に関する研究」が実施され,本病に対する抵抗性育種の可能性と重要性が明らかにされた(大庭ら,

1983)。これを契機として実施された多くの研究開発を背景として,1978年から西日本地域において

「マツノザイセンチュウ抵抗性育種事業」が開始された(戸田,2004)。この育種事業では,本病の激

害地における生存木の中から抵抗性クロマツ候補木14,620個体が選抜され,人工的なPWN接種により

抵抗性を検定することで,最終的に16個体が選抜された。選抜されたマツの抵抗性は,自然受粉家系

への接種検定における生存率に従って,抵抗性の強い方から順に5–1の5段階でランク付けされた(戸

田,2004; Hirao et al., 2012)。しかし,これら複数品種存在するクロマツ抵抗性クローンの質的な差異

については不明である。

大庭ら(1983)は,マツの抵抗性要因のうち,PWNとマツとの関係性について,抗性作用(樹体内

に侵入したPWN増殖を抑制する)と耐性(PWNによる傷害を修復する,あるいはそれに耐える)を想

定している。Kusumoto et al.(2014)は,PWNを接種したクロマツ抵抗性クローン(波方73,ランク

hydrolase family proteinが高発現していた一方で,感受性クローンではPR-1b,PR-2,PR-3

leucoanthocyanidin dioxygenaseが高発現しており,抵抗性には活性酸素を除去する能力が関連する可能性

があることを述べている。Hirao et al.(2012)は,抵抗性クローン(波方73)では7・14 DPIにPR-9,

PR-10,細胞壁関連遺伝子群が高発現していた一方で,感受性クローンではPRタンパク(PR-1b,2,

3,4,5,6)質などの抗菌タンパク質関連遺伝子群が1・3・7 DPIに高発現したことを報告している。

この結果から,彼らは感受性クロマツでは過剰な防御反応が誘導される一方で,抵抗性クロマツでは細

胞壁関連遺伝子群が誘導されており,これら防御反応の違いが鍵となることを示唆している。これらの

研究から,クロマツの抵抗性メカニズムには,抵抗性のうち動的な「耐性」が関与する可能性があると

考えられる。しかし,クロマツ抵抗性クローンを用いた研究は極めて少ないうえに,PWNの病原性を

加味したクロマツの抵抗性および感受性因子についての議論は不足している。

Hogenhout et al.(2009)は,エフェクターを宿主細胞の構造と機能を変える全ての病原体タンパク

質および小分子として包括的に定義している。植物寄生性線虫は,植物体に侵入後,宿主細胞の分解や

植物の防御反応の抑制,植物の防御シグナル経路への干渉といった様々な機能をもつエフェクターを分

泌する(Haegeman et al., 2012)。PWNの遺伝子基盤に関しては,2007年にexpressed sequence tagsの解

析が行われ(Kikuchi et al., 2007),2011年にドラフトゲノム配列が決定されている(Kikuchi et al.,

2011)。以降,PWNの病原性について,トランスクリプトーム解析やプロテオーム解析などから得ら

れた生体分子情報が多数報告されている。Shinya et al.(2013b)は,PWNの病原性について,マツ樹体

第3章

については,PWNは活性酸素や様々な化学物質に対する防御に関わる分子を有する可能性が示されて

いる(Shinya et al., 2010; Shinya et al., 2013a; Qiu et al., 2013; Cardoso et al., 2016; Espada et al., 2016; Tsai et

al., 2016)。擬態分子や,他の植物寄生性線虫において植物の防御反応を抑制する分子に類似する配列

が検出されたとする報告(Shinya et al., 2013a; Espada et al., 2016)は,PWNがマツの防御反応を阻害す

る可能性を示唆するものである。さらに,Hu et al.(2019)は,PWNのトランスクリプトーム解析から

特定されたエフェクター候補BxSapB1がベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の細胞死を引き

起こすことを明らかにし,BxSapB1がPWNの病原性に寄与する可能性を示した。しかし,これらの知

見は,樹体から分離した,あるいは木片を浸した液中でのPWNの反応から推定されたものである

ため,これら病原性候補分子のマツ樹体内における発現を実際に検証する必要がある。

Dual RNA-sequencing(RNA-seq)解析は,宿主細胞と病原体を物理的に分離することなくRNAを抽

出し,in silicoで双方のトランスクリプトームを推定する手法である。そのため,測定された遺伝子発

現データは,巨視的な相互作用による変化を直接反映しており,分離過程でのバイアスを避けることが

できる(Schulze et al., 2016)。近年,このdual RNA-seq解析は,植物病害における宿主−病原体間の相

互作用を理解するために様々な種間で使用され,その有効性が認められている(Kawahara et al., 2012;

Hayden et al., 2014; Meyer et al., 2016; Petitot et al., 2016; Chen et al., 2017; Shukla et al., 2018; Kovalchu et al.,

2019)。

往の研究(Nose and Shiraishi, 2011; Hirao et al., 2012; Kusumoto et al., 2014)から,感染初期にクロマツ抵

抗性および感受性クローン間において組織・遺伝子発現レベルで反応に違いが認められたため,1・3

DPIのサンプルを対象に解析を行った。クロマツ抵抗性3クローン(波方37,ランク4; 三崎90,ラン

ク4; 田辺54,ランク2)の交配実験より,抵抗性に関する遺伝要因数は1.96個と推定されている(倉

本ら,2007)ことから,抵抗性因子は複数存在すると考えられる。そこで,本研究では,供試材料とし

てクロマツ抵抗性2クローン(波方37,三崎90)を用いることで,複数の抵抗性因子についての知見

を得ることも試みた。

1.2. 材料と方法

1.2.1. 供試材料とマツノザイセンチュウの接種

クロマツ抵抗性クローンは波方37と三崎90(双方ともランク4)を使用し,感受性クローンは県福

岡2号を使用した。供試木48個体(平均苗高47.8 ± 9.6 cm)は全て2016年3月頃に森林総合研究所林

木育種センター九州育種場内で接ぎ木された。これら供試木は,2017年3月から九州大学箱崎キャンパ

スの野外において育成し,試験の1週間前に九州大学箱崎キャンパス内のファイトトロンに移動させ

た。試験期間中の平均気温は29.8°C(26.8°C–37.5°C)であった。灌水は試験期間中毎日十分に行った。

2017年8月2日に,各クローン12個体の接ぎ木部分の約5 cm上部に強病原性であるPWN(Ka4ア

イソレイト)10,000頭(/50 µL)を剥皮法にて接種した。対照として,各クローン4個体には蒸留水を

第3章

に供試し,DNA分析を行った部分の上部(接種箇所上部0.1 g)をRNA分析に供試した。水接種した個

体は,PWNを接種した個体と同じ部分をRNA分析に供試した。

1.2.2. DNA分析とTaqMan qPCR

DNA分析およびTaqMan qPCR分析は,第2章第1節に記述した手法に従って行った。PCRプライマ

ーとプローブはtopoisomerase I(Huang et al., 2010)を使用した。TaqMan qPCR分析ではサンプルあたり

3反復を設けた。

1.2.3. RNA分析とシーケンシング

RNA分析は,第2章第2節に記述した手法に従って行った。抽出したRNAのうち,PWN接種した

1・3 DPIのサンプルを供試した。RNAはAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent)を用いて品質を確認した。

RNAの生物学的反復(n = 3)はそれぞれ混合し,6サンプル(2時点 × 3クローン)に調整した(5

µg)。

ライブラリ調整とシーケンシングは北海道システムサイエンス社に依託した。シーケンシングは

HiSeq 2000(Illumina)を使用し,ペアエンド100 bp読み取りにより塩基配列データを取得した。得られ

たリードのうち,アダプター配列と低品質のリードをTrimmomatic software(Bolger et al., 2014)により

除去した。

1.2.4. データ解析(マツ側)

これらアセンブルされたde novoトランスクリプトームに対し,各ライブラリのフィルタリングされ

たリードをBWA(Li and Durbin, 2009)によってマッピングした。マッピングされたリード数は,

Samtools(Li et al., 2009)を用いて算出した。これらのリード数から各遺伝子でnumber of counts per

kilobase per million reads(CPKM)を算出し,平均CPKMが1以上の遺伝子を以降の解析に使用した。

主成分分析は,対数(log2)変換したデータセットに対しR version 3.5.1(R Core Team 2018)の

“prcomp” functionを用いて行った。

抵抗性クロマツと感受性クロマツ間の発現変動遺伝子(differentially expressed genes, DEGs)の検出

は,edge R package(Robinson et al., 2010)を用いて行った。リード数の正規化は,edge R package内の

Trimmed mean of M values正規化法を用いて行った。本実験ではRNA-seqに供試したサンプルに反復が

ないため,edge Rのガイドラインに従って“estimateGLMCommonDisp” functionを用いて遺伝子間の分

散を予測した。False discovery rate(FDR)の閾値は0.001に設定した。

各クローンにおける平均CPKMが10以上のDEGsについて,Blast2GO v5.2.5(Götz et al. 2008)を用

いてBlastxによる相同性検索を行った。Blastx検索は,Arabidopsis thaliana protein sequences

に対し,E-valueの閾値を1.0E-5

とすることで行った。アノテーションが付与されなかった遺伝子については,non-redundant protein databaseに対し,Blastx検索を行った。

ベン図はVENNY 2.1(Oliveros, 2007)によって,ヒートマップはgplots package(Warnes et al., 2016)

の“heatmap.2” functionを用いて図化した。

第3章

グした。マッピングされたリード数から,Cufflinks(Trapnell et al., 2010)を用いてfragments per kilobase

of exon per million fragments mapped(FPKM)を算出した。全ライブラリでFPKMが1以上の遺伝子を以

降の解析に使用した。

PWNのエフェクター候補分子を特定するために,PWNのタンパク質配列に対してSignalP 5.0

(Almagro et al., 2019)を用いたシグナル配列の探索と,TMHMM 2.0(Krogh et al., 2001)を用いた膜貫

通領域の探索を行った。シグナル配列を含み,かつ膜貫通領域を含まない遺伝子について,Blast2GOを

用いてBlastpによる相同性検索を行った。Blastp検索は,non-redundant protein databaseに対し,E-value

の閾値を1.0E-5とすることで行った。

細胞壁分解酵素様遺伝子を特定するために,Nematode’s Cell Wall Degrading Enzyme database

(https://www.depts.ttu.edu/pss/mendulab/NCWDE/)(Rai et al., 2015)に記載されているB. xylophilus

Gene IDを参照した。ただし,細胞壁分解酵素の作用を促進するエクスパンシンに関しては,Blastp検

索の結果をもとに特定した。

ペプチダーゼおよびペプチダーゼインヒビター様遺伝子を特定するために,MEROPSデータベースに

対してBlastpによる相同性検索を行った。E-valueの閾値は1.0E-10とした。

1.3. 結果

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