• 検索結果がありません。

カウンセリングへの応用

第四章   キャリアカウンセリングへの展開

第3節 カウンセリングへの応用

(1)カウンセリング場面

 ライフサイクル模型の8つの軸を示し人生に対してどのような基本的考え方をしている のかを問うことで、老年期に向かう行動の基軸を考えさせることが出来よう。また、ライ フサイクル模型の表面に書かれた言葉からその意味や連想を話し合うことで、現在の自分 が人生全体の時間的位置や状況の中で占める意味を、他の要因も意識しつつ吟味すること が出来よう。また、特に生活的側面の課題と職業的側面の課題を示す軸と平面の語句を比 較吟味することで、親や教師の教え或いは職業の持つニュアンスとその内包する心理的要 因を考察しつつ吟味することが出来よう。また、職業選定は世間の価値の優劣に惑わされ ず、一自分の生き方や価値観により決めることであり、生涯を通してみればどのような職業 から出発しようとも、それは単に最初の機会でありより大切なのは目的意識であることを 理解させやすいであろう。

 また、第三章で明らかにしたように、加齢やアイデンティティ・ステイタス毎に異なる 価値観や行動を客体等し、人生全体では自己の意識構造が均衡状態となるイメージを持っ て、現実の課題に向かう時、特定の意識に偏った自己意識には、その補償反動が将来ある だろうという予測や、他人が自分とは異なった意識構造を持っても自然な事象であると理 解するだろう。ライフサイクルモデルを前に、どのような人生を歩むのかを自身に問う時、

胸中にモデルを抱く人はその目的実現への第一歩は容易であり、また、どのようなスター トを切ろうとも「人生は立てた目標に向かって進み続けるものなのだ。」という結論に導か れる事だろう。また、日常生活で自己を内省するガイドとしての活用にも有効であろう。

 過去、現在、未来のバランスを保って課題設定とその解決策を行動化しながら、主体的 に自覚的に歩む自分の姿を客観視する時、自分の意識が健康である事を実感する。幼児期 においては行動と意識が一体化していて、健康と言う自覚は希薄であっただろう。中年期 においては意識を会社や仕事に一体化させ、行動もまたそこに一体化させ、健康から目を そらしてきただろう、長寿命化により長期化した老年期における課題設定と行動は健康を 意識の中核において再構成されるべきであろう。スクールカウンセリング、学生相談、人 生相談の場では、この人間の発達と人生の全体像を捉えた上で、その人にしか体験できな い創造的な現場に立ち会う貴重な経験として、思春期の悩みや、子育て上の悩みを聞かせ て頂こうと考える。屋宮は学生相談室での事例研究から、自我同一性拡散から同一性確立 に至る面接過程において、過去または現在に固まっている心理状態は過去を語ることによ り、過去から現在に繋がり、未来を語る事で現在に繋がり、その物語はキャリアイメージ を介在させて繋がっていくと言っている(屋宮、2002)。本論文で提案する模型は、キャリ アのみに限定せずコミュニィティ、ライフワーク、自己探求、家族という4つの軸を物語 のテーマとする事を提案する。また、職業選択にはこの4つの軸を中核として考慮する方 法を提案する。

 健康は身体能力により有限である。経済力も、対人関係も、生活習慣(ライフスタイ ル)も個体に係る視点では有限である。それに対して生活の現実を、コミュニティ(歴史)、

家族(伝統)、ライフワーク(事業)、真理探求(興味・芸術)等個体を離れた視点で捉え れば、世代を超えて永遠に連なっている。どのような職業に就こうともこの様な有限と無 限の概念を持って人生の探求を試みることは可能である。

(2)老年期の職業選択

 人生は全ての期間を通して社会との係りの中で生きているが、「個人対集団の軸」と心 理的関心が「自己の内面にあるか対他者からの評価にあるかの軸」の2軸を意識すること により、就職(就社)した期間が終身(とはいっても65歳程度だが)にはるかに及ばな

くても当たり前のこととして認識される。人は自分の生き方としてある期間をその会社に 契約に従って就業しているのである。日本企業の活力は部長、課長、につながる経営ライ

ンと開発・設計・生産・出荷につながる現業部門にある。会社員は企業活力の渦中にあう て各人のライフワークを練り上げているかのようである。会社業務の遂行経験において、

課題設定、問題点の分析と優先順位付け、解決法のコスト比較、実施計画作成と説明、実 施途上の発生案件の解決と、業務遂行は一定の経過をたどって進捗する。この経験はどの ような課題にたいしても活用される能力であり、新しいライフワークに応用することは可 能である。この企業人は定年により会社を離れた時、彼のライフワークは消滅するのであ

ろうか?

 職業的側面の課題はコミュニィティ、ライフワーク、自己(真理)探求、家族の4つで ある。どのような職業に就いても、個人意識の中で働く目標や、幸福感を検証する軸とし てこの要素を思い起こすがいい。他人との比較ではなく自己の内面にかかわっているが為 に個性的なものである。社会の要素であると同時に個人の心の社会でもある。社会(他者)

に依存する度合が多い状態や閉塞的に感じられる状態はその人の心の中で、自分のコミュ ニィティ、自分のライフワーク、自分の家族、自己の探求といったことの概念が未だ充分 ではない状態にあると言えないだろうか。

 最後に、神田橋は「精神療法面接のコヅ」のまえがきにて生物の適応と行動に就いて次 のように書いている。「生き物はみな、己の資質と環境との間に、調和を図りっっ生きてい る。植物は、自ら変化することで環境に順応するだけである。動物はその名のとおり、自 分に適した場所へ移動することが出来る。さらには環境を操作し、自分に合うように変え てゆくこともできる。この第三の能力が異様なまでに肥大したのが、ヒトである。とはい え、われわれの人生において、外界操作というこのヒトとしての能力を発揮できる機会は さほど多くはない。せいぜい、事情が許すとき動物として移動することが出来るだけで、

おおむねは植物のように己を曲げる事で環境に順応して暮らすしかない。」(神田橋、1990)

老年期は人生の終末期として、神田橋が語るように暮らすには長すぎる期間である。老

年期の30年間は誕生から思春期を終える波乱万丈の20年余よりも長く、家庭を築いた 成人期の長さに匹敵する。人生の成熟の期間として迎えるのが相応しい期間である。その 気になればそれまでの50年や60年の人生を凌駕する偉大な可能性を秘めた期間と考え たい。老年期の課題設定としては、経済力、夫婦、健康、生活、のこれまで追求してきた 生活的側面に加え、改めて、コミュニィティ、ライフワーク、自己(真理)探究、家族、

などの職業的側面に対する関心から自分なりの課題を設定する事を提案する。

おわりに

 変革は少数者が既成の枠を突き破る事から始まる。既成概念の破綻を指摘する事や、そ れに代わる概念を提供することが知的職業人の責務であると考える。また、現実的な評価

としては今日の高校生にとって共感できる内容になっているかが問われるべきだと考える。

その意味でライフサイクル模型を使った授業にどのような評価が下されるか試し、更なる 改良を重ねたいと思う。

 人生を「未知なる冒険」や「既存の職業への適応」に留めるのではなく、人生には生活 的側面と職業的側面とにそれぞれ明確な柱があることを人生観の共通ベースとし、それを 基準とすることで、起伏ある冒険の渦中にある己をポジティブにとらえて生きる現実感と

したい。

rまた、文化・社会性は職業的側面の課題に深く係わっていることを認識することで、コ ミュニィティ活動への参画に対しても、専門職員や若年者との共同作業においても余裕を 持って対応する理論的背景になりうると考える。

 生活的側面の4つの軸は会社経営のベースに置換えても理解できる。経済力は賃金水準、

対人関係は組織とチームワーク、健康は心身の能率、ライフスタイルは社風や伝統、とい う様に理解できる。この項目は夫々管理目標が設定され、会社成長の判定尺度項目とされ ている。また、職業的側面の4つの軸は会社事業方針に関することと考えられる。ライフ

ワークは事業分野における貢献、コミュニィティは顧客指向における貢献、真理探求は創 造的活動における貢献、家族は親和性、相互扶助、自己責任の形成における貢献など、積 極的な活動の方向を示していると考えることが出来る。

 自営業者や芸術家に当てはめて考えると、生活的側面の4つの軸は個人生活の基盤の形 成に関与し、職業的側面の4っの軸は行動方針やテーマ分野の選定に関与させることが出

来る。

 学校教育や社会教育の概念として、長寿命の豊かな産業社会或いは情報社会を全体の調 和を取りつつ合理的に生きる人間観としてこの「2側面と8軸」を意識構造として提唱し

たい。

 各人が「人間の発達に対する意識構造」を自己の内面に保有することにより丸従来の成 績一辺倒のような精々2〜3の評価尺度ではない、多面的な評価をすることで人間の多様 な個性や活動に対する理解の促進に寄与するものと考える。

本論文を終えるに当たり、以下の内容をキャリァヵヴンセリングにおける人生観の基本 理論として押さえておきたい

①エリクソンの発達の8段下説との関係

②ユングの個性化との関係

③ブリッジズのトランジションの3区分

関連したドキュメント