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庭園ガイド として活動するボランティ アの意識調査

3 . 1 本章のねらい

1997年に都立庭園が公園協会に業務委託されたこと に伴い、 都立庭園における文化財庭 園の管理が、従来の文化財の保全を主体とした施設管理から、活用にも目を向けた管理手法 に取り 組むこととなった。その管理手法の転換を契機に、文化財庭園の新たな管理手法とし て、庭園管理を市民との協働により行う という 都立庭園ガイド ボランティ アは誕生した。文 化財庭園のガイド をボランティ アが行う と いった考え方は、 公園協会理事長の諮問機関で ある「 都立庭園の管理に関する専門委員会」 により 1999年の答申「 都立庭園の管理に関す る方策」 の中で位置づけられたものである。「 都立庭園の管理に関する専門委員会」 の委員 長であった進士五十八氏24)によると,「 絵のよう な京の庭とは違って,広大で絵になり づら く 一方で数百年の波乱万丈な庭園生活史を重ねた江戸庭園物語は, 広汎かつ深い知識や都 民が関心を持つ地誌や植物誌やエピソード を楽し く 話せる語り 部の存在なく し て, その魅 力を十分に伝えることはできない」 との理由から文化財庭園のガイド を提言し たとのこと であった。文化財庭園のガイド を行う ためには、都立庭園の多く が江戸時代の大名庭園であ るため、先ず大名庭園や時代背景等の基礎的知識とともに、担当する庭園の専門的な知識が 必要となる。そのため、市民の人たちが都立庭園ガイド ボランティ アとなるためには、文化 財庭園に対する基礎的知識や専門的知識を学習し た後、 庭園ガイド ライセンス試験に合格 し、 自ら選択した文化財庭園のボランティ ア団体に登録することにより 初めて庭園ガイド となることが出来る。庭園ガイド としての資格を得たボランティ アの人たちは、自らの知識、

経験に基づき市民目線での分かり易いガイド を行っている。

そして、都立庭園ガイド ボランティ アとして活動している人たちは、自らの関心ある庭園 について積極的に学習し、文化財庭園の歴史的、文化的価値や魅力を伝えるといった社会的 役割を果たす喜びと ともに新たな知識を得る楽し みを感じ活き活きと活動している。 この ことは、市民との協働による文化財庭園の新たな管理手法という だけではなく 、都立庭園ガ イド ボランティ アとしての活動が、高齢化社会の到来にあって、今後望まれる生涯学習の場 としても有効な取り組みであるとも考えられる。

そこで、本章では、都立庭園ガイド ボランティ アの人たちを対象とし て、現在のボランテ ィ ア活動が生きがいを感じること が出来る取り 組みと なっているのか、 自己実現できる場 所としても有効であるのかについて研究するものである。

市民との協働による文化財庭園の管理手法とし ての都立庭園ガイド ボランティ アの活動 が、ボランティ アとして参加する市民が生きがいを持てる取り組み、自己実現できる社会参

加の機会を得ること が出来る取り 組みであること を明らかにすることにより 、 超高齢化社 会を迎えつつある日本社会にあって、 生きがいを持って活き活きと生活できる社会活動の 一つのモデルを描く ことができるものと考える。このことは、文化財庭園に限らず、文化財 の管理者にとって、市民との協働による管理であるとともに、市民の生きがいや自己実現を 図ることのできる社会活動の提供といった文化財施設の管理の一つのあり かたを提示する ことが出来る。

表3−1は,2016年4月現在の都立庭園ガイド ボランティ アの登録者数及び各文化財庭 園への導入年( 西暦) 等を示したものである。なお, 今回調査対象と した都立庭園は, 旧岩 崎邸庭園, 旧芝離宮恩賜庭園, 旧古河庭園, 清澄庭園, 小石川後楽園, 殿ヶ谷戸庭園, 浜離 宮恩賜庭園,向島百花園,六義園の9庭園とした。表中での庭園名称は,旧岩,旧芝,旧古,

清澄, 後楽, 殿, 浜, 六義とした。

表3 −1 都立庭園ガイド ボランティ アの登録者数、 導入年、 活動年数

*登 録者数は2016年4月現在の人数

*退会者数は2015年度内で退会し た人の数

3 . 2 研究の目的

都立庭園は, 文化財指定さ れた庭園ではあるが, 一般開放されている公共施設でもあり , 保全と活用を図ることは庭園管理者にとっての課題である。また、都立庭園の多く は池泉回 遊式の大名庭園であるため、庭園に足を踏み入れ、利用することによって初めてその意匠や 美しさ を理解することが出来る施設であり 、 文化財として現状を適切に保全するだけでは なく 活用することが、 その庭園本来の価値や魅力を理解するう えで重要である。

旧 岩

旧 芝

旧 古

清 澄

後 楽

殿 浜 百 花

六 義

合計

( 人)

男 20 7 12 22 24 7 13 12 26 143

女 54 14 29 16 22 14 32 16 21 218

計 74 21 41 38 46 21 45 28 47 361

退会者数(人) 4 1 0 2 2 2 0 0 7 18 導入年(西暦) ‘03 ‘08 ‘05 ‘02 ‘99 ‘11 ‘99 ‘06 ‘00

活動年数(年) 13 8 7 14 17 5 17 10 16

都立庭園の活用の役割を担う 都立庭園ガイド ボランティ アは,1999年に浜離宮恩賜庭園 と小石川後楽園に各10名ずつの合計20名で最初の活動が始まった30。 その後, 順次都立 庭園に導入されていき, 現在では361名の人数に増加し た(表3−1)。 現在の都立庭園ガイ ド ボランティ アは,庭園ごとに団体登録され,自主的に外部講師を招聘した研修会の開催や、

関連施設見学会等を実施し スキルアッ プに努めるなど, 活発に活動を続ける自主運営組織 として育ってきている。

このよう に、 都立庭園ガイド ボランティ アは、 設立時から2016年までの17年間で約18 倍もの規模に拡大し、活発な活動を続けている。都立庭園ガイド ボランティ アの活動が活発 に行われ、自主的活動が盛んに行われることは、庭園ガイド の内容がさらに充実し、文化財 庭園の魅力向上に貢献することと なり 、 文化財庭園管理にとっても大きなメ リ ッ ト を生み 出すこととなる。都立庭園ガイド ボランティ アの活動は、市民との協働の取り 組みとして始 められたものであるが、活動する市民は、自主的な学習を進め、新たな知識を得たい、庭園 ガイド として文化財庭園の歴史的・ 文化的価値や魅力を多く の人に伝えたい、情報を発信し たいといった自己実現の場とし ても活動しており、 それは生涯学習の場とも考えられる。

現在、 高齢化社会にあって、社会参加、地域社会への貢献、自己実現といった精神的な満 足を求める声が高まる中で、定年後の残された人生を豊かなものとするためにも、また多様 な学習意欲に対する要望に応えるためにも、 生涯学習の場の提供が大きな社会的な課題と なっている。

そこで

、都立庭園ガイド ボランティ アへの参加動機を明らかにし,ボランティ ア活動により得ら れる経験は何か,高い満足感は得られているのかなどの意識調査をすることによって,都立 庭園ガイド ボランティ アの活動が、 生涯学習の場としても有効な取り 組みとなっているの かについて明らかにすることを本章の目的とする。

3 . 3 研究方法

都立庭園ガイド ボランティ アは,2011年3月31日に設けられた「 都立庭園ガイド ボラ ンティ アの設置及び運営に関する要綱」( 以下, 要綱) に基づき自主運営のボランティ ア組 織として活動を行っている。要綱によると、都立庭園ガイド ボランティ アとして活動するた めには、文化財庭園の基礎的知識を学び「 ライセンス試験」 に合格し た後、希望する庭園の 都立庭園ガイド ボランティ ア団体( 以下、団体とする) に登録をしなければならない。そし て、 各団体は月に1回程度の割合で全員参加を原則とする定例会を行い、 そこで毎月の庭園

ガイド の参加当番や、ボランティ ア間の情報交換、自主活動の計画作成等を行っている。庭 園ガイド の活動は, 基本的に土日祝の午前と午後の1日2回、1時間から 2時間程度で実 施しているが,都立庭園の規模、都立庭園ガイド ボランティ アの人数等により 、毎日実施す る庭園や土日の午後だけ実施する庭園などの違いがあり、それらの実施内容、回数について は、 庭園の事情に応じてそれぞれの団体の定例会において自主的に決定している。

そこで,都立庭園ガイド ボランティ アの人たちの意識調査の方法として、定例会を活用し て本調査の目的及び内容を説明し 協力を求めると 共に、 アンケート 用紙の配布及びアンケ ート 調査実施の周知を図った。また、アンケート の回収率を高めるために、各庭園事務所に 協力を依頼し,各事務所にもアンケート 用紙を用意しておき,都立庭園ガイド ボランティ ア の方が庭園ガイド と して活動を行う ために庭園に訪れた際にもアンケート 用紙を配布出来 る体制とし、 総会に参加できなかったボランティ アの方にも漏れの無いよう に取り 組んだ。

アンケート の実施時期については,庭園ガイド として活動するための「 都立庭園ガイド ラ イセンス」 が4月から翌年3月末までの1年更新となっているため, その年で団体から脱 退するボランティ アの人数や意見の聴取、 新たに参加するボランティ アや更新するボラン ティ アの意見の聴取ができるため、アンケート の実施時期は「 都立庭園ガイド ライセンス」

の更新時期である3月中旬から 4月中旬までの1 箇月間とし た。 アンケート の集計は、 各 団体でとりまとめ庭園事務所に提出することで協力をお願いした。

アンケート の調査項目の概要は表3−2の通り である。

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