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エリア・サンプリングにおける二段抽出

ドキュメント内 世論調査における方法的研究 (ページ 36-78)

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第3章 エリア・サンプリングの適用とその問題点

この章では,エリア・サンプリングに関して,適用状況と実施上の問題点に ついて説明する.エリア・サンプリングには,調査対象者への調査協力依頼に おける問題,抽出手続きから生じるウエイト補正における問題,そして標本設 計上の問題があるが,特にウエイト補正に関しては,実際の調査データを用い てウエイト補正の工程について検証と考察を行っている.

1.エリア・サンプリングについての概況

欧米では,日本のように世論調査の調査対象者の抽出において住民台帳や有 権者名簿などの利用ができないため,調査員調査では,調査地点において直接 調査対象者を調達してきた(Kish,1965).広く行われている方法としては,調 査地点の地図をもとに,エリア内の住宅を選び,選ばれた住宅に居住している 人の中から調査対象者を抽出する方法がある6.この抽出方法は,エリア・サン プリングと呼ばれている.

これに対して日本では,以前は住民台帳などの閲覧が原則可能であったため,

世論調査においてはそれらを抽出台帳として用いることができた.しかし,2006 年11月からの改正住民基本台帳法の施行により,住民台帳や有権者名簿の閲覧 が大幅に制限されて以来,世論調査の調査対象者の抽出において,アメリカに おける調査対象者の抽出方法を参考にして,エリア・サンプリングがよく用い られるようになった.

無作為抽出を行う必要がありながら抽出台帳の閲覧ができない場合は,この エリア・サンプリングに頼らざるを得ず,日本でも今日広く採用されている抽 出方法である.ただし,エリア・サンプリングにおいて世帯内で調査対象とな る個人の選出方法については,調査実施機関によってそれぞれのノウハウがあ り,一定の方式があるわけではない.ここで扱うエリア・サンプリングは,全 国調査において面接聴取法や留置法などの調査員調査を前提に,第1次抽出単 位を調査地点,第2次抽出単位を世帯とし,各世帯から1人の調査対象者を抽 出する手続きを想定している.本稿では,第2次抽出単位(世帯)の抽出に広 く使われている住宅地図を利用した方法について論じる.

第1次抽出単位(primary sampling unit;以下,PSUという)となる調査地点 は,調査員の稼動に無理のない調査範囲が設けることが必要なため,国勢調査 区や投票区とすることが一般的である.国勢調査区も投票区も住所で範囲が指 定された広がり(たとえば「盛岡市中央通3丁目5~10番地」)である.国の

6 小島・吉田(2007)は,「国民性七か国比較意識」(統計数理研究所,1995,1998)でのアメリ カ,ドイツ,フランス,オランダ,イタリアの抽出方法を紹介しながら,非名簿フレームによる 無作為抽出法の研究成果をまとめている.

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世論調査の場合は国勢調査区をPSUとして用いている7.国勢調査区は,1つの 調査区が平均50世帯程度で全国に約98万ほどある.エリア・サンプリングに おける調査地点(PSU)の抽出については,国の世論調査における層化2段抽出 法の抽出手続きと同様と考えてよい.すなわち,地域別,都市規模別に標本を 比例配分し,その標本の数に見合う調査地点数を算出し,その数の国勢調査区 を調査地点として抽出する.

抽出された調査地点において調査対象者を抽出するには,まず第2次抽出単 位として調査対象世帯を決めるが,この調査世帯の選出に際して住宅地図を用 いることが多い.住宅地図を用いずに「エリア内で5軒おきに対象世帯を選べ」

といった指示は,道路が入り組んでいたりすると調査員には大変な負担となる.

住宅地図で予めマークされた対象世帯を探すことで調査員にとっての負担が軽 減されるばかりでなく,調査員の恣意的な選定を排除した厳密さが確保される ことになる.この住宅地図に記されている世帯がエリア・サンプリングにおけ る第2次抽出単位となる.従来は紙ベースの住宅地図にマークをして調査対象 世帯を定めたが,現在は電子媒体の住宅地図を利用することができ,そこでは 該当範囲の地図上に示された世帯を「世帯一覧」として列挙し,それらの世帯 からスタート番号と抽出間隔により調査対象世帯を抽出することができる.紙 ベースの住宅地図上の世帯にスタート番号と抽出間隔をあてはめて抽出するの と原理的には変わらないが,道路が複雑に入り組んでいたり住宅が散在したり している場合は,紙ベースの地図上でスタート番号や抽出間隔を当てはめる住 宅の順番が抽出者によって一定でないことがあり得る.それを,整然とした世 帯の一覧表として用意しておけば混乱がない.そして,その一覧表から抽出さ れた世帯が,一覧表とリンクしている住宅地図上にマークが入るようにしてお けば,調査員には抽出世帯がマークされた住宅地図を提供することができる.

次に,第3次抽出単位として対象世帯から1人の調査対象者を選出する.こ こでは大別して2つの方法がとられている.ひとつは世帯内の調査適格者の数 に関係なく,無作為に個人を1人特定する方法である.この方法は誕生日を用 いるもので,誕生日法と呼ばれている.たとえば,対象となった世帯の誰かに

「同居家族の20歳以上の人のうちで,今日以降一番早い誕生日の人は誰か」と いう具合に質問する8.もうひとつの方法は,調査適格者が何人いるかの情報を 用いて無作為に1人の対象者を決める方法である.これはたとえば,調査対象

世帯に1,2,3,……と順に番号を与え,該当番号の世帯における調査適格者の

7 マスコミ各社が行う選挙調査では,投票区をPSUとすることが多い.

8 これには「今日以前で一番早い誕生日」もしくは「(前後を問わず)今日に一番近い誕生日」

という聞き方もある.

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数によって,世帯の中の何番目の人(年齢順)を調査対象者とするかを定める ものであり,Kish法と呼ばれている.

このようにして,調査員による恣意的な対象者選定の余地なく,調査対象者 個人が選出される.したがって抽出台帳を用いたサンプリングと同様に設定標 本数が存在することになり,回収率が算出できる.

抽出台帳が利用できる場合と同様にリストアップされた調査対象者に調査す るといっても,まったく同じではない.抽出台帳によるリストアップの場合は,

事前に調査対象者に調査の予定を知らせたり,前もって調査の協力依頼を行う ことができるが,エリア・サンプリングの場合は指定された世帯を訪問して初 めて調査対象者が特定されるので,事前に協力依頼を行うことは難しくなる.

事前の協力依頼ができないことによる調査員の心理的負担や,完全に不信感を 払拭したうえでの質問と回答ではないといった状況があり,このことによる測 定誤差も考えられる.

エリア・サンプリングに関するこれまでの研究では,抽出プロセスだけに限 らずいくつかの知見が提示された.朝倉・森本(2007)は,エリア・サンプリ ングの調査終了後の性別年齢構成比の母集団との比較や,質問に対する無回答 の現れ方などに関して検証を行っている.土屋(2007)はエリア・サンプリン グによりポスティング調査を実施し,郵送調査との比較を行っている.また,

朝倉(2003)は,エリア・サンプリングによる調査により回収された標本の特 徴について報告しているが,それまでの調査との継続性を見据えて,現地にお ける抽出サンプルと従来の抽出枠である住民基本台帳との差異に留意している 点があることも評価されよう.

なお,実際は調査機関など調査の実施者によって抽出手続が異なる場合9があ るが,ここでは世帯の抽出においては「住宅地図上で居住者のいる世帯だけを 抽出の対象とする」という前提で論を進めることにする.

2.エリア・サンプリングの問題点

エリア・サンプリングにおける世帯内の調査対象者個人の選定方法としては,

適格者の誕生日によって選出する誕生日法か,対象世帯の適格者数によって選 定するKish法が用いられているが,このとき調査員は最初に接触を持ったその 世帯の人(ファースト・コンタクト者)に世帯員の誕生日に関する個人情報な いしは世帯内の調査適格者数といった世帯情報について質問することになる.

誕生日法もKish法も個人の選出において無作為性を確保するための必要な手段 であるが,ファースト・コンタクト者とのやりとりで調査員にとっては負担が 大きく,調査の協力が得にくいというのが実情である.

9 現地において調査時点の住宅地図を作成し,その地図から世帯を抽出することもある.

ドキュメント内 世論調査における方法的研究 (ページ 36-78)

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