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第 8 章 父親の育児休業取得の条件と意義―取得期間別の特徴に注目して―

3 分析枠組

本章では、(1)企業の人材活用と男女正社員の働き方に関する調査(2)職業キャリアと生活に 関する調査の両方を用いて分析と考察を進めていく1。日本における父親の育児休業の取得率 は極めて低いため、一般的な調査サンプルの中で該当する数は非常に少ないと考えられる。

したがって少数の事例による誤った一般化を避けるために、複数の調査の結果の差異も確認 しながら考察していく必要があると考えるからである。

以下では、各調査ごとに、父親の育児休業取得の有無および期間の実態と、取得者の個人・

家族・職場という諸側面から見た特徴、さらには父親の育児休業取得が妻のキャリアに与え る影響について、主にクロス集計や基本統計量の比較などを用いて明らかにしていく2

4 「企業の人材活用と男女正社員の働き方に関する調査」から

(1)父親の育児休業取得の状況

この調査において、育児休業の取得期間に関する問いは、「現在の会社で育児休業を取得し た期間は通算で何か月ですか」という形になっており、一人一人の子どもについての情報で はなく、すべての子どもに対する育児休業取得期間の合計の情報のみが得られる。また、こ の問いでは、 1 ヶ月未満の取得は 0 ヶ月という選択肢を選ぶことになっているため、現在の

1 調査の詳細は付録を参照。

2 育児休業取得者、特に長期取得者の人数は極めて少ないため、その平均値や分布は特定のケースの影響を受 けやすく、比較の解釈は慎重にする必要がある。

会社での育児休業制度の利用の有無を尋ねた問いと組み合わせて、期間をカテゴリー化し、

取得なしから25ヶ月以上の 8 区分からなる変数を作成した。男女別の合計取得期間は第

8-4-1図表のようになっている。なお、育児休業取得可能性がない人を分母から除外するため

に、対象を現在の会社に就職してから末子(一人っ子を含む)が生まれた人に限定した。

女性は大半が育児休業を取得しているのに対し、男性では 7 %弱に過ぎない。そのうち 1 ヶ月未満の取得者が大半を占めるが、合計 1 ヶ月以上取得した人も14人いる3

第8-4-1図表 男女別育児休業合計取得期間

資料出所:JILPT「企業の人材活用と男女正社員の働き方に関する調査」(2016年)

(2)育児休業を取得した父親の特徴

ここから、対象を男性に絞り、育児休業合計取得期間別の特徴を比較していく。まず子供 の誕生時やそれ以前の状況を比較することで、取得を可能にしたあるいは促した要因を探り、

その後、現在の状況を比較することで、その意義を探ることにしたい。その際、少数である 1 ヶ月以上の取得者をさらに細分化することは、このカテゴリーの特徴を見えづらくしてし まうため、彼らを一つのカテゴリーにまとめている。

3 (現在の会社への入社年と末子の誕生年との関連についての条件をつけなければ、もう一人いる。)

現在の会社での育児休業取得期間の合計月数

育休期間 男性 女性

取得なし 1,153 33

93.4% 7.2%

1ヶ月未満 68 8

5.5% 1.7%

1-3ヶ月 2 15

0.2% 3.3%

4-6ヶ月 4 35

0.3% 7.6%

7-12ヶ月 6 151

0.5% 32.9%

12-18ヶ月 0 81

0% 17.7%

19-24ヶ月 2 84

0.2% 18.3%

25ヶ月以上 0 52

0% 11.3%

計 1,235 459

100% 100%

末子の誕生年が現在の会社への就職年と同じか早い対象者のみ

取得の諸要因

まず取得前に職場に育児休業取得の先例があったかどうかで、取得しやすさが異なるかど うかを確認していく(第8-4-2図表、第8-4-3図表)。

第 8-4-2 図表 現在の会社に入社当時の育児休業取得者(女性)の有無と父親の育児休業取得

資料出所:第8-4-1図表と同じ

女性の取得者がいた場合とそうでない場合では、違いはほとんどないが、強いていえば長 期取得者は取得した女性がいた場合に若干多い。

第 8-4-3 図表 現在の会社に入社当時の育児休業取得者(男性)の有無と父親の育児休業取得

資料出所:第8-4-1図表と同じ

割合的には育休取得男性がいた人の方が、長期育休を取得している。ただし、会社に育児 休業を取得した男性がいたケース自体が 70 人と少ないため、割合の解釈は慎重にする必要 があるだろう。

さらに職場の環境の指標として、次世代育成支援対策推進法への対応、とりわけ「くるみ ん」マークの取得の有無による違いを比較する。

育児休業取得女性社員の有無

取得期間 いなかった いた

取得なし 480 617

93.8% 93.1%

1ヶ月未満 28 36

5.5% 5.4%

1ヶ月以上 4 10

0.8% 1.5%

512 663

100% 100%

育児休業取得男性社員の有無

取得期間 いなかった いた

取得なし 1,032 65

93.4% 92.9%

1ヶ月未満 61 3

5.5% 4.3%

1ヶ月以上 12 2

1.1% 2.9%

1,105 70

100% 100%

第 8-4-4 図表 会社の「くるみん」取得の有無と本人の育児休業取得

資料出所:第8-4-1図表と同じ

第8-4-4図表からは、くるみん取得企業に所属していると取得率が高いことがうかがえる。

ただし期間は1ヶ月未満が大半である。長期間育児休業取得者は、くるみんマークを取得し ていないが次世代育成支援対策推進法にもとづく行動計画を策定している企業に所属してい る男性の中に多いことがわかる。なお、男性取得者一人がくるみん取得の要件なので、当該 の男性社員が育休を取得したから、くるみんを取得できたという因果関係の可能性も否定は できない。また行動計画策定やくるみん取得が大企業であることを反映している可能性もあ るだろう。

次に、先行研究で貯蓄とキャリアの安定が長期の取得を可能にしたことが伺われたことか ら、第一子出生時の父親の年齢と育児休業取得期間との関連を確認しておきたい。取得期間 別に、年齢の最小値、平均値、最大値を比較する(第8-4-5図表)。

第 8-4-5 図表 第一子出生時の父親本人の年齢と育児休業取得

資料出所:第8-4-1図表と同じ

特に長期取得者ほど第一子出生時の年齢は高いことがうかがえる。ただし、調査時点での 年齢より遅い第一子出生は把握されないため、若い世代ほど最大値が低くなっていることに 注意が必要である。取得なしには年齢の高い層に偏りがあるため、第一子出生年齢の平均も 高めになる。したがって、最小値に注目する方がこの偏りを排除できる。

くるみん取得の有無

取得期間 はい いいえ(行動計画策

定している) いいえ(行動計画策

定なし) 無回答 Total

取得なし 89 652 231 29 1,001

88.1% 94.2% 92.4% 100% 93.4%

1ヶ月未満 12 29 18 0 59

11.9% 4.2% 7.2% 0% 5.5%

1ヶ月以上 0 11 1 0 12

0% 1.6% 0.4% 0% 1.1%

計 101 692 250 29 1,072

100% 100% 100% 100% 100%

N  最小値 平均値 最大値

取得なし 1,357 17 31.1 52

1ヶ月未満 76 21 32.2 51

1ヶ月以上 14 24 33.4 45

取得の意義

ここでは、父親の育児休業取得の意義の一つの側面として、配偶者のキャリアへの影響を 確認したい。そのため、父親の育児休業取得期間別に、配偶者の現在の就業形態(第 8-4-6 図表)と年収(第8-4-7図表)を比較する。

第 8-4-6 図表 父親の育児休業期間と配偶者の現在の就業形態

資料出所:第8-4-1図表と同じ

長期取得者でも、妻の現在の就業形態は様々であるが、取得なしや短期取得者と比較して、

「現在は働いていない」(専業主婦)の比率が小さく、正社員の比率は大きい(第8-4-6図表)。

第 8-4-7 図表 父親の育児休業取得期間と配偶者の現在の年収

資料出所:第8-4-1図表と同じ

第8-4-7 図表からは、父親の取得期間が長くなるほど、配偶者の年収の平均は高くなって

いることがわかる。

5 「職業キャリアと生活に関する調査」から

つづいて「職業キャリアと生活に関する調査」から、「企業の人材活用と男女正社員の働き 方に関する調査」の場合と同様に、育児休業を取得した父親の特徴と、取得の意義について 確認していきたい。

(1)父親の育児休業取得の状況

この調査では、育児休業に関する情報は第一子について最も詳細に尋ねているが、第一子

取得期間 ケース数 *年収ポイントの平均

取得なし 1,096 2.92

1ヶ月未満 66 3.32

1ヶ月以上 13 3.85

*年収なしを1、100万未満を2、100万円台を3、200万円台を4、以下同様に  カテゴリーが上がるごとに1ずつ、最大1500から1800万円台の17まで  ポイントがあがる場合の平均値

育児休業取得期間 正社員・

(同じ会社)正職員

正社員・正職員

(別の会社や団 体)

契約社員・

嘱託社員 パート・

アルバイト 派遣社員 自営・自由業・

家族従業員 その他 現在は働いて

いない 計

取得なし 89 207 56 367 18 22 2 369 1130

7.9% 18.3% 5.0% 32.5% 1.6% 2.0% 0.2% 32.7% 100%

1ヶ月未満 8 14 2 20 0 2 0 21 67

11.9% 20.9% 3.0% 29.9% 0% 3.0% 0% 31.3% 100%

1ヶ月以上 1 4 0 5 0 0 0 4 14

7.1% 28.6% 0% 35.7% 0% 0% 0% 28.6% 100%

計 98 225 58 392 18 24 2 394 1211

8.1% 18.6% 4.8% 32.4% 1.5% 2.0% 0.2% 32.5% 100%

で育児休業を取得した父親が8人しかいないため、その父親の子どもの中での育児休業の最 大取得期間に関して、次の4区分からなる変数を作成した。

0: 取得なし 1: 5日未満

2: 5日から1ヶ月未満 3: 1ヶ月以上

また取得していない父親との比較するうえで、対象を取得可能性のあるケースに限定しつ つ最大限にサンプルを活用するために、第1子が育児休業法施行前を含む 1987 年以降に生 まれたケースを対象とした。第1子が1987 年に生まれた場合、第2子が 5年後に生まれれ ば育児休業法の施行時期以降になるため対象にすることが可能と考えた。

第 8-5-1 図表 男女別育児休業取得の最大期間

資料出所:JILPT「職業キャリアと生活に関する調査」(2015年)

前節で見た「企業の人材活用と男女正社員の働き方に関する調査」の結果と比較して女性 の取得率が低いのは、先の結果が正社員対象の調査を用いたものであるうえに、さらに対象 を現在の会社に就職してから末子(一人っ子を含む)が生まれた人に限定していたのに対し て、こちらの調査は就業していない人、すなわち出産時に退職した人などを含んでいるから である。

男性の取得率はやはり低く、また取得者の大半は期間が5 日未満であり、1ヶ月以上取得 した男性は1%程度にあたる8人に過ぎない(第8-5-1図表)。

(2)育児休業を取得した父親の特徴

ここから、対象を男性に絞り、育児休業合計取得期間別の特徴を比較していく。まず第一

育休取得最大期間 男性 女性

取得していない 673 320

93.7% 61.3%

5日未満 29 2

4.0% 0.4%

5日から1ヶ月未満 8 9

1.1% 1.7%

1ヶ月以上 8 191

1.1% 36.6%

計 718 522

100% 100%

第1子が1987年以降に生まれたケースが対象