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むすび

ドキュメント内 自然現象の写実的表現モデルの研究 (ページ 63-68)

第 4 章 ウェザリング現象の再現手法 41

4.4 むすび

本章では金属腐食の視覚的外観を再現する手続き的テクスチャ生成手法を提案し た. 本手法は,任意のジオメトリ表面での経時的な腐食過程をシミュレートするこ とによって,一連のテクスチャ画像のセットを生成することが可能である. この手 法には初期腐食の分布方法,腐食/染みの拡散範囲,可視化に用いるカラースケール といったカスタマイズ可能な部分があり,これらを調整することで様々なタイプの 金属の腐食現象を再現することができる.

多くの既存手法と異なり,本手法では腐食の初期配置と伝播の双方にターゲット ジオメトリの形状を考慮しており,また実際の腐食現象のように腐食スポットが周 辺に新たな腐食を発生させるような拡散過程を考慮している. さらにこの手法のシ ミュレーションは2次元のセルオートマトンベースの手法であり,シミュレーショ ンは基本的にテクスチャ空間で行われるため比較的少ない計算量と記憶容量で実行 可能である.

最後に,本手法の問題点と今後の課題について述べる. 現状では本手法には,シ ミュレーションに関する制約と,孔食の再現に関する問題がある. 本手法のシミュ レーションに関する制約とは,物理的正確性,錆の成長方向の柔軟性,そして複数 のオブジェクトに対する協調的なシミュレーションの可否の3点である. 一つ目は セルオートマトンベースのアプローチには共通の問題ではあるが,本手法における タイムステップは物理的な単位時間に対応づいていないことである. 本手法はあく までも現象論的モデルに基づいた手法であり物理的に正確なモデルに基づいている わけではない.そのため,物理的な正確性を要求される分野,たとえば材質が将来 どのように風化するかを予測するというような目的には適していない. 二つ目は本

図 4.8: 生成された腐食過程(形状: 平面)

図 4.9: 生成された腐食過程(形状: 半円柱)

図 4.10: 生成された腐食過程(形状: バニー)

(a) 実際の写真

(b) 本手法を用いた再現結果

手法ではシミュレーションの間,対象のモデルがその姿勢を維持することを前提と しているため,シーン中を動きうるオブジェクトの腐食過程をシミュレートするの に適していないことである. 腐食の成長方向は主に各セルの成長方向ベクトルに支 配されるため,シミュレーションステップごとにそれらを更新すればそのようなシ ミュレーションは可能ではある. ただし,そのためにはシミュレーションにおける タイムステップを何らかの方法でモデルが運動する空間のタイムステップに対応づ ける必要がある. 三つ目は,本手法では面で接触する複数の閉じたオブジェクト同 士で,相互作用しながら進展する腐食過程をシミュレーションするのが困難なことで ある. これは本手法が,腐食がターゲットジオメトリの連続な表面上を伝播するこ とを前提としており,トポロジー的に不連続ではあるが接触し合う面での腐食の伝 播を考慮していないためである. これは,自己接触する部分を有する単一のジオメ トリも同様である. 図4.11の例において実際の写真にある接合部のボルトを扱って いないのはこのためである. 実際の腐食現象においては,このような面同士が接触 する箇所ではすきま腐食とよばれる激しい損傷が発生するため,生成結果をより写 実的にするにはこのような面同士の接触を考慮する必要がある. これを解決するた めにはシーン内のオブジェクトの位置関係から面同士の近接の度合いを調べ,4.2.5 項で言及した腐食確率ρにマッピングするなどの処理が必要となると考えられる.

孔食の再現に関する問題とは,一定以上大きな腐食レベルをもつ領域がレンダリ ングの上では平坦になってしまう問題である. これはバンプマッピングに用いるハ イトフィールドの生成において,式(4.6)のような決め打ちの上限値を用いた変換を 用いているためである. 図4.12は,図4.10のバニーの腐食過程のシミュレーショ ンをさらに進めて,レンダリング結果の一部を拡大したものである. 最大値Cχを 超える腐食レベルを持つ領域では,図4.12に示すように平坦な領域として描画され てしまう. これを解決するためには式(4.6)のような単純な線形変換ではなく,広 いレンジを持つ腐食レベルを特徴量を残しながら高さの値域に押し込む,より巧妙 な変換が必要となると考えられる.

今後の課題としては,金属腐食以外のウェザリング現象の考慮が挙げられる. 本

図 4.12: 孔食が平坦となる例

手法はウェザリング現象として金属腐食のみを指向した手法であり,いまのところ 表面塗装のひびや剥離といった金属腐食としばしば併発する現象を同じ枠組みで再 現するのは困難である. ひびや剥離に関しては先行研究があるため,たとえばテク スチャ空間の領域ごとに異なるシミュレーション手法を用いるといった協調的な方 法で,より複雑で写実的な腐食の様相を再現することができると考えられる. この ような統合的な手法の開発が今後の課題である.

ドキュメント内 自然現象の写実的表現モデルの研究 (ページ 63-68)

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