第四章 環境からのばく露による 3 物質のリスクについての検討
4.6 まとめ
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様にレジストとして使用されている。そのため、TBCBの製造・輸入量を最大値の1,000
トンと仮定した場合でも、TBCB の排出量はフェノールの 800 分の 1 以下と考えられ
る。よって、TBCBとフェノールとの物理化学的性状が完全に一致はしないため、環境
への分布の違いが不確実性として残るが、2.2×10-2のHQ は充分小さい値と考えられ、
実際はさらに環境中への排出量は少ないと考えられる。そのため、環境からのばく露に
より TBCB の毒性が発現するリスクは非常に小さいと推定され、更なる詳細なリスク
評価は不要と考えられた。
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又は工場からの排出量の調査および各物質の沸点、蒸気圧、水/オクタノール分配係数
(logPow)等の物理化学的性状を明らかにし、信頼性のある推定ヒトばく露量の算出お よび詳細なリスク評価を行うことにより、リスクの有無について再度判断する必要があ ると考えられる。
- 125 - 総 括
これまでヒトの生活を豊かにするため、数多くの化学物質が開発され、使用されてき た。その一方で化学物質は、これまで食品への混入、飲料水の汚染、消費者製品の誤飲 事故等により非意図的にヒトにばく露し、健康被害を引き起こしてきた。新規化学物質 は、化審法により製造・輸入前に安全性試験を実施することが義務付けられているが、
化審法制定以前から製造・輸入されていた既存化学物質は、事業者に安全性試験は義務 づけられなかった。そのため、数多くの既存化学物質が安全性が不明なまま世界的に使
用されている。本研究では、毒性情報の得られていない3種類の既存化学物質について、
環境からの経口ばく露によるヒト健康へのリスクについて検討するため、まず、反復投 与毒性・生殖発生毒性併合試験(併合試験)により毒性評価を行い、無毒性量(NOAEL)
を求めた。さらに、各物質のヒトばく露量を推定することにより、ヒト健康へのリスク について検討した。
第一章では、4-methoxy-2-nitroaniline(4M2NA)について併合試験により毒性評価を
行った。その結果、ヒトに外挿される変化として、雌の450 mg/kg群で網状赤血球数比
率の高値並びに脾臓の髄外造血亢進及びヘモジデリン沈着が認められ、軽度の貧血が生 じたことが推察された。また、生殖発生毒性については、450 mg/kg群でも異常が認め られなかった。以上の結果から、NOAELは反復投与毒性については75 mg/kg/日、生殖
- 126 - 発生毒性については、450 mg/kg/日と考えられた。
第二章では、benzene, 1,1’-oxybis-, tetrapropylene derivs.(BOTD)について評価した。
その結果、200 mg/kg以上の群の雄および40 mg/kg以上の群の雌で肝臓の重量増加を伴
う小葉中心性肝細胞肥大、1000 mg/kg 群の雌で γ-GTP の高値が認められた。小葉中心
性肝細胞肥大は、単独では薬物代謝酵素の誘導による適応性変化と考えられるが、1000
mg/kg群の雌ではγ-GTPの高値が認められたため、この群の肝細胞肥大は、肝臓への毒
性影響である可能性があると考えられた。また、200 mg/kg以上の群の雄でプロトロン ビン時間(PT)の延長がみられ、血液凝固への影響が認められた。生殖発生毒性につい
ては、受胎率の低値が1000 mg/kg群で認められた。以上の結果から、NOAELは反復投
与毒性については40 mg/kg/日、生殖発生毒性については200 mg/kg/日と考えられた。
第三章では、1-tert-butoxy-4-chlorobenzene(TBCB)について併合試験により毒性評価
を行った。その結果、500 mg/kg群の雌雄で自発運動低下、呼吸数減少、半眼といった 一般状態の変化が認められ、中枢神経抑制作用と推察された。また、生殖発生毒性につ
いては、哺育0日に児動物の体重の低値が500 mg/kg群で認められた。以上の結果から、
NOAELは、反復投与毒性、生殖発生毒性ともに100 mg/kg/日と考えられた。
第四章では、第一章から第三章において得られたNOAELについて不確実係数を設定
し、本研究の3物質について一日耐用摂取量(TDI)の算出を試みた。また、過去にヒ
トばく露量が推定されている物質の中から、本研究の3物質と類似した構造を有し、用
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途が同様であり、製造量が同等かそれ以上の物質を選定し、本研究の3物質のヒトばく
露量の最大値を推定した。さらにTDIおよびヒトばく露量の最大値からハザード比(HQ)
を求め、リスクについて検討した。その結果、3物質ともHQが1より小さく、HQが
最大となったTBCBでも2.2×10-2であった。そのため、現状では3 物質ともに環境か
らのばく露によるリスクは非常に小さいと考えられた。
以上のように、本研究により4M2NA、BOTD、TBCBの3種類の既存化学物質につい
て反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験(併合試験)によるNOAELが初めて示された。
また、類似構造物質についての情報から現状ではこれら3物質とも、環境からの経口ば
く露によりヒト健康に悪影響を及ぼす可能性は非常に小さいことが明らかとなった。し
かし、本研究により安全性評価を行うことができた3物質以外にも、依然として毒性が
不明なまま使用が続けられている既存化学物質が多く存在する。ヒトを含めた地球上の 生物の多様性確保と持続的な生存のためには今後も継続して毒性の不明な既存化学物 質の毒性を評価し、安全性を確認することが重要である。
- 128 - 謝 辞
本論文を作成するにあたり、細部にわたりご指導、ご鞭撻を賜りました九州大学大学 院農学研究院生命機能科学部門食料化学工学講座食品衛生化学研究室教授 宮本敬久先 生に深く感謝の意を表します。本論文を作成するにあたり、有益なご助言とご指導を賜 りました同講座食品製造工学研究室教授 下田満哉先生、同講座栄養化学研究室教授 佐 藤匡央先生、並びに同講座食品衛生化学研究室准教授 本城賢一先生に深く感謝の意を 表します。本研究を遂行するにあたり、終始ご指導を賜りました一般財団法人化学物質 評価研究機構化学物質安全センター技術顧問 長谷川隆一博士に深く感謝の意を表しま す。本研究の遂行にご協力いただいた一般財団法人化学物質評価研究機構日田事業所の 諸氏に感謝致します。
- 129 - 参考文献
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日本病理学会編、1981年、病理技術マニュアル3 病理組織標本作製技術 下巻 染色法、
医歯薬出版株式会社