1 うち3名は今回のインタビュー対象者。オランダブルーシールド国内委員会のメンバーで国立公文書館の職員でもあるDe Bruin氏とDellebeke 女史は文化遺産の “first aid” について、オランダユネスコ国内委員会のWestrik女史は、オランダ国内のさまざまな関連組織が参加した専門家会 議の成果について、解説を行っていた。
開催している「紛争後および災害後における文化の 役割に関する専門家会議(Expert Meeting on The Role of Culture in Post-Conflict and Post-Disaster
Situations)」2の参加団体でもあり、同国においてこ の問題に関わる中心的なメンバーとなっている(写真 1、写真2)。
写真2 プリンス・クラウス・ファンドでのインタビュー風景
2 会議の最終報告書には会議のプログラム、成果、参加者一覧、関連文献等が掲載されている。(Netherlands National Commission for UNESCO、2007・2010)
3 “Belvedere” とはイタリア語で「美しい眺め」という意味である。
1-2.調査日程
日時 訪問先
2010年9月27日 ブルーシールド国内委員会連盟
2010年9月28日 オランダブルーシールド国内委員会、
オランダ国防省 オランダ陸軍司令部 支援グループ 文化情報局
2010年9月29日 教育・文化・科学省 文化遺産庁 Safety & Security Center、 外務省国際文化政策部
2010年9月30日 オランダユネスコ国内委員会、
プリンス・クラウス・ファンド CERプログラム
2010年10月1日 コンサルタント事務所 “Culture in Development”
1-3.調査メンバー
氏名 職名 所属 調査担当
田村 望 設計担当 株式会社竹中工務店 資料収集、現地調査
藤岡麻理子 博士特別研究員 筑波大学大学院
人間総合科学研究科 資料収集、現地調査
原田 怜 特別研究員
(アソシエイトフェロー) 文化遺産国際協力コンソーシアム 資料収集、現地調査 写真1 文化遺産庁でのインタビュー風景
2.文化遺産の国際協力に関する国内体制
2-1. 国際協力の基本方針
2-1-1.国内の文化遺産保護体制
文化遺産保護に関する国際協力を述べる前に、簡単 にオランダ国内の文化財保護について記しておく。
国内の文化遺産保護政策は、主に教育・文化・科学 省とその関連機関、および住宅・空間計画・環境省
(Minister of Housing, Spatial Planning and the Environment)を中心に進められている。オランダ
の特徴のひとつは、政策の策定や推進は各省庁が単独 で行うのではなく、省庁を横断した協働体制のもとに 進められている点である。例えば、文化遺産が社会と 個人にとって重要な価値をもつという考えのもと、文 化や歴史的価値を国土の開発に生かし空間的価値を高 めることを目的に進められている「ベルヴェデーレ政 策(Belvedere Policy)」3は、上記2省に加え、農業・
自然・食糧省(当時)、運輸・水管理省(当時)の4 省が共同で作成した1999年の政策提案「ベルヴェデー
レ・メモランダム(Belvedere Memorandum)」に 基づくものである。2005年にはこの政策に対する行 動計画が作成されているが、それは、上記4省に加え、
経済省、国防省、外務省を加えた7つの省の連名で行 われていた。オランダのもうひとつの特徴は、国内の 文化遺産の危機管理に対する意識の高さである。低地 国であることから長く水害に悩まされてきた歴史があ り、災害に備えた体制が年月をかけて発展してきてい る。
上述の内容を含め、オランダ国内の文化遺産の保護 体制に関しては、東京文化財研究所国際文化財保存修 復協力センターによる『オランダ文化財保護制度調査 報告』(2006)に詳しいが、以下、その後の動向につ いて付言しておく。
ま ず、2006年、 教 育・ 文 化・ 科 学 省 に そ れ ぞ れ 独 立 し て お か れ て い た 記 念 建 造 物 保 存 局( 蘭:
Rijksdienst voor de Monumentenzorg、英:
Netherlands Department for Conservation) と 考 古
調 査 局( 蘭:Rijksdienst voor het Oudheidkundig Bodemonderzoek、英:National Service for Archaeological Heritage)が統合され、考古・文化的 景観・記念建造物サービス(蘭:De Rijksdienst voor Archeologie, Cultuurlandschap en Monumenten;
RACM、英:National Service for Archaeology, Cultural Landscape and Built Heritage)が発足して いる。同局はその後2009年5月に文化遺産庁(蘭:De Rijksdienst voor het Cultureel Erfgoed、 英:Cultural Heritage Agency)となり、記念建造物、考古、文化 的景観、水中文化遺産の各専門部門が組織されてい る。(図1)。2011年には、動産文化財を担当している オランダ動産文化財研究所(蘭:Instituut Collectie Nederland、 英:Netherland Institute for Cultural
Heritage)も文化遺産庁に統合される予定である。
今回のインタビュー調査対象機関であるSafety &
Security Centre(蘭:Kenniscentrum Veiligheid) も文化遺産庁の中の組織であり、文化遺産専門部門内 図1 オランダ文化遺産庁の組織図
(教育・文化・科学省ウェブサイト上の組織図を英訳した。http://www.cultureelerfgoed.nl/)
*文化遺産庁は、教育・文化・科学省内に設けられた一機関である。同省はその他、文化遺産監察官事務所(Erfgoedinspectie)、国立 文書館(Nationaal Archief)、動産文化財研究所(Instituut Collectie Nederland)といった文化遺産関連機関を所轄している。
4 教育・文化・科学省などにより、この政策のもとで行われた活動をまとめた書籍が刊行されている。(National Archives of the Netherlands, Netherlands Institute of Cultural Heritage, Netherlands Cultural Heritage Agency, “Footsteps and Fingerprints -The Legacy of Shared History”, Uitgeverij Waanders, 2010)
5 2009年〜2012年の4カ年は年間200万ユーロの予算が組まれている。100万ユーロは該当国の大使館に託されており、各国の機関はそれぞれの大 使館にプロジェクト実施のための資金援助を申し込むことができる。残りの100万ユーロはオランダ教育・文化・科学省の関連/付属機関である国 立公文書館、考古・文化的景観・記念建造物サービス(現文化遺産庁)、文化遺産研究所に分配されている。
なお、これまで「共有の文化遺産政策」に関するデータベースの構築が、非営利団体の「国際文化遺産活動センター(The Centre for International Heritage Activities)」によって進められてきたが、2010年からは、2007年に設立された財団「オランダ遺産研究所(蘭:Erfgoed Nederland、英:The Netherlands Institute for Heritage)」に引き継がれている。
の維持・管理セクションに属している。このセンター は、災害に対する国内の文化遺産の保護を担う組織 で、地域の災害対応計画に文化遺産保護が導入される よう、行政区、警察、消防等の関連機関への助言や意 識啓発活動、また広く国民の間に文化財に対する意識 を高めるための活動が行われている。
2-1-2.国際協力の基本方針
オランダの文化遺産保護に関する国際協力に関して は、外務省と教育・文化・科学省が共同で中心的な役 割を担っている。文化遺産の国際協力を専らの目的と する国内法は整備されていないが、ハーグ条約をはじ め、同国が批准しているユネスコの文化遺産関連条約 や、その他の国際法を拠り所にして政策が進められて いる。
⑴ 平時における文化遺産に関する国際協力の方針 オランダでは、平時に継続的に行う文化遺産に関す る国際協力と被災文化遺産への援助とは異なる方針で 進められている。平時の文化遺産に関する国際協力の 国家政策としては、2000年に国会承認をうけた「共有 の文化遺産政策(蘭:Gemeenschappelijk Cultureel Erfgoedbeleid、英:Common Cultural Heritage Policy)」4を挙げることができる。これは、外務省と 教育・文化・科学省が中心となり、国内外の研究機関、
博物館・美術館等の機関、NGOらと、相手国のパー トナーと協働して、文化遺産保護に関するプロジェク トを推進するものである。「共有の文化遺産」とは主 に、アジア、アフリカ、南米の所在する旧オランダ植 民地に、オランダに由来する文化遺産、オランダ人に よって建設された、または、持ち込まれた文化、およ びオランダ国内に所在し、オランダ文化に強い影響を 与えた他国由来の文化遺産を指している。この政策の 対象となる国は、旧植民地など、オランダと歴史的に 関係の深い国々に限られており、現在は、ブラジル、
ガーナ、インド、インドネシア、ロシア、南アフリ カ、スリナム、スリランカの8カ国が該当国となって いる。
「共有の文化遺産政策」が第一の目的とするのは、
オランダとパートナー国がともに政治的かつ専門的に 参加し、文化遺産の持続可能な維持・管理において協 働することである。さらに、この文化遺産分野におけ る協力の成果として、次の4点を達成することが目標 として掲げられている。
・対象国の文化的アイデンティティの強化
・象徴としての文化遺産の意義の強化、および副次的 効果の派生
・雇用、観光、教育など、他分野への影響
・将来の文化財保存の確保
2009年には、外務省と教育・文化・科学省の各担当 大臣によって、2009年〜2012年の4カ年の政策の枠 組みの再構築が行われ、実行されている5。
⑵ 緊急時における文化遺産に関する国際協力の方針 緊急時の対応に関しては、武力紛争に由来する場合 と、自然災害やその他の人為的災害に由来する場合と で、対応方法は異なる。武力紛争にかかわる文化遺産 の保護・救済への協力は、政治性が強いため、政府判 断を絶対とし、オランダ陸軍の文化情報局(Section Cultural Affairs and Information)、および民軍協力 を担うCIMIC(civil-military cooperation)の管理・
監督のもとで実際の活動が行われるものとされてい る。
一方、自然災害による文化遺産への国際援助に関し ては、国家組織は援助を行う主体とはなっていない。
主体的に関与しているのはプリンス・クラウス・ファ ンド(PCF)、オランダブルーシールド国内委員会と いったNGOである。各省庁はこうしたNGOの活動 に対する助言や助成金付与を通して、間接的に国際協 力に参画している。