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はじめに

カンボジアは東南アジアに属する後発開発途上国の 1 つであり、近隣諸国の開発レベル と比較し大きな差をつけられているものの、近年経済面では順調な成長を見せている。そ れに伴い貧困状況も大幅に改善したが、農村居住者が大多数を占めるこの国では未だに多 数の貧困者を抱えているのが現状である。この章はカンボジアの現状と課題として、同国 の抱える課題を明らかにする。まず第 1 節では、カンボジアの経済の現状に関して、政治 状況の特徴、経済動向の ASEAN 諸国との比較、就業構造やリーディング産業の状況等の 考察を行う。第 2 節では、カンボジアの産業の中でも重要な地位を占める農業の現状と課 題をまとめる。第3節では、カンボジアにおける貧困の現状を、主にASEAN諸国との比 較分析から浮き彫りにする。

第1節 カンボジアの経済の現状 1-1-1 カンボジアの地理風土

図1-1-1 東南アジア地域の地図

バングラデシュ

中国

台湾 ミャンマー

タイ インド

ブータン

ベトナム ラオス

フィリピン

インドネシア

カンボジア

シンガポール

マレーシア

東ティモール

オーストラリア パプアニューギニア 日本

ブルネイ

出所)白地図専門店より筆者作成。

カンボジアは東南アジアに属する一国であり、国境は西をタイと、北をラオスと、東と 南東をベトナムと接しており、国の南西にはタイ湾が存在している。図 1-1-1 は、カン

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ボジア及び東南アジア諸国の位置を表している。国の総面積は181,035平方キロメートル31、 23の州(province)と1つの特別市(municipality)、194の郡(district)、1,621の行政 区(commune)とで構成32されており、約 440 キロメートルに渡る海岸線がある33。カン ボジアの中央部は平野地域であり、米作を中心とした農業が行われている。一方、国境地 域の大部分は山岳地帯で、森林に覆われている。水資源は豊富で、同国中央部にはトンレ サップ湖があり、漁業が行われている。また中央を南北に縦断しているメコン川は、中国 雲南省からミャンマー、タイ、ラオスを経て同国を流れ、ベトナムから太平洋へと流れ込 む河川である。

図1-1-2 カンボジアの人口推移

0 2,000,000 4,000,000 6,000,000 8,000,000 10,000,000 12,000,000 14,000,000 16,000,000

1960 1961 1962 1963 1964 1965 1966 1967 1968 1969 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

国勢調査等

世界銀行

出所)National Institute of Statistics, Ministry of Planning(2009)総務省統計局及びWorld Bank Group より筆者作成。

注)国勢調査等のデータに関してはそれぞれ、1962 年が「1962 census」、1980 年が「1980 General Demographic Survey」、1994年が「1993-94 Socio-Economic Survey of Cambodia」、1996年が「1996 Demographic Survey of Cambodia」1998年が「1998 Census」2004年が「2004 Cambodia Inter-censal Population Survey (CIPS)」、2008年が「2008 Census」2013年が「Cambodia Inter-censal Population Survey, 2013」に基づくものである。

年間平均総雨量は142 から200 センチメートル程度34、気候は乾季と雨季とがあり、雨 季は5月中旬から9月中旬あるいは10月上旬まで、乾季は11月上旬から3月まで続き、4 月及び5月上旬の期間は熱気を帯びた状態となる。平均最高気温は33.3度、平均最低気温

31 National Institute of Statistics, Ministry of Planning(2011)

32 National Institute of Statistics, Ministry of Planning(2013)。行政区分の名称に関しては、高橋(2001)

を参照。

33 National Institute of Statistics, Ministry of Planning(2011)

34 同上(2011)、2010年は平均158センチメートル。

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は22.8度であり、カンボジアにおいて1月は最も寒く、4月が最も暑い月となる35。雨季 のメコン川が氾濫する事があるが、それにより運ばれてくる養分が農業に生かされている。

図 1-1-2 で表すように近年人口は増加傾向にある。図内の棒グラフはカンボジア国勢

調査等のデータ、折れ線グラフは世界銀行のデータを示している。国勢調査等の結果から、

1980年時点では約659万人に過ぎなかった全人口は、2013年には約1,468万人とこの期 間で2倍以上に増加している事が読み取れる。一方で世界銀行の結果は、1974年まで増加 傾向にあったが、1975年から1980年まで6年連続で減少に転じている事を示している。

これは民主カンプチア36による政策が実施されていた期間と一致し、この期間に大幅な人口 減少が生じており、カンボジア国民にとって非常に過酷な時代であった事が分かる。また 都市化は進んでおらず、全人口の80.5%は農村地域に居住している37

民族構成は、クメール人が全体の96.31%を占めており38、都市では政治・経済活動一般 に従事し、地方では農業と伝統的産業に従事している。クメール人以外では、中国人とベ トナム人、およびその他少数民族が存在する。中国人は都市部およびその周辺に居住し、

主に商業活動を行っている。ベトナム人は都市部にて商業に従事する他、漁業や魚の加工 業等に携わっている。チャム人はポル・ポト時代39以前には70 万人いたとされているが、

その後の虐殺により人口は激減、現在では30~40万人程度がメコン川からトンレサップ湖 畔に至る地域に居住している(上田、岡田(2012)、90-94頁)。伝統的産業として、漁業、

水牛飼育、鍛冶、宝石加工等を行っているが、今日ではその他にも様々な職業に従事して いる。その他の少数民族は、クイ族、スティエン族、サチオ族、チョン族、ペアル族など が居住している(廣畑(2004)、10頁)。

1-1-2 カンボジアの経済動向

カンボジアは、米作を中心とした農業国で、産業も小規模零細な事業がほとんどであっ た。しかし1990年代の前半に、計画経済から市場経済への体制移行が進められ、その後急 速な経済構造の変化を遂げている。特に外国資本による労働集約型の衣料関連産業は、カ ンボジアのリーディング産業に成長しており、同国が比較的高い経済成長率を維持する原 動力となっている。図1-1-3が示すように、GDPは2000年代初めより順調な成長を示 しており、特に2004年から2007年の4年間は10%を超える高い経済成長を持続している。

2009年に、世界的な経済危機の影響を受け、成長率は0.1%にまで落ち込んだものの、2010

年には6.0%まで回復を見せている。また、2011年には6.0%、2012年には6.5%の成長率

を維持していると予測されている40

35 同上(2011)。気温は2003年から2010年までの8年間の平均値。

36 民主カンプチアに関する詳細は、第2章を参照。

37 2008年時点。National Institute of Statistics, Ministry of Planning(2011)

38 National Institute of Statistics, Ministry of Planning(2009)

39 ポル・ポトに関しては第2章を参照。

40 カンボジア開発評議会。

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またGDP総額は、2001年時点で約39億8,400万ドルであったが、2009年に約103億 8,500万ドル、2010年に約114億3,800万ドルと順調な成長を見せており、2011年には約 129億ドル、2012年には約142億ドルに達するとの予測がなされている41

図1-1-3 カンボジアのGDP実質成長率の推移

8.1 6.6

8.5 10.3

13.3

10.8 10.2

6.7

0.1

6 6 6.5

0 2 4 6 8 10 12 14

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011c 2012c

(%)

出所)Ministry of Economy and Finance(2010)及びカンボジア開発評議会より筆者作成。

注)2011年及び2012年の値は予測値。

表1-1-1 ASEAN諸国のGDP、GNI及び1人当たりGNI

GNI 億ドル 2013年

1人当たりGNI ドル 2013年

カンボジア 152 438 2,890

ラオス 112 308 4,550

ミャンマー - -

-ベトナム 1,714 4,550 5,070

マレーシア 3,132 6,695 22,530

インドネシア 8,683 23,151 9,270

タイ 3,873 8,997 13,430

フィリピン 2,721 7,713 7,840

シンガポール 2,979 4,150 76,860

ブルネイ 161 -

-低所得国平均 9,296 16,626 1,959

購買力平価(PPP)

GDP 億ドル 2013年

出所)World Bank Group、World Development Indicators 2015 Online Tablesより筆者作成。

注)「-」はデータが無いことを表す。

1人当たりGDPも同様に増加しており、2001年時点で312ドル程度であったが、2010 年には830ドルと約2.7倍になっている。また、2011年及び2012年には、それぞれ904 ドル、984ドルになると予測されている42。しかし、カンボジアの経済規模は近隣諸国と比 較しても、未だに小さい。表1-1-1はカンボジアを含むASEAN諸国のGDP値、GNI

41 カンボジア開発評議会。

42 カンボジア開発評議会。

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値、1人当たりGNI値をまとめたものである。国際比較のため、前述のデータとは出所が 異なり、世界銀行のデータを利用して作成している。カンボジアの2013年のGDPは152 億ドル、2013年の購買力平価換算によるGNIが438億ドルと、他国と比較しても大幅に 低い。国境を接する3か国とGDPを比較すると、タイは約21 倍、ベトナムは約10倍、

唯一カンボジアより低いラオスは約0.7倍となっている。1人当たりGNIに関しては2,890 ドルとデータを入手可能な国の中で最も低く、ラオスの4,550ドルと比較しても約1.6倍の 差が生じている。低所得国平均値(1,959ドル)は931ドル上回っているものの、ASEAN 諸国との比較の結果、カンボジアの所得レベルは低水準に留まっていると言える。

元々、カンボジアの主要産業は、米作を中心とした農業と、製造業では小規模零細な食 品加工業、木材加工業、窯業等が中心であった。しかし、パリ和平協定後、内戦が終結し、

総選挙を経て国内政治が安定の道を辿るようになると、経済体制もまた中央計画経済から 市場経済へと移行し、製造業を中心とした第二次産業及び観光業を中心とした第三次産業 は急速な成長を果たした。

図1-1-4は、2011年のカンボジアの産業分野別GDP構成比の推定値を示しており、

農林水産業が 32%、工業が 22%、サービス業が 38%を占めていることが分かる。この比 率は、2001年の数値(それぞれ34.3%、22.3%、38.4%)と比較しても大きな変化は生じ ていないが、農林水産業の割合は2%程度低下している。農林水産業では、農産物、次いで 水産業の規模が大きく、工業では、製造業の割合が大部分となっている。サービス業では、

商業や不動産・事業サービスの比重が大きい。

図1-1-4 カンボジアの産業別GDP構成比推定値(2011年)

農林水産業, 32%

工業, 22%

サービス業, 38%

生産物に課さ れる税, 8%

出所)カンボジア開発評議会より筆者作成。

GDP及び各産業の成長率を表しているのが、表1-1-2である。農林水産業部門の主力 の農産物は、2003年及び2005年に、21.9%、27.6%と高い成長率を示したが、2006年以 降は10%に達しておらず、2011年には3.7%に留まっている。農産物のGDPは、4兆2,330

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