第4章 問題解決能力育成を重視した高等学校情報教育の授業開発
4.5 アンケートを通した高等学校「課題研究」の改善
67 4.5 アンケートを通した高等学校「課題研究」の改善
68 (2) 「課題研究」の 6 つの観点のアンケート結果
表 4-5に「課題研究」の6つの観点である「構想」,「設計」,「制作」,「評価」,「工程管理」,
「経営管理」についてのアンケート結果の平均値を示す。
表 4-5より,各観点について次の結果を見て取れる。
【構想】
① 「楽しかった」と感じている一方で,「苦労した」・「もっと時間が欲しかった」が低い値と なっている。これは,設計,制作と作業工程が進むにしたがって「苦労した」の値が高くな っていることからも,生徒たちが構想の段階で課題解決の実現方法についての考えを十分に 組み立てられていないからだと思われる。
【設計】
① 「苦労した」と感じている一方で,「楽しかった」が高い値となっている。苦労しながら設
計し,それを創りあげる喜びを学んだ結果だと思われる。
② 「もっと時間が欲しかった」が低い値となっている。生徒は次の工程である制作に苦労し,
もっと時間が欲しかったと感じていることからも,今まで以上に設計に時間をかけさせて,
計画を十分に練らせる必要があると思われる。
【制作】
① 全体的にどの項目も高い値となっているが,「将来に活かせる」がやや低い値となっている。
予想とは異なり,残念であった。
表 4-5 6 つの観点に関するアンケート結果
質問事項 構想 設計 制作 評価 工程管理 経営管理
楽しかった 3.3 3.3 3.3 2.4 1.9 2.4 苦労した 2.4 3.2 3.8 3.3 3.1 2.8 深く考えた 2.7 2.8 3.2 2.9 2.6 2.3 将来に活かせる 2.9 2.8 3.0 3.6 2.9 2.4 もっと時間が欲しかった 2.5 2.5 2.9 2.5 2.2 2.2 重要度 3.0 3.2 3.7 3.3 3.5 2.3 n=16
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【評価】
① 「将来に活かせる」が高い値となっている。これは,発表会が強く関連しており,自己評価
や他者評価が上手く機能している結果だと思われる。
② 「楽しかった」が低い値となっている。生徒たちは発表会において,自分の失敗を表に出さ
ないように意識している。それが,「楽しい」と感じていない理由の一つになっているのでは ないかと思われる
【工程管理】
① 「楽しかった」が非常に低い値となっている。これは,発表原稿や発表資料などを期限内に
提出することの難しさを経験した結果だと思われる。また,共同研究を行った場合の他者と の調整などの苦労が数値に表れている。
② 「深く考えた」が低い値となっている。「工程管理」を意識せずに作品を作りあげているこ
とが分かる。
③ 「将来に活かせる」と「重要度」が高い値となっている。授業を終えてみて,「工程管理」
の観点の必要性を感じている結果である。
【経営管理】
① 全体的にどの項目においても低い値となっている。中でも「深く考えた」・「重要度」の値が 他のどの工程よりも低くなっている。これは,「経営管理」の観点は就業経験を積んで初めて 認識できる要素が多く,学生や就業経験の浅い段階ではその重要性が認識されにくいからで あると思われる。
② 「苦労した」が予想以上に低い値となったのは,「経営管理」自体があまり意識されていな かった結果であると思われる。
(3) 「課題研究」改善の方向性
アンケートの分析結果から授業の問題点が明らかとなった。表 4-6に,今後の授業展開をど のように見直して行けば良いかを示す。本研究は,就業を意識させた「課題研究」の分析を含 めている。生徒が,就業を意識するということは,学習を将来に活かしたいと思うことである。
そして,過去を見直したときにそれが活かされると実感できることである。
表 4-5の「将来に活かせる」の値を図 4-6にグラフとして示す。図 4-6から,生徒たちは6
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つの観点全てが将来に活かせると考えていることが分かる。特に,今回新たな観点として提案 した「工程管理」は高い値となっている。一方,「経営管理」については十分とはいえないが,
予想よりも高い値となった。
表本数が少ないため統計的な意味は持たないが,参考として図 4-6を「在学生」,「進学者」,
「就業者」に分類して集計した結果を図7に示す。図 4-7より,特に「工程管理」と「経営管 理」においては就業者の値が高い。卒業後さまざまな経験を重ねることで次第にその重要性を 認識できるようになっているのではないかと思われる。
表 4-6 授業の問題点と改善点
構 想
問 題
点 「楽しかった」と感じているが,「苦労した」や「もっと時間が欲しかった」と感じていない。
改 善 点
① 支援のための過去の作品の紹介を厳選する。
② 作品を紹介するタイミングを遅らせ,生徒がじっくりと構想できるようにする。
設 計
問 題
点 深く考えずに設計を終えてしまうため,その後の作業工程に苦労している。
改 善 点
① 設計が作品の良し悪しを左右する重要な工程であることを授業時にしっかりと認識させる。
② 作品完成後,生徒に設計の評価を丁寧に行わせる。
制 作
問 題
点 「将来に活かせる」という認識が弱い。
改 善 点
① 過去の学習内容と「課題研究」との繋がりだけではなく,実社会との繋がりを重視した指導を行う。
② 発表会に足を運んでくれた卒業生に,仕事の体験談等を在学生に話してもらえるような時間を設け る。
評 価
問 題 点
生徒たちは発表会において,自分の失敗を表に出さないように意識している。それが,「楽しい」と感 じていない理由の一つになっている。
改 善 点
① 発表資料には「失敗した点」を必ず入れさせ,失敗したことを皆の共通知識にさせながら,失敗経験 が自分を成長させていることに気付かせる。
② 「発表会」に生徒の保護者を招く。保護者にも,生徒の成長を見届けてもらう。
工 程 管 理
問 題
点 授業を終えて「工程管理」の必要性を感じているが,作業過程においてはほとんど意識されていない。
改 善 点
① 授業のはじめに,できるだけ詳細なスケジュール表を生徒に配布する。
② 発表会までの工程管理表を作成させ,失敗による修正を繰り返し体験させる。
経 営 管 理
問 題 点
就業経験を積んで初めて重要性を認識することができる要素が多いため,その必要性が認識されていな い。
改 善 点
① 指導に時間をかける必要はないが,10 年後,20 年後を見据えて必ず指導する。
② はじめは有料のソフトウェアも含めて検討させる。
③ 発表会の運営を生徒に任せるなど,生徒が互いに助け合える環境を整備する。
④ 発表会に足を運んでくれた卒業生に,会社経営という観点から話してもらう。
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今回のアンケート集計には含めていないが,社会人経験の長い 2005 年以前の卒業生の自由 記述のコメントには「当時は開発する作業,特に『制作』を楽しく感じて熱中して取り組んで いた。反面,『工程管理』や『経営管理』など今は重要と考える項目に楽しみを得ていなかった。」
といった意見も見られた。またその他の卒業生からは,「『課題研究』はモノ作りを本気で取り 組むことができ,論文の執筆・プレゼン・制作など,この経験は素晴らしい財産となった。」,
「社会人としての必要なスキルが確実に身に付く。」など,「課題研究」での経験が就業後に活 かされているといったコメントが多く見られた。このように,高等学校総合学科における情報 系列「課題研究」は,生徒の就業を意識させた検討からもその意義は大きいと判断できる。
図 4-6 「将来に活かせる」の観点別評価
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
構想 設計 制作 評価 工程管理 経営管理
図 4-7 「将来に活かせる」の観点別評価の時間的推移
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
構想 設計 制作 評価 工程管理 経営管理
在学生 進学者 就業者
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