第 7 章 INTER-Mediator の適用範囲と評価 95
7.3 フレームワークの利用実績
7.3.1 ふち無しはがき印刷本舗(年賀状・暑中見舞いオーダー受付管理)
「ふち無しはがき印刷本舗」は,年賀状や暑中見舞いを中心としたはがき印刷を受け付けるサービス,い わゆるオンデマンド印刷のサービスを行っている(図7.1).本サービスの強みは,市販のはがきをカット することなくふち無し印刷ができる点である.顧客ごとに異なるデザインで印刷を行うために,個別にファ イルのやりとりや,デザインの確認,振込み確認などの作業が発生する.従来はFileMakerのデータベース を利用していたものの,通常のメールでやりとりをし,ファイルのやりとりのWebサービスを利用するな ど,顧客とのやりとりを別々のサービスで行っていたため,やりとりの記録やファイルがどのオーダーのも のなのかを特定するのに手間がかかるといった問題が発生した.しかも,業務は1年の一定期間に集中す ることもあり,混乱が発生しやすい状況であったとも言える.
同社の担当者は,以前に勤務していた会社でのFileMaker開発経験はあったものの,Web開発の経験はな かった.また,同社のサイトはJimdoを利用して運用しており,コンテンツ管理はJimdoを利用すること が決定していた.その上で,顧客のオーダーの進行管理を行うための動的なサイトを構築する業務を筆者 が請け負った.まず,データベースはオーダーだけでなく,内部での印刷を中心としたさまざまな業務にも 適用するニーズもあり,その改良や追加開発を自身の手で行いたいとといったこともあって,FileMakerを データベースとして運用するのが前提となった.オーダーの進行管理は受注側での情報だけでなく,発注す る顧客が入力する必要もある.さらに,ファイルの入稿もある.これらの作業を顧客はWebでログインを することで実現する必要があった.
まず,社内での情報共有のためにFileMakerを利用する点は,大きな問題はない.顧客が利用するWeb 側の機能については,認証が可能なこと,そしてレコード単位で個別のユーザーに対する認可が可能な点
7.3. フレームワークの利用実績 105
図7.1:トップページ
がすでにINTER-Mediatorで実現していた.ファイルのアップロードについては発注時点では作りかけのコ
ンポーネントがあったが,それを完成させると同時にプログレスバーの表示等にも対応できるよう,本開発 と並行してコンポーネントを充実させていった.フレームワーク側に足りない機能を補充することを含め て,2013年の1月に発注を受け,2013年5月にカットオフとなり,その年の暑中見舞いの受注より利用し た.その後,保守開発を継続している.
初めて発注を行うときに,ユーザーアカウントを作成する.本サイトでは,メールアドレスとパスワー ドでのログインができるようにしている.ログイン後に,印刷枚数や宛名印刷の有無などの最終的なオー ダーを作成して,注文を確定する.その後,入金とその確認,データ入稿は並列的に行われ,これらが揃っ た上でデザインを作って校正を行い,印刷をして発注するといった進行の管理が発生する.発注した顧客 は,ログイン後に参照できる図7.2のようなページでその進行状況を見ながら,入金あるいはファイルの送 信などを行う.受注側ではスタッフが,入金確認やデザイン結果のファイルの登録などを,FileMaker Pro を用いて行う.このページ内には,顧客とスタッフが連絡を取り合う仕組みも組み込んだ.書き込み内容 はメールでも送信される.受注側のスタッフは,特定のオーダーに対する顧客とのやりとりをFileMaker上 でまとめて時系列でFileMakerで確認でき,その場で返信できるようにした.こうして,スタッフ側はオー ダーの全貌がFileMakerのレイアウト上で確認できるようになり,業務の効率化に寄与した.
発注前の利用者のために,図7.3のような費用見積もりのページも作成した.こちらは認証が不要なページ である.動的な処理はサーバーからマスター情報を取り出すだけにしており,ユーザーが入力した情報はデー タベースには残らない.また,本ページは単に見積もりだけでなく,発注に関する情報や価格リストも掲載 し,本サービスの一般向けサイトに統合する必要がある.JimdoはHTMLでの記述ができるので,ページ全
図7.2:印刷オーダーと進行の確認画面
体はJimdo側のコンテンツとして作成し,見積もり処理の部分だけiframeタグを利用してINTER-Mediator
を利用したサーバーより生成している.
顧客のオーダー時には印刷枚数などのいくつかのパラメーターが入力される.それを元に価格を計算す る仕組みは複雑であり,例えば印刷枚数は,枚数に応じて単価が異なると同時に,発注時期に応じて割引 が発生する.発注内容の別の明細項目に依存するものなどもあり,ロジックは複雑である.こうしたロジッ クは,本案件ではFileMakerのスクリプトで実装することにした.ただし,見積もり時にはFileMakerデー タベースへの入力はしないため,見積もり時にはクライアントサイドで実行されるJavaScriptでロジックを 組み立てた.
開発結果より,同社の担当者は「INTER-Mediatorを使うことで開発時間は短縮できることを聞いていた ので,ぎりぎりまで内容の検討に時間をかけることができました.思った以上に短期間でWebアプリケー ションが立ち上がり,またその後の修正も容易なので驚いています」と話す.
オンデマンド印刷サービスは数多くのサービスがあるものの,発注情報,ファイル入稿の手段,スタッフ
7.3. フレームワークの利用実績 107
図7.3:印刷オーダーの見積もり画面
とのやりとりといったものが,顧客に対して統合的に提供されているような状況はあまり見られない点に 西ヶ谷一志さんは懸念していた.他社サイトが使い勝手が悪くなっている事情は確定的にはわからないが,
例えば,システムの構築後に機能を追加することがうまくいかず,受発注とは別にファイル送信サービスを 併用するなどの措置を取っているといったことが原因として考えられる.しかしながら,INTER-Mediator を利用したサイトについては,他社のサイトを見て感じた懸念は払拭され,「使い勝手の上でも十分に競争 力のあるサイトができて満足している」と高い評価をいただいている.