第 2 章 生分解性とケミカルリサイクル性を有するカーボネート型カチオン界面活性剤
2.3 結果と考察
2.3.2 カーボネート型カチオン界面活性剤 SnX の合成
Fig. 2.20 1H NMR spectrum of the crystal (300 MHz, D2O).
HPr
1H NMR (300 MHz, D2O) : = 1.81-1.94 (2H, m, HOCH2CH2CH2N+(CH3)3), 2.98 (9H, s, HOCH2CH2CH2N+(CH3)3), 3.26-3.36 (2H, m, HOCH2CH2CH2N+(CH3)3), 3.55 (2H, t, J = 6.6 Hz, HOCH2CH2CH2N+(CH3)3).
Fig. 2.21 1H NMR spectrum of the filtrate (300 MHz, CDCl3).
n-Dodecyl methyl carbonate
1H NMR (300 MHz, CDCl3) : = 0.88 (3H, t, J = 6.9 Hz, CH3-), 1.18-1.42 (18H, m, -(CH2)9-), 1.66 (2H, tt, J = 7.2, 7.2 Hz, CH2CH2OC(=O)OCH3), 3.78 (3H, s, CH2CH2OC(=O)OCH3), 4.14 (2H, t, J = 7.2 Hz, CH2CH2OC(=O)OCH3).
TLCおよび1H NMRスペクトルによる同定結果から、HPr、DDおよびn-ドデシル=メチル
=カーボネートの生成が認められた。これは、S12Pr粗生成物の精製操作(良溶媒にメタノー
ル、貧溶媒にジエチルエーテルを用いた再沈殿操作)でカーボネート結合の分解が起こった ことを示している。S12Pr にメタノールを加えただけでは、加溶媒分解の進行は認められな かった(溶液は無色透明)。しかし、ジエチルエーテルを加えると溶液はすぐに淡黄色に変化 し、その後、結晶の析出とともに溶液は無色透明となった。淡黄色溶液および無色透明溶液 のTLCを観察したところ、前者ではカーボネート結合の分解は認められなかったが、後者で はそれが認められた。以上の結果から、S12Pr の分解は、ジエチルエーテルを加えることで ヨウ化水素(酸)が生じ、系内が酸性となったことによるものと推測される (Scheme 2.9)。
まず、ジエチルエーテルの作用(ルイス塩基性、水素結合受容性)によりメタノールからメ トキシドアニオン (CH3O-) が生じる。これがS12Prの対イオンであるヨウ化物イオン (I-) と おき換わることで I-が遊離し、これによりヨウ化水素(酸)が生じたことが予想される(溶 液が淡黄色に変化)。このようにして系内が酸性となり、S12Prは容易に加溶媒分解(加水分 解)されたものと考えられる。その際、メチル=N,N,N-トリメチルアンモニウム=カーボネー ト=ヨージドの生成も予想されたが、それは認められなかった。これは、S12Prの第四級アン モニウム塩側のカーボネート結合に隣接するメチレン炭素の方がドデシル基側のものよりも 電子密度が低いことによるものと考えられる。1H NMR スペクトルにおいて、前者のピーク
は = 4.30、後者のものは = 4.14 に位置している。ケミカルシフトが低磁場側に位置する
ということは、そのメチレン炭素の電子密度がより低いことを意味する。第四級アンモニウ ム塩の正電荷がカーボネート結合周辺の電子を引き付けるという誘起効果によりカーボネー ト結合に隣接するメチレン炭素の電子密度が低下したため、この部分が脱離しやすくなった ものと思われる。これにより、HPrの生成が優先されたものと考えられる。
一方、S12iPrは、電子供与基である側鎖メチル基の存在によりS12Prと比べてカーボネー
ト結合周辺の電子密度が高いために、カーボネート結合の分解が起こらなかったものと考え られる。
Scheme 2.9 Proposed mechanism for the degradation of the carbonate linkage.
S12Pr の収率を増加させるため、酢酸エチルを用いた再結晶法により粗生成物の精製を行
った。S12Pr粗生成物に酢酸エチルを加え、60 ºCに加温したところ完全に溶解した。その後、
室温で放冷すると結晶の析出が認められた。ろ過により得られた結晶を減圧乾燥させたとこ ろ、S12Prが収率85%で得られた。同様にしてS10Prは収率86%、S14Prは収率85%で得ら れた。一方、S12iPrの収率は65%に止まった。これは、酢酸エチルへのS12iPr粗生成物の溶
解性がS12Prよりも高いことによるものと考えられる。