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インドネシア政府の取り組み

ドキュメント内 貧困アセスメント作成調査報告書 (ページ 39-61)

2−1    国家開発計画と政府の貧困政策 

経済危機、および

32

年間続いたスハルト大統領の退陣(1998年

5

月)を受けて、国家政策は現 在、大きく変わりつつある。スハルト政権下においては、国家開発計画として、国策大綱(通称

GBHN)

、25ヵ年開発計画(通称

PJP)

、および

5

ヵ年計画(通称

REPERITA)が存在していた。

インドネシアでは、5 ヵ年計画はこの

25

ヵ年計画に添って立案され、毎年の予算編成はさらに、

5

ヵ年計画の方向性に基づいて実行されてきた。

インドネシア政府は、第

3

次開発

5

ヵ年計画(1979〜1983年)以降、国家発展の原則として「経 済成長」、「政治的安定」、「発展で得た国家的利益の国民全体への平等な分配」を掲げてきた。し かしながら、開発と経済成長が順調に進むにつれ、都市部と農村部、ジャワ島と外領(特に東部 インドネシア)など、国民間の貧富の格差ならびに地域格差の拡大が明らかになり始めた。その ため、インドネシア政府は、第

5

次開発

5

ヵ年計画(1989/90年〜1993/94年)において全国レベ ルで地域総合開発プログラム(Integrated Area Development Program: IADP)を実施するなど、貧 困層を直接ターゲットとする社会的公平性を強く意識したプログラムを各セクターで展開した。

インドネシア政府は、引き続き第

6

次開発

5

ヵ年計画(1994〜1999年)において、「人的資源の 質的向上」、「経済発展と経済構造調整」と共に「平等と貧困軽減」を国家開発の中心目標に掲げ、

国家的事業として本格的に貧困対策に取り組むことを明らかにした。具体的には、1993年時点で 全人口のおよそ

13.7%を占めた絶対貧困層(2,590

万人)を、計画終了時の

1999

年に

6%(1,200

万人)まで減少させることを最重要課題の一つに掲げた。また、貧困対策の主眼を開発から取り 残された農村部、特に東部に顕著である絶対的貧困層の解消に置き、「後進村向け大統領布告プロ グラム」(Impres Desa Tertingal: IDT)を実施してきた。

しかし、経済危機や政変による財政の大幅な縮小に伴い、第

6

次開発

5

ヵ年計画で策定されてい た開発プロジェクトのほとんどは、ドナーによる支援を受けた幾つかのプロジェクトを除いて、

中止もしくは大幅な修正を加えられ、より緊急な経済再建政策が実施されることとなった。すな わち、政府の財源のほとんどは、IMF 主導で行われた金融システムの改革やマクロ経済の立て直 しと、経済危機がもたらす社会的弱者への社会経済的な影響を緩和するためのソーシャル・セー フティ・ネット(SSN)プログラムの実施に充てられることとなり、現在でも支出の大半がプロ グラムの実施に充てられている。

スハルト退陣後に新たに大統領に就任したハビビ政権(1998年

5

月〜1999年

11

月)の下、新国 家開発計画(通称

PROPENAS)の策定が開始された。この法案は国民評議会(通称 MPR)に提

出され、

2000

9

月には国会(通称

DPR)において論議されたところである。なお、 PROPPENAS

2000

年度中に議会にて承認され、2001年から施行される予定である。

REPERITA

がセクター別の計画であったのに対して、PROPENASはイシュー別、問題解決型アプ

ローチになっており、以下のような

5

つの柱に基づいて策定されている。

PROPENAS の 5 つの柱 

① 国家統一と民主的政治システムの実現

アチェ、イリアン・ジャヤなどで地域紛争が多発し独立分離運動が浮上する中、政府は国家統一を新 たな重要課題として掲げ、平和と安全を保障するための手段として国軍の改革を行う。また、選挙制 度や政党、中央政府と地方政府の権限などに関する政治改革を実現する。

② グッド・ガバナンスと法律至上主義

汚職や身内主義、権力の乱用に係る問題を国家の発展の阻害要因として深刻に受け止め、これらを防 ぐために法整備の改善を図る。さらに人権保護などの問題にも焦点をあてながら法整備の内容をさら に充実、拡大することとする。

③ 経済力向上と経済構造の復興と改善

経済危機の影響から未だに脱していないゆえに、継続して経済部門の改革を行う。特に過去において、

経済システムの構築や統制に市場や人々との調和を図ってこなかったため、様々な問題を残した。こ のため、今後は経済改革を中央・地方政府・地域間にまで広げ、特に地域間における経済格差の是正、

貧富の格差是正など富の公正な分配を主な目標とする。

④ 社会保障・福祉の拡充

経済悪化の影響で、失業率の増加が大きな社会問題になっているため、労働者の権利や保護への取り 組みをさらに強化する。また、失業率が増加し、保健衛生の状態も悪化し、劣悪な居住環境や貧困に 起因する栄養失調の児童が増加しているため、保健医療サービスの拡充を図る。

⑤ 人々と地域のエンパワーメント

従来の行政や一部の上層部などによるトップダウン・アプローチでなく、様々な地域事業の計画や立 案、実施を地域住民の参加や意志決定に基づいて行うボトム・アップ型地域開発を目指す。また、特 に女性は男性より依然地位が低いため、女性の地位向上と男女同等の社会を目指す。地域の中だけで なく、社会全体、特に政治、行政、司法の分野においても指導的役割を担っている女性は数少ないた め、今後これらの中枢機能において、女性の参加をさらに推進する。

本章では、貧困削減のための重要課題と位置付けられているマクロ経済(2-2)、インドネシア政 府の貧困削減政策の概要(2-3)、地方分権化の現状(2-4)、省庁別の主な貧困削減関連プログラム

(2-5)、地域開発プログラム(2-6)、

SSN

プログラム(2-7)、その他の貧困削減関連プログラム(2-8)、 社会サービス財政(2-9)の順に政府側の取り組みを分析する。

2−2    マクロ経済 

2−2−1 経済成長による貧困削減 

1975

年から

1996

年の

20

年間にインドネシアの経済成長率は年平均

7%に達し、経済成長に伴っ

て雇用も大きく拡大されてきた。1970 年代半ばから

1980

年代半ばにかけては、農業部門が大き

く躍進し、インドネシアの経済成長と貧困削減に大きな役割を果たした。

1980

年代半ばになると、

産業構造に変化が見られ、農業に変わって工業、サービス部門のシェアが急速に拡大した。表

2-1

は、産業別の雇用人口の推移を示したものである。この表によると、農業部門における雇用の減 少と、製造工業部門における雇用の増加、並びに、1990年代の建設、卸売り・小売、その他サー ビス業における雇用の急激な拡大が示されている。

表 2-1  産業別の雇用人口の推移(%) 

  1971  1990  1997  1998 

農業 65.8 56.0 41.2 45.0 

製造工業 7.8 10.2 12.9 11.3 

鉱業 0.2 0.7 1.0 0.8 

行政サービス 0.1 0.2 0.3 0.2 

建設業 1.9 2.7 4.8 4.0 

卸売り・小売業 11.0 14.6 19.8 19.2 

運輸業 2.4 3.1 4.8 4.7 

金融業 0.3 0.6 0.8 0.7 

サービス業 10.4 12.0 14.5 14.1 

合計 100.0 100.0 100.0 100.0 

(百万人) 39.2 75.7 87.1 87.8 

出所:1971年のデータはNational Population Census、それ以外はNational Labour Force Survey.

(ADB, Poverty Assessment:Indonesia, Final Draft, September 2000, P.67より引用)

雇用人口の増加に併せて、実質賃金(並びに名目賃金)も、

1990

年から

1996

年の間に年平均

5.7%

の高い増加率を示した(表

2-2)

。産業部門別の実質賃金の増加率は、農業部門が年平均

5.9%、製

造業が年平均

5%、サービス業が年平均 3.8%であったが、州間格差はほとんど見られなかったこ

とから、経済成長の恩恵は広範に渡ったと考えられている(Manning, 1998)。

表 2-2  主要産業部門別の名目賃金および実質賃金の増加率(1990-98 年)(%) 

    農業  製造工業  サービス業  全セクター 

名目賃金  1990-97 年 14.5 13.4 12.1 14.1 

 1997-98 年 30.3 11.0 20.9 17.0 

実質賃金  1990-97 年 5.9 5.0 3.8 5.7 

 1997-98 年 -26.3 -38.1 -32.1 -33.9  出所: National Labour Force Survey, CBS and Economic Indicators.

(ADB, Poverty AssessmentIndonesia, Final Draft, September 2000, P.68より引用)

2−2−2 マクロ経済に対する経済危機の影響 

上述の通り、インドネシアは、1990年代前半、高度成長を達成してきた。しかし、アジア金融・

通貨危機に端を発した経済危機によって、GDPの対前年成長率は、1997年

4.9%の後、1998

年に はマイナス

13.7%と大幅に低下した。1999

年は、ほぼ前年並みの

GDP

の水準(0.2%増)に留ま ったため、一人当たり

GDP

は前年比

1.3%のマイナスとなった。この結果、危機前には US$1,100

あった一人当たり

GDP

は現在、US$800台にまで落ち込んでいる。この間、通貨ルピアの対ドル レートは、危機前に比べ最大

85%下落し、ジャカルタ株式市場の時価総額は、1997

年の

900

億ド ルから

1998

年には

220

億ドルへと暴落した。失業率も

1998

5.5%、1999

6.3%と増え続け、

潜在失業率も

1998

60%から 1999

63%に増加した。また、約 6,000

万人が、実質上、失業に

近い状態に陥った38

2-3

は、1995〜1999年の産業別の経済成長率を示したものである。農林水産業を除いて経済は ほぼマイナス成長となり、銀行・金融システムは機能不全状態に陥り、特に製造業はほとんどの 部門において深刻な影響を受けた。

表 2-3  産業部門別の経済成長率(1995-1998 年)(実質 GDP 成長率、%) 

  1995  1996  1997  1998* 

農林水産業 4.4 3.1 0.7 0.2 

鉱業・採石 -11.1 27.7 1.7 -4.2 

製造業 10.9 11.6 6.4 -12.9 

 石油・ガス  -4.7 11.1 -2.0 1.8   非石油・ガス製造業  13.1 11.7 7.4 -14.5   1.飲食品、タバコ  16.5 17.1 14.9 -2.1   2.繊維・皮革  10.5 8.7 -4.4 -13.0   3 木製品・家具  3.0 3.2 -2.1 -18.4   4.製紙・印刷  13.5 6.9 9.0 -11.0   5.化学・薬品  11.9 9.2 3.4 -23.3   6.ガラス・セメント  20.1 11.0 4.5 -29.4   7.金属・機械  18.7 8.0 -1.4 -28.7   8.自動車産業  7.7 4.6 -0.4 -52.0   9.その他産業  8.9 9.7 6.0 -23.6 

電気・水道・ガス 15.9 13.6 12.8 3.7 

建設業 12.9 12.8 6.4 -39.7 

商業・飲食店 7.9 8.2 5.8 -19.0 

運輸・通信 8.5 8.7 8.3 -12.8 

金融・不動産 11.0 6.0 6.5 -26.7 

サービス 3.3 3.4 2.8 -4.7 

GDP 6.6 9.5 4.9 -13.7 

GDP(非石油・ガス) 9.2 8.2 5.5 -14.8 

出所: Central Bureau of Statistics(ADB, Poverty Assessment:Indonesia, Final Draft, September 2000, P.69より引用)

*1998年は推計

1998

年にはインフレ率は

80%を記録し、実質賃金も平均 34%、製造業では平均 38%も低下した。

ADB

貧困アセスメント報告書によれば、経済危機によって最も深刻な影響を受けたのは、製造業、

建設業、サービス業の従事者である。また、これらセクターにおける成長率の低下、雇用吸収力 の低下にともない発生した余剰労働力は、概して経済危機時においてもプラス成長を維持した農 業部門に吸収され、1997年から

1998

年の

1

年間で、農業部門雇用人口は前年度比で

9.2%増、約 4

百万人の労働人口を追加的に吸収した。

1998

9

月に実質賃金の低下は底を打ち、以後、上昇傾向にある。ジャワ島における実質農業賃 金は、1998年

9

年から

1999

5

月の間に約

12%上昇した。しかし、工業および農業において、

実質賃金は

1997

年当時よりも低い状態から回復していない。1999 年半ばの実質農業賃金は、ジ ャワ島やバリ島の最高時よりも約

35%、他州は、約 30%下回っている。

経済危機は、社会・政情不安を招き、他のアジア諸国に比べて、より長期かつ深刻な影響をイン ドネシアにもたらした。

32

年間続いたスハルト政権の崩壊、東ティモールの独立運動(1999年独 立達成)、アチェ特別州分離紛争、ジャカルタをはじめとする各地での騒乱、モルッカ諸島だけで

38 ADB, Asian Development Outlook 2000, pp.90-94 in Peter Gardiner & Puguh B. Irawan, A Poverty Profile for Indonesia, 2000.

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